【3】獣人はショタの宝庫のようです
医者に体を見て貰ったのだけど。
診察後にお礼を言っただけで、変な顔をされた。
それだけで雰囲気変わりましたねと質問攻めだ。
……お礼を言っただけで不信がられるなんてね。
ヒルダがどんな子だったのか、想像がつく。
アベルからの嫌われようと、あのムチ。そしてこの反応。
きっと女王様で、不遜で、ドSな暴君だったに違いない。
「どうやらヒルダ様は、記憶喪失のようですね」
医者の言葉にクロードはかなり取り乱していたけれど、記憶がなくなっても私が付いてますからねと力強い言葉をくれた。
こんなヒルダに対して、クロードはかなり献身的だ。
弱みでも握られてるんじゃないの? とこっちが心配になるくらいだ。
まぁでも、クロードは信頼してもよさそうだ。
ゲーム本編には一切でてこないキャラだけど、ヒルダに対して並々ならぬ好意を抱いているのがわかる。
きっとこれから先、私の力になってくれるだろう。
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汗をかいているから風呂に入りたいというと、クロードはすぐに手配をしてくれた。
風呂場に足を踏み入れる。
大浴場といっていい広さの風呂場のタイルは、やわらかな桃色。
団体様で浸かれるくらい大きな風呂には、少し白みがかったお湯が張られていて、薔薇の花びらが浮いていた。
薔薇風呂!
なんて豪華な。
憧れてはいたけれど、我が城の小さな浴槽でやると、後始末の時にむなしくなりそうだからやったことはなかった。
「素敵……ぎゃっ!」
思わず呟けば、ふいに前から誰かに勢いよく抱きつかれた。
身じろぎすれば、胸のあたりに顔をうずめていた子が、私を見上げてくる。
「ヒルダ様、元気になったんだね。ぼく嬉しい!」
天使かと見まごう、可愛らしい笑顔。
七歳くらいのプラチナブロンドの長い髪の美少女がいた。
青のエプロンドレスが眩いくらいによく似合っていて、頭の上には白いウサ耳。
まるで不思議の国のアリスを思い出させる容貌の少女だった。
「心配してくれたのね。ありがとう」
とりあえずそう返すと、少女は満足そうに私から離れる。
ヒルダは少年だけでなく、少女まで集めているのか。
ショタコンの上にロリコンだなんて、手に負えなさすぎる。
しかもなんだこの頭に付いたウサ耳は。けしからん。
ぴょこぴょこ動いて、私を誘っている。
「えっとあなたは……」
「ベティだよヒルダ様。ぼくの名前忘れちゃうなんて、よっぽど強く頭を打っちゃったんだね」
うるうると瞳を潤ませながら、上目遣いでベティが言う。
「ごめんなさいね」
「ううん。ヒルダ様が無事なら、いいの」
謝ると、ぎゅっとベティは腕にしがみついてきた。
自分の可愛さがわかっていて行動しているというか、ベティの仕草はいちいち可愛い。
こういうのをあざといというんだろう。
でもキュンとしてしまうのを止められない。
何より気になるのが、ベティの頭の上にある、白いウサ耳。
ふわふわとしていて動いている。
さわりたくて手がうずうずとしていた。
「……ねぇ、この耳触ってもいい?」
「うん。優しく撫でてほしいな」
尋ねればベティが、最初からそれを待っていたかのようにおねだりするような声で告げてくる。
そっと触れたら、ウサギ耳がぴくんと動いた。
とても敏感な場所らしい。
そっとなでてみれば、ベルベットのように手触りがいい。
ほんのりと温かみがあって、血が通っているみたいだ。
「んっ……ふぅ」
指でやわやわとはさんでなで上げたり、弾力を楽しんだりしていたら、ベティが押し殺すような色っぽい声を出し始めた。
「あっ、ごめん!」
「ううん、いいの。こうやってヒルダ様に触られるの、凄く好き」
頬を赤く染めて、ふわりとベティは笑う。
とくんと胸が跳ねる。
いや、私にそんな趣味はない……はず。
しかし、この純真そのものという笑顔はどうにも危険だ。
「……これって本物なのね」
「うん、ぼくは獣人だから」
この感触がやめられなくて引き続き耳をもふもふしていたら、気持ちよさそうにベティは目を細める。
この乙女ゲーム『黄昏の王冠』の世界には、人間以外の種族も多い。
その中でもベティは獣人という種族のようだ。
獣人は、外見は人間とほとんど変わらない。けど、獣の耳やしっぽがついていて。
ゲームの中での獣人の扱いは酷く、人間のペットや奴隷の扱いを受けていた。
獣人は直感的に行動する者が多く、思考回路は単純明快で、欲に流されやすい。
それでいて獣人は、個人差はあるけど子供のままで成長が一旦止まる。
誰かに恋をすると大人の姿になれるようになり、好きな人と肉体的に関係を持つと完全な大人になるという設定だ。
攻略対象の一人が獣人だったので、それを私は覚えていたのだけど。
全年齢版でその設定もなかなか攻めてるよなぁと思ったものだ。
大人にしてくれる……?
