よく燃えた蝋燭には名がなく、煤を吐いた十本にだけ私の名が戻ります
「ごほっ」
白い布に、黒い筋が一本。二本。三本。
煤は遠慮を知らない。ついでに家族も知らない。
「シネイド。返品だ」
兄のドラガンが作業台へ十本の蝋燭を転がした。札には私の名がある。昨日まではなかった名だ。
その冬、私は硬い獣脂を温水で三度洗った。洗って静置し、水と滓を落とす。それを三回。百本の蝋燭は煙も出さず、兄の完成札を付けて売られた。
「精製、シネイド」
私が下書きした札を、兄は裏返した。
「完成品に必要なのは家の信用だ」
なるほど。よく燃えると、私の名は裏へ回るらしい。
そして洗浄不足の脂で作られた十本が煤を吐くと、名は表へ帰ってきた。札というものは火より身軽である。
「この脂は私が洗ったものではありません」
「お前の札が付いている」
「今、付けましたね」
「責任者は私だ。誰が付けたかも私が決める」
便利な役職だ。火まで命令を聞けばよかったのに。
私は返品された十本と、自分が残しておいた見本を指した。
「一本ずつ燃やしましょう」
「客を待たせる気か」
待たせられたのは火ではなく私だった。試験の席は用意されず、弁償分だけが給金の欄へきっちり座った。
百本の売上は兄へ。十本の煤は私へ。
家業というものは、足し算より配分が難しい。
* * *
二度目は、灯芯が太った。
「五撚りで、と札に書きました」
「七撚りのほうが明るい」
ドラガンはそう言って、木綿芯を二本分も肥えさせた。
夏越しの柔らかい脂に七撚り。火は景気よく脂を食べた。大食漢である。明るさだけは立派、燃える時間は短い。宴会なら人気者、宿屋なら食費のかかる居候だ。
注文主は三晩分として買った蝋燭を二晩で使い切り、不足分を請求した。
完成札は兄の名だったはずなのに、戻ってきた箱には私の札が結ばれていた。名札の脚が速い。そろそろ競走へ出したい。
「指定を変えたのは兄さんです」
「芯を選ぶのも精製師の仕事だろう」
「脂の硬さに合わせて五撚りを選びました」
「結果が悪かった」
「結果へ行く途中に、あなたが七撚りへ曲げました」
ドラガンは給金控えへ数字を書いた。私の言葉より太く、七撚りより迷いがない。
「家の損失は家の者が負う」
「売上のときは家の者に数えられていませんでしたが」
「口答えの分まで引かれたいのか」
声まで太くなった。反論しない相手へ向けると、兄の声はよく燃える。煙も多い。
五撚りの見本、七撚りの返品、同じ長さの蝋燭。作業台には全部そろっていた。ただし、火を点ける許可だけがなかった。
不足分は私の給金から引かれた。
一度目が十本。二度目が二晩分。
三度目に何が戻ってくるか、私はもう驚かないつもりだった。
驚きにも給金が出るなら、話は別だが。
* * *
三度目は、人が来た。
宿屋の女将ブロナは工房へ入るなり、煤で黒くなった布をドラガンの完成札へ叩きつけた。
「実際に脂を洗った者を出しな」
「当工房の品は、すべて家の管理下で——」
「家が蝋燭を洗うのかい」
ブロナは私を見つけ、黒い布と一緒に荷馬車へ積んだ。扱いは布より丁寧だったので、ひとまず客として数えておく。
宿屋は十八室。そのうち十二室で、新しく納めた蝋燭が壁と天井を燻していた。厨房係の白い前掛けにも黒い指跡。夜番は空の布籠を抱え、使用済みの布の山を顎で示した。
「一晩でこれだ」
「見事ですね。洗濯屋なら祝杯を上げます」
「宿屋は上げないよ」
帳場では、レンナルトさんが客室ごとの使用本数を帳面に並べていた。背筋も数字もまっすぐ。曲がっているのは眉間だけだ。
