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不思議な宇宙(そら)のもとで  作者: まほ。かんた。
不思議な夜の車窓から
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第一章 不思議な夜の車窓から⑥

■前書き


山を登るパノラマ電車の中で、テツロウは再び三姉妹と向き合うことになる。


登場人物:

青星テツロウ/青星ミニ/青星エミ/青星リオ


■第六話


 線路は山裾に沿って敷かれている。


 やがて緩やかなカーブを描きながら、


 少しずつ高度を上げていく。


 視界が開け、


 眼下には先ほどまでいた草原が広がる。


 (……かなり登ってきたな……)


 テツロウは窓の外を見下ろしながら、そう思う。


 山の標高は高い。


 それでも――


 三姉妹たちの身長には、届いていなかった。


 (まだ、あいつらの方が高いのかよ……)


 現実感が、またひとつ崩れる。


 そのとき。


 再び、巨大な影が現れる。


 三姉妹だ。


 山の斜面をものともせず、


 軽々とこちらへ近づいてくる。


 パノラマ電車は山裾に沿って、


 さらにゆるやかに勾配を上げていく。


 その先に――


 ミニがいた。


 両膝をつき、


 線路の行く手を覗き込むように身を乗り出している。


 テツロウの視界に、


 巨大な太ももが迫る。


 (……近すぎる……!)


 思わず息を呑む。


 そのとき、


 カタン、とポイントを渡る音が響いた。


 (……?)


 違和感。


 次の瞬間、


 パノラマ電車はゆっくりと停止する。


 ミニのすぐそばで。


 「ちょっと待ってね。お兄ちゃん」


 無邪気な声。


 ミニはさらに前へ身を乗り出す。


 その影が、


 車両全体を覆う。


 そして――--


 その先の


 線路のポイントの脇にある


 小さく細い棒状の切り替えスイッチを


 巨大な指先で、


 切り替えようとするが――


 『ベキッ』


 乾いた音とともに、


 それはあっさりと折れた。


 「あああ、やっちゃった……」


 ミニは顔を下に向け、


 それでもどこか悪びれない笑顔で、


 「お兄ちゃん、ごめんね」と言った。


 (……折れた……?)


 テツロウは一瞬、


 何が起きたのか理解できなかった。


 だが――


 (……相変わらずだな……)


 どこかで納得してしまう自分がいる。


 「仕方ないね」


 ミニはすぐに切り替える。


 「お兄ちゃん、後ろの車両に移って!


  その先にエミお姉ちゃんがいるから!」


 「エミも……?」


 テツロウは戸惑いながらも、


 後方の車両へと移る。


 視線の先。


 線路は二方向へ分かれていた。


 登る線。


 下る線。


 そしてその足元には、


 無残に折れたレバーが転がっている。


 その上方――


 エミがいた。


 「兄さん、今度はこっちよ」


 やさしく手を振る。


 「ミニ、兄さんをお願いね」


 「お姉ちゃん、ポイント壊れちゃったから――


  お兄ちゃん、お願いね!」


 無邪気な声。


 次の瞬間。


 ミニの両手が動く。


 パノラマ電車の両脇を、


 軽々と掴み上げた。


 (え――!?)


 車体が浮く。


 大きく揺れる。


 テツロウは思わず座席にしがみついた。


 「ミニ、何してるんだ!?」


 だが、


 返事はない。


 ミニはそのまま、


 壊れたポイントの先へと電車を運び――


 レールの上に、そっと戻す。


 そして。


 「いくよ、お姉ちゃん!」


 勢いよく――


 押した。


 (うわっ――!?)


