強くな……れなかった。
前回の撮影での一幕。
静「ちょっと!私のバストはエふがっ!」
真紀&聖「「ちょっとこっち来ようか?」」
~三分後~
静「私のバストはEであっています……(ガクブル)」
成人&雄次郎「何があったんだよ……」
真紀&聖「(ニコニコ)」
静が地雷を踏んだ事で場がちょっと気まずい雰囲気に包まれたが、ちょうどいいタイミングで王様が出てきた為何とかなった。
隣には第三王女と少し背の高く、王様に似た鋭い雰囲気を持つ女性がいた。
恐らく、外交の用事で今までいなかった第一王女だろう。
この人も美人だ。
「勇者皆様、今までの訓練お疲れ様でした。明日はいよいよ迷宮攻略となります。今日の所はここで終わりにしましょう」
第三王女がそう言ったら直ぐに近くにいた王様と第一王女は下がってしまった。
あんたら何しに来たん?
そう言えば、良くある異世界モノで、王様に呼ばれて玉座の前とか、謁見の間とかに通されたりするけど、俺達の場合は人数が人数だから護衛の関係で、広間の時しか王様は来ないらしい。
閑話休題。
王女の言葉に従って他のクラスメイト達も大広間を出ていき始めた。
俺達も出ていこうとしていたが、勇者一号の磯貝君とその一行が何やらニヤニヤした顔でこっちに来る。
「ちっ……ゴミめ」
「そう言う事を淑女が言ってはいけません」
毒を吐いた静を一応たしなめた。
まぁ、また数日したら吐くんだろうがな。
「よう、最初は強かった勇者君。どうだい?無駄な訓練の調子は?」
「今晩わ。磯貝君、田中君、加藤君、鹿屋君。君達は順調に強くなっている様だね。羨ましいよ」
普通の人ならこんな嫌みを言われたら怒るだろうが、俺はコイツの嫌がらせには慣れているし、伊達に誰と話すときもポーカーフェイスを保っていない。
こんなんじゃ挑発にすらならないね。
そもそもコイツは嫌みを言いに来ただけなのか?暇人め。
俺に軽くスルーされた事に頬がひきつっているが、まだやるらしい。
後ろの奴等はずっとニヤニヤしているから余程頭が残念なのだろうな。
高慢な雰囲気が崩れ、素になったね。
慣れない事をするからだ。
「そんなに無能なてめぇが何で勇者何だろうな?今なら俺の指一本でもお前をなぶれるぜ」
「っ……死にたい様だなゴミめ」
「異世界来て外聞気にしなくて良いからって調子に乗ってるみたいだね」
「ちょ、ちょっと、流石にそれは」
「止めましょう二人とも。明日は迷宮攻略何ですよ!」
挑発に耐えられなかった静と成人が実力行使に出そうだったので真紀と俺で必死に止めた。
聖はノータッチだったが、いつもの無表情が少し怒っているように見えたのは俺の自惚れかな?
俺達があたふたするのを見て満足したのか、磯貝達はいくつかの嫌みを残して広間を出ていった。
「……何故止めたの?今なら私に力があるのに」
静が恨めしそうに聞いてきた。
見れば、成人も同じ様な目で俺を見てくる。
「さっきも言いましたが、明日は迷宮攻略何ですよ?体力を温存しようとは思わないのですか?」
「でも!」
「でもじゃ無いです。さ、わかったら部屋に戻りましょう」
磯貝の実力も最初の時のしか知らないのだから下手したら静よりも強くなっている可能性もある。
そもそも勇者同士がぶつかったら回りにいる人間がどうなるかわかったもんじゃない。
第三王女の魔法を見なかったのか?
これ以上の反論は面倒なので話を切り替え、直ぐに広間の出口へと向かった。
「……ヘタレ」
……ヘタレで結構。
いつか襲ってやる。
…………………………たぶん。
━━━
朝になった。
興奮で眠れなかったとは成らなかった。
恐らく、姫様の訓練が原因だろう。
他の皆よりは眠れたに違いない。
部屋を見渡すと何やら訓練の時に使っていた重い鎧とは違う、軽そうな鎧の装備が置いてあった。
それなりに豪華だが、訓練の時回りにいた騎士よりも軽装で、動きを阻害されることはあまり無さそうな装備だった。
何かを装備するとステータスも上がるのでステータス板を出してみた。
ちなみに訓練の時は10程上がる装備だった。
※※※
空閑 雄次郎 男 16歳
レベル1
体力:110/110
筋力:110/110
敏捷:110/110
魔力:110/110
耐久:165/165
魔耐:165/165
属性 無
《スキル》言語理解
《称号》勇者 召喚者
※※※
「おお~。55も上がるのか~」
これは凄い何故なら俺は一回の訓練で精々3しか上がらないのだから(泣)。
あ、もしかして、この装備って元々の防御+50%なのかな?
……あれ?俺、性能あんまり発揮出来てない?