「精製師殿。十二室、各四本。壁布の洗浄費。燭台の磨き直し。合計はこれです」
差し出された数字は、私の半年分の給金より元気だった。
「私に弁償を?」
「返品札にあなたの名がある」
「完成札には兄の名があります」
「工房は、精製を担当したのはあなただと回答した」
「よく燃えた品では、私は工房の床板だったようですが」
「床板?」
「帳面に書ける言葉へ直すなら、売上の分配対象外です」
「最初からそう言ってください」
ブロナが黒い布を帳面の上へ置いた。
「数字がお好きなら、まず黒を一つ」
「叔母上、帳面が汚れます」
「客室は十二だよ」
レンナルトさんの口が横一文字になった。黒一つ対、客室十二。ブロナの勝ち。採点するまでもない。
「この納品で出た損失にしか興味はありません」
「結構です。私も燃えない家族愛には興味がありません」
返品札には私の名だけが書かれていた。
レンナルトさんの右手が、その札の上で止まった。
一つ、二つ。
彼は眉を寄せ、私の名と帳面を見比べた。転記する位置を探しているのだろう。帳面に住む人は、名前にも欄がないと困る。
「弁償の前に検算をします」
「工房の完成札は確認済みです」
「札を燃やす宿なら、確認はそれで十分です」
「蝋燭を燃やす宿です」
「では、話が早い」
私は持参した見本箱を開けた。冬の硬い脂で作った蝋燭と、返品された夏越しの柔らかい脂。三撚り、五撚り、七撚りの木綿芯。レンナルトさんの目が、帳面から初めて火のない蝋燭へ移った。
「条件をそろえます。同じ部屋。同じ長さ。同じ型の燭台。脂は二種、芯は三種、それぞれ二本。合計十二本」
「四時間ごとに記録します」
「違います。四時間、同時に燃やして一時間ごとに記録します」
「なぜ」
「十二本を四時間ずつ順番に燃やしたら二日です。お客様が先に帰ります」
「……話を蝋燭へ戻してください」
ブロナが鼻を鳴らした。厨房係が十二脚の燭台を運び、夜番が壁の白い客室を一つ空けた。
「一本ずつ燃やしましょう」
私は十二本を机へ並べた。
一本目。長さを指でそろえる。
二本目。芯を切る。
三本目。煤受けの白紙を燭台の後ろへ立てる。
四本目で、レンナルトさんが帳面を開いた。
「太い芯は大食漢です」
「七撚りは燃料消費が多い、と書きます」
「情緒が死にました」
「帳面は生きています」
「では、こちらは風呂嫌い」
「洗浄不足」
「かわいげがない」
「蝋燭に求めていません」
十二の火が点いた。
三撚りの炎は細い。冬の硬い脂には少々頼りなく、炎の周りへ溶け残りが輪になった。
五撚りは火と脂の減り方がそろう。炎は揺れても煤受けの紙は白い。
七撚りは明るい。明るく、よく食べ、柔らかい脂を吸い上げ、黒い筋を吐いた。
「大食漢」
「七撚り」
「そこは負けませんね」
「記録ですから」
一時間目。レンナルトさんが燃えた長さを測った。
二時間目。私が芯先の茸を切り、煤の筋へ番号を振った。
三時間目。ブロナが茶を置き、最も黒い紙だけレンナルトさんの肘元へ寄せた。
「叔母上」
「数字の隣が好きかと思ってね」
四時間目。火を消す。
厨房係が窓を開け、夜番が燃え残りを順に机へ並べた。
「三撚りは脂を残す。七撚りは脂を食べすぎて煤を出す。五撚りは四時間でこの長さ」
レンナルトさんはそれぞれの重さを量った。
「返品された品は、七撚りです」
「ええ。脂も私の見本と違います。色が濃く、夏越しで柔らかい。洗浄は一度、多くても二度。鼻を近づけますか」
「必要ありません」
「賢明です。風呂嫌いは近づくと主張が強いので」
彼は帳面へ「未洗浄」と書きかけた。
「一度は洗っています」
「なぜわかる」
「一度も洗わない脂は、もっと威張ります」
