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【小話4】着替えのお手伝い★イラスト有

★2015/08/17の活動報告に載せていた小話を再編集したものです。

 「【番外編4・5】ニコルくんの優しい竜教育」直後のお話となっています。

 イラストを描いていただいたお礼の小話です。

 イラスト表示を希望されない方は、小説ページ右上の「表示調整」ボタンでオン・オフを切り替えてください。

「くそっ……まだ腕が痺れてる」

「大丈夫、イクシス?」

 右手が動かないらしく、イクシスが眉をしかめる。


 私がニコルくんによって竜になるための特訓をするからと攫われて後。

 イクシスは、私を取り戻すため竜族の修行場に足を踏み入れていた。

 前回と違って今回はオウガがいなくて。

 一人で奥にある塔へ行くのは時間がかかるからと、イクシスは三番目のお兄さんであるアルザスさんの助けを借りて、私を迎えにきてくれていた。


 ニコルくんにより飛ぶための特訓……という名のしごきは鬼畜を極め。

 塔から突き落とされた回数は、おそらく百回を軽く越える。

 ぱっと見たかぎりでも塔は十階建て以上あるというのに、本当容赦がない。


 鬼畜なその所業のおかげでどうにか飛べるようになって後は、ちょっとした弾みで魔力が漏れ出ないための特訓を受けた。

 具体的に言うと……ニコルくんの寸止め魔法攻撃を受けて、ひぃひぃ言うだけの簡単なお仕事でしたよ?


 本当ニコルくんドS。鬼畜様。魔王様。

 今日でトラウマがいくつ増えたか言うまでもない。

 イクシスの姿が見えた瞬間、安堵でその場にへたりこんだのは仕方がないことだと思う。


 現在は塔から帰ってきて、屋敷にあるイクシスの部屋にいる。

 目の前のイクシスに怪我はない。竜族の修行場から出れば、強制的に回復魔法がかけられるからだ。

 でも傷はともかく、破れた服や疲労まではどうにもならないので、目の前のイクシスは疲れきった顔をしていた。


「修行場を出る時って、状態異常は回復されないの?」

「毒や酔い、混乱は回復されるが、麻痺は回復されない。麻痺だけは解く魔法がないからな」

 腕が麻痺している様子のイクシスに尋ねれば、首を横に振った。


 乙女ゲーム『黄昏の王冠』において、軽い状態異常を回復するには水属性の魔法ゲテルがあった。

 例えその魔法を使えなくても、それぞれの症状を回復させる魔法薬が存在していたけれど。

 麻痺だけは中和する魔法も、魔法薬も存在してなかったなぁと思い出す。

 光属性の攻撃に付加する、麻痺の症状。

 使えない子扱いされている光属性において、微妙に使える部分。

 ごく稀に発動しては、相手を一ターン程度痺れさせる状態異常だった。


「どうやったら治せるの?」

「一時間くらいしたら勝手に治る」

 麻痺を治せるのは時間だけということらしい。ゲーム内よりも、この世界においては少しだけやっかいな症状みたいだ。

 それでも他の状態異常と違って、回復に魔法がいらない分楽かもしれないなとそんな事を思う。


「……なぁ、メイコ。悪いんだが、服を脱がせてくれないか」

「へっ?」

 いきなりそんな事を言われて、変な声が出る。


「汗かいて気持ち悪いんだ。風呂に入りたいんだが……疲れたからな。体を拭いて着替えて、眠りたい。片手だと脱ぎにくいんだ」

「わ、わかった!」

 イクシスがこんなに疲労しているのは、元はと言えばニコルに攫われた私を助けるためだ。

 これくらいはしてあげなきゃと思って、ベッドに座っているイクシスの前に膝立ちになる。


 服に手をかけて、イクシスの竜族服のボタンを下から外していく。

 静かな部屋の中で、ボタンが服に擦れる音がやけに大きく聞こえた。

 イクシスの引き締まった腹筋が露になって、なんだか妙な気分になる。


 胸の辺りまできて、なんとなく手が止まる。

 イクシスを見れば、目を細めて私を見ていた。

 口元には楽しがるような笑みが浮かんでいる。


「早く脱がせてくれ」 

 私の髪を撫でて、少し前かがみになって。

 耳元でイクシスが誘うような艶っぽい声で囁く。

 思わず口をパクパクとさせれば、どうしたというように首を傾げる。

 私が恥ずかしがっているのが、手に取るようにわかっている癖に、知らん顔だ。

 顔が真っ赤なんだろうなというのは、自分でもわかっていた。


 イクシスの裸なんて何度も見ている。

 だから緊張なんてする必要はないはずだ。

 そう思うのに、何度も見てるという事実にすら恥ずかしくなってきてしまうから始末に終えない。


「タオルと服とってくる!」

 どうにか服を脱がし終えて、その場を逃げるように立ち去る。

 イクシスが背後で、笑ったような気配がした。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 タオルと服をとってこれば、イクシスはベッドにいなかった。

