幕間
前回の撮影での一幕。
~十六話の撮影終了間近~
作者「……はいカットッ!!お疲れ様!!」
雄次郎「ふう~終わったぁ~」
成人「フフフ……」
雄次郎「うわっ、何笑ってんだよ!」
成人「これが笑わずにいられるか!やっと、やぁっと出番だせ!」
静「その通り!!ここからは私が雄次郎を蘢落させる話よ!!」
作者「一応言っておくけど、一話だけだし、雄次郎君は休みの話だよ」
静「あ、じゃあパス──」
聖「──させん」
静「あっ、ちょっと」
雄次郎「最近このコーナーが無駄に長くなった気がする……」
私の名前は花宮 聖。
「聖」とかいて「みずき」と読む、変な名前だ。
昔はこの名前のせいでよくからかわれたものだ。
私はムカついたからそいつら全員叩きのめしたのだが、一度だけとある男の子に邪魔された時があった。
今となっては遠い過去の思い出だ。
現在、私はいや、私達は私の名前何かよりずっと不可思議な状況に置かれていた。
目の前には灰色の狼に三メートル位の長い尻尾をつけて、牙を5倍位の大きさにした様な生物がいた。
勿論、魔物だ。
周りに同じ様なのが二匹程いる。
私は魔法を使うために詠唱をする。
その間に私のパーティーメンバーの九条院 静と、波瀬 成人がその狼の様な魔物に向かって走り出す。
成人の手には少し大きめの両手剣。
静の手には俗に言うハルバード。
槍の部分はそこらの短剣よりも長く、斧の刃は柄の半分に達してしまう程だ。
筋力値に物を言わせて静は目の前の狼の頭を真上からカチ割る。
狼は大した抵抗を見せる暇も無いまま頭を割られ、崩れ落ちて光の粒になって消えた。
まず一匹。
成人が飛び込んだ方の狼は静が相手した方よりも弱冠大きく、成人の剣を後ろにバックステップして避けた。
「《ウォーター・ボール》!」
しかし、私の真横からバスケットボール大の水弾が飛び出してその狼目掛けて襲いかかる。
私達のパーティーの最後の一人、加川 真紀。
彼女は今回、私と同じ様に魔法を放つ為に私と並んで詠唱をしていた。
彼女は後衛の方が得意らしいので大体五回戦闘をしたら三回は後衛をする。
彼女のステータス的にもそれが最善だと私も思う。
別にステータスが低いという訳では無く、後衛向きのステータスなのだ。
おのおののステータスは後に説明するとして、私の詠唱もやっと終わった。
真紀の放った魔法は成人の攻撃を避けた狼に直撃して、倒せはしなかった物の、狼がそれによってフリーズした。
そこで成人の両手剣が襲いかかり、狼の首と胴体を切り離した。
「ナイスアシスト!」
「そっちもお疲れさま!」
成人と真紀の間で軽いやりとりがされる。
今までの訓練で成人は他のメンバーと息を合わせるのがとても上手になっていた。
恐らく今回も成人が上手くタイミングを合わせたのだろう。
「聖!そっち最後の行きましたわ!」
「了解」
私は魔法を発動させるまで少し間を取ってから私に飛びかかってきた少し小さめの狼に魔法を放つ。
「《サンダー・スラッシュ》」
私がかざした右手の掌の前から電流が迸り、それが細長い形を作る。
私は右手を引き、そして狼向けて一気に突きだす。
それにより細長い電流は近くまで接近してきていた狼の口内に直撃して狼の体を焼きながら貫く。
狼は下顎と上顎から真っ二つに割けて事切れた。
「うわぁ~やっぱりえげつないね。聖の《サンダー・スラッシュ》は」
「ふんっ。私の《イラプション》の方がもっと凄いわ!」
「……それをやったら私達も死ぬ」
「そ、そうだね~だから、あんまり静ちゃんは張り切らない方が良いかなぁ~」
「つまんないわね!」
魔物を倒し終わって一息ついた私達。
何故私達がこんな事をしているのか?
