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【40】白のパンツと彼シャツと

若干R15?です。

「メイコ様、リルケの花のお茶を入れました」

「ありがとうクロード」

 獣人の国でクロードが買ってきてくれた、リルケの花のお茶を飲みながら一服する。

 落ち着けるひと時だ。


「今回の奇病騒動、メイコ様のおかげで早めの収束ができました。素晴らしい手腕です」

「前世のゲーム知識のお陰だけどね。でもよかったよ。死者が出る前にどうにかなって」

 褒めてくるクロードに答えながら、リルケのお茶に蜂蜜を追加する。


 キーファもすっかり元気になって、今のところ病の後遺症は見られない。

 あの後、村を救ってくれてありがとうとキーファがお礼を言ってきて。

 皆との食事の席にも、時々顔を出すようになった。

 相変わらず小食だけれど、いい傾向だと思う。


 隣の領主からの感謝状によると、あちらの村の病も収束したようだ。

 屋敷を空けていた間にたまっていた領主としてのお仕事も、ようやく一段落ついた。

 こんなに早く片付いたのはクロードのお陰だ。


 腕っ節はないけれど、クロードは要点をまとめるのがとても上手い。

 書類を整理して、私に必要なことのみを教えてくれる。

 きっと前世の会社にクロードのような同僚がいれば、もっと仕事は効率よく進んだだろうなと思う。

 部下に欲しいタイプだ。


「……メイコ様は凄い方ですね。異世界からこちらに来て戸惑うことも多いはずなのに、問題をこうも容易く解決してしまうなんて」

「買いかぶりすぎだって。偶然だよ、偶然」

 クロードが真摯な目をこちらに向けてくる。

 そんな大層なものじゃないので、笑って適当に流した。


「それに今回のことは私一人でできたことじゃないしね。皆の協力があったから、早く解決できたんだよ。クロードもありがとうね」

 クロードは勿体無い言葉ですと言って頭を下げてくる。

 本当に真面目だ。


「あとクロード、二人っきりの時は敬語じゃなくていいよ。私本物のヒルダじゃないし、クロードの方が年上でしょ? メイコって呼び捨てでいいから」

「いえさすがにそれは……」

 提案すればクロードが困ったような顔になった。


「様付けって距離を感じるんだよね。クロードとはもう半年近く一緒に過ごしてるのに、それってちょっと寂しいなって。駄目かな?」

「ですが」

「駄目?」

 クロードは年上なのに、少しからかいたくなるオーラがでている。

 困り顔が可愛いというか。

 さらに押していけば、眉を情けないハの字にしながら頬を少し赤くしていた。


「……では、メイコとお呼びすることにします」

 こほんと咳払いしながら、ようやくクロードは口にする。

 呼び捨てはクロードにとって、とても恥ずかしいらしかった。


「うん、そうして。敬語もいらないよ?」

「こっちの方はもう癖ですから」

 嬉しくなって微笑めば、クロードは弱ったように笑った。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 執務室の机からソファーに移り、クロードと一緒にお茶とお菓子でくつろぐ。

 私はお嬢様の執事ですから。

 そう言って、前までは休憩を一緒にとってくれなかったクロードだけれど。

 獣人の国から帰ってきて後は、こうやって私に付き合ってくれるようになっていた。

 ヒルダだと思われていたときより、距離が近くなったなと思えて嬉しい。


「メイコに獣人の国にいる時から、一つお聞きしたいことがあったのです。メイコが熱を出したのと、奇病騒動で聞きそびれてしまいました。かなり下世話なことだとはわかっているのですが……一つ確認してもよろしいでしょうか」


