【3巻お礼SS】ニコルくんとわくわく宝探し!(後編)
通された部屋には、黒髭を蓄えた巨漢の男がいた。
船長っぽい帽子を被っていて、右目は見えないのか眼帯をしている。
林太郎のエセ眼帯とは違い、風格が漂っていて……いかにも船長という感じだった。
「ほう、宝の地図ね……場所はセイレーン島の近くか。クラーケンの出る危険な海域じゃねぇか」
「立派な海賊旗をかかげておいて、行けないとか言うんじゃないだろうな。宝は全てオレのものだが、報酬ならやる。オレ達をそこまで連れていけ」
宝の地図に興味を示した船長に、ニコルくんは宝石の入った袋を突きつけた。
それを確認して、船長がにんまりと笑う。
「わかったいいだろう。連れていってやるよ」
船長がオッケーを出し、船員に何か指示をだす。
部屋から出れば……私達は船員達に囲まれていた。
皆こちらに向かって、剣先を突きつけている。
背後からは、カチャリと金属の音。
船長がニコルくんの頭に、拳銃を突きつけていた。
「地図だけあれば、お前らに用はないんだ。他にも宝石、持ってるんだろ?」
「……物わかりがいいから、そんなことだろうとは思っていた」
船長の言葉に、ニコルくんは大きな溜息を吐く。
ニコルくんが銃を素手で掴めば、「熱ッ!」と船長が銃から手を離す。
炎の魔法を使ったんだろう。
銃の素材である鉄は溶け、赤く染まっていた。
風属性の魔法を使い、ニコルくんが船長を空高く浮き上がらせ、そして落とす。
「船長っ!」
デッキに叩きつけられた船長に、船員達が声を上げる。
呻く船長の背に、ニコルくんは足を置いた。
それから人の姿をやめて、竜族の姿になる。
「ま、魔族だと……!」
「滅んだはずじゃあ……」
ニコルくんの姿を見た海賊達がざわめきだし、怯えた様子を見せる。
「誰が魔族だ。よく見ろ、オレは竜だ」
「竜……大国を滅ぼしたというあの黒い竜だと! なんて恐ろしい!!」
苛立ったようにニコルくんが言えば、余計に海賊達は怯えだした。
震えて神様に祈り出すものまでいる始末だ。
ニコルくんに言われて私も竜族の姿になれば、さらに彼らの目に怯えが強くなった。
竜は、強面の海賊達が震えるほどに恐ろしい存在らしい。
というかコレ……海賊以上に私達が悪役だよね?
「……お前達を力で屈服させるのは簡単なんだ。だがオレがそれをしないのは、そうすると船が動かせないからにすぎない。オレに従って報酬を得るか、死ぬか。どっちがいい?」
面倒になったのか、すっとニコルくんが指先を上に向ければ、船と同じ大きさの火の球が出現する。
「オレに従うなら、今すぐ出港させろ。オレは気が短い。早くするんだな」
「……出港準備を急げ!」
副船長らしき男が叫べば、船員達が慌てたように動き出す。
こうして私達は、海賊船に乗っ取って港街を出た。
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「ニコル様、フルーツジュースでございます」
「ふむ……悪くないな」
海賊達が持ってきてくれたジュースを飲みながら、ニコルはご満悦だ。
デッキに椅子を置いて、日よけを作ってもらって。
さらには団扇で扇いでもらいながら、快適に船旅は進んでいた。
けれど途中から雲が濃くなってきて、船は嵐に飲み込まれた。
揺れが酷くて、立っていられないほどで、気を抜けば後方へ飛ばされてしまう。
海に船員が投げ出されるたびに回収して、翼を使い船に戻ってこなくちゃいけなかった。
「これはこれで、翼に慣れるいい修行になるな?」
いっぱいいっぱいの私を見て、ニコルくんは楽しそうだ。
ちなみにどうやっているのかは知らないが、ニコルくんの周りだけ雨風が避けていく。
エリオットは私を手伝えないことをすまなさそうにしながら、ニコルの隣に立っていた。
そのとき、ひときわ大きく船が揺れる。
何事かと思えば、船が浮いた。
大きな触手が船へと巻き付いていて……海面から巨大なイカが姿を現す。
乙女ゲーム『黄昏の王冠』で出てきたボスモンスターの一体で、かなり強力な電撃魔法を使う海の魔物だ。
海賊達が慌てて大砲を撃つけれど、全然きいた様子もない。
船を鷲掴みできるほどに、このイカは大きいのだ。大砲なんて、蚊に刺されたくらいの痛みなんだろう。
「ニコルくん! どうにかしてよ!」
「面倒だな」
私の叫びに、ニコルくんが軽く指先を振れば、風の刃がクラーケンを刻んだ。
風の魔法に守られて、船が海へと着水する。
続けて、ニコルくんが炎の魔法を使う。
ちょうどよい大きさに切られた香ばしい香りのするイカの足が……私達の船へと降り注いだ。
「外だけを炙ってみたんだが、ゆっくりと中まで焼いたほうがよかったか」