私達は元々普通の高校二年生だった。
あの日までは。
───
私達は今の私達のパーティーにもう一人加わって学校では良く一緒にいた。
真紀や、成人は他のメンバーともつるんでいたが、私と静ともう一人はこのメンバーが一番心地好く感じていたのだろうと私は思っている。
私はあまり話すのが得意ではない。
では無くなってしまったという方が正確なのだが、この話はまたいずれ。
私と静は話すのが苦手だったのだが、このメンバーの時だけは静は饒舌になったし、私も幾分かましになった。
私達の中心になっていたのは今は成人だが、前は空閑 雄次郎という男子で、私の幼馴染み。
と言っても私は“今の”彼は好きでは無いし、幼馴染みという関係は名ばかりになっている。
私はいつもの様に学校に通い、いつもの様にクラスで過ごしていた。
昼休みには皆で集まっていつもの様に過ごした。
しかし、昼休みが終わった直後、私は光りに包まれた。
気がつくと知らない床の上で寝ていた。
周りを見ると他のクラスメイト達もいた様で自分だけでは無いとほっとした。
その後、自分達はこの世界を救う《勇者》として召喚された事を知り、内心驚きつつも、近くにいた雄次郎と真紀と話しているうちに落ち着きを取り戻していった。
そのまま成り行きで事が進んで行き、私達は何故か訓練をして、いつか《魔王》を倒せる様にならなきゃいけなくなった。
一晩寝て考えたけど全然意味がわからなかった。
何で私達が?
家に帰りたい。
両親に会いたい。
皆とまた、学校でのあの一時を過ごしたい。
色んな事を考えながら私は眠れぬ夜を過ごした。
次の日、この国の第二王女という人と騎士の人達から訓練を受けた。
第二王女は第一印象が「厳しそう」だったが、まさにその通りで、初日の訓練の厳しさに私は早々とリタイアしてしまった。
次の日もその次の日も訓練を繰り返した。
不思議と、地球に比べ、成長が早かったし筋肉痛にも悩まされなかったので、苦痛にはならなかった。
訓練もキツくならなくなり、初日のキツさが嘘の様だった。
毎日寝る前に自分のステータス?を確認していた所、一日で平均して15~20位上がっていた。
ステータスが上がるにつれて訓練が楽になった。
五日で最初は皆の中で一番だった雄次郎のステータスを抜かしていた。
段々強くなる事が面白くなってきていた。
真紀も同じ様な事を言っていたが、雄次郎はあまり楽しそうじゃなかった。
その時は雄次郎はレベルアップで大幅に強くなると騎士から聞かされていたので、訓練よりも早くレベルアップをしたいのだろうなと思っていた。
「いきなりこんな世界で戦えって言われてもなぁ……」
七日目の夕食の後、雄次郎がそう呟いていた。
五日目辺りから雄次郎と一緒に夕食を取っていた私達の訓練の総指揮をとっている第三王女が真紀と一緒にトイレに行った時だった。
第三王女に気を使ったのだろう。
しかし、雄次郎がもうすぐクラスメイト全体で行われる迷宮攻略?を嫌がっている事はわかった。
私は雄次郎がレベルアップして強くなれば今の私の気持ちがわかるだろうと思っていた。
勿論、強くなる喜びの事だ。
他に何が?
しかし、私の予想は裏切られた。
雄次郎が強くならなかったのだ。
正確に言うと、この世界の一般の人間の伸びしろ程度は成長しているそうなのだが、私達と同じ様に召喚されていて、称号に《勇者》があるにしては少なすぎたらしい。
瞬く間に雄次郎の弱さは広まり、雄次郎は人当たりは良かったので、悪く言うクラスメイトは少なかったが、磯貝などの元の世界の不良組や、雄次郎を良く思って居なかった奴、この世界に私達を召喚した第三王女達や、大臣達、果ては私達の訓練を務めてくれていた騎士の中にも雄次郎を裏で《ゴミ勇者》だの、《無能》だのと酷く裏で罵った。
しかし、雄次郎は最初は落ち込んでいた様だが、何やら第二王女に慰められた(言葉で)様で、次の日にはピンピンしていた。
私達は迷宮でレベルアップに励むか、王宮で魔法の勉強に励むか、選択する事になった。
私達は成人の案で迷宮に行く事になったのだが、雄次郎は自分だけ王宮に残ると言い出した。
理由は自分は足手まといになるし、魔法を学びたいからだという物だった。
当然私達は反対した。
しかし、私達がどれだけ言っても雄次郎はゆ譲らなかった。
結局、私達が折れ、雄次郎には月に一回程手紙を出す事になった。
(この世界でも一年は365日だし、月は30日位で12カ月に分かれているし、週は7日、一日は24時間60分制で、呼び方も《言語理解》の力なのか、全て地球と同じだった)
