【番外編14】子供の頃は1
前回の話から続いていますが、独立して読めるかなと思います。
イクシスとメイコが結婚後のいちゃいちゃです。そしてもう少し続きます。
イクシスの膝の間に座って、その胸板に背中をあずける。
何度かやったことはあるんだけど、自分からしたいなとかそういうのは言ったことがなかった。
だって、恥ずかしいしね!
今だって顔から火が吹き出そうなんだけど、ドキドキするのに落ち着く不思議な感覚だ。
「メイコって父親似なんだな」
2人で見ているのは、私のアルバム。
日本にある実家からもってきたものだ。
「そう? 私お父さん大好きだったんだよね」
お父さんに似てると言われるのは嬉しい。
私が高校生になる前に死んでしまったけれど、すごく明るい人だったのを覚えてる。
「イクシスはお父さん似だよね。髪と目の色が違うけど、顔はそっくり。性格はまっっったく似てないけど!!」
「かなり強調したな。また父さんにしごかれたのか?」
イクシスの父親であるニコルくんは、普段少年の姿をしている。
黒髪に赤い瞳で、いつも生意気そうな面構えをしているのだけれど、中身は2000歳を超える竜だ。
性格はドS。
イクシスと結婚して竜になった私だけれど、竜族でも珍しい黒竜だった。
そのため同じ黒竜であるニコルくんに、1週間に1度くらいの頻度で特訓という名の地獄の調教を受けている。
「でもまぁ、そう嫌わないでやってほしい。父さんは言わないだろうが……黒竜のメイコがこうやって俺と屋敷で過ごせてるのも、父さんのおかげだからな」
「ニコルくんのおかげ?」
それは初耳だ。
続きを待っていたら、イクシスがゆっくりと話してくれた。
「竜族の長は父さんだが長老会ってやつがあって、そこで竜族の里は動いているんだ。黒竜は力が強く厄介ごとに巻き込まれやすい。だから長老会の連中は、黒竜を外に出したがらないんだ」
黒竜が生まれただけでも、竜の里は大騒ぎになるらしい。
それなのに、前代未聞の竜の花嫁が黒竜。
本来なら、長老会の人達によって隔離されているところだったようだ。
「父さんが長老会の連中に話をつけてくれたんだ。オレの家族に手を出したら殺すって、たぶん脅したんだと思うけどな……」
イクシスが語尾を濁す。
1週間に1度の特訓は、長老会の人達と話し合って決まったことらしい。
そんなことニコルくんは全然言っていなかった。
「それ知ってたら、もう少し素直に訓練も受けたのに……」
「父さんはそういう人だからな。感謝されるのが苦手なんだ。あと単に……メイコが嫌がるのが楽しいんだと思う」
うん、ニコルくんそういう人だよね!
特訓のとき楽しそうにしてるから、わかってたけど!
「そうだ、イクシスも子供の頃の写真とかあったりしないの? 見てみたいな」
「この世界にも写真はあるんだが、つい最近の技術であまり普及してるわけでもないからな。そもそも子供だったのは400年以上前の話だ」
「そっか、見れないのか。残念だなぁ……」
「そんなに俺の子供の頃が見たいのか? 父さんとそっくりだぞ?」
「ニコルくんじゃなくて、イクシスの子供の頃が見たいんだよ」
振り返ってそういえば、イクシスはちょっと照れたような顔になる。
「まぁ……メイコがそんなに言うなら、わかった。弟に頼んでみる」
イクシスが立ち上がる。
写真はないけど、絵なら弟さんが持っているとかそんな感じなんだろうか。
イクシスが宝玉を取り出し、それに唇をよせて何かをつぶやく。
すると宝玉から影のようなものが出てきて、小さな竜の形になった。
子犬程度の大きさの、赤い光でできた竜。
これはドラゴというもので、竜族が同族とのコミュニケーションに使うものだ。
イクシスは空間を切り裂き、そこへドラゴを放つ。
ドラゴはイクシスのメッセージを相手へと届けるため、空間へと消えていった。
スマホや携帯電話みたいなものだよねと、私は理解している。
「誰にドラゴを送ったの?」
「俺のすぐ下の弟のボリスだ。しばらく近くの町にいるって言ってたからな……って、もう返信がきた」
イクシスがドラゴを放った空間から、赤紫色のドラゴが出てきた。
黄色のドラゴはイクシスの宝玉へと吸い込まれて消える。
「弟さんなんだって?」
「代わりの条件を出された。少し行ってくる。1時間くらいで終わるから待っててくれ」
イクシスが空間に消える。
ボリスさんとはあまり話したことがないのだけれど、可愛い顔立ちをした見た目は15歳くらいの男の子だった。
赤紫色の髪をしていて、いたずらっぽい目がニコルくんに似ていた気がする。
イクシスの子供の頃か……。
どんな子だったんだろう。
結構好奇心旺盛なところもあるから、やんちゃな感じかな。
それとも、今とあんまり変わらないんだろうか。
そんなことを考えていたら、段々眠くなってきて。
私はイクシスの帰りを待ちながら、ソファーで眠ってしまった。
◆◆◆
どこかから祭囃子が聞こえる。
今日領土でお祭りなんてあったっけ?
