魔国での一日
レラージュの自殺を止めたあの日から十日が経った。
「おはようございます」
「おはよう」
まず、変わった事。
監視がつかなくなった。
前まではいつ何時も監視がついていて、風呂に入っている時すら監視がついていた。
それが、あの日から全く無くなった。(風呂には何故か必ずロノとシードがついてくるが)
次に、周りの態度が超軟化した。
使用人達は相変わらずだが、騎士達はロノと俺の戦いを見て、俺の強さに惚れたらしい。(意味わからん)
最初に、メチャクチャ付きまとわれてうざかったからロノに話したら俺と二十秒以上話していた奴は訓練の量が倍になると言ったらしい。
それで半分は減った。
残りは構わず付きまとってくる。
正直、うっとおしい。
そして、イルミーさんの態度も軟化した。
先程の挨拶は朝食の前に、トイレに行くために部屋を出たら偶然会ったから挨拶をした。
イルミーさんは口調こそ相変わらずだが、色々気を使ってくれる様になったし、トゲも無くなった。
最後に、問題のある変化を起こしたのが二人いる。
まず……
「おはよ。雄次郎♪」
「うん。おはよ」
「はい。おはようのチューは?」
「……後でな」
シルヴィア。
あの日に彼女をもっと大事にすると誓ったはずだが、シルヴィアの方も更に俺への愛が増したとか言ってスキンシップが増えた。
具体的には、おはようのチュー、事ある毎のハグ、疲れた時に頭を撫でる、おやすみのチューetc。
今までは人様の家だからと自重していたのだが、シルヴィアはそれを無視して甘えてきた。
流石に一緒に寝たりはしないが。
「ごほん、ごほんごほん」
ほら、後ろでイルミーさんが凄く気まずそうな顔をしているから止めなさい。
「ちぇっ。また後でね」
「はいはい」
「ゆ~じろ~!!」
「……」
一難去ってまた一難。
問題の二人目だ。
「廊下を走るなレラージュ」
「儂の家だ!関係無いっ!」
屁理屈を言いながら俺の胸に飛び込んで来たので、《転移》で右側に避ける。
レラージュは受け身を取れずに顔面から落ちて、床とキスをした。
彼女が問題の二人目ことレラージュ。
問題は至極簡単。
あの日にちょっと優しくしただけで、俺にベタ惚れしてしまう位のチョロさ。
そのせいで俺は毎日監視が無い代わりに付きまとわれている。
シルヴィアのスキンシップが増えたのは、レラージュに対する危機感かもしれない。
レラージュは何故か300を過ぎても立場上、初恋すら未経験だったらしい。
その純真無垢なレラージュは、彼女を救った俺に簡単に靡いてしまったらしい。
見た目中学生程度なのだが、普通に可愛いし、そんな彼女に惚れられているのは悪い気はしない。
だが、俺にはシルヴィアがいる。
それを理由に断ろうとしたが、
「え? 雄次郎が私を捨てなければ全然OK♪」
何故かハイテンションなシルヴィアに断る事を断られた。
理由を聞くと、俺程の男なら女が二、三人いるのは当然で、寧ろ何処の馬の骨よりも一緒に風呂に入る程の仲のレラージュなら万々歳。(仲良くなるの早すぎだろ)
自分が信用されていない頃ならまだしも、シルヴィアを信用に足ると俺が理解したので、自分を捨てない限りは大丈夫らしい。
まさかのハーレム許可。
そこまでなら俺的にも嬉しいのだが、問題は……
「……」
何処のお母さんだとツッコミたくなる程のイルミーさんの過保護さ。
レラージュが絡まなければ普通に接してくれるのだが、レラージュが近くにいるだけで、俺の存在を無い様に扱い始める。
食事の席でいきなり無視され始めたのは精神的にキツかった。
ついでに暑苦しい。
毎朝体当たりハグか、キスを強要してくるし、寝込みを襲われかけた時は少し本気で逃げた。
てなわけで、俺はまだレラージュを認めていない。
ハーレムなんて目指している訳じゃ無かったし、ある程度落ち着いたらそこで一生を過ごそう何て思っていたんだ。
ここでレラージュを認めたら色々大変だ。
主にレラージュの《魔王》としての立場とか。
