【バトン1】風×イクシス(イクシス視点)★イラスト有
★2015/07/06の活動報告に載せていた小話を再編集したものです。
39話「メイドと竜の逢瀬」あたりの、イクシス視点の話となっております。
バトンやイラストを貰い、それに関するお話となっています。
イラストを描いていただいたお礼の小話も兼ねていますので、イラスト付きです。イラスト表示を希望されない方は、小説ページ右上の「表示調整」ボタンでオン・オフを切り替えてください。
パタパタとシーツがはためく。
今日は風が強い。
獣人の国から帰ってきて後、領土に奇病が発生してる事がわかって。
これは面倒なことになったなと思ったけれど、メイコのお陰で事態は一週間もたたないうちに収束しはじめている。
正直メイコの事を見直した。
初めて会った時は、こいつがヒルダで大丈夫かと正直思っていたんだがな。
変な行動はするし、しぼうふらぐだの何だの言って周りを警戒してるような事を言うわりには、いつもへらへら笑ってるし。
命を狙われる立場ってことを、本当にわかっているのか心配になったものだ。
自分から危険に足を突っ込んで行くし、危なっかしくて目が離せない。
誰かのために頑張る自分が好きという女は、結構見てきたけれど。
そういうのとは違う気がするし、何か芯の強さみたいなものがある気がする。
フェザーの父親である鳥族の王に会いに行ったことも。
メイコはフェザーのためというより、自分がそうしたいと思ったから行動に移したんだろう。
自分にできることを捜して、それを精一杯やろうとするところは、好ましいと思った。
今回のこともメイコにしてみれば、ただ単にできることがあったからやっただけなんだろう。
知識があったら誰でもできたなんて、メイコは自分の手柄じゃないような事を言っていた。
全ては俺やメア、クロードやフェザーのおかげで。
自分は何もしてないと、謙遜でもなく本気でそう思ってるふしがある。
例え知識があろうと、その可能性を疑ってすぐに行動に移せるやつは少ない。
俺たちに指示を出し、力を貸すようにお願いしたりして。
皆をまとめて仕事を割り振ったのは、他でもないメイコだというのに。
そんなことを考えていたら、洗濯カゴを持ってメイドのマリアがやってきた。
乾いたシーツを取り入れるマリアに、ゆっくり近づく。
「おい」
「きゃあ! 何ですかイクシス様!」
声をかければ驚いたように、マリアが悲鳴を上げる。
「頼むから、これをヒルダに返しておいてくれ」
「嫌です」
以前メイコが獣人の国に行った時、俺の部屋に忘れて行った白のパンツを手に握らせれば、付き返された。
毎日ここに来て頼んでるのに、このメイドときたら頑固で、一向に受け取ってくれる気配がない。
「ヒルダ様に気を持たせて、手を出しておいて。そういう態度は男としてどうかと思います!」
「誰がいつ気を持たせたって言うんだ。そもそも手なんて出してない!」
マリアは俺がメイコに手を出して、しらばっくれようとしていると勘違いしていた。
何度も違うと言ってるのに、信じてもらえる様子はない。
「とぼけないで下さい。ヒルダ様に竜族の衣装をプレゼントしたでしょう? ヒルダ様はあんなに喜んでいるというのに!」
「ちょっと待て俺はそんなものプレゼントした覚えはないぞ」
憤りをぶつけてくるマリアに、困惑する。
「じゃあ、ヒルダ様が皆様に見せびらかしているあの衣装は何です? イクシス様以外に誰が竜族の衣装をプレゼントするというのですか!」
「ヒルダが……竜族の衣装を?」
「えぇ。廊下の方で出くわしたら、可愛いでしょうと自慢してきました。竜族の衣装をプレゼントする度量があるのなら、下着くらい渡せるはずですわ!」
渡したメイコのパンツを俺に叩きつけて、マリアがそんな事を言う。
「ヒルダはどこにいる」
「クロード様に見せてくると、サロン方面へ向かいました」
メイコに竜族の衣装なんて、プレゼントした覚えはない。
どういうことだと、マリアに居場所を聞いてそちらへ向かう。
「竜族の衣装、よくお似合いですね――イクシスからのプレゼントですか?」
「ううん。イクシスと一緒に街を歩いてる時に見つけてね、自分で買ったの」
サロンへ行けば、ちょうどメイコとクロードが会話をしていた。
メイコが着ているのは、詰襟で横に深いスリットが入った体への密着度が高い、裾の長いドレス。
赤い布地に金の縁取り。
胸の部分が大胆に空いていて、谷間が見えるデザインになっていた。
間違いない。あれは鳥族の国へ行く時、俺の花嫁ということにするためメイコに着させていた竜族の衣装だ。
「へぇ、メイコ様がご自分でその竜族の衣装を買ったんですか。赤に金の刺繍が素敵ですね。まるでイクシスの色そっくりですが、選んだのはイクシスですか」
「私が選んだんだよ。このスリットの部分とか、胸の空いてるところが可愛いなって」
ニコニコと上機嫌のメイコは、くるりと回って竜族の衣装を自慢している。
クロードの声から抑揚が消えていることに、気付いていないようだ。
何をしてるんだあいつは……!
