【バトン6】鳥×ユヅル(ユヅル視点)
前にもらったバトンです。
シスコンお兄さん視点のお話です。
僕の妹はかわいい。
妹がほしいと言った僕のために、神様がくれた宝物だ。
退鬼士の名家である東雲家。
僕の家は末端だったけれど、両親は忙しくしていた。
愛情がなかったわけじゃ決してないけれど、手のかからない子だった僕は放置されていた。
要領のよかった僕は、何でもやろうと思えばできて。
世界は僕にとって、退屈でつまらないものだった。
兄妹がいたら、少しは変わるんだろうか。
夢中になれるものがほしくて、十二歳になった僕は両親に兄妹をねだってみた。
そしたら両親が、どこからか赤ん坊を拾ってきた。
弱って今にも死にそうな女の赤ん坊。
ヤヨイと名付けられた妹を、僕はそれこそ可愛がった。
僕が守ってあげなきゃダメなくらい、か弱い存在。
世話をすれば心が満たされて、わがままに振り回されることも楽しかった。
けれど、ヤヨイは――医者もお手上げの不治の病で。
苦しそうに口から結晶を吐き出しては、弱っていく。
十二歳になったある日、とうとうヤヨイの魂は……その体から消えてしまった。
その日がくるんじゃないかと、覚悟はしていた。
だから魂を見て、掴むことの出来る術を使って、その体に魂を繋ぎ止めようと思っていた。
けれど、ヤヨイの魂は……僕の手をすり抜けていってしまったのだ。
失意に沈む僕の前に、ふわりと魂の光が浮かんだ。
――ヤヨイの魂が帰ってきてくれた?
そう思ったけれど、その魂はヤヨイのものとは色も形も違っていた。
ふわりとそれはヤヨイの体に吸い込まれて。
「ん……」
ゆっくりと、君が目を開けた。
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「ヤヨイ、ほらあーんして?」
「それくらい自分で食べられるよ、兄さん」
新しい『ヤヨイ』は、自分のことは自分でしたがる子だった。
スプーンを口元に持っていっても、渋って食べてくれない。
でもシュンと落ち込んだ顔をすれば、困った顔をして……少しだけならと僕の手から食べてくれる。
「さぁヤヨイ。今日も魔力を吸い出そうか」
「うん、お願い」
新しい『ヤヨイ』がきてからわかったこと。
ヤヨイの体は特殊で、魔力が他の人より溜まりやすく、結晶化しやすいらしい。
口から吐き出す結晶は、魔力の塊だったようで。
僕が術を使ってその力を吸い出せば、布団から出られるくらいに元気になった。
毎日の日課として、一日一回は体から魔力を吸い出さなくてはいけないけれど。
それでも、ただ外を歩けるというだけで……大きなことだ。
こんな病例は今までなかったから、医者も分からなった。
なのに、それを新しいヤヨイ――君は知っていた。
……君は何者なんだろうね?
時折、君は寂しそうな顔をして、海を眺めている。
前のヤヨイは本が好きだったけれど、今の君は好きというより、何か目的を持って本を読みあさっているみたいだ。
海の向こう側についての本を、君は探している。
僕達の国は島国で、少々閉鎖的なところなので、海の向こうのお話は少ない。
どうして海の向こう側が気になるのかと尋ねれば、なんとなくとはぐらかされてしまった。
まるで、空に焦がれる籠の鳥みたいだ。
きっと病弱な体さえなければ、君は僕の元からすぐに飛び立ってしまうだろう。
今の『ヤヨイ』が望むことを叶えてあげたい。
例え、君が僕の本当の妹じゃなくても大切なことには変わりないから。
ヤヨイを失って不安定な僕のために、君は『ヤヨイ』を演じてくれる。
兄さんと君が僕のことを呼ぶ瞬間が、たまらなく好きだ。
元のヤヨイは僕を『お兄ちゃん』と呼んでいたし、性格だってもっと子供っぽかった。
全く何もかも違うけれど、そんなことは絶対に言ったりしない。
それを言えば、君は僕の『妹』であることをやめてしまうだろうから。
君が優しい子だってことを、ちゃんと知っているんだ。
知っていて――甘えている。
僕に世話を焼かせてくれるだけじゃなくて、君は僕のことを気にかけてくれている。
君にとっては見知らぬ体の『兄』に過ぎないのに。
こんな僕を心配して、気遣ってくれることが嬉しい。
できることなら、もう少しこの籠の中で。
僕の側にいてほしいと願うけれど。
君が飛び立つときには、力になろうと――僕は決めていた。
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今の『ヤヨイ』は世話を焼かれなれてないらしく、洗濯物も自分でやろうとするし、料理だって作ろうとする。
何でもやられるのが性に合わないらしい。
僕は世話を焼きたいほうだから、それは少し残念なのだけれど――世話を焼かれるのも結構悪くなかった。
「兄さんはどうして私の分は豪華な料理を作るのに、自分の分は作ってないの!」
「ヤヨイに美味しい物を食べさせたくて、自分のことを忘れてただけだよ」
つい夢中になると、その他のことを忘れてしまうときがある。
ただそれだけのことなのに、君は信じられないと呆れた様子だった。
「私のことなんてどうでもいいから、兄さんはもっと自分のことを考えて!」
「僕はいつだって、僕のためにヤヨイのことを考えているよ。それが僕にとって幸せなことだから」
そうやって怒りながら、君は僕のためにご飯を作ってくれる。
叱られているのに、つい頬が緩む。
構ってくれることが嬉しい……なんて。
本当のことを言えば、余計に呆れられてしまうから言わないけれど。
「兄さんは何でも私を優先して、自分のことは後回しで。いつか私の為に死ぬつもりでいるの? そんなの、私は望んでないから!」
