【バトン2】水×オウガ(オウガ視点/IFストーリー)
★2015/07/12の活動報告に載せていた小話を再編集したものです。
バトンを貰い、それにあわせた話となります。
オウガが、すぐにメイコを見つけ出していた場合のIFストーリです。
何でオレはこうなんだろう。
どうして、こんな力があるんだろう。
……いらないのに。
ベッドの上で膝を抱えてうずくまる。
オレのせいで、動物たちがたくさん死んで。
さっき、一番目の兄さんが家を出て行った。
いつだって、そうだ。
きっかけは大抵、ちょっとしたこと。
例えば竜族の学校で、声をかけただけなのにびびられたりして。
少し嫌な気持ちになっただけで、相手をオレの魔法は勝手に攻撃してしまう。
そんなことしたくないのに。
勝手に発動して、暴走する力。
ただ、普通に過ごしたいだけなのに――むしゃくしゃする。
「オウガ疲れたなら、動物がいる」
そんなオレに、一番目の兄さんは優しくて。
兄さんの部屋の部屋に逃げ込めば、動物たちが迎えてくれた。
一番目の兄さん――イチ兄は竜も人も嫌いで、動物とばかり過ごしていた。
お嫁さんはいたけれど、無邪気な動物を思わせる人で。
彼女だけはイチ兄の特別みたいだった。
「動物はいい。わずらわしくない」
イチ兄の言う通りだった。
彼らはオレに対して怯えたりしない。
目つきが鋭くて、力の強い黒竜で。
しかも元魔王の息子。
何度も力を暴走させているオレを、周りは腫れ物のように扱っていた。
イチ兄はそんなオレに優しくしてくれたのに……。
オレは取り返しのつかないことをしてしまった。
兄さんの部屋は、空間を繋いでジャングルへと繋がっている。
自由に出入りを許されていたオレは、そこで一人動物たちと戯れていた。
そこに人間がやってきて、兄さんの大切な動物を殺したのだ。
――許せなかった。
気付いたら力が暴走して、人間どころか兄さんの動物まで巻き込んで。
オレはあの人間達以上に残酷で酷い事を、動物たちにしてしまった。
駄目だ、駄目だと叫んでも力は止まらなくて。
気を許してくれていた動物たちが、血を流して横たわっていく。
イチ兄はここに入ることを、お嫁さん以外にはオレにだけ許していた。
オレは特別だと、入れてくれていた。
たぶんオレがどこか――イチ兄と似ていたから。
イチ兄は、オレが孤独だと分かってくれていた。
なのにオレは、それを踏みにじった。
イチ兄は何も言わなかった。
ただ、そのまま嫁さんをつれて屋敷を出て行ってしまった。
「オーガスト、水属性の魔法に回復があるんだ」
声をかけてきたのはイクシスだった。
イクシスとオレは同じ部屋で。
一緒の大きなベッドでいつも寝ていた。
顔を上げないオレの背中に、イクシスはぴったりと背中を寄り添わせてくる。
「水属性を極めれば、傷つけたとしても治せる」
「あいつらは……もう元には戻らない」
「そうだな。でも、それがあれば助けられる誰かがいるかもしれない」
「自分でやっといて、自分で治せってか」
イクシスの提案を、オレは鼻で笑った。
「制御しようと思ってできないなら、暴走したときにどうするか考えるのもいいと俺は思う」
他のやつみたいに、力を制御できないオレをイクシスは馬鹿にしたりしない。
制御しようとオレが心を砕いてることも、それでできなくて自己嫌悪してることも。
この双子の弟は知っていてくれていた。
当たり前のようにオレに寄り添って、オレの力が暴走するたびかき消して。
イクシスだけが、全てを理解して側にいてくれていた。
自分の事のようにオレの事を考えてくれていると、何のためらいもなく信じる事ができる。
「オーガストのその強い力は、傷つけるためにあるわけじゃない。そうだろ?」
振り向けばイクシスの金色の瞳が、オレを見つめてくる。
「強い力を持って生まれたのには、かならず意味がある。それはきっと、いつか出会うたった一人のためだ」
それが誰を指しているのかは、言わなくてもわかった。
竜族は男しか生まれない。旅をして花嫁を探す。