 飲んでいた紅茶のカップをソーサーに置いて、居住まいを正し。

 急にクロードがかしこまった様子で見つめてくる。

 その顔には何か決意したような雰囲気があった。


「いいよ。何?」

「えっとその……メイコはイクシスとは、そういう仲なんですか?」

 答えられることなら答えよう。

 そう思って尋ねれば、おずおずとクロードは口にする。


「そういう仲?」

 クロードは何が聞きたいんだろう。

 そういう仲って、守護竜と主人の関係以外に何があるというのか。

 思わず首を傾げてしまう。


「で、ですから……イクシスとは同意の上で、体の関係なのかということです!」

 どうして察してくれないのかと、真っ赤な顔で搾り出すようにクロードが口にした。


「……?」

 何を言っているのかな? クロードは。

 その言い方だと、私とイクシスができてるみたいに聞こえるんだけど。

 余計に意味がわからなくて、さらに反対側に首を傾げる。


「隠さなくてもいいです。知ってますから。ジミーが幽霊だとわかった次の日、その……イクシスの部屋にお泊りしていましたよね?」

 真っ赤な顔で言葉を紡ぐクロードにビックリしすぎて、口が大きく空いてしまった。


「あれはそういうのじゃないから!」

 クロードとんでもない勘違いしてるよ!

 思わず焦って立ち上がり、テーブルをバンと叩く。


 前世で死んで、ヒルダに転生した。

 そう思っていたのに……本当の私は、ヒルダの体に取り付いているただの幽霊だった。

 あの日、その真実を知って落ち込んで。

 暗くなっていた私を、イクシスが慰めてくれたのだ。


 泣くつもりなんてなかったのに、イクシスが優しくするから、つい泣きじゃくってしまって。

 外は雨が降っていて、服も濡れてしまっていた。

 かといって皆がいる宿にまだ戻りたくないと思っていたら、イクシスが異空間にある自分の部屋に連れて行ってくれたのだ。

 その後のことは熱を出してしまってあまり覚えていないけれど……そういう色っぽいことは何もなかった。


 だって私とイクシスだよ?

 ベッドの上でジャンプしながら乳が揺れるのを楽しんだり、カーペットを転がったりして感触を楽しんでいたところも見られてしまっている。

 情けない姿をいっぱいさらして、感情までイクシスには筒抜けなのだ。

 素の私を見られてしまっている以上、そういう甘い展開になることは絶対にない。


 加えて厄介事を起こして、イクシスには迷惑かけっぱなし。

 それだけでは飽き足らず頼ってしまって、イクシスが実はいい人なのをいい事に、甘えてしまっている。

 自分でも面倒なやつだなという自覚はある。

 

 それに見た目はイクシスの大嫌いなヒルダだ。

 好みのタイプじゃないと言っていたし、クロードの言ってることはありえない。


「あのねクロード。それは勘違いなの。雨が降ってたから、イクシスの部屋に入れてもらって、その後疲れて私寝ちゃったのよ」

 泣いたことを言えば心配してしまうだろうから、その事は隠してクロードに告げる。

 クロードは唇を引き結んで、何か言いたげな顔をしていた。

 誤魔化そうとするのはやめて欲しいというように。


「見え透いた嘘はやめてください。裸にイクシスの上着を着て……ただのお泊りですか? 赤く目をはらして、声を枯らして。熱を出してぐったりしてましたよね」

「え?」

 クロードの責めるような声に、思わず目を丸くする。

 私のその反応に、気付いてないとでも思ったのですかと言いたげな顔をしていた。


「私が心配なのは、あの竜がメイコの弱みにつけこんで、無体を働いたのではないかということです。今日はメイコを俺の部屋に泊めるからと声だけで告げたかと思えば。朝になって、上半身裸のイクシスが、熱を出したあなたを抱きかかえてきたんです」

 イクシスに抱きかかえられてぐったりした私は、裸にイクシスの中華服を羽織っただけの格好だったらしい。


 ……記憶がないんだけど。

 えっ、それどういうこと?

 裸に中華服? 着た覚えなんてないよ?

 何そのマニアニックな服装。

 それっていわゆる彼シャツみたいなものじゃないの!?

 しかもイクシスが上半身裸ってどういうこと!?


 いやいやいや!

 ありえない。ありえないよ!? 