雄次郎からも、訓練である程度の実力がついたら迷宮に後から来る様に約束を取り付けておいた。
そして、私達は雄次郎を置き去りにして半数以上いるクラスメイト達と一緒に迷宮のある街に行った。
その街で、迷宮に潜ったり、そこそこな宿を取って成人をハブったり、良い装備を買ったりして約二ヶ月程過ごした。
───
そんな感じで二ヶ月以上迷宮に潜ってレベルアップに励んでいた。
皆のステータスが気になるだろうから、ここで開示しておく。
※※※
花宮 聖 女 17歳
レベル38
体力:9500/9500
筋力:7750/7900
敏捷:9500/9500
魔力:9400/9700
耐久:7750/7900
魔耐:4000/4000
属性:雷 水
《スキル》言語理解 属性魔法融合 魔力操作 治癒(初級) 身体強化 索敵
《称号》召喚者 勇者 派生レア属性持ち 二属性持ち 嵐の少女
※※※
※※※
加川 真紀 女 16歳
レベル36
体力:7600/7600
筋力:6520/6600
敏捷:4750/4750
魔力:9705/10005
耐久:5040/6000
魔耐:9925/9925
属性:激流 風
《スキル》言語理解 属性魔法融合 魔力操作 治癒(初級) 魔力変換
《称号》召喚者 勇者 派生レア属性持ち 二属性持ち 自然の少女
※※※
※※※
九条院 静 女 16歳
レベル40
体力:9005/9005
筋力:7850/7950
敏捷:5200/5235
魔力:11450/11450
耐久:9850/9900
魔耐:9900/9900
属性:爆炎
《スキル》言語理解 同派生魔法融合 魔力操作 身体強化 能力解放 索敵 威圧
《称号》上級派生レア属性持ち 勇者 召喚者 獄炎少女 魔法剣士 妖刀使い
※※※
※※※
波瀬 成人 男 17歳
レベル39
体力:9205/9205
筋力:9825/9850
敏捷:9605/9605
魔力:9000/9000
耐久:9505/9600
魔耐:8990/8990
属性:光 土 風
《スキル》言語理解 属性魔法融合 三属性魔法融合 魔力操作 索敵 身体強化 治癒(初級)
《称号》召喚者 勇者 三属性持ち 魔法剣士 指揮 魔法剣の使い手 多彩な少年
※※※
こんな感じになっている。
私から順序立てて説明していくと、ステータスのアラビア数字の部分は見ての通り。
レベルアップに勤しんでいるうちに、30を越え、能力の方も上がった。
一番バランスがとれているのは成人だろう。
レベルが10台の時はレベル1上がるにつれて100より少ない程度。
20台は200より少ない程度。
30台は300より少し多い程度上がっていた。
成人以外も伸び方は違ったが、平均すればその位のペースで上がった。
次に属性。
私はレベル25の時に風属性が雷属性に派生……レベルアップした。
真紀もレベル25の時に水属性が激流属性になった。
成人はレベル20の時に元々あった光属性(光属性はそこそこレアらしい)に新しく土属性が追加され、レベル35の時に風属性が追加された。
私と真紀はレベル35の時にそれぞれ水属性と風属性が追加された。
私と真紀は何か似ている。
しかし静は元々炎属性という派生レア魔法を持っていたのが原因なのか、レベル30まで属性の所には何も起こらなかった。(炎属性も攻撃的で強いのだが)
しかし、レベルが30になると派生する限度の爆炎属性が追加された。
手に入れたら直ぐに静が魔法を詠唱(何故か新しく手に入れた属性は最初から詠唱がわかるらしい。ご都合主義として受け取って置こう)し始めたのだが、静の掌から出てきた燃える岩石、名を《イラプション》というのだが、決して壊れない迷宮の壁にぶつけて爆発したはずが、迷宮の壁に少しだけ穴を開けてしまい、爆発した余波で私達が死にかけた。
その後は静には爆炎属性を使わない事にしてもらっている。
意外に静が我慢してくれているが、この前、夜の迷宮に一人だけで入って行っていたから心配になってつけたら低層の魔物達を爆炎魔法をフルに使って吹き飛ばしていた。
ドン引きしたけどこれで静が暴走しないというのなら安いものだ。
夜に迷宮に入っている人には傍迷惑だろうが、静も死なない様に気を付けているだろう。
次にスキルについて。
《言語理解》は名前の通り、この世界の言葉を理解できる能力らしく、常時発動していて魔力も消費しない非常に便利な能力だ。
