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【小話3】イクシスとメイドと白のパンツ(イクシス視点)★イラスト有

★2015/05/15の活動報告に載せていた小話を再編集したものです。

 39話「メイドと竜の逢瀬」に対応するイクシス視点の話となっております。

 イラストを描いていただいたお礼の小話となっていますので、イラスト付きです。イラスト表示を希望されない方は、小説ページ右上の「表示調整」ボタンでオン・オフを切り替えてください。

 獣人の国から帰ってきて、一つ困ったことがあった。

「どうやって返せばいいんだ……コレ」

 俺の手元には白いパンツと、服。

 メイコが俺の部屋に泊まった時に脱いだものだ。


 基本的に異空間にある俺の部屋の中は、時間が止まっている。

 なのでメイコの服は濡れたあの時のままだ。

 洗って返してやるべきなんだろうが、どうしたものか……。


 状態維持とはいえ、ずっとそのまま放置するわけにもいかない。

 とりあえずは洗って乾かすことにした。

 服の方はどうにかなった。

 問題は、この小さな布着れだ。

 

 俺が洗うの色々問題があるだろ……コレ。

 かといって濡れたまま返せるかというと、答えはノーだ。

 常識的に考えて濡れたモノを人に渡すというのもどうかと思うし、それが濡れたパンツだと……尚更アウトだろ。

 濡れてなくてもアウトなのに。


 女のパンツを洗うとか、俺のプライド的に無理だ。

 というかこの旅行中、メイコは自分で自分のパンツを洗ってるんだろうか。

 ……いや、おそらくやってないな。

 メイコはヒルダとして過ごしている。

 下着類を洗うのは、使用人の仕事だ。


 つまりは、クロードが洗っているということになるわけだが。

 ……あいつ、よくできるなこんなこと。恥ずかしくないのか。

 そこまで考えて、使用人だからそれも仕事のうちかと思いなおす。


「――っ!! くそっ!」

 洗うか、洗わないか。

 悩みに悩んで。

 結局俺はメイコのパンツを――洗った。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「メイコ、お前が俺の部屋に忘れて行った服のことなんだが……」

「あれ? みんなに買ってきたお土産の服で、まだイクシスの部屋に置いてるやつあったっけ?」

 獣人の国から屋敷に戻って。

 服一式を返却しようと声をかければ、メイコは首を傾げた。


 メイコはあの日、俺の部屋に行った事は覚えているみたいだが、その後の事はよく覚えてないらしい。

 人の部屋でパンツまで脱いで、ベッドを借りたことなどきれいさっぱり忘れていた。

 まぁそれは別にいいんだが……おかげで服を返しそびれてしまった。

 

「マリア、この服をヒルダの衣装ダンスにそっと返しておいてくれないか?」

 しかたないので、メイドのマリアに頼むことにする。

 主に屋敷の子供達の面倒を見ているマリアは、彼らの洗濯物を干している最中だった。


 マリアは三十代前半くらいの女性だ。

 メイコが自分で雇い入れた初めてのメイド。

 娘の病気の手術代を肩代わりし、息子共々世話してくれているメイコに、マリアは心底陶酔しているふしがある。


 正直マリアとあまり話したことはない。

 けれど、メイコと一番仲がよく、身の回りの世話まで買って出てる彼女なら。

 パンツをさりげなく返すことくらい簡単だと思った。


「何故イクシス様が、ヒルダ様の服を持っているのですか?」

 おっとりとした雰囲気をまとったマリアの目が、すっと細められる。

 敵意すら感じる視線に驚く。

 普段ほわほわとしているから、こんな顔をするとは思ってなかった。


「勘違いするな! これはあいつが雨の日に俺の部屋で服を借りて、それで忘れて行ったものだ。本人は風邪引いて忘れてるみたいだから、そっと返しておいてほしい」

「……わかりました。こちらだけは受け取りましょう」


 そう言って、マリアは服のみを受け取り、俺の手にパンツだけは残した。

 ……一番コレをメイコに返して欲くて、こんなことをしたんだが。


「それはイクシス様から、直接返してくださいませ。失礼しますわ」

 にっこりとそれ以上口答えは許さないという威圧感のある笑みを向けて、マリアは立ち去って行ってしまった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「イクシス様、往生際が悪いです! ヒルダ様が覚えてないのをいいことに、全てをなかったことにしようなんて!」

「だからそうじゃないって言ってるだろ! いい加減パンツを受け取れ!」

「嫌です。拒否します!」

 マリアとメイコのパンツを押し付けあう。


「何度頼まれても、わたしはヒルダ様にパンツを渡しません。それはイクシス様自らの手で、ヒルダ様に渡してくださいませ」

 あれから毎日のように頼んでいるのに、このメイドときたら強情だ。

 人が恥を忍んで頼んでるのに、容赦なくはねつけてくる。


 マリアが駄目なら、他のメイコの世話をしてるメイドに頼もうと思った。

 しかし、すでにマリアから伝言がまわっていてそれは叶わなかった。

 