 確かにあの時の私は泣きじゃくって弱ってて。

 少しイクシスに甘えたかもしれないなとは思うけど、そんなことはなかったはずだ!


 思い出せ、思い出すんだ私。

 そんな事はなかったという記憶が、どこかにあるはず……!


 イクシスの部屋に行った時、すでに微熱がでてたのか私の記憶は曖昧だ。

 おぼろげだけど、髪の毛を拭いてもらったような気がする。

 心地いいなと思いながら、ついイクシスによりかかって、ふわっと抱きかかえられて。

 

 お父さんが車で寝てしまった私を、家まで運んでくれたときのような。

 妙にくすぐったい安心感を覚えながら、半分起きているのに、優しいまどろみに身を委ねたのは覚えている。

 そしたら、柔らかい感触とともにベッドに体が沈んで、イクシスが離れていこうとして。

 何だかそれが寂しくて、イクシスの手を掴んだような……?


 そこまではどうにか思い出せた。

 その後は……?

 駄目だ。全くを持って思い出せない。


「いやいやいや! 絶対、クロードの勘違いよ!」

 きっとそうだ。

 そうに違いない! そうであってほしい!

 初めてなのに、何も知らない間に人の体でとか絶対に嫌だ。

 そんな思いから口にすれば、まだ誤魔化す気なんですねとクロードは眉をひそめた。


「別にヒルダ様の体でそんなことをと、あなたを責めるつもりはないんです。ただ、それが同意だったのか、同意でなかったのかが知りたいだけです。あなたの弱みに付け込んで、あの竜が無体を働いたのなら……許せることではありませんから」

 クロードは難しい顔をしていたけれど、私の事を思って言ってくれているのはわかった。

 その手にはいつのまにかムチが握られている。

 いつも取り出す瞬間を見逃すんだけど、どこに常備しているのかな!?


「メイコを連れてきたイクシスは、相当に切羽詰まって混乱していました。何があったのかと尋ねれば、独り言を呟いて。自分を責めている様子でした」

 眉間にシワを寄せて、クロードが手の上でムチを弄ぶ。


「この前のことで人間が脆いのは知ってたはずなのに、無茶をさせてしまったとか。メイコが傷つけばいいと思って、あんなことを教えたから負担になってたのかもしれないとか。我慢できなくて無茶苦茶に壊したのがいけなかったのかとも言ってましたね。初めてで慣れてないことだらけのなのに、平気な顔をするから気遣えなかったとも口にしてました」

 一言一言口にするたびに、クロードの中で怒りが高ぶってきたのか、ムチをぎゅっと握ってしならせる手にも力が入っていた。


「あなたはイクシスを庇っているのですか? それとも熱が出て、意識のない間に手を出されてしまったのでしょうか。どちらにしろ……あの竜は一度躾けなおす必要がありそうですね」

 クロードの瞳には、冷ややかな色が宿っていた。

 イクシスが無理やり何かしたのだと、クロードは思い込んでしまっているようだ。


 ――この前のことで人間が脆いのは知ってたはずなのに、無茶をさせてしまった。

 イクシスのこの発言は、きっと鳥族の国で私が一度倒れたことを指しているんじゃないかと思う。


 ――メイコが傷つけばいいと思って、あんなことを教えたから負担になってたのかもしれないとか。

 こっちは、鳥族の国の王である、フェザーの父親がどうしようもない人で。

 行けば私がいやな思いをするとわかっていて、連れて行った事を言ってるんだろう。


 ――我慢できなくて無茶苦茶に壊したのがいけなかったのか。

 確実にこれは、鳥族の国を半壊させた事だと思う。


 ――初めてで慣れてないことだらけのなのに、平気な顔をするから気遣えなかった。

 おそらくこれは、異世界からこの世界に来た私に対しての気遣いの言葉だと思われる。


 きっとそうだ。

 そういう大人の情事的な意味じゃない……と思う。


 どうしてイクシスは、何も事情を知らない人が聞いたら、怪しい艶事を連想しちゃう言い方をしてくれてるのかなっ!?

