【エリ1】エリオットと竜の里・前編
エリオットの視点から見た、イクシスやメイコと竜の里へ行った時のお話です。
前編・中編・後編の三つです。長かったので中編も作って分割しました。
中編・後編は明日投稿予定です。
メイコが竜の里に行く事になった。
また置いていかれる。
帰ってくるって、信じてはいる。
でも、それとコレとは別で。
何よりイクシスの恋人役として竜の里に行くっていうのが、嫌だ。
クロードはメアに一緒についていくよう、お願いしていた。
イクシスがメイコに手を出さないようメアに見張ってもらうつもりらしい。
メアに交換してくれるよう頼んだら、簡単にオッケーしてくれた。
「あれエリオット? なんでリュック背負ってるの?」
「メアに変わってもらった……離れ離れ、嫌だ」
メイコはちょっと困った顔をした。
「ちゃんと私、帰ってくるわよ?」
「……わかってる。でも、嫌なものは嫌だ」
またあんな思いはしたくなくて。
心細くてその瞳を見つめたら、メイコはきゅんとしたような顔をして。
竜族の里に連れてってほしいと、イクシスに頼んでくれた。
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メイコは元の世界に帰りたがってる。
なら、どうにかしてあげたいと思った。
けどイクシスは無理だって言って、メイコが泣きそうな顔で笑う。
「だからそうやって無理して笑うな」
「うん……ごめん」
イクシスは怒った声で、メイコを叱る。
虐めたのはイクシスなのに。
意地悪なイクシスの代わりに、メイコの頭を撫でる。
「イクシス、メイコ泣かせるの許さない」
「誰も泣かしてないだろ。というか、エリオット。お前メイコの騎士ナイト気取りか」
睨めばイクシスがそんな事を言う。
「僕はメイコの味方。メイコが望むなら、僕が元の世界に帰す」
メイコが願うなら、できる。
メイコが泣くのは嫌だから、頑張ってどうにかする。
何でもメイコのためならできると思った。
だから言葉にした。
「できもしない約束をするな。だからお前は子供なんだ」
イクシスが苛立ったような声を出す。
「やるまえから諦めるなら、大人なんて大した事ない。イクシスにメイコは渡さない」
メイコがしたいことを、する。
イクシスにできなくても、僕がやる。
真っ直ぐ見つめて、イクシスに告げる。
「……エリオットお前」
イクシスは何か言いたそうな顔をしたけれど、結局何も言わなかった。
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お昼寝前に、絵本を読んでもらうことにする。
絵本は竜族の文字だから、イクシスにしか読めない。
「しかたないから、真ん中イクシス許す。読んで」
「偉そうだなお前……まぁいい。読んでやる」
絵本を読んでもらうのが最近のお気に入りで。
イクシスが、僕とメイコの間で絵本を読み始めた。
イクシスは絵本を読むのが上手だった。
いつの間にか夢中になっていた。
「まぁ、この本はガキの頃からオーガスト……兄と一緒に読んでたし、弟たちにも読み聞かせてたからな。ほらもう寝ろ」
素直に感想を言えば、イクシスが乱暴に頭を撫でてくる。
そうやってイクシスにされるのは、初めて。
でも――悪い気はしなかった。
ノックの音がして、イクシスが部屋を出て行く。
夜の宴会になったら呼びに来るから、寝ておけとイクシスが言う。
「……エリオット、変なことはするなよ」
「しない。するのはイクシス」
イクシスが睨んでくるから、むっとする。
メイコに変なことをするのは、イクシスの方。
竜になるには、宝玉の力が必要だから。
そう言って、メイコにキスをしたり。
大人で子供じゃないのに、いつだってメイコにベタベタする。
「大丈夫よイクシス。最近のエリオットはおりこうさんだから。キスもしてこようとしないし、服の下に手をいれたり、胸もんだり、足の間を撫でたりもしなくなったし!」
「お前……そんなことされてたのか!」
