【エリ2】エリオットと竜の里・中編
後編は夕方に投稿予定です。
「つまりは、イクシスおじさんとオーガストおじさんの弱点を知ればいいんだ!」
「ボクたちだけでどうにかならなくても、大人の知恵を借りればいいんだよ」
カーマインとシアンがそれぞれ、そんな事を言う。
二人はイクシスとオーガストの兄弟たちに、それを聞き込むつもりのようだ。
最初に訪れたのは、三番目のお兄さんの部屋。
鍛えられてるなとわかる身体に、凛々しい眉。
眉間にシワのあるお兄さんは難しい顔をしていたけれど、人が良さそうだなとなんとなく思った。
このお兄さんが、イクシスとオーガストを育てたらしい。
育てたのは父親であるニコルたちじゃないのかと尋ねたら、あの二人に育てさせて弟たちが色ボケになったらどうするんだと言われた。
確かにそうかもと思った。
実際三番目のお兄さんが里にいない間にニコルたちに育てられた九番目の竜は、相当な色ボケになってしまったとお兄さんは嘆いていた。
二人を育てたお兄さんなら、弱点を知ってないかと聞いたけれど。
教える気はないと、お兄さんはばっさり言う。
「オレはイクシスとオーガストの味方だ。ようやくあの二人が花嫁を見つけたんだ。余計な手出しをしたら……オレが叩き潰す」
お兄さんはギロリと怖い顔でシアンとカーマインを睨んだ。
どうやらお兄さんは、二人が可愛くてしかたないみたいだった。
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「そうか、イクシス兄さんとオーガスト兄さんの花嫁が好きなのか」
事情を話せば、目の前のお兄さんが親身になってくれてる口調で呟く。
「奴隷身分が嫌なら、国を出ればいい。主人である彼女の許可は必要だけどな。それに奴隷から階級を上げる制度がある国もある。だから、身分はどうにかしようと思えば、どうにかなると思うぞ?」
カーマインとシアンが次に頼ったのは、竜族の八番目のお兄さん。
イクシスの兄弟はキラキラした顔立ちが多かったけど。
このお兄さんは、栗色の髪にほっと落ち着ける派手じゃない顔をしてる。
気持ちを否定されたりしなくて、よかったと思った。
「……勉強すれば、平民になれるってメイコ言ってた」
「なら、まずはお勉強しなくちゃだな」
呟けばお兄さんはそういいながら、お花を花瓶に生けはじめた。
「ねぇ、エリオットが二人をやっつけるにはどうしたらいい? イクシスおじさんとオーガストおじさんの花嫁候補をお嫁さんにしたおじさんなら、弱点とか知ってるんでしょ? 父さんから聞いてるんだよ」
「あいつはまだそんなことを……余計なことを子供に教えてるな」
シアンに言われて、八番目のお兄さんが困った顔をする。
「おじさん強そうに見えないのに、どうやって黒竜のオーガストおじさんと金目のイクシスおじさんをやっつけたんだ? 戦い方をエリオットに教えてくれよ!」
「おじさんが二人と一番仲がいいんだし、色々知ってるでしょ? ねぇお願い!」
カーマインとシアンはそれぞれ、八番目のお兄さんに期待の眼差しを向ける。
「あの二人に、俺が勝てるわけがないだろ。大体俺は竜の中でも弱い固体なんだから」
溜息混じりに、お兄さんは口にする。
お兄さんは他の竜と比べて翼が小さく、尻尾も短い。子供のシアンやカーマインと同じくらいのサイズだ。
角も小さく白くて、髪に隠れてほとんど見えなかった。
「誰かと比べるより、エリオットが今自分にできることをしたらいいと思うぞ。大切なのはその人に何をしてあげたいか……だと俺は思う」
お兄さんはそんなことを言いながら、生けたお花を満足そうに眺める。
お嫁さんのために買ってきたらしい。
「隠さないで教えてよ。エリオットのためなんだ」
「……イクシス兄さんは尻尾の付け根が弱点だ。あそこ触るとくすぐったいくせに、痩せ我慢して何でもないフリをする。オーガスト兄さんは、か弱い動物や子供が苦手だ。加減を少し間違っただけで、死にそうなのが嫌なんだと」
催促するシアンに、しかたないなと適当な調子でお兄さんは口にした。
シアンとカーマインは、嬉しそうに礼を言って。
僕を連れてその場を立ち去った。
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「やったなエリオット。オーガストおじさんの弱点そのものじゃないか」
「そうだね。エリオット物凄くか弱く見えるから、行けると思う!」
カーマインとシアンは上機嫌だ。
オーガストが一人で歩いているところを見つけて、やっつけてくるんだと二人に背中を押された。
「なんだ、何かようか」
勢いあまってぶつかって。
見上げたら、オーガストが眉間にシワを寄せていた。
