【3巻お礼SS】ニコルくんとわくわく宝探し!(前編)
本編前悪役3巻の本日発売&完結記念のお礼SSとなります。
時系列はエピローグ後。書籍版ではエピローグ後、番外編前といったところでしょうか。
WEB版と書籍版で大きくENDが変わりますが、どちらの後でも問題ないようになってます。
「メイコ、お客様が来ています」
屋敷で書類を片付けていたら、クロードが来客を知らせてくる。
私が元の体へ戻った後、クロードはヒルダではなく、正式に私付きの執事となっていた。
今日は、来客の予定なかったはずなのになぁ。
珍しくうっかりしたのか、クロードは誰が来客としてきたのか言わなかった。
用件を早く済ませて、お茶にしよう。
そう考えながら応接室の扉を開ければ……大人姿のニコルくんがいた。
「久しぶ」
ニコルくんが言い切る前に、バタンと応接室の扉を閉じる。
面倒なことになるのが目に見えている。
ここは居留守を使わせてもらおう。
大丈夫、大丈夫!
顔を見られたのは一瞬だったし、気のせいだとニコルくんも思ってくれるはずだ。
もうやだなぁ、クロードったら!
ニコルくんが来たら私が逃げ出すと思って、わざと来客が誰か教えなかったんだね?
さすがは私の執事、よく私のことを理解している。
「エリオットと同じことをするとは……お前の屋敷ではそれが客人に対するもてなしなのか?」
「ひ、ひゃあ!! 出たっ!!」
走って自室へ逃げ込もうとすれば、目の前にいきなりニコルくんが現れて、思わず叫ぶ。
空間を裂いて移動してきたんだろうけれど、心臓に悪かった。
「まるで、お化けが出たかのような反応だな。ほら、さっさと行くぞ」
ニコルくんによって、応接室へ引きずられる。
お化けよりも、よっぽど質が悪いものに捕まってしまった。
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応接室に通されれば……先ほど入ったときには見えなかった位置に、エリオットがいた。
その体には闇色の茨が巻き付き、ソファーに転がされている。
今の私のように逃げようとして、ニコルくんに掴まってしまったんだろう。
「ほ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「実は里のほうで、こんなものが見つかってな」
怯える私に、ニコルくんが差し出したのは古ぼけた地図と、暗号の書かれた紙だった。
「これは……」
「竜の宝が眠る地図だ。喜べ、お前達を同行させてやろうと言っている」
達ということは、ニコルくんの使い魔であるエリオットだけでなく、私も数に含まれているということだ。
今日に限ってイクシスは屋敷におらず、オウガのほうは竜の里で長代理をしているらしい。
それはつまり。
この場にニコルくんの暴走を止められる者がいないということだった。
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「地図の島へ行くには、まずは船の調達からだな」
「ニコルくん竜なんですから、そのまま飛んだらいいじゃないですか……」
楽しそうなニコルくんへ、ついツッコミを入れる。
竜へと変身し、異空間を飛び越えて。
ニコルくんが私とエリオットを連れていったのは、見知らぬ港街だった。
「この国周辺では、竜は恐怖の対象だ。怯えられて攻撃を仕掛けられたりするからな。オレとしては、それも望むところなんだが……」
「竜ということは隠す方向で行きましょう!!」
最後に付け加えられた言葉が不穏でしかない。
「お前がそういうなら、そうしてやる」
勢いよく言えば、ニコルくんは偉そうに頷いた。
「竜なって、簡単に宝物手に入れるの面白くないから、ニコルは変身したくないだけ」
「さすがはオレの使い魔。わかっているじゃないか」
呆れたようなエリオットに、ニコルくんは上機嫌な様子でくくっと笑う。
「港の裏側へ行くか。はぐれるなよ?」
ついてこいとばかりに、ニコルくんが歩き出す。
レンガ造りの建物は風情があり、潮の香りがいかにも港街といった風情だ。
しかし、細道に入れば……閑散とした雰囲気が漂う。
昼間から飲んだくれている人もいるし、治安もよくなさそうだ。
筋骨隆々とした男達が多く、頬に傷があったり、義手だったりする。
こちらに向けて、ねっとりとした視線を送ってきていた。
いざというときに私を守るためなのか、エリオットが少年から青年の姿になり、私の横を歩いてくれる。
「……ニコルくんは、この街によく来るんですか?」
くねくねとした道を迷いなく進むニコルくんに尋ねる。
身なりのよい若い男女がこんなところを歩いているせいか、周りからの視線を感じていた。
居心地が悪いというか、早くここから逃げたい。
「ここから少し先にある国に、昔は住んでいたんだ。住んでいたというよりは、支配していたというほうが正しいかもしれないけどな。ここにも何度か来たことがある。何百年経ってもあまり変わってない」
どおりで足取りがしっかりしていると思った。
ニコルくんの後へついていけば、大きな岩がある場所を抜け、海の方へ出た。
そこには、表よりも沢山の船が並んでいる。
どの船にも黒い布地に白抜きのドクロの旗があって、風に揺れていた。
「にに、ニコルくん……これ、海賊船じゃあ……?」
「ここは海賊の街だからな。言ってなかったか?」
「言ってないよ! なんてところに連れてきてくれてるんですか!!」
ニコルくんたら、言うのが遅い。
それを聞けば、もっと抵抗したというのに!