そうそう。
レラージュは新しい《魔王》になった。
前《魔王》が死んだし、跡継ぎも居なかったから、血縁で一番近かったレラージュがなった。
前《魔王》を推していたという貴族の奴等は、まだ動いていないらしい。
それどころか、レラージュに協力的な奴も出てきた様だ。
イルミーさんは不気味だと言って警戒していたが、そのおかげで国の混乱も最小限に抑えられ、レラージュの新体制も整いつつあると言う事だ。
そして、何故か俺とシルヴィアは人間との戦争終了の為の平和大使、つまり交渉人になった。
これは三日前に、レラージュの戴冠式が終わった後呼び出されて、シルヴィアと二人でイルミーさんから話を聞いた。
シルヴィアは既に知っていて、後は俺次第だったらしい。
初耳だったし、メリットがあまり無かったから、渋った。
しかし、よくよく考えて見ると、シルヴィアはやりたいと言っているから尊重したいし、身分が証明が出来ないから色々不都合が起きるという問題は、新しく《外交官》として作ってくれるらしい。
その役目の後も、色々融通されるという。
このままじゃ無職のままなので、それはありがたい。
次に、戦争が無くなれば《勇者》の役割がいらなくなる。
《魔王》を倒せば地球に帰れるという話は嘘臭いが、少なくとも、ウィーンに残った奴等は、必死になって努力する必要は無くなるだろう。
全員助けてやる義理も無いが、このまま放置も可哀想なので、助けてやろう。
もし俺が《元勇者》という事がバレても戦争が無ければ逃げられる。
他にもある。
まず、報酬が破格だし、全部終わらせれば一生遊んで暮らせる。
《外交官》として以外にも、《冒険者》としての身分も作ってくれるらしいし、望むなら亡命してきた凄腕の用心棒として、本当の身分を隠してくれても良いらしい。
デメリットは、まず旅をするという事。
普通に歩いたら、この国から近くの《亜人》の国まで、それなりにかかるし、ましてや人間の国全部となると更に時間がかかる。
イルミーさん曰く、急ぐのは《亜人》の国と一番近くの人間の国だけらしく、後の残りはゆっくりで良いらしい。
その二つさえ終われば、三年位遊んでからでも大丈夫と言われた。
それで良いのか《外交官》。
次のデメリットは交渉をすること。
これは値切りの交渉とは訳が違う。
賠償金、その国との関係の改善策、謝罪、水面下での駆け引き、その他諸々。
交渉決裂ならまだ良いが、話を聞く以前の問題になったら大変だ。
今は膠着状態の戦争が再開され、《外交官》として、俺とシルヴィアは難しい立場になってしまう。
そうならない為の《外交官》なんだがな。
これも下手したら数年どころか数十年かかる可能性がある。
それはごめん被りたい。
そもそも、俺はつい最近まで違う世界にいたのだ。
そんな俺にいきなり《外交官》何て無理だ。
しかし、魔族本人達がそれをやると、他の種族から物凄い攻撃を受け、その国にたどり着く前に倒れてしまう可能性があり、かと言って他の種族は長らくこの魔国には居なかった。
そこに俺達が登場。
と、言うわけだ。
つまり、俺達にとっては最悪のタイミングだった訳だな。
これらのメリット、デメリットを踏まえて考える……やっぱりデメリットが大きい。
しかし、メリットも大きいから悩む。
ニ日考えて昨日の夜、引き受ける事にした。
一応、俺達が引き受けるのは魔族の入国の許可と正式な和平交渉だけという事にしてもらい、最悪、その交渉の席を作るだけという事にしてもらった。
レラージュ達はそれだけでも助かると、喜んでくれた。
俺達とあまり関わらなかった残りのレラージュのお付きの二人は、俺達が裏切る可能性もあると言われたが、引き受ける以上、そんなつもりは全く無い。
と答えると、イルミーさんとレラージュもそこは安心してほしいと援護してくれた。
どうやら数日の間で俺達の株はかなり上がったらしい。
色んな事が連続で起こった十日間だったが、本日はたぶん何も予定は無い。