メイコの言葉に、イクシスが怒る。
二人がその場で喧嘩を始めた。
「メイコ、お前は馬鹿じゃないかと思ってたが、相当な馬鹿らしいな。子供でも男だ。無防備すぎるんだよ。警戒しろ」
イクシスはそう言って、僕の手を掴む。
メイコが止めるのも聞かずに、イクシスは僕を部屋から連れ出した。
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「エリオット。今後一切、そういう事をメイコにするな」
「そういうことって?」
連れて行かれた部屋で、イクシスに言われて尋ねる。
「……メイコにいやらしいことするなってことだ」
眉の間にシワを寄せて、怒ったような顔でイクシスは言う。
「イクシスの方がしてる。メイコに獣人の国でいっぱいキスしてたって、フェザー言ってた。イクシスはよくて、どうして僕は駄目?」
「俺は恋人ってことになってるからいいんだよ。それに……いやらしい目的でキスをしてたわけじゃない」
むっとして聞けば、イクシスはそんなことを言う。
目を逸らしながら。
「今は恋人役でも、あの時は違う。イクシスは、メイコが好きなの?」
「……俺は、別にあいつが好きってわけじゃ」
尋ねればイクシスは困った顔をする。
「僕はメイコが好き。だから、好きってわかってもらいたい」
しっかり、言葉にする。
体が大人になって、見上げなくてもイクシスと同じ視線の高さになる。
「エリオットやっぱり……変身できるようになってたのか」
メイコは全く気づいてくれないけれど、イクシスは薄々感づいていたみたいだ。
「メイコを好きじゃないイクシスが邪魔するの、変」
「それは……っ」
言えばイクシスは黙り込んだ。
イクシスのお兄さんがやってきて、すぐ行くと返事をする。
「とにかくだ。メイコに妙なことはするな。いいな?」
そういい残して、そのままイクシスは部屋を出て行った。
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オーガストっていう、イクシスのお兄さんはメイコの元の世界の知り合いで。
イクシスと同じでメイコにベタベタする。
嫌だなって思うから止めたいのに、ニコルが邪魔する。
メイコの側に行きたいのに、行けない。
「なんだ獣人。そんな目で睨むな、虐めたくなる」
くくくとニコルが笑う。
ニコルは見た目は僕と変わらない八歳くらい。
けど、イクシスのお父さんで、イクシスと顔がそっくりだ。
夕飯の席でメイコの隣に座りたかったのに、ニコルが邪魔してきた。
大人同士の話し合いに、子供は不要だって言って。
夕食の間、メイコとオーガストは仲がよさそうで。
イクシスが焦っているように見えた。
ニコルが僕の隣でお嫁さんといちゃいちゃしだして。
気を使って、皆が部屋を移動する。
今のうちにメイコのところへ行こうとしたら、隣に座ってたニコルに尻尾を掴まれた。
「……離して」
てっきりいちゃいちゃに夢中になってると思ってたけど、気付いていたらしい。
「久々の再会を邪魔してやるな、獣人。カーマイン、シアン。お前の部屋で、ここにいる間の面倒を見てやれ」
「いいのか? じいちゃん!」
「やった!」
ニコルが僕の近くにいた竜族の男の子二人組みに声をかける。
竜族の里に来たときから、僕に興味津々という顔を向けてきていた二人組みだった。
二人に引きずられるようにして、部屋に連れて行かれる。
どっちも十五歳くらいの男の子。
カーマインが赤い竜。シアンが青い竜。
二人は従兄弟同士らしい。
二人の部屋には小さな三歳くらいの竜族の子が三人いて、僕にまとわりついてきた。
メイコのところに行きたいのに、なかなか離してくれない。
寝かせてしまえばいいかなと、メイコが聞かせてくれてたお話をしてあげる。
三人の小さい子が寝静まったところで、親が迎えにきた。
ようやく一息ついたら、今度はカーマインとシアンが僕を質問攻めにしてくる。
「なぁなぁ、お前馬の獣人なんだろ? 馬ってどんなのだ? 変身してみせてくれよ!」
