【バトン5】光×メア(メアIFルート/メア視点)
★2016/06/20の活動報告に載せていた小話を再編集したものです。
メア視点のIFルート。かなり前にバトンを貰い、それにあわせた話となります。
明日は3巻発売のお礼SS、オウガIFルートの完結、ほかにも別枠でニコル×オリヴィアの短編を投稿予定ですので、気になる方はぜひどうぞ!
「メア、大丈夫!?」
「大丈夫だよ。問題なく全員仕留めたから」
駆け寄ってきたメイコお姉ちゃんに答える。
今日お姉ちゃんを襲ってきたヤツらは、そもそもおれが屋敷に招いたんだけど。
最後はきっちり始末するけど、侵入を許してるから……暗殺者としての腕前を疑われてるのかもしれないなぁ。
たまにはお姉ちゃんに接触させる前に、暗殺者を捕まえて突き出さなきゃね。
おれが疑われてちゃ、意味ないし。
そんなことを考えていたら、お姉ちゃんがおれの服を脱がし始めた。
「……何してるの?」
「決まってるでしょ、手当するの!!」
お姉ちゃんは蒼白な顔で、血だらけになったおれのシャツを脱がそうとする。
――それはさっき倒した相手の返り血で、おれのものじゃないのに。
「必要ないよ」
「何言ってるの! こんなに血が出てるんだよ!? メアが死んじゃう!!」
「オレが死のうが、どうだっていいでしょ? 別にヒルダ様が死ぬわけじゃないんだし。どうして必死になってるの?」
さっぱりわからなくて尋ねれば、お姉ちゃんは目を見開いた。
「どうしてって……メアが死んだら嫌だからに決まってるでしょ!」
お姉ちゃんは、当たり前のように叫ぶ。
どうしておれが不思議そうにしているのか理解できないって顔をしていた。
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お姉ちゃんは、面白い。
くるくると表情が変わって、こんなおれのことでも一生懸命になる。
蛇を怖がるくせに、おれの幻獣達にも丁寧だ。
この間は世話になったからと、蛇達にまでパイを作ってくれた。
ただ、実際にお姉ちゃんを守っているのは……普段おれの背中にいる三体の蛇じゃなくて、お姉ちゃんの影にいる四体目の蛇のサミュエルだ。
サミュエルはお姉ちゃんが大好きで、おれの命令もないのに守るようになっていた。
定期的にサミュエルからは、報告が来る。
お姉ちゃんが領地でやろうとしていること、皆とどういうふうに関わっているか。
昨日の夜のお姉ちゃんはお腹を出して寝ていたので、服を中にいれてあげたとか。今日の髪飾りが似合っていてかわいかったとか、鼻歌が面白かったとか……大体そんな感じだ。
幻獣使いは、幻獣の惹かれる相手に惹きつけられる。
けど、おれはおれだし、サミュエルの気持ちに引っ張られたりはしないと思っていた。
それがいつから……こんなにもお姉ちゃんのことが気になるようになってたんだろう。
笑ったり怒ったり、表情豊かで。
自分よりも誰かの為に一生懸命なれる、理解不能な生き物。
目が離せないのは、暗殺対象だから……だけじゃない。
その瞳に、おれが映っていると――たまらない気持ちになる。
おれのことで喜んだり、泣いたり、ビビったり。
自分とは違う存在だと、相容れないと思う。
闇に生きるものには、眩しすぎる『光』。
だからこそ焦がれて、惹きつけられるのかもしれない。
「ねぇ、サミュエル。お姉ちゃんがもっとおれ達のことを見てくれたら……幸せだと思わない?」
『シャ!』
おれの言葉に、サミュエルが同意する。
お姉ちゃんがもっとおれを見てくれたら、どんなに楽しいだろう。
向けられる感情がおれだけのものになったら……そう考えれば、楽しくなってくる。
「お姉ちゃんをさ、おれ達なしじゃいられないようにしちゃおうか」
甘く優しい毒で、ゆっくりと蝕んで。罠だと気づかないまま、手の内へ堕としてしまえばいい。
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「メア! やっぱり私に王妃なんてムリだと思うの!!」
「そうなの? じゃあ、おれ王子やめようかな」
「そんなこと簡単に言っちゃダメ! 国にとってメアは大切な存在なんだから!」