強いて言えば、朝シルヴィアに甘えられ、レラージュの抱擁を避けた程度だ。
で、現在。
朝食を食べ終わり、することが無くて暇である。
「暇だ……」
「暇か!?」
「どわぁ!」
自分の部屋で呟いただけのつもりだったのだが、ロノが期待した顔で飛びこんできた。
窓から。
「何の用だ。というか、何で窓から来た?ここは三階の俺の部屋で、窓から入るという習慣は無いが?」
「悪い悪い。雄次郎が暇なら訓練を見に来てくれないかと思ってな。本当に暇みたいだし、着替えたらすぐに来い!」
「え、あ、あ~……」
すぐにロノは行ってしまった。
三階の窓から飛び降りて無事なのは現代日本では考えられない事だが、異世界では日常茶飯事で、人間にも出来る奴がいる位だ。
気にしていたらきりが無い。
しかし、プライバシーの問題上、窓とカーテンは閉めて置いた方が良さそうだな。
「断る隙が無かった……」
ほんの十秒もしない内に帰ってしまったので、挨拶すら出来なかった。
まぁ、いつも風呂で会うのだが。
訓練を見に行くという事は、またロノと対戦する可能性を考慮しなければならない。
正直、疲れるから面倒だし、断ろうかと思ったが、どうせ暇なので付き合ってやろう。
ちなみに、俺が吹き飛ばした訓練所の地面は次に見た時にはコンクリート見たいな物で固められてグレードアップしていた。
魔法を使えば現代科学無くしてコンクリートは愚か、超強化ガラスすら造れそうだ。
ま、俺は何でも創れるけどね。
外用の服を着て窓辺に立つ。
この服はレラージュが用意してくれた物で、黒い革靴に黒い靴下、黒いスーツ見たいなズボンに黒いインナーシャツ、黒い長袖ワイシャツに黒いスーツの上着。
何色が好きと聞かれて、黒が好きと答えたら、全身黒一色になってしまった。
現在、この国は日本で言う冬の季節で、普通に今までの格好じゃ寒い。
防寒のスキルは一般人でも持っているらしいから怪しまれはしないが、やっぱりスキルに頼りっきりだとダメな気がするので防寒の為にマフラー(黒)と耳当て(黒)をしていく。
唯一黒く無いのは、紫色の縁のモノクルだけ。
これは俺の《真偽眼》が常時発動していて、どうでも良いことに魔力を使ったりするのがバカらしくなったから、レラージュに相談したらくれた魔導具で、色が他に無かったらしい。
このモノクルはレンズから半径五センチの間でスキルを発動させない代わりにレンズから光をだせる様になるという魔導具らしい。
普通はメリットとデメリットが釣り合わないので今まで倉庫の奥にしまわれていた物らしい。
俺の《真偽眼》が発動しているのは右目だけだった様で、右目用のモノクルをつけていれば《真偽眼》は発動しなくなった。
レラージュは《虚偽縛り》というスキルで嘘を見抜けるらしい。
このモノクルはそのスキルの威力を上げる実験の時に偶然出来た物で、今まで忘れ去られていた様だ。
《虚偽縛り》は、《真偽眼》と違って常時発動はしないが、一度に一人だけにしか発動しないし、一人に使ってしまえば次の日没までその人物にしか発動出来なくなるというスキル。
その回数制限の改良は失敗したが、おかげでモノクルが出来た。
レラージュ達の研究に感謝だな。
ただ、デザインがな……紫は無いわ。
「雄次郎~、私のペンダント知らない?……ってアレ? 何処か行くの?」
シルヴィアが部屋に入ってきたので振り向くと、怪訝そうな顔をされた。
俺が何処へ行くと思っているのだろうか。
「ちょっとロノに呼び出し食らってな。訓練所まで来いだってさ」
「あ、私も行く」
シルヴィアが部屋にとって返していった。
ペンダントはどうなったのだろうか。
勝手に行く訳にもいかず、待つこと三十秒。
「よし。行こ!」
「はや」
外様の服へ早着替えしてきたシルヴィアの胸には無くしていたはずのペンダントがぶら下がっており、跳ねていた頭頂部の寝癖は綺麗に消えていた。
普通は男より女の方が身なりを整えるのが遅いんじゃ無かったっけ?
