【21】喫茶店でランチを
ジミーのことは気になったけれど、今の私がどうこうできるわけじゃない。
屋敷に戻ったら、ジミーには生きがいを見つけてもらうため、何か趣味でも作ってあげようと思う。
そうだ、菜園なんかいいんじゃないだろうかと思い立つ。
植物の世話というのは、なかなかいいものだ。
ジミーも癒されて、自分も頑張ろうという気がでてくるかもしれない。
それに、現在私は領地にあった特産物を模索中だったりする。
この乙女ゲーム『黄昏の王冠』では、主人公が色んなアイテムを調合したりすることができた。
怪しげな草を育てて、そこから回復系の道具作って売ったり、アクセサリー作って魔法付与してみたりして売ったりして。
売ったらお金が溜まるから、それを他の所に投資して、新たな利益を得て、それをまた……なんて繰り返して。
色んな乙女ゲームをやってきた私だけれど、『黄昏の王冠』にはまったのは、この要素があったからというのが強い。
気付いたら、恋愛そっちのけになっていたのもいい思い出だ。
現在うちの領土に特産物はない。
ほうれん草っぽいものや、麦っぽいものを作ったりしてる。
需要があるけど、どこでも買えるよねってやつしか作ってない。
今私が目を付けているのは、魔草の栽培。ゲーム内では森の中に生えていて、それは体力を回復する魔法薬の材料になる。
森にしか生えてないこの魔草だけれど。
ゲーム内では後半に特別なイベントを起こすことで、自分で栽培ができるようになる。
工夫すれば特産物にすることも不可能じゃないと思うのだ。
まぁそれは一旦置いておくとして。
フェザーはギルバートと久々に過ごすみたいなので、クロードにお買い物を頼んで、私はイクシスと宿を出ることにした。
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お昼を食べようという話になり、イクシスが喫茶店に案内してくれる。
店に入れば、猫や鳥の獣人が多かった。
背もたれの下の方に空白があるのは、尻尾を外に出せるようにという工夫なんだろう。
『ご自由におとぎ下さい』と書かれた謎の板を手に取る。
これなんだろうと使い方を考えていたら、隣の席の若い猫の獣人がその板を引っかいていた。
なるほど、獣人向けのサービスのようだ。
「それにしても、獣人の国に人間が入っても平気なのね」
人間に虐げられている獣人だから、人間は嫌われているんじゃないかと私は思い込んでいたのだけれど。
この街には人間もいて、私やクロードも自由に歩く事ができた。
「この辺りでは獣人と人間は対等なパートナーとして考えられてるからな。ヒルダのいる国じゃ、まぁ考えられないことだが」
私の呟きにイクシスが答えてくれる。
同じ世界でも、場所が違えば関係性は変わるようだ。
それを示すように、前と横の席では人間と獣人のカップルがいちゃついていた。
ヒルダのいた国ではありえなかった光景だ。
人と獣人の仲がいいのは、とてもいいことだと思う。
でもね、あっちでいちゃこら、こっちでいちゃこら、目の毒なんですけど。
というか、この店カップルだらけだよ!
ベタベタするなら、人のいないところでやってくれませんかね!
別にひがんでるわけじゃなくて、喫茶店はご飯を食べるところで、いちゃつくところじゃないんだよと私は言いたいわけです。
確かに料理は美味い。
文句なしだ。けど食べ辛い。
これって私とイクシスもカップルに見えてるんじゃないのか。
カップルじゃないですからね! と誰に言うでもなく心で叫ぶ。
「イクシス、なんでこの店選んだの? 確かに料理は美味しいけど、物凄く居心地が悪いんですけど」
「昔からある人気の店だし、大抵の女の子はここに連れてくると喜ぶ。だから、メイコも連れてきてみたんだが。気に入らなかったか?」
なるほど、イクシスがデートにつかう定番の店でしたか。
この竜、結構遊び人だな!
「……今、俺に対する嫌悪感みたいなものが伝わってきたんだが」
「気のせいだと思いますよイクシスさん。このスープ美味しいですわねー」
別にイクシスが遊び人だろうと、私には関係ないしね?
イケメンだし、そつなくこういうところに連れてきちゃうあたり、さぞかしおモテになるんだろう。無駄にキスも上手いことですし!
けど、それで誰もがコロリと落ちると思ったら大間違いですよ!
「なんでいきなり話し方変わったんだ。距離を感じるだろうが」
「ところで、フェザーの一族が暮らしてるのはどの辺り? ここから遠いの?」
イクシスの眉間にシワが寄っている。
これ以上感情を読まれたりすると、また喧嘩になりそうな気がしたので、話を無理やり変えて気持ちを切り替えることにした。
「……ここよりもっと北の高いところだ。鳥族の国は、人間どころか翼のある獣人しか入国できない」
まだ少しむっとした様子だったけれど、イクシスが答えてくれる。
「そうなの? それだと、私がフェザーの親御さんに会うのは難しいかなぁ」
「まさかとは思うがフェザーの親に会うつもりなのか?」
私の呟きに、イクシスが顔を曇らせる。
「やっぱり無謀かな?」
「当たり前だ。そもそも会ってどうする。フェザーをあんな所に帰すなんて言うつもりじゃないだろうな」
窺うような顔をした私に、馬鹿じゃないのかという口調でイクシスが言う。
「あんなところって、どういう意味?」
「そのままの意味だ。あそこは翼を持つ者こそ偉いって考えてる、無駄に気位の高い連中ばっかりが住んでるロクでもない国だ。常に他者の上を行くことを争って、自分より上か下かで態度が変わる。特に王族は性質が悪いし、俺はそういうの好きじゃない」
イクシスは彼らが相当苦手らしく、嫌そうな顔をしていた。
「イクシスは、フェザーたちの一族にも詳しかったりするの?」
「あの国は竜の里への道が繋がりやすいから、何度も滞在したことがあるんだ。天空まで飛べる竜は崇拝の対象で、あの国ではかなり待遇がいいんだが……どうにも性格が合わなくて居心地が悪い」
「何度か行ったことがあるってことは、鳥族の国にも空間を繋げたりするんだね?」
「……俺に連れてけっていうつもりじゃないよな」
私の質問に対して、イクシスがじと目を向けてくる。
この反応からするとできるんだろう。
「親がいるなら子供はそこに帰りたいものでしょ? フェザーの親を見て帰してよさそうなら、帰してあげたいなって」
「メイコは優しい両親に育てられたんだな」
イクシスは私を見て、はぁと大きな溜息を吐いた。
甘すぎるというように。
「……気が変わった。連れてってやるよ」
「本当!?」
イクシスの言葉に食いつく。
「あぁ。どうせ俺が行かないって言ったら、他に手段をさがして無茶しそうだしな。俺と一緒にいれば待遇もいいから、王族にも簡単に近づける。ただ、行くと言ったのはメイコだ。そこはちゃんと覚えとけよ?」
いつもより、淡々として冷たい口調でイクシスが告げる。
行くとしても、自己責任だと言うように。
「ありがとうイクシス!」
「……礼なんてしない方がいいと思うけどな」
イクシスはふっと目を逸らして、料理の続きを無言で食べ始めた。
★4/20誤字修正しました。報告助かりました!
★8/6 薬草から魔草に表記を修正しました。




