プロローグ
「お前の母さんは、遠くに行ってしまったんだ……」
大きな無精ひげを生やした男にそんなことを言われる。
周りで鼻をすする音がする。
汚いよ、将来子供が真似しちゃうから。
「お前は、絶対に幸せにしてやるからな」
――――12年後――――
「そこの、さっさとお茶用意しろ」
命令口調の少しごもったような高い声が部屋に聞こえる。
「少々お待ちくださいませ」
……見事な我が儘デブになってきます☆
いや、だって貴族の暮らしって何不自由ないんだぜ?
しかも3大貴族なんて言われる王族の次に権力を保有している所に生まれたが運のつき、蝶よ華よで育てられ完全我が儘暴君スタイルに落ち着いた。
そんな何不自由ない俺には面倒なことが一つある。
「兄上、運動をしてはいかがでしょうか」
「魔法使えるからいいんだよ、動かなくったって」
新しい母の連れ子のレン・アルカディナ・ソルド。
俺の弟にあたる奴で歳は同い年。
親父の弟の元嫁。
父の弟が戦死し、その妻であった現在の母が俺の母になった。
ある意味、生前の東南アジア一部のような一夫多妻制が設けられているこの世界では割と珍しいことではないらしい。
「まったく……」
おそらく俺のこの12歳とは思えないデブボディーを見てあきれている。
その後何度か俺に声をかけるが、勉強の時間だと言うことで帰っていった。
このレンはかなり優秀な人物である。
俺とは同い年であるものの、王立魔法学園中等部中学試験で主席を取るような秀才。
ちなみに俺は、拒否った。
異常なまでに魔法がすぐれていたからである。
ちなみにどのくらいかと言えば王宮魔道士に何とか勝てるレベル。
何と言うかこのチートスペックのおかげでスキップで卒業できたようなものである。
スキップをしたのは5歳の頃。
異例中の異例ではあるが王が認めたことなので問題ない。
今でも自分の部屋でオリジナルの魔法を生み出したりして、割と充実しているのだが、
「クルルシファ、あなたはまた……」
この声をかけてきたのが義弟よりもはるかに面倒な義母のレディアである。
その義母が求めるものは形に残る優秀さ。
レンの主席なんかは大好物である。
つまり、他の物より優秀でないと気が済まない様な典型的なババァである。
どうにも俺のスキップみたいなあまりはっきりとしないことよりも、順位が好きなようなのである。
「隣国の王からの依頼よ、行きなさい」
一応、俺は肩書上はかなり優秀なのである。
ババアは権力で俺はこの肩書を持っていると思っているようだが。
確かにこのババアの目の前で一度も魔法を使ってないことも理由なのだろう。
その後、俺は流れるように着替えさせられ、馬車に乗り、出発する。
それを見送った義母の顔が不自然なまでの笑顔だと言うことも気づかずに。
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「あ゛、で……」
体が動かない。
体が冷たい。
瞼が重い。
体から何かが抜けて行く。
――――そうだ、途中で出てきた盗賊を殺した直後に土砂崩れがあって、それに巻き込まれたんだ。
回復しないと……
「『ディーj―――』」
詠唱をしようとするが、喉がつぶれているようだ。発音できねぇ。
畜生、こんな所で俺は死ぬのか?
異世界ライフは確かに満喫した。
今まで苦難なんて一度もない緩すぎる生活だった。
……物語の主人公みたいになりたかったぜ、畜生。
頬に当たる雪がどこか暖かかった。
直後に、意識を失った。
どうも初めまして、ビタミン不足しがちな人です。
誤字脱字を受け付けております。