 あまりこういうマネはしたくなかったが、空間を裂いてメイコのいない間に部屋に忍び込んでパンツを戻した。

 最初からこうすればよかった。

 そう思っていたら、マリアに呼び出された。


 場所はいつもの洗濯を干す場所。

 パタパタとシーツが風になびいていた。


「俺はもうお前に用はないんだが、何だ呼び出して――ぶっ」

 顔に何か投げつけられた。

 どうやらメイコのパンツのようだ。


「見損ないました。そこまでしてあなたは、ヒルダ様が忘れているのをいい事に都合の悪い事実をなかったことにしたいのですか! 男として最低です!」

「いやだから。何度説明したらわかる? 雨の日にヒルダが俺の部屋に置いて行った服だって言ってるだろうが!」

 このメイド、人の話を聞かないにもほどがある。

 そろそろ一週間くらい経つのに、話はずっと平行線だ。


「それは聞きました。服がないヒルダ様は生まれたままの姿で、さぞかしお綺麗だったことでしょう」

 にっこりと笑うマリアの顔には、この女の敵めと書いてある気がした。

 さすがにげっそりしてくる。


「わたしは何もイクシス様を責めてるわけではないのです。むしろ、二人はお似合いだと思っています。イクシス様は偉大な竜族。ヒルダ様のお相手として不足はございません。ですからヒルダ様に変な虫がつかないうちに、さっさとくっついていただかなければ困ります」

 ほら行け、さぁ早くパンツを渡してくるんだとばかりに、マリアが俺の背を渡り廊下側へ向けて押す。


 俺を突き飛ばして後、踵を返して早足になって立ち去ろうとするマリアを、後ろから羽交い絞めにした。

 それからその手に、メイコのパンツを握らせる。

「だから、俺とヒルダはそういう関係じゃない。いいかげん受け取ってくれ。頼むから」

 もう弱りきって懇願すれば、俺からマリアが少し距離を取った。


「イクシス様。こういうのはちゃんと自分で直接渡すべきです。何度言えばわかるんですか」

 首を横に振り、マリアが溜息と共に俺にメイコのパンツを返してきた。


「いやそっちこそ何度言えばわかるんだ。マリアが返してさえくれれば、事は穏便に済むんだ」

 それをさらに返す。

 何度かそれを繰り返した。


「だからどうして服はいいのに、パンツは駄目なんだ!」

「そうやってなかったことにしようという、イクシス様の態度がわたしには許せないからです。男なら自分のした事の責任をきちんと取るべきです」

 さすがに苛立って叫べば、マリアが毅然とした態度で俺を睨んでくる。


「だからヒルダとは何もないって言ってるだろ! 勘違いだ!」

 失礼しますと逃げようとするマリアの手をぐっと掴んで、そうはさせるかとメイコのパンツをその手に握らせる。


「へぇそうなんですか。それならどうして堂々となさらないのですか。勘違いなら何のためらいもなく、ヒルダ様に渡せるはずでしょう? 毎日毎日わたしの元に来て同じ話ばかり。後ろめたいからじゃないのですか?」

「こんなもの直接渡したら俺が……みたいだろうが!」


 冷たい視線をマリアは向けてくる。

 後ろめたいも何も、本当に何もなかった。

 何もなかったんだから、何事もなくパンツを返したいこの気持ちが、どうしてマリアには伝わらないのか。


 これ忘れていったぞとメイコにパンツを返せば……何かあったと勘違いされそうだ。

 そもそもどんな顔してパンツを返せというんだ。

 変態みたいじゃないか。

 しかもメイコのパンツを洗ったなんて……あまり言いたくないし、知られたくない。

 メイコの気持ちになって考える事はするくせに、このメイドはさっぱり俺の気持ちを汲もうとしてくれなかった。


「ならいっそ、新しい下着をプレゼントしてください。サイズは65のDで、スリーサイズは上から80、62、83。白かピンクがいいと思いますけど……そこはイクシス様の好みにまかせます。当然上下のセットにしてくださいね? 結局はイクシス様を喜ばせるためのものなのですから」


 本当このマリアというメイドは何を言ってるのか。

 誰もスリーサイズなんて聞いてない。

 そもそも新しい下着なんてプレゼントしたら、それこそ何かあったみたいだろうが。

 変に下着を返却するより、事態が悪化する。


 ……よし、もう返すのは諦めよう。

 メイコもパンツの存在を忘れてるみたいだし、最初からそうしておけばよかった。

 そもそも、なんで俺がこんなに気を揉まなければならないのか。

 馬鹿馬鹿しい。

 

「イクシス様、下着を自分のものにするのは許しませんからね!」

 後ろからマリアの声が聞こえる。


 誰もそんなこと考えてないというのに。

 しかし返さないにしても、どうしたらいいのか。

 捨てることもできないし。


「はぁ……」

 あのメイド、苦手だ。




■■■イラスト■■■



挿絵(By みてみん)

イクシス『本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました』/如月様

※カラパレのお題イラストで「18歳くらいで、羊っぽい角があって、ドラゴンの羽が生えてて、釣り目がちのツンデレです。髪の長さはおまかせ」という指示で描いてもらいました。如月様ありがとうございます。

※イラストを貰って、書かせてもらった小話となります。

 

★2015/12/31 ヒルダのバスト、およびスリーサイズにおかしなところがあったため、変更しました。

教えてくれてありがとうございます!

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★6/24 「彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート」本日17時完結なので、よければどうぞ。
 ほかにも同時刻に、ニコルくんの短編も投下予定です。  気が向いたら感想等、残していってくれると励みになります。
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