「帳面語で」
「滓の量です」
レンナルトさんは「滓、多」と直した。帳面のかわいげは今夜も絶滅している。
だが、脂と芯の組み合わせが悪いことだけでは、私の脂が使われていない証明にはならない。
ブロナは帳場から古い受払帳を持ってきた。工房の老番頭が、今回の納品を引き渡した際に置いていった控えだという。
「完成札だけで数を合わせると、脂の量が余るんだよ」
レンナルトさんの右手が、今度はすぐに帳面を引き寄せた。
私は季節帳を横へ置く。冬に精製した硬い脂、百本分。夏越しの桶、四十八本分。宿への納品、四十八本。数字だけなら仲のよい一家だ。
「冬脂の受取量は、百本を作って少し残る量です」
「実際に売られた良品も百本」
「私の脂は、そこで使い切られています。宿へ来た四十八本に回せる分はありません」
老番頭の受払帳には、冬脂の桶が別の納品先へ移された日と、空になった日が書かれている。その翌日、夏越し脂の桶が蝋燭台へ出された。灯芯の払い出しは七撚り四十八本分。
燃え残り。煤の筋。季節帳。受払帳。
四つ並べると、完成札だけがひどく居心地悪そうだった。紙に同情はしない。こちらは二度、給金を食われている。
「あなたが三度洗った脂は、別の納品へ使われた」
レンナルトさんが言った。
「宿へ納められたのは、洗浄不足の夏越し脂。芯は七撚り」
「はい」
「それに、あなたの返品札を付けた」
「そこだけは大変よく洗練された手順です」
「精製師殿」
「シネイドです。返品札で確認できます」
彼は私の名を見た。右手はもう札の上になかった。帳面の弁償額へ一本、太い線を引く。
「シネイド。あなたを疑い、弁償を求めた。すまなかった」
名前が一つ進んだ。
ただし謝罪は火ではない。蝋燭も、壁布も、仕事のやり方も、それだけでは白くならない。
「確認しました」
「それだけですか」
「帳面に印を付けるところです。謝罪一件。損失は未回復」
ブロナが茶をすすった。
「いい精製師だね」
「厳しい精製師です」
「帳面よりは、かわいげがあります」
レンナルトさんは反論する前に、黒い布を帳面からどけた。
遅い。今夜の採点はもう終わっている。
* * *
翌朝、ドラガンは代金の返却を拒んだ。
「検査の方法に問題がある。宿の燭台か、部屋の風かもしれない」
昨夜、同じ部屋で十二本を燃やしたばかりだ。兄の言い分だけ、窓を閉めてもよく飛ぶ。
ブロナが燃え残りを机へ置くと、ドラガンの声は七撚りから三撚りになった。
「補償として、処分予定の未精製脂を渡す。今後の取引は解消する。それで十分だろう」
十分ではない。だが、実家と話す一刻は、未精製脂一桶より臭う。
「いただきます」
「そんなものを?」
「三度洗えば使えます」
「家の設備なしで何ができる」
ドラガンは私の名を消した完成札を裏返した。
「家の名を外して売れると思うな」
私は札ではなく、処分予定と書かれた桶を受け取った。
「では、燃えるほうを売ります」
代金の返却も、謝罪も、兄の改心も持ち帰らなかった。重い桶だけで荷車は十分沈んだ。
宿屋の裏には、薪置き場だった空き作業室があった。窓が一つ、煉瓦の炉が一つ、雨漏りが二か所。ブロナは家賃を示し、レンナルトさんは鍵を出した。
「宿屋の損失を回収するまでの臨時契約です」
「売上以外には興味がありませんものね」
「そのとおりです」
彼の右耳が、鍵より先にこちらを向いた。耳は帳面に書けないので放置する。
新工房の鍵は私が受け取った。
最初の朝、処分予定の未精製脂を温水へ入れると、作業室は盛大に獣の自己主張で満たされた。
「窓を開けます」