なんて攻略対象に色っぽく迫られたときは、色んな意味でドキドキしたというか。あれはなかなかくるものがあった。
「ベティはいくつだったかしら?」
「んーたぶん三十歳くらいかなぁ? あまり数えてないからわかんない!」
無邪気にベティが答える。もう成長止まっているとみてよさそうだ。
見た目は七歳くらいの外見なのに、私よりも年上か。
いつまでも幼いままだなんて、まさにヒルダにとって獣人はもってこいに違いない。
「ヒルダ様に撫でられるの、好き」
そういって、じゃれついてくるベティを、ぎゅーっと抱きしめたい衝動に駆られた。
私ってロリコンの気があったのかな。
そんなことを思ってたら、しゅるりとおもむろに、ベティが私の服の紐を解きだす。
「えっ、何?」
「何ってヒルダ様、お風呂入るんでしょ? 今日はぼくがお風呂当番だから、脱がしてあげるの」
「いいよ自分でやるから!」
「だーめ! これぼくの仕事だもの。ヒルダ様は病み上がりでしょ!」
慌てて言えば、強引に押し切られ服を脱がされる。
この屋敷にはお風呂当番なるものがあるらしく、ヒルダは当番の子に体を洗わせていたらしい。
ヒルダさん、何でそんな変な係つくっちゃってるのかな? と思わなくはない。
けどまぁ、ベティとは女同士だし。
お金持ちのお嬢様ともなると自分で体を洗わないものなのかもしれない。
この世界の常識を知らないからよくわからないけど。
服が脱ぎずらそうだなと思っていたところだったので、素直にベティに手伝ってもらう。
慣れっこのようで、するすると脱がせてくれた。
私を裸にひんむいたところで、次は自分の番とばかりに、ベティは自分の洋服も脱いだのけれど。
そのベティの股の間に、私はありえない物体を見つけてしまった。
まぁるい玉が二つで、男にしかない金的な……。
「どうしたの、ヒルダ様?」
「えっと……ベティって、男の子?」
「そうだよ?」
あっさり答えられる。
ヒルダさんったら、女の子ならまだしも、幼い男の子に自分の体洗わせてたんですね!
やだ、変態じゃないですか!
……ヒルダさん、なかなかに末期のショタコンのようす。
いやまぁ、気づいてた。
けど、体を洗うくらいならいいか。
相手はまだ子供だし。
そう思って、されるがままにしていたら、ベティが私を泡塗れにし始めた。
その小さな手が、私の肌を滑っていく。
さわさわと体をなでていく感触が落ち着かない。
「んっ、ふぅ……」
ベティの手つきはこう、くすぐったいというか、洗うだけじゃない感覚を与えてくる。
嫌な感じはしないのだけど、自然と体の奥が燻られてくるような、妙な熱が生まれて変な気分になる。
こんな純粋そうな子が、そんな嫌らしい手つきで触るわけがない。
私ったら、意識しすぎだ。
「ひゃぁん!」
その感覚に必死に耐えていると、ふいに耳を食まれてしまって。
思わず変な声が出た。
くすくすと耳元でベティが笑う。
「我慢してるヒルダ様可愛い。なんだかいつもより、敏感だね。ぼく久しぶりにヒルダと一緒に寝たいなぁ。ヒルダ様が寝込んでる間、ずっと我慢してたんだよ?」
ベティの口から紡がれたのは、艶っぽい内容と言葉。
聞き間違いだと思いたい。
「ねぇヒルダ様ぁ。今日ベッドに呼ぶのはぼくにしてよ。いっぱいヒルダ様に甘えたいんだ」
ベティは私の背に、体を密着させてくる。
ぬるぬるとした感触と、伝わってくる高い体温が、かなり生々しかった。
ベッドに呼ぶというベティの言葉の意味は、きっとただ一緒に寄り添って寝るとかそういう意味じゃない。
その小さな体から溢れる色気に、大人同士の肌のふれあいを求めてるのだと、そういう事にあまり慣れがない私でもわかった。
「こ、子供なのにそんなこと言っちゃ駄目!」
とっさにベティを引き剥がす。
声が上ずって、心臓がばくばくとしていた。
全くヒルダは何をしてるんだ。
こんないたいけな少年に、夜の相手を勤めさせるなんて!