「メイコ、落ち着いて。人食い植物の島とか、スライム沼に比べたら……まだマシ。相手は人間だし」
「落ち着くのはエリオットだよ! 比べる対象がおかしいからね!? ニコルくんにどんな目に遭わされたの!?」
私を宥めてくるエリオットの、「なんだ海賊の街か。それなら安全だ」と思っている様子に愕然とする。
「……それ、本当に聞きたい? 僕がどんな目にあったか……本当にメイコは知りたい?」
底知れない瞳で、エリオットが首を傾げる。
目がうつろで……まるで壊れた人形のような動作だった。
よっぽど恐ろしい目にあったんだろう。
聞くのが怖かったので、全力で遠慮しておいた。
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「さて、船を借りる前にお前に確認しておきたいことがある」
腕組みをしたニコルくんが、私とエリオットに向き直る。
「いや、その前に船を借りるって……まさか海賊船に乗るつもりじゃあ……」
「そのまさかだ」
「帰らせていただきます」
それは借りるじゃなくて、乗っ取るっていうと思う。
くるりと踵を返せば、ガシリと首根っこを掴まれた。
「帰ると言ってもどうするつもりだ。お前はまだ空間の渡り方をマスターしていないだろう。帰り道を見失って、別の時間に飲まれて帰れなくなるぞ?」
「うっ……」
ニコルくんの言うとおりだ。
黒竜になって日が浅い私は、空間をうまく扱えない。
自分の異空間を作り出すことはおろか、短い距離の移動さえうまくいかなかった。
前に一度ニコルくんにやり方を教えてもらったことがあるのだけれど……そのときは、うっかり時間を飛び越えそうになった。
オレがいないときは使うなと、ニコルくんから厳しく言われていた。
「宝玉を使った連絡の取り方を、お前はちゃんと知っているか?」
「あっ、それならイクシスから聞いて……何度かやったことがあります」
竜族は宝玉を使って互いに連絡を取る。
黒竜になったときに、私も宝玉を得ていて、その使い方は一通り習っていた。
ニコルくんが自分の宝玉を取り出す。
サイコロ大の珠の中に、星空を散りばめたような綺麗なもの。
そこから光が放たれ、ニコルくんの横に子犬くらいの大きさの、黒い光の竜が出現した。
これはドラゴと呼ばれるもので、これを飛ばし合って竜族は互いの位置を確認したり、連絡を取り合う。
送りたい相手の手元に宝玉がなく封印されていたり。
異空間で深い眠りについていたり、はたまた異世界へ行ったりしていない限りは……ドラゴは相手へと飛んでいく仕組みになっていた。
「お前のドラゴも出せ。オレの宝玉に登録する」
「わかりました」
ニコルくんに言われ、胸に下げている布袋から宝玉を取り出し、ドラゴを作り出す。
互いの宝玉へドラゴを吸い込ませれば、それで送り先は登録完了だ。
つまりは、携帯電話のメルアド交換のようなものだった。
旅をすることの多い竜族にとって、ドラゴは欠かせないものらしい。
「もし万が一、オレとはぐれたり困ったことがあったら連絡しろ。今日に限らず、いつでもな」
いつでもってことは、頼りにしていいってことなのかな。
優しさともとれる言葉に、少しニコルくんを見直しそうになったけれど……今絶賛困った状況を作り上げてくれているのは、当の本人だった。
「あそこの船は大きくて新しいが、船員が全体的に若いな。ふむ……向こうの船は、馴染みのある海賊旗だな。まだ存在していたのか」
ニコルくんが船の物色を始める。
散々吟味して、ニコルくんは一つの船の前で立ち止まった。
今から出航予定なのか、船員達がパタパタと動いている。
強面で屈強な男達は脂の乗った年齢のものから、下働きの若い者までいて、海賊旗は日に焼けて少し色あせていた。
「この船にしよう。丁度出港のようだし、知り合い……もうとっくに死んでいるとは思うが、知っている船だ」
ニコルくんが船へと乗り込もうとする。
その後ろをビクビクしながらついていこうとすれば、海賊が立ちふさがった。
「船長と話しがしたい。宝の地図があるんだ。そこまで連れていってくれ」
「……へぇ、海賊と取引か。度胸があるな、兄ちゃん」
海賊の男は値踏みするように私達を見て、船の中へと案内してくれた。
後編は本日17時に投稿予定です。




