【5】みんな仲良く家族計画
「いい? 今日からあなたたちは、このヒルダ・オースティンの弟として暮らしてもらいます。全員兄妹として、仲良くすること。それと、オースティン家の掟は長女である私が決めます。いいですね?」
朝食の席に少年全員を招集し、私はそう告げた。
皆、ヒルダ様何言ってるの? って顔をしてる。
ここ一ヶ月で、私の奇行に慣れ始めた彼らでも、これはさすがにわけがわからないらしかった。
この十二人の少年に共通するのは、幸せな家庭を知らないということ。
なら擬似でもそれを体感させることによって、少しでもよい大人に育って貰おうという私の考えだ。
全員と面談して気づいたのだけれど、全員が全員何か欠けてるというか。
愛情に飢えているふしがあって、それを少しでも補った上で、ちゃんと巣立っていけるようサポートしたかった。
そういうわけで、これから養子縁組をしていく予定。
この世界では結婚してないと養子を取れないらしいけど、ヒルダは一度結婚してるから何の問題もありません。
そうなると弟たちっていうより、息子たちって言うべきじゃないかとは思うけど、私まだ二十歳。
少年たちにママって呼ばせるにはちょっと無理があるし、こんな大きな息子達はゴメン願いたいかな!
だって私夫どころか、ロクに恋人いたことないんだよ?
なのにいきなり、十三人の子持ちとか色々段階をぶっとばしすぎている。
なので、ここは切実に兄妹設定でお願いします。
そういうわけで色々調べて、すでに手続きの書類は作っておいた。
我ながら仕事が早い。
元の世界でも、事務作業の手際のよさには定評があったのだよ。
大好きなお金の計算と地味な事務作業なら、私の得意分野なんだよね!
これで彼らにはオースティン家という貴族の後ろ盾ができて、将来色々やりやすいはずだ。
身寄りのない子はともかく、家族のいる子もいる。
だから、そこはちゃんと意志を確認してからする予定。
アベルはオースティン家の財産を狙って、ヒルダを殺した。
なら最初からその財産を有する権利の一部を、こっちから与えちゃえば、殺される必要ないんじゃないか?
この養子縁組には、そういう私の考えも含まれていたりする。
ただ、少し不安なのは。
……もうオースティン家の後ろ立て手に入れたから、後は邪魔な私を始末して財産独り占め! みたいなことをアベルが考え出したりしないかという一点に尽きる。
ちょっと早まったかな……いやでも、少年達の何人かは奴隷か、ペットの身分で買われちゃってるんだよね。
クロードから見せてもらった書類の中には、彼らの売買の権利書みたいなものがあって……それが物凄く嫌だった。
この世界、奴隷もありだってこと自体は知ってるし、そういう制度で成り立ってる所だってあるとわかってはいる。
でもせめて自分の手元くらい、そういうのは無しでお願いしたい。
まぁこれやったのヒルダさんで、つまりは自分なんですけど以下略。
もはやヒルダさんの悪行は、私の悪行。
たとえ何もやってないのに私とばっちりじゃね? とか思っても、どうにかしないことには私の命が危険です。
尻拭いはしっかりしとかないとね!
「はいこれ、オースティン兄妹の順番書いた表だから。獣人は見た目で順番決めてるからね。上の子は下の子の面倒を見ること。今日から二人で一部屋だから、同じ部屋のペアは助け合い特に教えあうこと。あとクロードは一番上の兄だから、みんなをしっかり面倒みるように」
無理やり兄妹の名前と順番を書いた表を、クロードに押し付ける。
全て私のお手製で、全員にそれぞれペアのデータが載っている。
文字がよめない子もいるので似顔絵入りだ。
自分でいうのもなんだが結構絵は上手いと思う。マンガ絵だけどね!