怒ったように君が言う。
それはきっと、幸せな死に方だ。
死んでも本望だし、君はきっと僕のために泣いてくれる。
その心の中に、いつだって僕を置いてくれるだろう。
でも……悲しい顔は、あまり見たくないな。
君には、いつも笑っていてほしいとそんなことを思った。
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君はあれから、魔力を外へ出す方法を自力で見つけてしまった。
おかげで体調はぐんとよくなった。
僕が魔力を吸い出してあげる必要も、前より減ってしまったけれど……君が元気なら嬉しい。
ただ、魔力の扱い方を覚えた君は……僕の想像以上に『退鬼士』としての才能を持っていた。
僕達の国には、鬼が出る。
別の世界からやってくる鬼を倒し、向こう側へ封じる退鬼士は、国を守る重要な職業だ。
東雲家の家業ではあるけれど、危険な仕事だった。
危険なことを、できればしてほしくない。
でも……君のしたいことを取り上げて、僕の望むようにするのは違うと思った。
ヤヨイの為なんていって――それは結局、僕が君を思い通りにしたいだけだ。
だから、君の自由にさせてあげようと思った。
もちろんその安全を確保するために、僕が愛しい妹の側で守るのは当たり前のことだ。
僕がどんな危険からも、君を守れるくらいに強くなればいいだけの話しだった。
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君は留学を望んだ。
海の向こうに、僕らの国の術と似た『魔法』というものが存在するらしい。
もっと強くなるためと君は言っていたけれど……きっと目的は別にある。
それを知りながら、僕は君と一緒に異国へと旅だった。
君の目的は、トワイライト魔法学園に通うことのようだった。
僕はそこの教師として働くことにして、一緒にアパートを借りた。
本来そこは全寮制の学園だったけれど、僕の妹『ヤヨイ』には持病がある。
申請を出せば、それは許可してもらえた。
一日目が終わって帰ってきた君は……憔悴した顔をしていた。
泣きはらしたような目。
今日の朝は、希望に溢れた強い顔をしていたのに。
「大丈夫だよ、兄さん」
「……兄には言えないこと?」
いつだって君は僕を頼ろうとしない。
問題は自分で解決しようとする。
迷惑をかけないように、僕を君の事情に巻き込まないように。
頑張り屋なところは好きだけれど、頼ってもらえないのは悲しい。
「もしかして、ヤヨイがヤヨイじゃないことと……やっぱり関係があるのかな」
僕の言葉に君が目を見開いた。
「君が僕のために、妹として振舞おうとしてくれてるのも気付いていたんだ。でもそれに甘えてしまった。認めたくなかったんだ……ヤヨイが死んでしまったことを」
本当のことを話す。
ヤヨイが死んでしまった悲しみは、やっぱり心の中にあるけれど。
傷はもう痛みはせずに、そこにあるだけだ。
君がいてくれたから、僕は壊れずにすんだ。
「僕はね、君に泣いてほしくない。辛い思いはしてほしくない。だから、僕にできることを言って。何でも力になるよ。僕はやっぱり君の兄だからね」
「ユヅル……兄さん」
まだ僕のことを、君は兄と呼んでくれる。
そのことが……たまらなく嬉しい。
「ほら、言ってごらん。お前の顔を曇らすモノは、全部兄がやっつけてあげるから」
優しく問いかければ、君は今までのことを全て話してくれた。
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君の本当の名前は、メイコというみたいだった。
とてもいい名前だ。
君は、この世界とは別の日本という世界の出で。
魂だけでこの世界にやってきたメイコは、ヒルダ・オースティンという屋敷の女主人としてすごしていたようだ。
けれど、君は自分の甘さから敵にはめられて、体から魂を飛ばされてしまった。
ヤヨイとしてすごしながらも、仲間達がどうなったか心配で仕方なかったらしい。
そして今日、その仲間達が通う予定になっていた『トワイライト魔法学園』で……君はとうとう仲間達と再会した。
待ち望んだ再会。
でも、仲間達は君に冷たくて。
自分がいなくなったことが原因で、仲間の何人かが死んでしまったことを君は知った。
学園で再会した仲間に殺されかけ、大切な友人の死を聞いて――君は泣いていた。
「それでメイコはこれからどうしたい? 兄はいつだってお前の味方だよ」
「ありがとう兄さん。兄さんが驚かずに話を聞いてくれて、私を受け入れてくれただけで十分だよ」
問いかければ、君は笑う。
兄の前でムリをしなくていいのに。
これからどうするつもりでいるのか、尋ねる。
まだショックから立ち直れていない様子だったけれど、悲しいことを考えていても、何も変わりはしない。
どんなに望んでも……本物のヤヨイが生きかえることがないように。
「屋敷がどうなってるか、自分の目で確かめたい」
君はそう呟いた。
辛いこともちゃんと受け入れて、前に進めるように。
その強い瞳が、曇ることのないように。
僕にできるのは兄として、君を導いて守ることだ。
君が僕にしてくれたように。
今度は僕が――君を助ける番だった。
「どうして兄さんは、私のためにそこまでしてくれるの?」
……なんて、君は言うけど。
そんなのわかりきったことだ。
「だって僕は、君の兄だからね!」
そうだろう?と問いかけるように、悪戯っぽく笑って言えば。
君はようやく笑ってくれた。
うっかり間違えてバトン6から投稿してしまいました。
17時ごろに、バトン5のメアIFルートをあげたいと思います(活動報告内にすでにあげてある話です)。