ラッパの音じゃなくて、笛や太鼓の音がするんだけど……。
しかも、なんだか肌寒い。
窓は開けてなかったはずなのに、風が吹いている。
しかもなんだか、ソファーがごつごつしてるような。
「おい、あんた。こんなところで何で寝てるんだ?」
声をかけられて目を開ける。
なぜか私は木の枝の上で寝ていた。
「えっ!? えっ? きゃっ!!」
「いきなり動いたら落ちるだろ!!」
バランスを崩せば、声の主である少年が私を支えてくれる。
「ありがとう……助かったぁ……」
「どういたしまして。それはいいけどさ、なんであんたここにいるんだ? ここ、俺の場所なんだが」
目の前の少年は、赤い髪に金色の瞳。
年は10歳くらいだろうか。
ちょっぴり生意気な感じで、ツンとしていて……。
「イクシス!?」
「な、なんで俺の名前を知ってるんだ!?」
目の前の小さなイクシスが、動揺から翼をパタパタと動かす。
「子供の頃を見せるって言ってたけど、本当に子供になっちゃったの!?」
イクシスの体を触る。
肌は子供特有の柔らかさがあるし、角も何もかもいろんなところが小さい。
「なっ、やめっ!?」
「そっか! ニコルくんみたいに光属性の封印魔法を使ったんだね! ははっ、小っちゃくてかわいい!」
真っ赤な顔でじたばたするイクシスを、ぎゅっと抱きしめる。
光属性の魔法には、相手の力を封印するものがある。
ゲームでは習得が難しいわりに、敵を少し弱体化させる程度の使えない魔法だったんだけど。
この世界では相手の力を大幅に削り、なおかつ子供の姿にしてしまう効果があった。
腕の中に収まるサイズのイクシス。
いつも私が抱きしめる側だったから、新鮮だ。
恥ずかしいのか抵抗してくるけれど、ここぞとばかりに撫でまわす。
「おい、いい加減にしろよ!」
一通り堪能したところで、ぐいっと肩のあたりを押されて、体を離される。
私から逃げるように、イクシスは翼を使って宙に浮いていた。
「いきなり触ってくるな! 驚くだろ!?」
「あっごめん。触るね?」
「聞いたからいいってものでもない! だいたいあんた、誰の花嫁なんだ!」
顔を真っ赤にして、イクシスが叫ぶ。
反応がなんだかおかしい。
「花嫁って……イクシスのだけど?」
「俺の!? 何言ってるんだ!?」
話がかみ合わない。
私が子供の頃を見たいっていったから、魔法で子供の姿になってくれたんじゃないの?
というかそもそも。
ソファーで寝ていたはずなのに、どうして私は木の上にいるのか。
「イクシス、とりあえず木の上からおろしてくれないかな?」
「……わかった」
警戒しながらも、イクシスが手を差し伸べてくれる。
その体にしがみつけば、ガクンとイクシスが高度を落とした。
「……重い」
「失礼な!」
体格差があるから仕方ないんだけど、いつものノリでつい口にしてしまう。
イクシスが地面におろしてくれて、そこで初めてここが竜族の里だと気づいた。
少し高くなった場所からは、街の様子が見える。
すでにあたりは暗くて、街には明かりがともっていた。
賑やかな様子からすると、お祭りがおこなわれているみたいだ。
この光景は、以前見たことがある。
なんとなく空を見上げれば、満月がそこにあった。
「イクシス、今日って名月の儀式の日?」
「そうだ。当たり前のことを聞くな?」
イクシスが首をかしげる。
季節は春だったはずなのに、今ここは秋らしい。
えっ? どういうこと?
イクシスが小さくなってて、いつの間にか竜の里にいて、季節が違う!?
わけがわからない。
「それで、あんたは誰の花嫁なんだ? どうせ道に迷ったんだろ。家名さえわかれば家まで連れてってやるよ」
混乱する私に、小さなイクシスが話しかけてくる。
「イクシス、今いくつ?」
「10歳だ。何度も言うが、何で俺を知ってるんだ。しかも馴れ馴れしいし」
目の前のイクシスは見た目通りの10歳らしい。
嘘を言っているようにも見えないし、よくみれば喉元に逆鱗がある。
私が花嫁になった際に、逆鱗は失われてしまったはずだ。
「あんたはまだ竜になってない花嫁なのか? 角も翼もないみたいだが」
黒竜だということをあまり知られてはいけないので、普段の私は角や翼を隠している。
不審者を見るように、イクシスが視線を向けてきた。
もしかして、ここ……過去の世界なんじゃ?
もしくは夢だろうか。
頬を抓ってみたら、ちゃんと痛かった。
どうやら夢ではないらしい。
※2017/04/04 誤字を修正しました。すみません!




