表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/137

【41】竜の恋人と、招待状

「いや本当、すいませんでしたイクシスさん」

「……」

 散々謝ったのに、イクシスは許してくれる気配がない。

 不機嫌だというように、竜の尻尾を床に打ち付けている。

 反省を見せるため、イクシスが構えている椅子の側の床で、私は自主的に正座をしていた。


 獣人の国で、自分が実はヒルダに転生したわけじゃなく幽霊だと知って。

 雨の中泣きじゃくって、イクシスのお世話になったあげく、部屋にあがりこんで服を借りて。

 濡れて気持ち悪いからとパンツまで脱いで、イクシスのベッドを占領してしまったらしい。


 しかも私はイクシスを掴んで離そうとしなかった。

 ベッドも一つしかないため、イクシスは私の隣で眠ったのだという。

 朝になって私が熱を出していることに気付いて、慌てて宿に戻って医者を呼んでくれたようだ。


 はっきり言って、イクシスに迷惑しかかけてない。

 なのにこんなとんでもない勘違いをして、イクシスに怒られるのも当然だ。


「俺は寝てる女に手を出したりしないし、恋人でもない女とそういう不誠実な行為はしない」

「本当ゴメンなさい……」

 疑われたこと自体腹立たしいと言うようにイクシスは口にする。

 イクシスのプライドを傷つけてしまったらしい。

 恩を仇で返すとはこの事だ。


「大体、イクシスと私がなんて、天地がひっくり返ってもありえないのにね!」

 はははと誤魔化すように笑えば、イクシスはさらに眉を寄せて苛立った顔になる。

 余計に怒らせてしまったらしい。

 キッとその金の瞳で睨まれ、思わず息を飲む。


「ねぇイクシス。機嫌直してよ。何でもするから! この通り!」

 手を合わせてお願いする。

 これで駄目なら、最終手段のジャパニーズ土下座を見せるしかない。

 覚悟を決めて両手を床に置き俯いたところで、私の頭に影が落ちる。

 イクシスがソファーから立ち上がって、私の前にしゃがんだ。


「……本当に何でもするんだな?」

「うん! 許してくれるの!?」

 ようやく口を利いてくれたイクシスに喜んで顔を上げれば、まだその目は怒ったままだった。


「メイコには俺の恋人になってもらう」

「……はっ?」

 思わず間抜けな声が出た。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「つまり、イクシスが竜族の里に帰る際に、恋人のフリをしろとそういう事ですか」

「そうだ。一年に一度、秋の名月の日に竜は里に集まる。もう二十年近く顔を出してないからな。どうやら今回は里がこの領土の近くにあるみたいで、簡単に里へ繋がりそうなんだ。竜になる方法もわかったし、一度里帰りしておきたい」

