【小話2】竜の看病(イクシス視点/29.5話-2)
★2015/06/04の活動報告に載せていた小話を再編集したものです。29話と30話の間で、メイコが獣人の国で寝込んでいる時のイクシス視点のお話となります。
レビューのお礼小話で、小話1の後の話ということもあり「割り込み投稿」をつかって投稿しました。
人のベッドですやすや寝たと思ったら、メイコがいきなり熱を出した。
朝方起きたら横にいるメイコの体温が高くて、息が荒くて。
何事かと思って、急いでクロードの元の連れて行ったら風邪だと言われた。
正直、メイコが苦しそうにしていて焦った。
たぶん精神的な負担から来るものだろう。
たかが雨に降られたくらいで、風邪を引くとは思えない。
いやでも……人間は、これくらいで体調を崩すんだろうか。
高いところに連れて行っただけで、メイコは一度眩暈を起こしていたし……だとしたらあまりにも脆すぎる。
苦しいなら苦しい、辛いなら辛いと吐き出してしまえばいいのに。
限界まで溜め込むメイコも悪いが、感情を読み取れるのに気遣えなかった俺も悪い。
熱を出したのは、自分が幽霊だと知ったショックが大きな原因だろう。
けど、たぶん俺が鳥族の国でやらかしたこともメイコの中で負担になってたはずだ。
こんなことで死んだりはしないはずだ。
そう思うのに落ち着かない。
寝ているメイコは苦しそうに息を吐いていて、こんなときどうしたらいいのかわからない。
竜族は怪我はともかく、病気になるやつなんてほとんどいなかった。
何もできないのがもどかしい。
兄のオーガストみたいに水属性の魔法が使えたなら、少しくらいは何かしてやれたはずなのに……俺ではそれもできない。
側をうろうろしていたら、メイコがほんのりと目を開けた。
「メイコ、大丈夫か!?」
「……?」
声をかけてみたものの目が虚ろだ。
俺の言葉の意味もわかってないっぽい。
「ご飯食べられるか?」
メイコが何も答えない。
目の前にいるのに、メイコの目に俺が映ってないことに不安になる。
クロードは現在出かけている。
その間にフェザーとメイコが起きたらご飯を食べさせて、薬を飲ませろといわれていた。
メイコの背中にクッションを入れて上半身を起こす。
「おい、メイコちゃんと口開けろ」
食い意地の張ってるメイコの事だ。
ご飯はすぐ食べてくれるだろうと思ったのに、うまく食べてくれない。
ぼろぼろと口元からお粥をこぼすし、水すら飲もうとしてくれなかった。
苦しそうに唸って、荒い息を吐き出している。
「食べないと、薬が飲めないだろ。それだと治らないんだ。頼むから食べてくれ……メイコ」
俺のお願いも、メイコの耳には届いてない。
自分の口から出た声は思いのほか弱々しくて、酷く動揺してしまっている自分に気付く。
腕の中のメイコはくったりとしていて、儚げで。
どんな状況だって生気に満ち溢れていた体に、力が感じられないことに焦る。
苦しくて辛いのはメイコのはずなのに。
どうして俺が、辛くて苦しい――こんな気持ちになってるんだ。
ずっとこのままで、弱っていったら?
側で昨日まで元気に笑ったり、泣いたりしていたメイコが、突然俺の前からいなくなるところを想像してしまう。
考えただけなのに――足元から底知れない穴に落ちていくような感覚がして。
そんなのは絶対に嫌だと思った。
「……」
俺の口に粥を含ませて、直接メイコの口の中に届ける。
口の中は熱い。
ゆっくりと誘導してやれば、こくりとメイコは飲み込んだ。
何度か繰り返せば、もっとというように催促してくる。
要領を得たのか、俺の口から奪うようにしてお粥を食べた。
ついでに同じようにして水も飲ませてやる。
薬の時だけは苦かったのか、舌を押し返してきたけれど。
……頭を押さえ込んで無理やり飲ませた。
横になってまた寝てしまったメイコは、すやすやと寝息を立てている。
さっきより、安らいだ顔をしていることにほっとした。
「早く元気になれ」
そうじゃないと、俺がどうにかなってしまいそうだ。
メイコが元気じゃないと、調子が狂う。
口の中が――苦くて熱い。
まだ薬の味がメイコの舌の感触と一緒に、残っている気がした。




