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【11】いわゆるツンデレってやつですね

「メイコはクロードが好きなのか?」

 クロードの労いと言う名のデートが終わって部屋に戻れば、現れたイクシスがそんなことを尋ねてきた。

「いい、いきなり何を聞くのよ!」

 突然の質問に驚いて動揺すれば、イクシスがすっと私との距離を縮めてくる。


「な、何よ」

 じーっと至近距離で顔を覗き込まれる。

 今日のクロードだけでも心臓に悪かったというのに、イクシスときたら結構距離が近くてドキドキとしてしまう。

 イクシス相手だと感情が伝わってしまうから、落ち着けときめくな自分と言い聞かせるのだけれど、効果はあまり見られない。


 しばらくして、イクシスは私と距離をとり、なるほどなと呟いた。

「クロードといるとき、緊張やドキドキが伝わってきたから、恋でもしてるのかと思ったんだが……ただ単に男慣れしてないだけか。俺が近づくだけでコレだしな」

 イクシスの言い方が、ちょっと馬鹿にした感じに聞こえて、少しカチンときた。


「馬鹿にしないで。こう見えて男慣れしてますから!」

 ちょっと見栄を張る。

 それに、確かにロクなお付き合いはしたことないかもしれないが、前世の会社では男ばかりの中で一人奮闘してきた。

 男共に囲まれて、揉まれながらもたくましくやってきたのだから男には慣れてる。

 ただ単に、女扱いとイケメンに耐性がなさ過ぎるだけだ。


「誤魔化したところで、俺には伝わってくるから意味ないんだけどな。ヒルダからこんな感情を読み取ったことないから、戸惑うんだが……まぁそのうち慣れるか」

 諦めたようにそう言って、イクシスがテーブルの椅子に腰掛ける。


「それで今日はこの後どうするんだ?」

 言われて少し考える。

 イクシスが聞きたいのは、おそらく花組のところに行くか行かないかだ。イクシスが付き合う必要があるかを知りたいんだろう。


 花組の子達とのスキンシップも大切だけれど、今の私の中で一番大きな問題は、フェザーとの衝突だ。

 イクシスがいるから守ってくれるし、その辺りは大丈夫なのだけれど。

 話し合いを持とうとしても、睨みつけられて取り入る隙もない。

 このまま溝が深まるのは避けたかった。


 それにフェザーの友人だったというギルバートの事も気になる。

 ヒルダに捨てられて、確実に恨んでいるはずだ。

 のちのちの死亡フラグになるだろうし、それに何より可哀想すぎる。


 ギルバートのその後の足取りを調査するよう、クロードを通じて探偵に依頼をかけてみたけれど。

 今の所、有益な情報はまだ見つかってなかった。

 ……何も動かないこの状況がもどかしい。

 

「なんだ落ち込んでるみたいだな。気分転換をしてきたんじゃなかったのか?」

「読まないでよ」

 イクシスに感情を読まれ、ちょっと八つ当たりするような声が出た。


「勝手に伝わってくるんだ。しかたないな、ちょっとこっちに来い」

 そう言ってイクシスは立ち上がり、窓を開けバルコニーに出る。

 外に何かあるんだろうか。

 そう思って柵に手を乗せて外を見る。


 ヒルダの部屋は二階にあり、この屋敷は少し高台にある。

 街がここから見えるけれど、どんな風に人々が生活してるかは窺えない。

 自分の領土だし、一度確認しておかなきゃと思うのだけれど。

 ただでさえこの身には背負うモノが多いのに、それを見たら気持ちが焦って、押しつぶされてしまうんじゃないかと怖かった。


 服を買いに行くのも、クロードとのデートも他の領土で済ませていたから、まだ私は自分の領土の街を歩いた事がない。

 一つ一つこなして行かなきゃいけないことは分かってるのだけど、やるべきことが多すぎて。

 身動きが取れなくなって行くようで、暗くなってしまう。


 そんなちょっとセンチメンタルな事を考えていたら、イクシスが私をいきなりお姫様抱っこした。

「ちょ、イイイ、イクシス!?」

「そんな動揺するな。別に花街の奴らみたいに、いやらしいことをするつもりは一切ないから。行くぞ」

 裏返った声を出す私に冷静にそう言って、イクシスが床を蹴る。


 浮遊感が私を包み、柔らかな風が髪を攫う。

 地面がドンドン遠くなって、思わずイクシスに抱きついた。

「わ、私空飛んでるっ!?」

「メイコがっていうより、俺がだけどな。しっかり掴まってろよ」

 イクシスはそう言って羽ばたき、風を切って。

 連れて行ってくれた先は、白い花が咲き誇る野原だった。


「わぁ! 綺麗!」

 野草なのか背が低く、白い花の絨毯みたいだ。

 夕暮れ時とあって、その光景が幻想的に見えて。

 思わずテンションが上がってしまう。


 イクシスに下ろされて、素足のままで野原をちょっと走ってみる。

 足の裏の緑の感触が心地よかった。


「ようやく元気になったか」

 ふっとイクシスが笑う。

「元気付けてくれるために、連れてきてくれたの?」

 その気遣いが嬉しくて目線を向ければ、イクシスは眉を寄せて嫌そうな顔をする。


「別にメイコのためじゃなくて、俺のためだ。メイコは一見すると全然何も考えてなくて、何も悩みなんてなさそうに見えるんだが、俺には伝わってくるからな。こっちまで鬱々とした気分になるはゴメンなんだ」

 だから感謝なんてするな気色悪いというように、イクシスは口にする。

 割と酷い事を言われている気もするけれど、それってつまりは気遣ってくれたって事じゃないのか。


 ――悪ぶってる所があるけど、イクシスっていい人っぽい。

 素直に感謝されることに慣れてないのか、礼を言おうとすると、別に私のためじゃないといつも口にする。

 花組の子たちの所へ行って後、今日もありがとなんていうと、契約だからと返すのがいつものパターンとなっていた。


 なんか、癒されるなぁ。

 これがツンデレってやつか。


「……おい、今なんか俺に対して変なこと考えただろ」

「えっ? 別に何も考えてないよ?」

 イクシスがギロリを私を睨んでくる。


「嘘だ。感情を読まなくたってわかる。微笑ましそうな顔つきで、俺を見てた」

 気に入らないというように、イクシスが尻尾を下に打ち付けるような動作をする。

 眉間の辺りにシワが寄っていた。


「いやいや、そんなことないよ?」

 我ながら嘘っぽいなと思いながら、首を傾げる。

「……まぁいい。そんな感じでいつも馬鹿面してろ」

 まだ納得いかない顔で吐き捨てて、イクシスは寝転がる。


 ちょっとそれ気持ちよさそうだなぁとうらやましく思ってたら、あんたも寝ればいいだろと言われた。

 感情しか読めないはずなのに、心の声まで読まれている気分になる。

 じゃあ失礼してと、一人分くらい距離を置いてイクシスの横に寝そべった。


 空は茜色で、優しくもどこか寂しげな色合い。

 流れていく雲を見ていたら、少し眠くなってきた。


「心配しなくても俺が起きてるから平気だ。誰にも殺させたりはしない」

 私が眠くなったのを察知したのか、イクシスがそう口にする。

 別にそんな事を考えていたわけではなかったのだけれど。

 お言葉に甘えようかなと、目を閉じれば。

 すぐに優しい夢へと落ちていった。

★4/18 誤字修正しました。報告助かりました!

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★6/24 「彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート」本日17時完結なので、よければどうぞ。
 ほかにも同時刻に、ニコルくんの短編も投下予定です。  気が向いたら感想等、残していってくれると励みになります。
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