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【32】ようやく帰宅しました

★5/1 誤字修正しました! 報告ありがとうございます!

「お帰りなさいお姉ちゃん!」

 屋敷に戻れば、ウサギの獣人・ベティが私に抱きついてきた。

 さらさらの金髪の撫でてやれば、美少女にしか見えない顔を嬉しそうに緩ませる。

「ちゃんと元気にしてた?」

「うん、ぼくは大丈夫だよ! でもエ」


 ベティが何か答えようとする前に、私に突進してきた者がいた。

 みぞおちに重い衝撃が走り、芝生に尻餅をつく。

 私のお腹部分に顔をうずめていたのは、白馬の獣人・エリオットだった。

「ど、どうしたのエリオット?」

 戸惑いながら声をかけて、その体に触れようとして。

 ぎゅーっと痛いくらい私を抱きしめるエリオットの体が、小刻みに震えていることに気付く。


「お姉ちゃんがなかなか帰ってこないから、また捨てられたと思ったんだよ。エリオットは」

 肩をすくめるようにしてそう言ったのは、猫の獣人・ディオだ。

 ちょっと馬鹿にしたような口調で、黒いしっぽをくねらせている。


「人に執着するとロクな事ないのに。どうして懲りないんだろ?」

 愚かだよねというように、ディオは口にして去って行ってしまった。

 馬の獣人であるエリオットは、昔競走馬として人に飼われていた。

 けれど怪我をして馬の姿になれなくなって、信頼していたご主人に花街へと売られてしまったという過去があるのだ。


 裏切られて傷ついたエリオットは、いつも死んだような瞳で、無気力無表情だったのだけれど。

「エリオット、ただいま」

 優しく声をかけたけれど、エリオットは動こうとしない。

「っ……」

 ゆっくりとその体を離せば、エリオットは顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。


 起き上がって、ぎゅっとその体を抱きしめてあげる。

 見た目八歳のエリオットは小さくて私の腕にすっぽりと収まる。

 よしよしと触り心地のよい白の髪を撫でれば、すすり泣くような嗚咽が聞こえてきた。


「……っ、置いていかれたと、思った」

 エリオットの小さな手がぎゅっと私の服を握る。寂しかったのだと伝えてくるように。

「ごめんねエリオット。不安にさせちゃったのね。大丈夫、エリオットを置いていったりしないわ」


 優しくそう口にすれば、エリオットは私の腕に体を預けるように力を抜く。

 しばらくじっとしていたら、すやすやとした寝息が聞こえてきた。

 どうやら寝てしまったらしい。


「エリオット、ずっとお姉ちゃんを探して屋敷を歩き回ってたんだ。獣人の国にいるから帰ってこないよって言っても聞かなくて。あまり寝てないんだよ」


 ベティの言葉に驚く。

 エリオットはいつだって眠るのが好きだった。

 好き……というよりは、嫌な現実から逃げるために寝ることと、気持ち良いことを好んで、全てを諦めているような子だった。

 そんなエリオットが眠りもせずに、私を捜し続けていたらしい。

 涙の残る顔は、安心しきっていて。

 そうやって求められていることに、心が満たされていくのを感じた。



 皆との再会もそこそこに、イクシスによってエリオットごと部屋に運ばれる。

 まだ熱があるだろと寝かしつけられた私の横に、エリオットも転がされた。

 私の服を握ったまま離してくれなかったため、イクシスが二人同時に運んでくれたのだ。

 竜族で力が強いイクシスだけれど、少し重かったのか肩を鳴らしていた。

 さっきまで飛行していた疲れもあるんだろう。

 寝るといって異空間に引っ込んでしまう。


「すぅ……」

 エリオットの寝息に、おもわず顔をほころばせる。

 白い肌をしたエリオットは、やっぱり儚げで繊細な顔立ちをしている。

 体を寄せると高めの子供の体温が伝わってきた。

 風邪を引いてるから、一緒に寝るのはあまりよくないんじゃないかと思いながらも、その体温が心地いい。


 エリオットとお昼寝することはよくあったけれど、なんだかんだでベッドで一緒に寝たことはあまりなかった。

 いつも木陰で膝枕をしてあげて、エリオットが眠るのが定番だ。

 旅の疲れと、まだ残る風邪の影響で。

 やわらかいベッドに沈むように、すぐ眠りに落ちた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 病み上がりって、お腹が空くよね!

 目の前には豪華な食事たち。それを次々とお腹へ収めていく。

「お嬢様、こちらもどうぞ」

「ありがとうクロード!」

 クロードが追加でくれた、肉にソースをかけた料理を頬張る。

 文句なしに美味しい。


 ヒルダは美食家だったのか、屋敷のシェフが作った料理はかなり美味だ。

 いくらでもいけてしまう。

 前世の私ならそのエネルギーが横へと行って大変なことになったところだけれど、ヒルダの体はいくら食べても太らない。

 きっと私の体とは違って、別なところに栄養が行っているんだろう。

 主に胸にぶら下がってるこの二つの豊満な果実とかね!