「閉めてください。冷えると脂が固まります」
「では、どうすれば」
「慣れてください」
「帳面に書けません」
「鼻で覚える項目です」
レンナルトさんは布で鼻を覆いながら、長い匙で桶を混ぜた。
「これは一度目ですね」
「はい。混ぜて、静置して、水と滓を落とします」
「三度とも私が?」
「売上以外に興味のない宿屋主人が、なぜ二度目までいる予定なのですか」
匙が鍋底へ当たり、かん、と鳴った。
「損失回収のためです」
「鍋が返事をしましたね」
「脂を見てください」
一度目の水は濁った。
二度目は薄い灰色。
三度目、冷えた脂は白く固まり、底の水には細かな滓が沈んだ。
レンナルトさんは三つの瓶へ洗浄水を残し、「一回」「二回」「三回」と札を付けた。謝罪の翌日に変わったのは口数ではなく、保存する証拠のほうだった。
十本目の試作では、彼が灯芯を切った。
「冬の脂には五撚り」
「今日は春です。室温も上がりました。この硬さなら三撚り」
「先週は五撚りでした」
「先週より脂が柔らかいので」
「毎週変わるのですか」
「季節は帳面を読まないので」
「困ります」
「春へ苦情をどうぞ」
彼は三撚りを切った。次の一本では切る前に脂を指で押し、硬さを確かめた。
朝は脂を洗う。
夕方は芯を切る。
夜は客室ごとに燃え時間を記す。
十本、十五本、二十本。帳面には完成札の名ではなく、「精製担当シネイド」と書かれるようになった。仕入れ先の欄にも、工房名の隣へ実際に脂を洗った者の名が増えた。
「帳面が急に人好きになりましたね」
「不良率が下がるからです」
「売上以外には興味がない」
「よく覚えていますね」
「三度洗っても落ちなかったので」
新しい蝋燭を使い始めた夜、厨房係と夜番が空の布籠をブロナへ差し出した。
「煤拭き、なし」
「壁も白い」
「芯切り、一度で済んだ」
三人分の報告を受け、ブロナは空の籠をレンナルトさんの帳面へ載せた。
「数字がお好きなら、白を一つ」
「籠は数字ではありません」
「黒い布より軽いだろう」
宿の損失は、空の布籠と新しい蝋燭の売上で少しずつ減った。客は煤の出ない灯りを持ち帰りたいと言い、二十本目からは宿の帳場でも売ることになった。
完成札には、先に私の名が書かれた。
ほかの町の雑貨商から、十二本卸してほしいと手紙が来たのは、そのころだ。
「受けるつもりです」
「そうですか」
レンナルトさんは商品札へ紐を通した。
「別の町へ卸すのは自由だ」
右手の人差し指と親指は、私の商品札の紐をつまんでいた。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
私は六つ目の前に、試作品をもう一本、彼の帳面へ置いた。
「こちらの燃焼記録がまだです」
「雑貨商への返事は?」
「蝋燭のあとで書きます」
彼の指が紐を離した。
「では、先に試験を」
「売上以外には興味がない方は働き者ですね」
「宿の品だからです」
「他所へ卸してよい品ですが」
レンナルトさんは三撚りの芯を切りすぎた。短くなった芯を見て、はさみを置く。
「一本、やり直します」
「損失として帳面へ?」
「私の給金から引きます」
「宿屋主人の給金は、誰が払うのですか」
「話を蝋燭へ戻してください」
その一季節で、実家の工房から宿屋以外の顧客も離れたらしい、と老番頭から一度だけ聞いた。
私は二十一本目の芯を切っていた。切った芯先を皿へ落とし、次の一本を手に取った。
確かめには戻らなかった。
こちらの火は、こちらで数えなければならない。
* * *
三十本目の朝、作業台には白い蝋燭が一本、商品札が一枚、新工房の鍵が一つ並んだ。