 畏まって尋ねた私に、イクシスが面白くなさそうな顔で呟く。


 竜族の里は天空にあって、移動し続けている浮き島のようなものらしい。

 竜の姿になって空間を通っていかないと、行けない場所にあるのだけれど。

 その繋がる場所と時間は限定されていて、条件が揃わないと里に行く事はできない。

 鳥族の国が一番繋がり易く、毎回里に帰るたびにイクシスがそこに滞在していたと前に聞いたことはあった。


「それはわかったけど……どうして私が恋人のふりをする必要が?」

「メイコがいなきゃ竜になれないだろ」

 確かにそれもそうだ。

 恋人の方がキスもしやすく、イクシスも竜になりやすい。

 しかもイクシスにはヒルダとの誓約がある。

 私からそう遠くに離れることはできなかった。


 イクシスは相変わらず不機嫌そうな顔だ。

 私が恋人というのが本当は不本意だけれど、里に帰るためにはしかたないと思っているんだろう。


「別に恋人じゃなくてもいいんじゃないかな。私イクシスのお付でもいいよ? 竜に戻る時のキスは、人がいないところですればいいし」

 さっきまで嫌な誤解で不快な思いをさせてしまったこともあって、そう提案すれば。

 イクシスにギロリと睨まれた。


「それに、イクシスにはマリアさんがいるでしょ?」

 イクシスとメイドのマリアが抱き合っていたのを、前に目撃していた。

 イクシスだって本当は私なんかじゃなくて、マリアに頼みたいんだろう。


「なんでそこでマリアがでてくる。メイコはそんなに俺の恋人になるのが嫌か」

 イクシスの目が釣りあがり、苛立ちが濃くなった。

 涼やかな目もとをしたイクシスが睨むと、迫力がある。

 この様子からすると、マリアのことはイクシスの片思いという線が強そうだ。

 ひやりとした心地になって、ぶんぶんと首を横に振った。


「めめ、滅相もございません! 喜んで恋人役をやらせていただきます!」

 二人の逢瀬を見たのは秘密だったのに、ついうっかり口が滑ってしまった。

 私としては気を使ったつもりだったのだけど、逆効果だったようだ。


「細かいことは近くなってから話す。約束だからな」

「わ、わかりました!」

 立ち上がったイクシスにそう返事をすれば。

 イクシスはその場から、ふっと姿を消した。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 仕事が終わって、少年達とのんびり過ごす。

 前に注文したジャージが届いていたので、皆でそれを着てサッカー中だ。

 夏仕様に短パンも注文していた私は抜かりがない。

 花組は赤、星組は青、月組は黄色にしてみた。


 ウサギの獣人・ベティと猫の獣人・ディオはこの動きやすい服が気に入ったらしく、楽しそうに動き回っている。

 黄色のジャージを着た月組の子たちとサッカー対決する姿は、とても微笑ましい。


 ちなみに星組の子たちは、誰もジャージを着てくれませんでした。

 私に懐いてくれている花組メンバーと、よい子の多い月組メンバーは全員着てくれたんだけどね。


 星組でもノリのいいメアは着てくれるかなと思ったんだけど、おれの美意識が許さないからこれは着れないな! と笑って言われてしまった。

 アベルに至っては、受け取ってすらくれなかったからね……。


 元々ヒルダから皆に与えられていた制服は、どこぞのデザイナーが作ったオーダーメイド。

 同じ執事服だけれどそれぞれ微妙に違っていて、いうなればアイドルグループの衣装のように少しずつ異なっていた。

 ヒルダのセンスは文句なしによく、統一感があるけれど個性が生かされている。

 正直とても皆に似合っているけれど、やっぱり普段は動きやすい服が一番だと思う。


 実はイクシスの分も追加で注文してあったんだよね……私や花組の子とおそろいの赤いジャージ。

 もう三日もイクシスとは顔を合わせてない。

 別にもう仲直りしたと思うのだけれど、イクシスが私の前に出てこないのだ。

 それが妙に気になってしかたない。


 ジャージを渡すのを口実に、イクシスと会話しよう。

 そう決意したところで、慌てた様子のクロードが私の元にやってきた。


「どうしたのクロード?」

「大変です! 王家から書状が届きました!」

 渡された封筒は、触り心地だけで質がいいことがわかる。

 なんだろうと思いながら中の手紙を見て、固まる。

 それは第一王子レビンからの、魔法対決の招待状だった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「何を考えているのですか! 何故王子と魔法対決なんて!」

 執務室でクロードに叱られる。

 山で第一王子に会った際、フェザーが私の魔法の方が凄いと言い出して。

 張り合った王子が、ならお前の魔法を見せてみろと言ってきたのだ。

 色々ばたばたしていたこともあって、すっかりそっちの問題は頭から抜け落ちていた。

 

「どうしようクロード。私魔法使えないんだけど、あと三日しかないよ……?」

「こうなったら今すぐ特訓するしかありませんね。イクシスにでも習ってください」

 弱音を吐く私に、クロードが呟く。

 クロードは魔法が使えない。

 なので、こういう時頼れるのはイクシスしかいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★6/24 「彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート」本日17時完結なので、よければどうぞ。
 ほかにも同時刻に、ニコルくんの短編も投下予定です。  気が向いたら感想等、残していってくれると励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