 パノラマ電車は、


 一気に加速する。


 上り勾配。


 だが関係ない。


 勢いのまま、


 エミの方へと駆け上がっていく。


 前方。


 巨大なエミが、


 両手を広げて待っている。


 包み込むように。


 受け止めるために。


 「兄さん、大丈夫よ」


 「私が、ちゃんと受け止めます」


 やわらかな声。


 その声に、


 ほんの少しだけ安心してしまう。


 だが――


 速い。


 近い。


 逃げられない。


 パノラマ電車は、


 エミの胸元のあたりへと向かって、


 そのまま突き進んでいく。


 視界いっぱいに広がる存在。


 そして――


 その両脇を、


 巨大な手がやさしく包み込む。


 衝撃は、ない。


 ただ――


 完全に、受け止められていた。


 電車は、


 そのまま静かに停止する。


 視界いっぱいに迫る存在。


 テツロウは思わず視線を逸らしかける。


 「兄さんったら、何を考えてるの?」


 少しだけからかうような声。


 「いや、だって……」


 言葉が詰まる。


 エミはくすっと笑う。


 「もう、兄さんならいいんですよ」


 やわらかな声。


 そのまま、そっと囁く。


 「……兄さんは、可愛いです」


 (……なんなんだよ、これ……)


 鼓動が早くなる。


 パノラマ電車は、


 再びポイントを通過し、


 エミの元へ到達する。


 そして停止する。


 「兄さん、ちょっと待ってね」


 エミもまた身を乗り出し、


 電車を覆うように影を落とす。


 そして、


 先のポイントを、手慣れた動きで切り替える。


 「最後は、リオ姉さんが待っています」


 「後ろの車両へ、移ってくださいね」


 テツロウは無言で頷き、


 後方へと移動する。


 再び、電車は動き出す。


 そして――


 視界の上方から、


 ゆっくりと影が覆いかぶさる。


 リオだ。



 体を屈め、


 顔を近づけてくる。



 視界いっぱいに広がる表情。


 逃げ場はない。



 ただ見上げるしかない距離。



 「お兄様――」



 やわらかな声。



 「この高さの違いも、楽しんでいただけていますか?」



 その瞳は、


 まっすぐにこちらを捉えていた。



 電車は、


 その視線の中を進んでいく。


 包まれるように。



 見守られるように。



 逃げ場のないまま。



 リオが、ふと口元に笑みを浮かべる。


 そして、


 エミとミニに顔を寄せる。


 小さく、何かを囁く。


 (……またか……)


 テツロウは展望席から見上げながら、


 わずかに身構える。


 やがて三姉妹は、


 山から離れていく。


 パノラマ電車は、


 頂上付近へと到達する。


 そして、


 谷を越えようとした――そのとき。


 線路が、途切れていた。


 (……え?)


 頭上から声が降りてくる。


 「お兄様、大丈夫ですわよ」


 リオだ。


 「私が導いて差し上げます」


 見上げると、


 巨大なリオが、


 両手で鉄橋そのものを持ち上げていた。


 (……は……?)


 理解が追いつかない。


 だが――


 橋は、確かにそこにある。


 リオの手の上に。


 パノラマ電車は減速し、


 その橋へと進む。


 渡り始める。


 足元が変わる。


 だが感じるのは、


 “支えられている”感覚。


 (……持たれてる……)


 「お兄様、楽しんでいただけてますか?」


 そして――


 「下をご覧ください」


 視線を落とす。

挿絵(By みてみん)

 谷の底。


 そこに――


 エミとミニがいた。


 仰向けに寝そべり、


 谷に沿って横たわっている。


 巨大な双子。


 谷そのものを埋める存在。


 (……でかすぎる……)


 上にはリオ。


 下には双子。


 完全な上下の支配。


 ミニが笑う。


 「お兄ちゃん、どう? 驚いた?」


 エミも静かに微笑む。


 パノラマ電車は、


 その間を渡っていく。


 やがて橋を越え、


 前方にトンネルが現れる。


 リオが囁く。


 「次は、いよいよパーティー会場です」


 「お楽しみに」


 その声とともに――


 電車はトンネルへと入っていった。


 ――第七話へつづく



■後書き


第六話をお読みいただきありがとうございます。


第七話は第一章の締めくくりとなります。物語をお楽しみいただければ幸いです。


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