レーティングはギリギリだったけれど、全年齢対象の乙女ゲームだったから、ヒルダのしていたことはぼかされていたけれど。
ベティと危ない一線をヒルダは越えていたようだ。
獣人だから歳的には全く問題ないんだろうけど、見た目で完璧にアウトですよ!
「ヒルダ様、変なの。子供が大人に甘えるのは普通のことでしょ?」
「そうだけど、ベティのは何か違う!」
振り返ってそういえば、不思議そうにベティが首を傾げていた。
「普段からやってることじゃない。それに、ぼくはずっとこうして生きてきたよ? ヒルダ様はそんなぼくを気に入って、買ってくれたんでしょう?」
おかしなことを言うんだねというように、ベティが私を見つめてくる。
ベティにとってはこういうことが日常で。
一切抵抗はないのだということが、その雰囲気でわかった。
「ぼくちゃんと、ヒルダ様を気持ちよくできるよ?」
「そ、そういうことは、好きな人とするものなの。誰彼構わずしちゃ駄目!」
青臭いと思われるかもしれないけどしかたない。
ヒルダはそういう経験豊富なんだろうけど、私はそうじゃない。
前世では一応彼氏というものがいたことはあったけれど、そんな関係までは行ってなかった。
それにそもそも、幼すぎる見た目のベティは論外だ。
例え年齢的に問題がなくても、色々問題がありすぎるし、私にそんな趣味はない。
「ぼく、今までの相手の中で、ヒルダ様が一番好きだよ? 優しいし、痛いことしないし。柔らかくて気持ちいいもの。店でぼくを見初めて買ってくれたのがヒルダ様で本当にぼくは幸せ」
「それは……どういう事?」
曇りのない瞳で口にするベティに事情を聞けば、ベティは花街の出身だったようだ。
高級な店の男娼で、女の人相手でも、男の人相手でも体を売って生きていた。
そんなベティを、ヒルダが店で見つけて買い取ったらしい。
「ぼく高かったのに、ヒルダ様は惜しげもなくお金を払ってくれて。ぼくにそれだけの価値があるんだって言ってくれた。嬉しかった」
今のこの状態を幸せと呼べるくらいの思いを、ベティはしてきたんだろう。
ヒルダを見つめる瞳には、感謝とかそういう感情が溢れていた。
「ねぇ、ヒルダ様。だからいいでしょ?」
「よくない。今までごめんなさい、ベティ。私は間違っていたの。これからは一切そういうことはしないから!」
肩をつかんで宣言すれば、ベティの瞳が大きく揺れた。
「何を言っているのヒルダ様? ぼくのとりえはこの見た目と、そういう事しかないのに。もしかして、ぼくは用なしってこと? 店に戻されるの? 嫌だよそんなの!」
ベティは泣きそうな顔になる。
心底怯えているようで、その声は震えていた。
「違う。私にはあなたが必要だし、あなたには夜のお世話や見た目以外の価値がちゃんとある」
そっとベティに近づいて、手を取る。
「これから私がそれを磨いてあげる。あなたが素敵な大人になれるように、私がしっかり育てるわ!」
言葉にしたら、私自身の道も見えてきた気がした。
集めた少年たちを、ちゃんと将来まできっちりケアした上で帰していく。
そうすればアベルにも恨まれず、私は新たな人生を歩むことが出来るはずだ。
4/2少し修正しました
★4/18 誤字修正しました。報告助かりました!
★2/25 誤字修正しました。報告助かりました!