宿裏の部屋はもう狭い。洗浄桶が三つ、芯を撚る台が一つ、完成品の棚が二つ。雨漏りはゼロ。レンナルトさんが売上から修繕費を引き、私が家賃から半分を引き、ブロナが両方の帳面を奪って正しい額にした結果である。
「三十本目です」
レンナルトさんが燭台を置く。
「一本ずつ燃やしましょう」
私は蝋燭の長さを測った。
彼が芯を切る。三撚り。短すぎず、長すぎず。
私が火を点ける。
彼が時刻を書く。
炎はまっすぐ立ち、脂を静かに溶かした。煤受けの紙は白いまま。燃え残りも予定の線にそろった。
四時間後、レンナルトさんは記録を閉じた。
「合格です」
「帳面語でなくても、同じですね」
「では商品札を」
私は紐を取ろうとした。
「私が結びます」
レンナルトさんの右手が、札を押さえた。
札の一行目へ、彼は私の名を書いた。
シネイド。
その隣へ、同じ大きさで自分の名を書く。
レンナルト。
下には、共同の屋号として『ふたり灯り』。
「臨時の共同作業だ」
そう言いながら、彼は二人分の札へ自分の指で紐を通した。結び目を一度引き、ほどけないことを確かめ、札の表を私へ向ける。
右手は止まらなかった。
三十本のあいだに変わった指が、完成した札を私の側へ返した。
数え上げるものが、そこで切れた。
「臨時、ですか」
「契約期間は決めていない」
「共同の屋号は仕事だけですか」
レンナルトさんの指が、結び目から離れた。
「君の技術を、君の名のまま売りたい」
彼は帳面を開かなかった。
「その隣で、私の名も売りたい。宿の所有権でも、肩書でもなく、私の仕事として」
右耳も左耳も隠さず、こちらを向いている。
「それから」
「それから?」
「できれば食卓も」
軽口が一つも浮かばなかった。
私の名前が先にある札を、指でなぞる。隣の名前は同じ大きさだった。どちらも裏返されていない。
「朝食だけでしょうか」
「夕食も」
「昼食は宿が忙しい」
「運べます」
「脂洗いの日は臭いますよ」
「三度まで耐えます」
「季節ごとに芯を変えます」
「記録します」
「失敗した品へ、私だけの札を付けませんか」
「私の名も同じ大きさで付けます」
返事が速い。帳面を挟まないと、この人は案外、数字より手強い。
「では、仕事と食卓を共同にします」
「それは」
「婚約の受諾です。帳面語へ直しますか」
「いや」
レンナルトさんの呼吸が一つ止まり、それから深く戻った。
「そのままでわかる」
よろしい。帳面以外の言葉が一件、通じた。
私は作業台の新工房の鍵を取った。宿裏の部屋より広い、通りに面した工房。家賃も仕入れも半分ずつ。借主の欄には、初めから二人の名を同じ大きさで書いてある。
レンナルトさんが右の掌を開いた。
私はそこへ鍵を一度置く。
彼は握り込まず、掌を開いたまま私へ差し出した。
私は鍵の端を持った。二人で工房の扉の前へ立ち、同じ鍵を錠へ挿す。
「右です」
「帳面には左と」
「扉から見て右です」
「書いたのはあなたです」
「読んだのはレンナルトさんです」
二人で反対へ回し、鍵がびくともしなかった。
新しい生活、開幕早々の検算不足。
「いったん手を離しましょう」
「君が離せばいい」
「共同作業でしょう」
「では、三つ数えます」
「一本ずつにしてください」
結局、私が錠を押さえ、レンナルトさんが鍵を右へ回した。
かちり。
扉が開く。
朝の光が作業台を置く予定の場所まで伸びた。私は二人分の商品札を掲げ、彼は新しい灯りの箱を抱えて中へ入る。
ただし右手の指だけは、また札の紐をつまんでいた。
「レンナルトさん。指を離してください。札が掛けられません」
「これは難題だな」