……ま、まぁ、普通はレベルアップで個人差はあるがステータスは訓練の10倍近く上がるらしいからこれからだ!
静は訓練であれだけ上がったんだから、俺もレベルアップでそれなりになるはずた!
ならなきゃ困る!
そこまで考えていた所で、昨日の晩餐では会わなかった人の声がした。
「貴様ら!!起きろ!寝坊は許さん!!」
今日は特別訓練が無いのでおれの部屋には入らず、廊下で姫様が叫んでいた。
今日は耳元で叫ばれないから助かった…………と思ったら、入ってきたよ。
「おはようございます姫様」
「おはよう。……その装備は全員に至急した物だが、君にはあまり効果が無さそうだな」
俺が新しい装備をつけているのを見た姫様が相変わらず、無愛想に言った。
ただ、俺と話す時は少し柔らかくなっているが。
「そうですね。仕方ありません。……して、何故姫様がここに?今日は特別訓練は無いのでは?」
「ああ。君にこれを渡そうと思ってな」
姫様は左手に持っていた手作り感溢れる銀色の素材で出来たミサンガを渡してきた。
所々ほつれていたり、他の色が無い質素な装備だ。
「これは?」
「これは上級魔物の金銀羊から採れる銀糸で作った上級装備だ。名はまだつけていない」
フフンと鼻をならして姫様が胸を張った。
……鎧が無ければ大きさがわかるのに。
姫様が着ている鎧はブカブカで中の体格がわからない。
「上級魔物?」
「ああ、まだ教えていなかったな。魔物については前に教えたな?迷宮などに出てくる魔力で出来た獣だ。その中にはランクがあり、初級、中級、上級、青級、黄級、赤級、黒級、の順に危険度とレア度が上がっていき、最後に伝説の白級がある。今の君の実力は中級だな」
「俺で中級あるんですか?」
つかテンプレまた来たよ。
何だよ白級って。
「ああ。大体ステータスが平均100あれば中級クラスだな。因みに、上級は1000だ。その上はまた今度教える」
「はぁ」
テンプレ多すぎて理解しやすいのは良いのだが、これで良いのか異世界。
「装備のランクは色々あるが、ランク付けは魔物と同じく、初級から白級まである。上級以上は作れる職人が少ない為、赤級以上は国内に存在しない。上級も100も無い。
今回君達に至急した装備は上級だ。国内にある半分を君達に貸し与えたんだから頑張らないとな」
フフフと姫様が妖しく笑った姫様が俺の次の疑問を先読みしたかの様に説明してくれた。
どこのRPGだよ。
「それは良いとして、何故俺にこれを?もしかして身体強化系の?」
それなら残念ながら俺にはあまり効果の無いモノ何だが……まぁ、無いよりは増しかな?
「いや、それは気分的な御守りだ。この国では銀の糸で作られたミサンガをつけていると良いことが起こるらしい」
「ああ、なるほどありがとうございます。……上級装備なら高かったでしょう?」
どうせならステータスに関係無く一定のパブのつく装備が欲しがったが、俺にだけ姫様がくれたんだ。
贅沢は言ってられない。
それにしても作りが雑だな。
異世界ではこういうのは普通なのか?
「…………手作りだ」
「えっ!?」
今何と言いました!?手作り?美少女の!?
あ、やば、興奮しすぎたかも。
姫様、赤くなってるし。
……可愛い。
ギャップ萌の気持ちがわかるわぁ。
「べ、別に昨日徹夜して作った訳じゃ無いぞ!暇だったからな!」
ツンデレ頂きました!
しかも自分で徹夜したってバラしちゃってるし!
可愛すぎるよ姫様!
「姫様……ありがとうございます。一生大切にします」
「……あ、ああ。って、ミサンガは切れたら願いが叶うモノだろう?切れなきゃ意味が無いぞ」
自分でバラしてしまい、リンゴの様に赤くなった姫様を眺めているのも良かったが、時間も無いので礼を言って済ませたら姫様に笑われた。
「いえ、切れないように大切にします。何せ、姫様が俺にくれたモノですから」
「……」
……段々赤くなる姫様も可愛いなぁ~。
和むわぁ~。
「う、うむ。好きにしろ!さっさと行くぞ!」
「わぁ!待って下さい!まだ装備の下、寝間着ですから!」
この後姫様に出ていって貰って急いで着替えて外に出たら俺と同じ鎧の装備をきた皆がそろっていた。
どうやら俺がビリの様だ。
「揃ったな!では城門まで案内する!ついてこい!」
姫様の合図でクラスメイト達と一緒に廊かを進んだ。
途中、侍女や一緒に来ない騎士達に「ご無事で!」や「頑張って来い!」などの声援を浴びて(俺への応援は何故か三割増しで心配そうだった)城門に着いた。
「ここからは私と15人程の騎士しか居ない。いざと言うときに貴様らを助けきれるかは保証出来ない!死にたく無ければ私達の指示に従え!」
こうしてクラスメイト達と姫様と15人の騎士達と一緒に王宮に最も近い迷宮、『パンドラ迷宮』へと向かった。
━━━
「であああ!」
俺達は今、何層あるかわからない迷宮の一階層にいる。
そこでクラスメイト5人組で別れてローテーションしながら全員に支給されたそれなりの装備で、一階層に出てくるザコ魔物を狩っていた。
そこに一人か二人の騎士がついて下に降りない様に案内していた。
現在、二十層まで完全にマッピングされているらしく、五層までなら俺以外余裕で大丈夫だが、初日は安全マージンを取って一層らしい。
そうとう広いので場所がかち合うという事も無い。
俺がいるグループは学校にいた時の何時もの成人達と姫様だった。
このグループでは断トツに弱い俺の事を邪険にせず、レベルアップを手伝ってくれる友人達と姫様に感謝!