おれが気まぐれにそんなことを言えば、お姉ちゃんが叱ってくる。
あれからおれは、色々あって王子になった。
お姉ちゃんの周りに渦巻く、面倒事や陰謀は全て潰して。
王が病気になったタイミングで、双子の兄であるレビン王子に色々しかけた。
元々レビンの評判はよくなかったし、こちらの罠にいくらでもかかってくれて、評判は地に落ちた。
ついでにレビンの幻獣を消滅させ、城の連中におれの存在を臭わせれば……王が後継者にとおれを指名してきたのだ。
お姉ちゃんを妻として迎え、国の一切をおれに任せ口出しはしないこと。
それを条件に、おれは王になったのだ。
「じゃあ、お姉ちゃんにとっては? おれはどんな存在?」
「そりゃあ、特別で……大切な……」
お姉ちゃんに詰め寄って、部屋の端に追い詰める。
お姉ちゃんの後ろには窓。
この部屋は夫婦の寝室として用意されたもの。
鍵も外からかけられているから、ここにやってきた時点で……お姉ちゃんに逃げ場はないんだけどね。
「おれが王子になったのはさ、お姉ちゃんとつり合う身分になりたかったからだよ。元暗殺者で何も持たなくて。戸籍上、お姉ちゃんの養子のままじゃ……色々とし辛いでしょ?」
王子の衣装は堅苦しくて、タイをほどく。
お姉ちゃんが何かを期待するような目で、こちらを見ていた。
ゆっくりとじっくりと。
お姉ちゃんがおれになれていくように、優しく甘やかした。
困ったときはすぐに駆けつけて……おれ以外がお姉ちゃんを傷つけないように、守った。
尋常じゃない魔力を持ち、竜を従え、国に蔓延していた病を治し、悪い奴らを倒して。
領土を著しく栄えさせているお姉ちゃんは、民からの支持が厚い。
この国の内部には、国に対して不満を持つ者も多く、王家はそれを怖がっている。
王家がお姉ちゃんを危険視していることくらい、おれは気づいていた。
お姉ちゃんは、おれの側で……この国でずっと暮らしていく。
これはもう決定事項だ。
そうなると、お姉ちゃんが暮らしやすいように、国を変える必要があった。
だから、面倒だったけど王になった。
「お姉ちゃんが結婚してくれないと、おれ他の女と結婚させられちゃうんだけど。お姉ちゃんは、それでもいいんだ?」
そんな気もさらさらないくせに、意地悪なことを言ってみる。
お姉ちゃんは明らかに動揺した。
「おれが欲しいって言って? 素直になれたら、いつものようにご褒美をあげる」
片手でお姉ちゃんの腰を引き寄せながら、耳元で囁く。
何を想像したのか……お姉ちゃんは真っ赤になった。
少しずつおれに慣らしてきた、その成果と言っていい。
本当……かわいい。
そんな反応されると、すぐに襲いたくなるんだけどなぁ。
でも、今日はお姉ちゃんから欲しがらせたいから、ぐっと我慢する。
「大好きだよ、メイコ」
「ッ……!」
トドメというように名前を呼べば、お姉ちゃんはぞくぞくとした顔になる。
「私もメアが……好き」
「ははっ、ようやく言ってくれたね!」
嬉しくて嬉しくて、しかたなくて、その体をぎゅっと抱きしめる。
――おれの手の届くところまで、墜ちてきてくれた。
そう思って、それは違うなとすぐに否定する。
――『光』のある場所まで、お姉ちゃんがつれてきてくれたんだ。
そのほうが、とてもしっくりときた。
生か死か、白と黒しか存在しないような世界にいた。
色は『光』があってこそ感じることができる。
世界がこんなに鮮やかで、愛おしく思えるのはそこにお姉ちゃんがいるからだ。
「わっ、ちょっとメア!!」
お姉ちゃんの慌てた声が聞こえる。
おれの気持ちに反応して、蛇達が背中に出現していた。
犬が嬉しいとしっぽを振るのと同じこと。
気持ちが高ぶって、蛇達が巻き付いてしまうのは自分でも止めようがなくて、腕の中でお姉ちゃんが気絶する。
「いい加減、慣れてくれないと困るんだけどなぁ」
そこがまた、かわいいんだけど。
「ん……メア、すき……」
ベッドに寝かせてその頬を撫でれば、お姉ちゃんが身じろぐ。
だらしのない緩みきった顔で、おれの名前を呼んで幸せそうに笑う。
起きてるのかと思ったら、寝言みたいだ。
目が覚めたら、約束どおり――たっぷり褒美をあげなきゃね?
真っ赤な顔で喜ぶお姉ちゃんを想像すれば……今から楽しみで待ちきれなかった。