「……僕、馬の姿なれない」
「なんで? あぁもしかして馬って竜と同じで大きいのか。屋敷壊すとおじいちゃん怒るし、明日外で見せてくれよ!」
赤い翼のカーマインという子は、明るくって人懐っこい。
跳ねた髪が元気いっぱいという感じだった。
「エリオットは男……なんだよね? 本当に逆鱗ないんだ?」
シアンという青い翼の子は、僕をじっと観察してる。
少し知的な感じのする男の子だ。
子供の竜族の喉元には白い逆鱗がある。
里にいる男は竜族ばかりで、他の種族の男をあまり見る機会がないらしい。
カーマインとシアンは、僕が珍しくてしかたないようだった。
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カーマインとシアンに、挟まれるようにして眠る。
疲れてたのか僕も眠い。
でもメイコのところに行きたくて、そっと抜け出す。
イクシスの部屋へ行ったのに、メイコもイクシスもいなかった。
もしかしたらあのオーガストってやつの部屋かもと思う。
場所は知らないけれど、全部当たっていけばいい。
そう思ったら、目の前にニコルが現れた。
「メイコならオーガストの部屋にいる。場所なら知ってるから、手を出せ」
連れてってくれるのかと意外に思いながら、手を出す。
一瞬で場所を移動して。
気付いたら、さっきまでいた子供部屋にいた。
「ニコル、騙した?」
「場所は知ってると言ったが、そこ連れてくとは一言も言ってない。三人で大人の話し合いがあるからな。子供のお前には刺激が強すぎる。子供は子供同士が一番だ」
睨めば、ニコルはそんなことを言う。
「嫌だ。メイコのところに行く。イクシスにも、誰にもメイコは渡さない」
「……もしかしてお前はあの女に惚れてるのか」
言えば、ニコルは同情めいた視線を送ってくる。
カーマインとシアンが何事かと目を覚まして、上半身を起こしたのが見えた。
「やめておけ。あの女の国では確か、獣人は奴隷身分だろう。奴隷身分の獣人で子供。何のとりえもないお前が、オレの息子たちに勝てるわけがない」
勝負にもならないと、ニコルは鼻で笑う。
「……やってみなきゃわからない」
「やるっていうのは、好きと告白するという意味か、それとも力でねじ伏せるという意味か? どちらにしろお前と結ばれたところで、あの女は不幸にしかならない」
言い合うことすら退屈で、先が見えてる。
そんな風な言い方にむっとする。
「なんだオレが言ってることは間違っているか? 主人と奴隷の恋など、物語の中では最悪の結末しか迎えないだろうに。まぁ好きと言うだけなら自由で、簡単だ」
その簡単な事すらできない馬鹿もいるがなと、ニコルは肩をすくめた。
「あの女が好きで、幸せになって欲しいと願うなら手を引け。イクシスとオーガストなら、あの女に幸せを与えてやれる」
ニコルに言い返してやりたかった。
でもできなくて、悔しい。
僕よりも、イクシスの方がメイコを幸せにできる。
それはわかるような気がしたから。
強い竜族で、メイコも頼ってて。
僕がイクシスに嫌な態度を取っていても、お願いすれば絵本を読んでくれるくらいには大人だ。
「落ち込むなって! じいちゃん意地悪だから、気にするな」
「そうだよ。イクシスおじさんも、オーガストおじさんも強い竜だけど、男は強さじゃなくて優しさよって、母さん言ってた」
ニコルがいなくなって後。
カーマインが背中をバンバンと叩いてきて、シアンが優しく慰めてくれる。
「いや男は強さだろ。俺の母さんはそう言ってた」
「カーマインは黙ってて。エリオットを元気付けたいんじゃなかったの?」
言い返してくるカーマインを、シアンがたしなめる。
二人はちょっとした言い合いをはじめてしまって。
ぽかんとしていたら、しばらくして話はまとまったみたいだった。
「とにかくだ、俺たちがエリオットを応援してやる!」
「ボクたちにまかせて!」
ぐっと拳を握ったカーマインとシアンは。
面白い事を見つけたというように、やる気に満ち溢れていた。