迫力のある顔に、低い声。
鋭い目つきが怖かった。
……そういえば、そもそもやっつけるってどうしたらいいんだろう。
その辺りを何も考えてなかった。
助けを求めるように振り替えれば、二人がとりあえず抱きつけと指示してくる。
そして、オーガストをもう一度見上げる。
やっぱり怖い顔だ。
でも勇気を出して、ぎゅっと抱きついてみた。
「なっ! なんだいきなり。迷子か!?」
オーガストは戸惑った様子だった。
効果はあったみたいだけど、何か違う気がする。
「くそっ、しかたねーな。こい、連れて行ってやる」
オーガストは舌打ちをして、僕の手を引いていく。
歩幅が合わなくて走れば、苛立ったような顔をしたけれど合わせてくれた。
連れて行かれた先には一つのドア。
そこを開けた先には、ジャングルが広がっていた。
緑がうっそうと生い茂っていて、葉っぱの間から空が見える。
……ここは室内のはずなのに。
「どうしたオーガスト」
「……これイチ兄のところの動物だろ。屋敷で迷ってた」
現れたのは昨日の夕食の時間、僕の隣――ニコルとは反対側に座ってたお兄さんだった。
無表情で淡々とした喋り方。
昨日初めて会った時、何となく似たものを感じていた。
夕食の席は、兄弟の並び順だとニコルが言っていた。
お兄さんの座ってた位置や、イチ兄とオーガストが呼ぶことからしても、一番目のお兄さんなんだろう。
「俺の友人に獣人はいない。人型になると、コミュニケーションを取るのが面倒だ」
「……相変わらずだな」
一番目のお兄さんに、オーガストが呟く。
じーっと一番目のお兄さんが僕を見てきた。
無遠慮な視線だけど、嫌な気はしない。
むしろ、話さなくてもお兄さんとなら会話ができそうな気になった。
このお兄さん、嫌いじゃないかもしれない。
手をお兄さんがすっと差し出してきたので、握手する。
何かわかりあえたような気がした。
なんとなく、耳や髪を触っていいかと聞かれている気がする。
とりあえず頷いたら、やっぱりあたっていたみたいで髪を撫で始めた。
表情は変わらないけど、ぱぁっと周りに花が飛ぶような空気を感じる。
お兄さんは喜んでくれているみたいだ。
動物が好きなんだろう。
一番目のお兄さんと少し仲良くなったところで、オーガストがどこかに行こうとしたため服を掴む。
思いっきり嫌そうな顔をされた。
「メイコのところ行くなら、僕も行く」
「もしかしてお前、メイコのところの獣人なのか」
言えばようやくそれに気付いたらしく、一緒に連れて行ってくれた。
一番目のお兄さんの部屋は、ドアを開けたら直接異空間と呼ばれるところに繋がっているらしい。
つまりあれは部屋のようで、部屋じゃないんだとオーガストは教えてくれた。
一番目のお兄さんは動物が大好きで、人と喋るのが苦手らしい。
オーガストとの会話はあまりなかった。
彼もメイコを探していたところらしい。
「どこにいるか、あてはあるの?」
「……あと探してないのは、一番上の父さんの部屋だな」
竜族の屋敷は大きくて、階がいくつもある。
真ん中が吹き抜けになっていて、皆そこから飛んで他の階へ行く。
僕はイクシスに抱っこしてもらったり、さっきまではカーマインとシアンの二人に連れられて階を移動していた。
けど、オーガストはそうせずに階段を上がっていく。
「飛んだ方が早い」
「……お前を抱き上げろと?」
言えば、オーガストが眉を寄せる。
「駄目?」
「……はぁ」
尋ねればオーガストは、しゃがむ。
抱っこしてくれるということらしい。
でもその手つきは大分恐々としていて。
険しい顔が余計険しくなる。
緊張しているような様子は、力の入れ加減に迷ってるようだった。
それを見て、八番目のお兄さんが言ってたことがわかったような気になる。
結局ニコルの部屋にメイコはいなくて、一旦カーマインとシアンの部屋に戻った。
二人はどうだったと興味津々に聞いてくる。
とりあえず駄目だったと答えておいた。
その後、一緒に遊ぼうと言われて断れなくて庭に連れていかれた。
昨日の小さな竜族の子たちも一緒だ。
「エリーおいかけっこする!」
「これ、エリーにあげる!」
竜族の小さな子たちは、僕が気に入ったみたいだ。
好き好きって、態度で伝えてくる。
尻尾が揺れていて、犬の獣人・ギルバートみたいにわかりやすい。
カーマインとシアンは、小さな子たちの面倒を見るのにちょっと飽きてるらしい。
少し調べ物してくるから、面倒を見ていてと押し付けられてしまった。
「エリオット、遊んであげてるの?」
「メイコ!」
いつの間にかメイコがそこにいて、走って抱きつく。
昨日会ったのに、久しぶりな気がした。
偉い偉いと褒められて。
それだけで、幸せな気分になった。
5/30 誤字修正しました!