あっさりと倒されてしまったクラーケンに海賊達が呆然とする中。
ニコルくんは、のんきにイカを囓っていた。
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その後もロブスター風の魔物や、蟹のような魔物に襲われながら、私達は無事にセイレーン島へ辿り付いた。
海鮮……もとい、魔物はどれも美味しくて絶品だった。
こんなもの食べられるわけないよ!って思ったんだけどなぁ。
元がどんなものか知ってても、やっぱり美味しい物は美味しくて、取れたて新鮮な海の幸(魔物)をたっぷり堪能してしまった。
食べきれなかった分は、ニコルくんの異空間にしまわせてもらった。
異空間を荷物置き場に使うとイクシスは怒るけれど、そのあたりニコルくんは寛容だ。
ホタテとかサザエも食べたいと冗談で言ったら、竜巻の魔法で海の底をあさって、似た味の魔物を誘い出してくれた。
屋敷に帰ったら、海鮮パーティで決まりだ。
もちろん、魔物だと言うことは内緒で。
それはいいとして、ようやくセイレーン島へと辿り付く。
私達が島に降り立った瞬間、海賊達は船を引き上げて逃げていった。
地図に従ってダンジョンに潜れば、罠の連続。
上からとりモチのようなものが降ってきたり、背後から岩が転がってきたり。
どうにか最深部まで辿り付くころには、私はへとへとだった。
「宝箱……ようやく、辿り付いた」
「本当ね……」
エリオットと苦労を分かち合う。
「それじゃあ、開けるぞ」
ニコルくんが宝箱を開く。
そこには宝箱いっぱいに詰まった……お菓子があった。
ふたの裏部分には、ハッピーバースデーニコルと書かれている。
「えっと……これ、どういうことですか? しかもこのお菓子、う●い棒にハッピー●ーンって、私の世界のお菓子じゃないですか」
宝ものって金銀財宝じゃないの?
それにハッピーバースデーニコルって……どういうこと?
頭の中にたくさんのハテナマークが浮かぶ。
「それは俺から説明する」
「わっ、イクシス!? しかもオウガまで……なんでここに!?」
宝箱の横にイクシスとオウガが現れて、思わずびっくりしてしまう。
「今回はなかなか楽しめたぞ。これも美味い」
「喜んでもらえてよかったです」
満足げにわたわめを食べるニコルに、オウガが答える。
一体どういうことなのかと尋ねれば、毎年ニコルの誕生日にエルトーゴ家では、工夫を凝らした宝探しを用意しているらしかった。
退屈を嫌うニコルくんへの、サプライズプレゼントのようだ。
今年のプレゼント担当は、イクシスとオウガだった。
なので、今日は二人とも姿を隠していたらしい。
「ちょっと二人とも! おかげで私とエリオットまで巻き込まれて、大変な目に遭ったんだからね!!」
「あぁ、悪い……」
「父さんがいるから危険はあっても大丈夫だろうし、ダンジョンは怪我をしないように、難易度は低めに一応設計したんだが……」
詰め寄れば、オウガとイクシスが歯切れの悪い返事をする。
「もしかして、私が巻き込まれるのも……最初から計画のうちだった……とか?」
「……すまん」
「悪い」
オウガとイクシスが謝ってくる。
話しを聞けば、クロードも事前にこのことを知っていたようだ。
「そう怒るな。結構、楽しかっただろう?」
「……」
ニコルに言われて、思わず黙ってしまう。
振り回されたし、海賊船に乗り込んでドキドキはしたけれど、ニコルがいるからどうにかなるとわかっていた。
大きな船に乗るのは初めてで、テンションはあがったし、海の旅も悪くはなかった。
それに、海産物(魔物)もたっぷりと堪能して……振り返れば、楽しかったような気がしてくる。
「くくっ、素直でいいな。それにこれは家族行事の一環だ。お前ももう、エルトーゴ家の者なんだから、楽しめばいいんだ」
ニコルくんが、私とエリオットにお菓子を差し出す。
「宝ものは、仲間で山分けするのが決まりだろう?」
その口調には、悪ふざけを一緒に楽しんだ者への親しみがある。
私とエリオットがお菓子を受け取れば、ニコルは満足そうに笑っていた。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
3巻まで出せたのも応援してくれた皆様のおかげです。
本当はイクシスとのエピローグ後のいちゃラブにしたかったのですが、書籍版とWEB版だとENDが違うのでやりづらくて、書きやすいニコルパパに出張ってもらうことになりました。
本日ほかにも『オウガのIFルート』完結と、『ニコル×オリヴィア』の出会いの話が短編で出ております。よければそちらもご覧になってくださいな!