「ちょっと待ってください! なんで私まで兄妹に含まれているんですか!」
「私が決めたから」
抗議は受け付けない。
そう態度で示したけれど、クロードは納得いかないようだった。
「うろたえないのお兄ちゃん。そんなんじゃ、弟たちが不安になるでしょ」
私にお兄ちゃんと呼ばれて、クロードが何か言いたげにぱくぱくと口を開く。
遅れて頬が赤くなって、困ったように眉が寄った。
……あれ、この反応。
もしかしてヒルダにお兄ちゃんと呼ばれるのが、まんざらでもないんだろうか。
なんか可愛いな。
「あと、皆私の事をヒルダ様と呼ぶのは禁止。お姉ちゃんと呼ぶこと! クロードは私より年上だから呼び捨てね」
「そんなのできるわけがないでしょう!」
続いて宣言すれば、クロードが取り乱す。
「はーい、ヒルダお姉ちゃん!」
ベティがいい返事をしてくれた。ノリがよくてとてもいいことだ。
それに比べて、アベルは可愛げがないなぁ。
何やってんのあの人みたいな視線が痛い。
他の子の反応も様々で、どちらかといえば、ヒルダの提案に戸惑っている様子の子の方が多かった。
今のヒルダの行動は、非常識なんだろう。
いやでも、私からすると以前のヒルダの方が断然アウトだと思うんだ。
それに比べたら私のなんて可愛いもの。
ここではヒルダがルールなんだし、今までと同じく暴君で行かせてもらう。
「さぁみんなで朝食をいただきましょう!」
クロードはまだ何か言いたそうだったけれど、私がそう宣言したら、しぶしぶと言った様子で席に座って朝食を食べていた。
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一人一人個別に面談して、養子の意志を確認していく。
アベルを部屋に呼べば、最初から私を睨んできた。
「オースティン姓になりたくありません」
てっきり食いつくかと思っていたら、そうじゃなくて驚いてしまう。
「僕の家族は……母さんだけです。失礼します」
そう口にして、アベルは部屋を退出してしまった。
これはどう捉えるべきなんだろ。
今のアベルは、オースティン家に興味があるわけじゃないって感じね。
捨てた母親に執着してしまって、引き離した私が憎くてしかたないって顔をしてた。
姓を変えて、母親との絆がなくなるのが嫌……そんな感じに見えたなぁ。
実はアベルと別れて後、母親が別の男と再婚して、すでに姓が変わってるなんて教えたらもの凄く取り乱しそうだ。
……これは言わないでおこう。
そんな事を考えながら、養子縁組の作業を進めた結果。
やっぱり何人かは断ってきた。
「誰がこんな悪名高いオースティン家の一員になるかよ!」
ふざけるなという口調で言ってきたのは、少年達の中でも年長にあたる十五歳の子。
キツイ目つきの子で、不機嫌に眉を寄せていた。
「オースティン家って、悪名高いの?」
「はぁ? あんた何言ってんの? お前たちのせいで、俺たちがどんなに苦しい生活してんのかわかんねーのかよ。コレだからお貴族様は!」
初めて聞く事実に思わず尋ねれば、余計に彼の怒りを煽ったようだった。
私の作業用の机を、バンと叩いてくる。
「村の作物が取れなくたってなんだって、自分たちの都合で税取って。俺たちが死のうが何しようが、お構いなしだ。苦しんでる民を放って、自分は男の子集めて贅沢三昧。この変態が! 俺は絶対にお前をいつか殺してやる!」
口汚くののしって、彼は部屋を出て行った。
オースティン家、悪名高いのか。
それは知らなかった。
花街育ちの子たちだけでも手を焼きそうだなと思ってたのに、そっちもどうにかしなくちゃいけないような……。
いっきに抱え込みすぎるとあれだし、まぁとりあえずは身内からで。
少年たちと関わるようになって気づいたんだけど。
別にヒルダさんを恨んで殺したがってるの、アベルだけじゃないみたいなんだよね。
彼のような態度取ってくる子、何人かいるし。
むしろアベルは表面上繕ってる分、いい部類。
つまりは、アベル以外にも、ヒルダの死亡フラグを立ててくる子はいるというわけで。
やだなぁ、ヒルダさんたら。恨み買いまくりじゃないですか!
もう泣いていいかな……。
始まった第二の人生、すでに心が折れそうです。
4/5 少年たち皆が奴隷かペット身分で買われたというところを、何人かに修正しました。★4/18 誤字修正しました。報告助かりました!