きっと出会う、たった一人の花嫁のために、オレの力はあるんだとイクシスは言いたいんだろう。
イクシスは結構ロマンチストだ。
というかそれは……三番目の兄さん・アルザスの口癖だった。
――全てのことに意味はある。
お前達がオレの弟として生まれたのは、オレに愛されるためだ。
お前達が双子として生まれたのは、助け合うためだ。
そしてその特別な力は、いつか出会う大切な人を守るためにある。
だからその時のために、力も自分も磨いておけ。
いつもそう言って、アル兄はオレとイクシスの頭を撫でてくれる。
「……イクシスがそう言うなら、そうしてみる」
「そうしろ。あと、傷ついた動物は元に戻らなくても、イチ兄とはまだ仲直りできるはずだ」
頷けばイクシスはそんな事を言い出す。
「仲直りは無理だ。オレはイチ兄に……動物たちに酷いことをした。許してなんてもらえるわけないだろ」
「イチ兄は不器用だから、あぁしただけで。オーガストがわざとしたわけじゃないって知ってる。今は無理かもしれないけど……いつか、仲直りできるように」
他のやつの言葉なら、はねつけているところだ。
でも。
「いつかまた……仲直りできると思うか?」
「あぁ、必ず」
傷ついたら、治せばいい。
必ず同じように元通りになるとは限らない。
傷は残るかもしれない。
でも、何もしないで嘆いてるよりはマシだろとイクシスが語りかけてくる。
この力が、オレの誰かを傷つけるしかできない――こんな力が。
いつか誰かの力になる日が、来るんだろうか?
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「どうしたのオウガ、手なんて見つめたりして?」
「いや……幼い頃の事を思い出してたんだ。イクシスの言う通りだったなって思ってな」
ソファーに座っていたオレの手を、メイコが覗き込もうとした。
黒髪にくりくりとした瞳。二十歳を過ぎてるのに、幼く見える顔立ちは可愛いと素直に思う。
その体を引き寄せて、メイコを膝の上に乗せる。
メイコは逃げたりしない。
昔なら、ちょっとふざけないでよオウガなんて、言ったりしたところだが。
今は緊張したような顔で、オレの膝の上で固まってる。
それがおかしくて嬉しくて、腕をその腹の前で組んだ。
華奢な肩に頭を乗せれば、メイコの顔がかぁっと赤くなった。
「力なんてない方がいいと思ってた。でもそれがあったから、異世界へ行けてメイコに出会えた。こうやってメイコの体を助けられて……抱きしめられる」
メイコは少し子供体温だ。
竜族は寒さに強くて体温があまり変わらないからか、それが心地いい。
メイコの幼馴染で、いけ好かない同級生・サキがゲンガーだった。
未来を見て予知する、預言の精霊。
思わせぶりな予言があって、メイコが事故に遭った。
そしてメイコの魂が、異世界へと行ってしまって。
焦ったオレだったが、サキが最後に電話で言ったことを思い出した。
『――あんたって、弟いたっけ? そう言えば昔誕生日にあげた本、ちゃんと今もあるでしょうね? あたしあの作者好きなのよね』
全く前後の脈絡がない言葉。
異空間の自分の部屋に行き、サキに昔押し付けられた誕生日プレゼントを探す。
あいつがオレにプレゼントなんて、何の風の吹き回しかと思って、捨ててやろうとも思ったが取っておいてよかった。
全く興味のない本が六冊で、ジャンルもバラバラ、全部違う作者。
けれど、全員同じ『オースティン』という姓。
おそらくはそこに鍵がある。
それを頼りに異世界に行き、オースティン姓のやつらを当たってみることにした。
メイコたちの異世界と、オレたちの異世界は違うようで似てるところもある。
この英語という文字は、大きな大陸で使われている文字に似ていて。
オースティンという姓も、そこには結構いるとオレは知っていた。
まずは、オースティン領に行ってみるかと訪ねて行って。
そこですぐにメイコを見つけた。
しかも、ずっと捜していた弟のイクシスまでいた。
メイコは自分の事をヒルダとかいう女に転生したと思い込んでいて。