ま、良いか。
さっさと行こう。
「よし。行くぞ」
「うん」
シルヴィアの手を掴んで、窓から飛び降りる。
「キャーー!」
後から落ちてきたシルヴィアから悲鳴が聞こえるが、何て事は無い。
ふざけているだけだ。
シルヴィアは既に三回はこれを経験しているのだからな。
シルヴィアの悲鳴を聞きながら地面に着地する。
地面に足が膝辺りまで突き刺さった事以外は大成功だ。
落ちてきたシルヴィアをお姫様だっこの状態になるようにキャッチして、着地終了。
足が更に沈んだのはご愛嬌だ。
足を抜いて、泥を払い落としてから訓練所に向かう。
たった十日位前にも行ったはずだが、あの時の事はロノと戦った記憶が殆どを占めてしまっているのでどんな所だったかもあやふやだ。
確か、このまま真っ直ぐ歩けば……
「おーい。ゆーじろー」
「あったあった」
城の方が少し盛り上がっていて、丘の様な地形になっているので、低地にある訓練所は丘を降りなければ良く見えない。
ロノの姿が見えたので、シルヴィアの手を引きながらゆっくりと歩いていく。
今日も前と同じ様に訓練していた騎士達はそれを中断してロノの元に集まっていた。
「あれが……」
「ああ。あの人が兄貴の嫁……」
「兄貴が選ぶだけあって人間だけど、美人だな」
「その通りだな。騙されてもいないみたいだし、兄貴は幸せ者だな」
「だけど、レラージュ様……じゃなくて《魔王》様も兄貴にホの字って噂が……」
「何っ!! いくら兄貴とは言え、《魔王》様に手を出すのは……」
「いや、兄貴に限って甲斐無しとはならないだろう。団長に肉弾戦で勝てる位だ。《魔王》様に見初められてもおかしくはあるめぇ」
「くっ……羨ましい」
「リア充爆ぜろ……しかも二人とか……」
「バッ……声がでけえ! それは黙っていろよ!」
何かステータスが上がったと同時に聴力も上がったのか、騎士達の囁きが聞こえてくる。
主に男ばかりだが、女の方は何故か半分近くが目がハートになっていた。
「随分と人気者になったわね」
「騎士団長たる俺を俺に有利な肉弾戦で負かしたのだからな。騎士とかそう言う連中は強くておごらない奴を尊敬するのさ」
「確かにお前に勝ったけど、普通はもっと時間がかかる物なんじゃ無いか?」
「何でお前を呼んで戦ったと思う? コイツら、ほぼ休戦状態とは言え、一応は戦争中に怠け始める様な連中だ。いざと成れば戦えるだろうが、どんな人でも飽きれば伸び代も少なくなる。刺激が必要だったのさ」
「前にも同じ様な事を聞いたが、その刺激になったから俺が人気なのか?」
「ま、一時的なものだ。お前らが出ていく頃には飽きているさ」
つまりダシにされたのか。
別に気にしないが、変になつかれたら困るので、釘は差しておくか。
「俺達の旅には連れて行かないぞ?」
「勿論だ。釘は差してある」
「なら安心だ」
で、それなら何故俺は呼ばれたのだろうか。
「レラージュ様曰く、お前達の出発は早くても十日後になるらしい。そこで、お前の腕を見込んでの頼みだ。訓練を手伝って欲しい」
「ま、そんな事だろうと思ったよ」
わざわざ訓練所に呼ばれたのだから、それ関係の事しか可能性は無い。
暇だったし、やるのも吝かでは無い。
「わかった。引き受けるよ。俺が教えられる事は限られているから、シルヴィアにも手伝って貰うけど、良いよな?」
「本当か!? ありがとう」
「シルヴィアも良いよな?」
「断る理由も無いしね」
これで話は纏まった。
教えるのはシルヴィアの方が上手いだろうし、純粋な剣術だけならシルヴィアの方が一枚も二枚も上だろう。
俺がするのは基礎体力作りの手伝い位かな。
さて、では早速──
「じゃ、俺は城に戻るから」
「は?」
「お前が居れば十分だろ? 俺は準備やら何やらで疲れているんだ。仕事が無いなら遠慮なく休ませて貰うぜ」
それだけ言うとロノは猛スピードで城の中に帰ってしまった。
俺とシルヴィアは唖然として動けない。
「やっぱり、そう言う事か……」
「予想はついたけどな。あの“サボり団長”のロノ様があんなにやる気があった事自体珍しいんだ」
「兄貴達は知らなかったとは言え、不注意だったよな」
またもや騎士達の囁き声が聞こえてくる。
どうやら俺はロノに嵌められたらしい。
「……やろうか」
「「「「「「「「ヒッ!」」」」」」」」
俺が出来うる限り最高の笑顔を騎士達に向けると、騎士達は顔を真っ青にして震え始めた。
そんなに怖がる事は無いのになぁ。
精々死にかける位だぜ?
お前達は悪く無いが、俺のストレスは発散させて貰おうかな。
では、レッツ訓練!
お楽しみいただけましたか?
二章もあと一話で終わりです。
二章が終わったらまた少し期間をあけて更新します。
その時は連続更新しますので、消さないでください(泣
誤字脱字、感想、質問など受け付けております。




