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蛹
秋晴れの涼しい火曜日の公園、黄色いベンチに腰掛けているとスマートフォンの着信音が鳴った。着信音はもちろん大好きなあのバンドの歌である。
「もしもし」
「あー、ユウ君か、ほんと悪いんだけど今度の土曜日も出てくれないかな。どうもこの時期は忙しくてね」
「はぁ。わかりました」
「じゃ、先週みたく8時からお願いね」
「了解しました」
やりとりが終わったあと、桜井ユウは小さくため息をついた。
土曜日が出勤となったことで、これで10連勤することになりそうだ。
労働基準法には違反しているが、そんなことは承知している。
いわゆるフリーター生活を送っているユウは、決して裕福な暮らしはしていない。
だが、このフリーター故の気楽な生活には、どこか愛着もあって、抜け出せずにいる。