読み書きや、人間語以外にも通用するらしい。
地球だったら通訳で食っていけそうだ。
《属性魔法融合》と《魔力操作》、《治癒》は私達全員が新しい属性を手に入れた時や、属性が派生した時に一緒に手に入ったスキルだ。
《属性魔法融合》はその名の通り、違う属性の魔法を同時に発動して、一定の力加減で混ぜると出来る。
イメージが大変で、最初はてこずったけど、最近出来る様になった。
私以外は出来ていないが。
静の《同派生魔法融合》も同じ様な能力だが、火属性か、炎属性か、爆炎属性からしか融合出来ない様なので、あまり意味が無いから練習していないらしい。
《魔力操作》は私達の体の中にある魔力、もしくは体に直接触れている魔力をイメージだけで動かして、魔法やスキルを強化したり、体の魔力の巡りを良くして身体能力を上げるなどに使える。
訓練の時に名前だけ習った、この世界の《護身術》にも《魔力操作》が必要な技があるらしく、初級の技を全員の前で見せて貰った。
確か、《掌底》という名前で、掌に魔力が大量にあるイメージをして、その魔力を相手に当たった瞬間に放出して相手を痺れさせたり、吹き飛ばしたりする技だった。
実践で使える場面は殆ど無いらしいので習う事は無かった。
《治癒》は王宮にいた騎士達は殆どが持っていたスキルだ。
ある程度の知識を持っていさえすればレベル10台でも覚える魔法に似たスキルだ。
治癒魔法というのもあるらしく、属性には入らないが、筋肉痛等に良く効く事から一部の騎士に人気がある魔法らしい。
スキルの方の治癒は主に軽い外傷しか治せない位のスペックだから、大怪我をしたら然るべき所で治療しなければならない。
私達と一緒に迷宮に来たチームは治癒があるから大丈夫とタカをくくって結構な大惨事になった。
街の医者がちゃんと治療したら完治していたが、女子でもゲンコツを貰っていた。
あの医者のおじさんには逆らわない様にしようと教訓になった。
《治癒(初級)》なので、効果は薄いが、軽傷が命取りになる迷宮では重宝するスキルだ。
コストも30とお手頃だし、かかる時間も限界まで治療しても三十秒かからない。
静だけは持っていないからいつも他が静を治しているので、静にはもう少し感謝して欲しい。
たまに「雄次郎がやってくれたなら……」何て成人が治癒して上げてる時に言うのは酷過ぎるだろう。
幸い、成人は苦笑いだけですんでいたが。
《索敵》、《身体強化》は覚えた条件がバラバラだったからどのタイミングで覚えるのかはわからないが、《索敵》は同じ層にいる“魔物”の位置がわかる物で、《身体強化》は《魔力操作》で体を強化するやつの強化版ってところだろう。
《索敵》は相手の強さがわからないし、人間の位置もわからないので、意外に不便で、《身体強化》は敏捷と筋力を上げて、使っている間魔力を消費し続けるという能力なので、引き所を間違えると魔力不足で気絶してその間に……なんて事にもなりかねないのでこれも緊急時以外は使いたくない。
スキルは大方こんなもの。
称号は……正直わからない。
この世界の住民も、何でこんな称号がついているのか聞いて見ても、「そういうもの」としか答えてくれない。
地球では犯罪はいけない事だよ。
位のテンションで言われた。
常識的な事の様なので、気にしない方が良い。
ただ、「~~な少女(または少年)」等は自分の持っている魔法の属性に起因することが多い様だ。
大体この位。
そして現在、私達は迷宮から出てきて、宿に帰ってから、寝て、朝起きてすぐに移動の準備を始めていた。
これから王宮へ一度帰るのだ。
何故なら、雄次郎が約束の手紙の返事を出していないからだ。
約束を破った雄次郎がムカついた、心配になった、雄次郎成分が足りない(?)等といった理由から、サプライズも込みで王宮へ帰る事になったからだ。
「俺は大体準備終わったぜ」
成人は夜の内に準備を終えていた様で、成人の愛剣、《豪炎の剣》を器用に回しながら部屋の外で待っていた。
《豪炎の剣》は成人がこの街で見つけた鍛冶師に迷宮の素材をふんだんに使って作らせた、厨二要素の多い紅色の剣だ。
炎属性の“付与”がかけられているらしく、魔力を流すと剣が炎に包まれて敵を焼きながら切る事が出来る。
そんな剣を室内で振り回す成人の正気を疑いたくなる。
「私は終わったわ。早く行くわよ!」
「……待って。ハルバードはしまって」
静も昨日の夜から準備していた様で、ハルバードを担ぎながら部屋を出ていこうとしたのを私が止めた。