イクシスは、メイコが入り込んだ体であるヒルダの守護竜になっていた。
ヒルダとかいう奴にイクシスは面倒な誓約をかけられていて……そいつがまたメイコの体の仲に入っている魂だったものだから、色々いざこざはあった。
それを解くのには苦労したけれど……どうにか全て丸くおさまって。
メイコは今、元のメイコの体でオレの腕の中にいる。
「好きだ、メイコ」
「っ……!」
囁けば、メイコが耳まで真っ赤にする。
冗談言わないでよと相手にされなかった言葉が、ちゃんと届く。
それだけの事が、こんなに嬉しい。
「そ、そろそろ帰るね!」
メイコは立ち上がる。
早足でオレから逃げて、異空間の部屋のドアを開けようとするけれど。
逃がす気はなかった。
「あれ、あれっ!? オウガ、ドア開かないよ!?」
「異空間の部屋は……オレの意思で自由に閉じられる。イクシスが言ってたのを忘れたか?」
戸惑うメイコに後ろから近づいて、ノブにかけれられた手に、オレの手を重ねる。
メイコがせめて少年達やイクシスをどうにかしてから、元の体に戻りたいなんて言い出すから。
ここまでくるのに、二年もかかってしまった。
そんなお人よしなところも好きだが……。
でも、もう十分――待っただろ?
この世界で一緒に過ごすようになって。
メイコの気持ちも、少しずつオレに向いて行った。
本人は戸惑ってるみたいだが、オレに言わせればやっと意識してくれたのかと遅く思うくらいだ。
こっちを向かせて潤む瞳を見れば……そこにはオレが映っている。
「メイコ、好きだ」
「でっ、でもオウガは年が離れてて、そのっ、友達だし……!」
まだそんなことを言ってるのか。
どうやら今までオレを意識してこなかったせいで、メイコは急な感情の変化についていけてないようだった。
「メイコは友達と、こんなことするのか?」
小さな顎をとって、唇に口付ける。
すでに何度かキスはしていた。
戸惑いながらも、いつも気持ちよさそうにして身を震わせて。
それでオレを拒んでるなんて言えると思ってるんだろうか。
「メイコは、オレのこと嫌いか?」
「その聞き方は……ずるい」
悲しげに尋ねれば、メイコは小さな声でそんなことを言う。
ずるいのはどっちだ。
オレが好きだって顔をするくせに、自分で自分の気持ちをメイコは認めようとしない。
まぁ、でも鈍くたってそれでもいい。
分からせれば済む事だ。
ただもう……大人しく待って、失うのだけは絶対にゴメンだがな?
逆鱗を外す。少し痛い。
鏡越しでなく見る逆鱗は、桜色よりもなお赤く染まっていた。
メイコに出会って、少しずつ気持ちを返してくれるようになってから、どんどんと染まって行った。
「オウガ、何するつもり……?」
イクシスの件で、白竜という選択肢についても話したから、メイコはある程度竜の花嫁に関する知識があった。
わかってるくせにそれを聞くのかと、怯えた顔を可愛く思う。
手元で砕いて、それを口に含んで。
口付けでメイコに嚥下させて。
「オレがどれだけメイコを好きかって、分からせてやる……もう逃がしてやらないからな」
メイコは目をまん丸にして、口をパクパクと開けて。
観念したのか、オレの服をぎゅっと握り締めた。
「うん、オウガなら……いい……と思ってる。たぶん私オウガのこと、好き……なのかもしれない」
ようやく聞けた好きという言葉。
やたらと曖昧だけど、それでも大きな一歩で、嬉しくて。
「今はそれでいい。すぐに自覚させてやる。メイコを竜にしてオレのものにしてー―ずっと側で守っててやる」
そのための力だ。
きっと、そのために――オレは黒竜だった。
ようやく守りたいものを見つけて――手に入れて。
そんな事をオレは思った。
前半のお話は、エリオットと竜の里に出てきた「オウガの弱点」である、「子供と動物が苦手」に繋がってます。
エリオットを一番目のお兄さんの部屋へオウガは連れて行きましたが、本当はあまり顔を合わせたくなかった感じとなっております。
キーワードは『水』というか、『水属性』。
オウガがどうして回復系得意なのかというお話となっています。