 次の日起きたら、もう熱は完全に下がっていた。

 完全復活を遂げたところで、朝食の席に座っている少年達の顔を見ていく。


 月組で家族思いの男の子がしょんぼりと元気がない。

 彼はジミーととても仲がよかったから、心配でしかたないんだろう。

 ちなみにジミーのことは、昨日のうちでクロードが皆に伝えてくれた。

 魔法人形だったということは隠し、旅先で重い病気だったことが判明し、獣人の国の名医に身柄を預けてきたという設定になっている。


 そこから視線をずらしてアベルを見る。

 ヒルダを将来殺す予定の、この乙女ゲーム『黄昏たそがれ王冠おうかん』の攻略対象様は、いつもと何ら変わりは見られない。

 さっさと食べて部屋に戻ろう。

 そんな意志が透けて見える速度で、料理を平らげている。


 しかしアベルって食べる速度速いわりに、その食べ方は綺麗なんだよね。

 ナイフとフォークを上手に使っていて、気品がある。

 アベルは母親に連れられてお金持ちの男の家を転々としていた。

 もしかしたら、そんな生活の中で身につけたものなのかもしれないと思う。


 さらに視線をずらし、一つ空いた席を見つける。

 ヒルダの事というよりも、このオースティン家が大嫌いだという男の子の席。

 オースティン家の領土にある村の出身の子で、ヒルダに反抗的。

 だから、一緒にご飯を食べるという私が作ったルールもあまり効果がない。


 つまりはいつもの事。

 気にしなくてもいいんだろうけど、後で部屋に寄ってみようかなと思う。

 お前の顔なんか見たくもないとか罵倒されて終了だろうけど、お土産を買ってきたから渡しておきたい。

 そんな事を考えながら、朝食のさらなるおかわりをクロードに頼む。


「あれ、エリオット。ピーマン食べないの?」

 ふいに横を見れば、エリオットの皿にピーマンが残っていた。

 昨日一緒に眠ってから、エリオットはずっと私にべったりで側から離れようとしない。


「……嫌い」

 エリオットが呟く。

 ピーマン嫌いってうちの弟たちみたいだなと、微笑ましくなった。


「好き嫌いしたら大きくなれないよ?」

「もう成長止まってる」

 私の言葉に的確な一言をエリオットがくれる。

 確かに獣人は一定の年齢に来たら成長が止まる。

 誰かに恋をしない限り、子供のままで大人になることはない。


 これって考えるとなかなかに凄い設定だよね。

 私が獣人だったら一生子供のままだったかもしれない。

 恋って二次元も含まれるかな? なんて一瞬考えたけれど。

 もしそれで大人に変身できるようになったとしてだ。

 肉体的に結ばれなければ、完全に大人にはなれないので全く意味がない。

 獣人じゃなくてよかったなぁと、変なところでそう思った。


 ちなみに獣人は子供のままだと二百歳近くまで生きられるらしい。

 完全な大人になった瞬間から、人間と同じ速度で老いていき、寿命も人とそう変わらなくなるとの事だった。


「じゃあ、私が半分食べてあげるから、半分食べてみない?」

「……」

 私の提案に、エリオットが顔を向ける。

 その瞳は相変わらず死んでいるけれど、前よりは少し光が差しているように見えた。


「ん、これ美味しいなーこれを食べられないなんて、損してるよエリオット!」

 できるだけ美味しそうに食べれば、エリオットは視線を目の前のピーマンに移す。

 ゆっくりとフォークを構えてピーマンを刺し、ちっちゃく齧った。

 眉を寄せて、恨みがましくエリオットが私を見つめる。


「美味しくない」

「ほらエリオット。あともうちょっとだから頑張ってみよう? ほらあーん」

 フォークを置いてしまったエリオットの代わりに、ピーマンをその口元に運ぶ。

 ぐっと唇を閉じていたエリオットだけれど、もういちどあーんと言えば、しぶしぶ口を開けてくれた。


 涙目になりながら咀嚼そしゃくしている姿は、歳相応の子供のようで。

 それでいて私の服をつかみながら、酷いというようにちょっと拗ねた表情を見せてくれるのが成長の証しみたいでほんわかとした。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


●キャラが多いので補足


★アベル/星組

 乙女ゲーム『黄昏の王冠』の攻略対象の一人。

 原作ではヒルダが原因でヤンデレになり、本編が始まる魔法学校入学前にヒルダを殺してしまう。

 現在は十歳で魔法学校に通うまで、後五年。


★ベティ/花組・花街出身

 白ウサギの獣人。見た目七歳のロリショタ。


★ディオ/花組・花街出身

 黒猫の獣人。見た目十歳の、気まぐれエロショタ。


★エリオット/花組・競走馬→花街

 白馬の獣人。見た目八歳。競走馬だったが馬姿に変身できなくなり、信頼していた飼い主によって花街に売られた。常に目が死んでいて、無気力。寝るのが好き。


★ジミー/月組

 地味な少年でヒルダのお気に入り。

 実はニホン人の幽霊。魔法人形の体に縛り付けられていたが、獣人の国で別れた。


★家族思いの男の子/月組

 妹の手術代のためにショタハーレムに入った家族思いの少年。とてもいい子。

 母親と妹と一緒に屋敷に住んでいる。

 窮地を救ってくれた恩人として、家族全員ヒルダ(メイコ)を慕っている。


★朝食の席にいない男の子/星組

 第五話でメイコに反抗していた男の子。

 ヒルダの治めるオースティン領にある村の子ども。最年長の十五歳(獣人は見た目年齢計算)で、ヒルダを含めたオースティン家を心底嫌っている。

ようやく一区切りです。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!

次回は新たな問題が発生し、星組ショタの一人がお目見え。新章となります。

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★6/24 「彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート」本日17時完結なので、よければどうぞ。
 ほかにも同時刻に、ニコルくんの短編も投下予定です。  気が向いたら感想等、残していってくれると励みになります。
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