 混乱と怒りと恥ずかしさから、顔が真っ赤になる。


「メイコ、何かあったのか。感情が乱れてるんだが」

 いきなりその場に、イクシスが現れる。

 私のこの感情が伝わって、何事かと思ってやってきたらしい。


「イクシス! イクシスの部屋に泊まった時、私達何もなかったよね!?」

 いきなりの質問にイクシスはぎょっとした顔になった。

 それからちょっと視線を逸らして、無言になる。


「……何もあるわけないだろ」

 長い間の後、ぶっきらぼうな口調で言うイクシスの顔が赤い。

 イクシス、その反応……まるで何かあったとしか思えないんですけど!!


「本当に本当!?」

「あぁ」

 胸倉を掴むように接近したのに、イクシスは目を合わせてくれない。

 何か隠しているのは丸分かりで、クロードがムチ打つための準備運動をはじめていた。


「じゃあ、何で私の目を見ないの!」

「……不可抗力だったんだ。俺が悪いわけじゃない」

 叫べば、イクシスはむっとしたような声でそんな事を言う。


「な、何かあったのね!? 白状しなさい!」

「……男の部屋でパンツまで脱ぐお前の方が悪いだろうが!」

 混乱する私にイクシスが開き直ったように口にする。

 逆ギレ気味で、眉間にシワまで寄せていた。


「パンツを私が脱いだ?」

「覚えてないのか。濡れて気持ち悪いからって、自分で脱いだんだろ。男の部屋でああいうことすると誘ってるとしか思えない。俺だからよかったものの、他のやつの前では絶対するなよ」

 言葉を繰り返せば、イクシスは注意するようにそう言って。

 空間を裂いて何かを取り出すと、乱暴に私の胸へ押し付けてきた。


 渡されたのは、白い三角の布着れ。

 それは紛れもなく……私のパンツだった。

「一応洗濯は……してもらった。全くなんで俺がこんなに気を使わなくちゃいけないんだ」

 真っ赤な顔でイクシスは口にしたけれど、もはやそれどころじゃない。


「私あの日、イクシスと一緒に……寝たの?」

 まさかだよね? と思いながらイクシスを見上げれば。

 イクシスがちらりと私を見て、耳元を赤く染めた。


「……メイコが俺を離さなかったんだろうが。それに俺の部屋はベッドが一つしかないし、疲れてたんだ」

 ふいっと視線をそらして、イクシスがぼそりと呟く。

 

 これは……一夜の過ち確定ですか?

 思わず足元から崩れて床に座り込んだ私に、イクシスが驚いた顔になる。


「なんだよ。何もそこまでショックを受けることないだろ。一緒に横になって寝るくらい大したことな」

 少し傷ついたような顔をしたイクシスめがけて、ひゅっと空気を切り裂く音と共に、クロードのムチがしなった。


「ッ! いきなり何するんだクロード!」

「うるさいですよ、駄竜が。キスだけでは飽き足らず……下劣な」

 戸惑うイクシスに、クロードが低い声でムチを振り回す。


「おいメイコ! これは一体どういうことなんだ!」

「パンツを自分から脱いで、同じベッドで寝た? 私が? イクシスと?」

 イクシスが何か叫んでいるけれど、それどころじゃない。

 パンツを手に、頭を抱える。

 そんな私の横で、イクシスは戸惑いながらクロードの振るうムチを避け続けていた。

 イクシスの部屋に行ったお話【小話29.5話】は、活動報告内にあるので気になる方はどうぞ。目次ページの下、もしくは各話の下のリンクから飛べるようになっています。

 30話を更新して後に思いついたお話なのと【29.5話】と中途半端なので、そちらの方に置いてます。

★5/9 誤字等修正せいました。報告ありがとうございます!

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★6/24 「彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート」本日17時完結なので、よければどうぞ。
 ほかにも同時刻に、ニコルくんの短編も投下予定です。  気が向いたら感想等、残していってくれると励みになります。
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