 部屋の中に風が吹き込んできていたので、そこから外に出ればイクシスが涼んでいた。


 べランダのようなこの場所からは、竜族の里が見渡せる。

 夜になると竜族の里の家々には温かなオレンジ色の光が灯って綺麗だ。

 中華風の建物は、翼がある種族だからか家の階層は高い。

 趣があってこの景色は結構お気に入りだった。


「イクシス、タオル濡らしてきたよ」

「ありがとう」

 受け取ったイクシスが体を拭く。

 思わずその姿を見てしまっていて、視線に気付いたイクシスが笑う。


「どうした?」

「えっ、いっ、いや……イクシスって結構いい体してるよねって思って……」

 聞かれて声が小さくなっていく。

 そんな事を言うとセクハラみたいだ。


「もしかして触りたいのか?」

「なっ、何でそうなるの!」

「メイコは俺の翼や尻尾触るの好きだろ。もしかしたら、こっちも触りたかったんじゃないかと思って」

 完全にからかわれている。

 イクシスは楽しそうに笑っていた。


「そんな事言ったら、服着させてあげないからね!」

「悪かった」

 むくれて見せれば、イクシスが素直に謝ってくる。

 まだちょっと笑っていたけれど、こっちも本気で怒っているわけじゃないので、ふたりして顔を見合わせて笑う。


「そう言えばイクシスって、もう逆鱗ないんだから喉元隠す必要はないよね?」

「そうだな」

 イクシスの腕を竜族服に通しながら、そんな事を口にする。

 元の世界でいう、チャイナドレスの男版みたいなその服は、詰襟で喉元が隠れるような仕様になっていた。


 竜族の民族服は二種類ある。

 一つは前合わせのゆったりとした着物。

 もう一つは、イクシスが着てるチャイナドレスの男版のような竜族服だ。

 この詰襟タイプは、元々竜族の未婚の男子が喉下にある逆鱗を隠すために着るものだったらしい。

 けど前者の着物が着付けるのに手間がかかるためか、現在では詰襟のタイプを普段着として着てる成人男子も多いみたいだ。


「たまには別の服も着てみない? イクシス格好いいから、他の格好も似合うと思うんだ」

 喉元の逆鱗がなくなった部分に一旦触れてから、どんな服が似合うかなと頭の中で考えて。

 上からボタンを一つずつ掛け合わせる。


「カジュアルなのも似合うと思うけど、きっとスーツとかも似合うよね。クロードがいつも着てるような、執事服も絶対格好いいだろうな」

「……」

 考えたら楽しくなってきて、ふいにイクシスがずっと無言なのに気付く。


「イクシス、ちゃんと聞いて……」

 見上げればイクシスは、目を細めて薄っすらと笑みを浮かべていた。

 どこか嬉しそうな顔だけど、瞳の奥に少し悪戯っぽい色を見つけて思わず後ずさる。

 壁側の方に追い詰められたかと思ったら、軽くキスをされた。

 そのまま首筋にキスが流れていく。


「ちょ、イクシス!?」

「……格好いいって、思っててくれたんだな?」

 声をあげればイクシスは嬉しそうに、そんな事を言う。

 何を今更と思って、目をぱちくりとさせる。


「イクシスもしかして……自分が格好いいっていう自覚がなかったの?」

「そうじゃなくて、メイコがそう思ってくれてたなんて……思わなかったってことだ」

 イクシスが少し呆れたように、そんな事を言う。


「俺の見た目――実は結構好みだったのか?」

 キス寸前の距離で、イクシスが確認してくる。

「……っ!」

 すぐそこにある端正な顔に、思わず言葉に詰まれば。

 イエスと答えたも同然のその反応に、イクシスが気をよくしたように笑った。



■■■イラスト■■■

挿絵(By みてみん)

まない様より素敵なイラストを頂きました。ありがとうございます!

※イラストを頂いて書かせてもらった小話となります。

 次回の番外編はユズル兄さんの話にしようと思っていたのですが、書いているうちにレニのお話になりました。2、3日内に投稿します。

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★6/24 「彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート」本日17時完結なので、よければどうぞ。
 ほかにも同時刻に、ニコルくんの短編も投下予定です。  気が向いたら感想等、残していってくれると励みになります。
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