で、今は迷宮で狩りを始めて一時間経つ。
交代で狩りをしていたのと、俺の時は姫様がサポートに入るということで、経験値が分散されてしまい、他の奴は皆、2になったのに、俺だけレベル1のままだった。(姫様と静が最初に睨み合いをして時間を食ったというのもあるが)
「他のグループはもうレベル5位行ったかな?」
「恐らく。だが気にするな。気にしても意味が無いぞ」
俺を気遣ってくれるのには涙が出そうになるのだが、姫様よ、後ろから殺気が漏れている子がいるが、大丈夫か?
「第二王女さ……」
「あっ、魔物発見!」
「よし!これを倒せばレベルアップだぁ!」
良いタイミングで出てきたのはザコ魔物のラビットビーン。
豆をよく食べる、見た目が豚の様な兎だ。
始めて見た時、吐き気がしたが、殺したときに光の粒になったから吐く事は無かった。
魔物を殺すのには抵抗が無かった。
初めて魔物を殺して経験値が溜まった時、ステータス板に『経験値』の欄が入っていて、俺の経験値は『98/100』となっていた。
前が現在の経験値で、後ろがレベルアップに必要な経験値だ。
ラビットビーンで手にはいる経験値は14。
姫様と協力しても充分だ。
「っち、何だよ。先に見つけられちゃったのかよ」
後ろから声が聞こえてきたから振り向いて見ると、磯貝達がいた。
魔物は先に見つけたグループが狩る事になっているので、手出しをして来ないのだろう。
「磯貝、そこにもいるぞ!」
磯貝達のグループの真後ろにもう一匹のラビットビーンが表れていた。
「しゃ!狩るぞ!」
「おう!」
磯貝が合図して向こうは始まった様だ。
「私達も狩るぞ!」
「了解!」
そう言って俺は走りだした。
と、言ってもラビットビーンは余り動きが速くない。
姫様に気をとられていまラビットビーンの隙をついて至急された片手剣で首を跳ねると光の粒になって消えた。
残ったのは、ドロップアイテムの『兎の豚肉』だけだった。
最初に思ったが、どっちだよ。
しかし、これで俺もレベルアップ出来る。
そして、俺の頭の上でレベルアップ音が響いた。
皆に合図してステータス板を出した。
※※※
空閑 雄次郎 男 16歳
レベル2
体力:111/111
筋力:111/111
敏捷:111/111
魔力:111/111
耐久:163/163
魔耐:163/163
属性 無
《スキル》言語理解
《称号》勇者 召喚者
※※※
「「「「「「えっ!?」」」」」」
ほとんど上がっていなかった。
いや、訓練の時とほとんど一緒だった。
俺達が呆然と俺のステータス板を見ていると、向こうにいた磯貝達がラビットビーンを数体狩っていた様で、ステータス板を見ていると声が上がった。
「おっ、……スゲー俺も勇者になったぜ!」
は?
「えっ!マジ!?」
「おおよ!って田中もじゃんかよ!」
「マジかよ!って皆《勇者》じゃん!」
「おっ、やべー!!勇者増産されてるし!」
「悪りーな磯貝、特権奪っちまったぜ!」
称号に《勇者》が追加された磯貝の取り巻き達がはしゃいでいたが俺はそんな現実を見たく無かった。
俺のこの世界でのアイデンティティーが無くなる。
レベルアップしても変わらないステータスだけでも大ダメージなのだ。
ダメ押しなどいらない。
「ふっ、俺は更なる称号をゲットしたぜ!」
「マジ!?どれだよ!?」
磯貝もこれ以上強くなるなよ!
「これだよ。ほら、《二属性持ち》って奴!属性も『風』と『土』になってるし、やっぱ勇者は俺だな!」
「抜かせ!ギャハハハ!」
磯貝は勇者補整で更に強くなっていたらしい。
じゃあ、俺は?と、姫様を見ると、悲痛そうな顔で、
「……すまない。訓練もレベルアップダメとなるともう……」
俺は膝から崩れ落ちた。
本日四話目です。
今日はあと一話で終わりです。
更新は十時頃です。
誤字脱字、感想などあったら受け付けております。
宜しくお願いします。