どうしてあの衣装を、メイコが着ているのか。
レンタル屋にはちゃんと返しておいたはずだった。
ただでさえ獣人の国に行って後、クロードが俺とメイコの仲を疑っているというのに、全く気付いてすらいないみたいだ。
どう見たってクロードのやつ、メイコの言葉を信じてないよな。
メイコが言うから信じたふりはしているものの、心の中では俺が買い与えたと思ってるんだろう。
俺と合わせたかのような色だから、余計にだ。
「後は……エリオット見なかった?」
「エリオットなら、庭で見かけましたよ」
少し前かがみになってクロードに近づき、メイコが問いかける。
クロードはメイコの胸元を見て顔を赤くして、目を逸らしながら答えた。
メイコはそんなクロードにちょっと満足そうだ。
あいつは……本当にヒルダの見た目が大好きだな。
どうにもメイコは、ヒルダの外見を気に入っているふしがある。
そんな風に誘惑して、手を出してくる男がいないとは限らないのに。
おそらく――そういう事は、頭にないんだろう。
ただ自分のお気に入りを、褒めてもらいたがる子供のような行為だ。
それはわかってるんだが、ちょっと無防備すぎるだろ。
さっきクロードに対してしていた仕草を思い出して、少し苛立ちを覚えていたら、いつの間にかメイコがいなくなっていた。
庭に行くと言っていたことを思い出して外に出れば、強い風に思わず目を細める。
先ほどよりも風が増していて、服の裾がパタパタと音を立ててはためいた。
「捲れる! やだ、やだっ!」
メイコの声がしてそっちへ目をやれば。
屋敷の入り口から少し出たところで、スカートの裾を押さえながらキャーキャーと叫んでいた。
前を押さえれば後ろが翻り、後ろを押さえれば前が危ない。
両方抑えようとすると手の面積が足りないのか、前後共に際どい所まで服が捲くれるようで、メイコからはパニック状態の感情が伝わってくる。
――まったく世話がやける。
近づいて行ったら、その瞬間近くでメイコの服の後ろ部分が大きく風に煽られた。
「ッ!」
水色の小さな布地とすらりとした足の部分が見えて。
「わぁぁっ!」
慌ててメイコはお尻の方へ手をやったけれど、今度は前が捲れてそちらを押さえた。
後ろのスカート部分が捲れないよう、背後から抱きとめてやるとメイコが俺の方を向く。
「……風除けになってやる。前だけ押さえてろ」
「あ、ありがとうイクシス!」
お礼を言うメイコは、こっちを振り向いてほっとしたような顔をする。
助かったというように。
それから、すぐにはっとしたような顔をして。
「み、みみ……見た?」
「見たというか、見せられたというか」
素直に言えば、メイコの顔がこれ以上ないというくらい真っ赤に染まる。
俺の竜の体くらい赤い。
「ううっ、もうお嫁にいけない……」
「ヒルダはすでに嫁いでるから問題ないだろ」
うなだれるメイコに、茶化すようにそんなことをいう。
前にパンツよりも凄いものを見てるので、今更と言えば今更なんだが……まぁそれは絶対に言わない。
「ところで、その衣装どうしたんだ?」
「ふっふっふ。気付いちゃった? 気に入っちゃったから、レンタル屋さんにお願いして買い取らせてもらったんだ! 皆に見せてまわってるの!」
話を変えれば、気を取り直したかのように自慢げにメイコは言う。
どうやら宿まで送るよう頼んで、その後屋敷に持ち帰ったらしい。
「……俺とお揃いの衣装が、そんなに気に入ったのか?」
「うん! 竜族の衣装って私達の世界にも似たようなのがあって、憧れてたんだ。元の自分じゃこんな綺麗に着こなせないからね!」
含みを持たせたのに、全く気付く様子はない。
明るく言うメイコの様子からして、その衣装を着て歩くことが、どんな意味を持つかなんて考えてもいない様子だ。
竜族の衣装を着るということは、竜族の女だと主張して歩くようなもの。
――つまりは、俺の女だと自分から周りに言って歩いてるのも同然なのに。
「誰に見せたんだ?」
「後見せてないのは、エリオットだけなの。庭にいるって聞いたんだけど」
尋ねればすでにほとんどの人に見せ終わった後のようだ。
……まぁ、別にいいか。
勘違いする奴には、させておけばいい。
「イクシス、何笑ってるの?」
「別に笑ってないぞ? それより、後はエリオットだけなんだな。このまま連れてってやる……好きなだけ見せびらかせばいい」
抱き上げれば、メイコから戸惑いとドキドキと高鳴る感情が伝わってくる。
本当に、わかりやすくて面白いとそんな事を思った。
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イクシス×メイコ(チャイナ)/そ様
※チャイナドレス(竜族服)のメイコとイクシスを頂きました。ありがとうございます!
※イラストと貰ったバトンより連想して書いた小話となります。