このハルバード《妖艶な断頭台》は迷宮の隠し部屋で静がはぐれた時に見つけた物で、成人の《豪炎の剣》よりもレアで、強いと《豪炎の剣》を作った鍛冶師の人が言っていた。
能力はこちらも魔力を流して使うのだが、使用者を選ぶ武器、言わば妖刀なので、静以外は使えないし、魔力も結構な量使用するが、能力は素晴らしい。
魔力を多く流せば使える能力で、切った相手の魔力を吸いとって、自分の切れ味を上げる能力。
切れるリーチを魔力で補強して、最大十メートル位までリーチを広げる能力。
そして血を吸いとって歯こぼれを自分で直す能力と、凄い能力勢揃いだ。
しかし、静は別にどうでも良いようで、荷物になるから邪魔とよくこぼしている。
「こんな小さな鞄に入らないわよ!」
「……じゃ、せめて隠すなり何なりして。目立つ」
その後も、真紀がドジって荷物をひっくり返したり、静が王宮行きに雇った馬車が遅くて魔法を使おうとするのを成人が必死に止めたり等と盛りだくさんだった。
───
街を出て、三時間程で王宮の門の前に到着。
意外に早い。
馬車を中に入れて貰って建物の前で降りる。
「帰ってきたわよ雄次郎!今すぐ──」
「行くなよ。荷物を持て」
また静が暴走しそうなのを成人が止めた。
成人は静の扱いが上手くなった気がする。
静も渋々と荷物を運んでいた。
最低限、自分の荷物は持って欲しい。
ハルバードが一番嵩張るのだから。
「お帰りなさいませ。いやはや、すっかりたくましくなられましたなぁ」
建物の中に入ると案内用の使用人が出てきた。
王宮は広すぎて私達だけだと迷うのだ。
雄次郎はなれたのかな。
「お久し振りです、ハープさん」
どうやら成人は知り合いだった様で、親しげに話しかけてた。
成人と雄次郎はある程度の人間とはすぐに仲良くなれるという特技があり、この世界でも役にたっていた。
サプライズの帰還とは言え、雄次郎には知らせないだけで、他の人間には知らせていた。
そうしないと、不法侵入と間違えて切り捨てられるから。
今の私達のステータスで切り捨てられるのかは微妙だが、面倒事を起こす必要も無い。
何回も廊下の曲がり角を曲がって、やっと記憶にある広間についた。
「ここまで来れば大丈夫でしょう?」
「ハープさん、ありがとうございました」
「いえいえ。ごゆっくりなさいませ」
使用人の鏡の様なハープさんが広間を出て行って、広間を振り返ると、数人の残った生徒達が昼食をとっている所だった。
「おっ、成人じゃねぇか!」
「三越か!久しぶりだな!」
「おうっ!懐かしいなぁ~」
成人とは地球の頃からの知り合いだったと思う男子が元の集団から離れてこちらにやってきた。
癖っ毛で、頭が鳥の巣みたいな事になっていて、背は小さいが少し筋肉質な男子だ。
性格は明るくて、裏表が無い奴。
「二ヶ月も迷宮から帰って来なかったから心配だったんだぜ」
「悪かったって。こっちも結構頑張ったんだぜ」
「へ~すげえな。あり?お前、ちょっと!」
「うわっ!何だよ!?」
その男子が成人の肩を掴み後ろに回したかと思うとこしょこしょと隠したいらしい話し合いを始めた。
「……んで、……ラスの……プ3の内二人が……のトコに……よ!」
「え?……あ~そゆこと」
「バッ……声でけぇ!」
「大丈夫だよ。彼女らは雄次郎の物だから」
「……」
良くわからない話が終わった様で、成人と男子はこちらに向き直った。
しかし、男子は何故か辛そうな、気まずそうな顔をしていた。
どうしたのだろ?
「三越、どうした?」
成人も感じていたのか、三越という男子の顔を覗きこむ。
三越は大きく深呼吸した後に真剣な顔になった。
「成人、これから言うことは紛れも無い真実だ。俺もアイツがこんな事になるとは思っていなかった」
「ちょ、いきなりどうしたんだよ?」
成人が三越のいきなりの豹変に驚く。
私も困惑している。
ただ、何か嫌な予感がした。
「空閑が」
予想はしていた物の、やはりその名前が出てきた事に動揺は隠せない。
静も冷や汗をかいているし、真紀もおろおろしている。
「失踪した」
「「「「………………………………え?」」」」
読んでいただきありがとうございます。
今回はちょっと長くなってしまいました。
日刊ランキングに載ったのが良かったのか、一気にアクセス数が増えました。
嬉しい限りです。
皆様、ありがとうございます。
ブックマーク件数も100を突破しました。
これもすっごく嬉しいです。
これからもヨロシクお願いします。
誤字脱字、感想、質問など受け付けております。




