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不思議な宇宙(そら)のもとで  作者: まほ。かんた。
不思議な夜の車窓から
4/13

第一章 不思議な夜の車窓から④

第四話です。


今回の舞台は、青星リオ。

湖を中心にした“彼女の世界”が

描かれます。


【登場人物】

・青星テツロウ:23歳

 本作の主人公。列車に乗り、

 不思議な世界を体験する青年。

 

 New

・青星リオ:20歳

 テツロウの妹。圧倒的なスケールと存在感を持つ、

 完成された大人の女性。


・青星エミ:17歳/青星ミニ:17歳

 前話までに登場した双子の妹たち。

 今回も遠景で存在感を示します。


それでは本編をお楽しみください。


■第四話 


 巨大なエミとミニが、後方へと遠ざかっていく。


 その姿はすでに街の一部のようで、

 

 ゆっくりと振られる手は、

 

 雲の流れのように穏やかだった。


 後方車両の展望室。


 全面ガラスに囲まれた空間で、

 

 テツロウは一人、振り返っていた。


 月明かりに照らされた二つの巨影。


 その輪郭は、もはや人ではない。


 山のように静かで、


 それでいて確かな意思を持っている。


 「……やっぱデカいな……」


 小さく呟いた声は、夜に溶けた。


 列車はトンネルへと滑り込む。


 光が消え、闇が支配する。


 ガラスに映るのは、自分の小さな姿だけ。


 (次は……リオか)


 胸の奥に残る、言葉にできない圧。


 先週、何かを言われた。


 大事なことだったはずなのに――思い出せない。


 やがて、闇が裂ける。


 トンネルを抜けた瞬間、視界の先――


 丘の上に、それはいた。


 脚を組み、静かに腰掛ける巨大な女性。


 夜を背に、月を従えるように座っている。


 青星リオ。


 その姿は、景色の中にあるのではない。


 景色そのものを支配していた。


 「やっと来てくれたわね。お兄様」


 声が届く。


 やわらかく、だが空気を満たす響きで。


 リオは、ゆっくりと立ち上がる。


 その瞬間。


 風が押し出され、草木が揺れ、

 

 遠くの水面が震える。


 一歩。


 距離の感覚が壊れる。


 丘の上から、線路の前へ。


 そして――


 線路を跨ぐ。


 両脚の間に、線路と列車が収まる。


 見上げる視界のすべてが、リオで埋まる。


 手を腰に当て、仁王立ち。


 その姿は、圧倒的だった。


 エミやミニとは違う。


 すべてが完成された、大人の存在。

挿絵(By みてみん)


 「お兄様、パーティーの準備が出来ております」


 微笑む。


 それだけで、空気が変わる。


 「その前に――」


 「今度は私で、電車の旅を楽しんで下さいね」


 列車は止まらない。


 リオの下を、すり抜ける。


 そして、その先へ――


 視界が開ける。


 月明かり。


 振り返る間もなく、背後で巨大な影が、

 

 ゆっくりと動く気配がした。


 リオだ。


 彼女は振り返り、湖の方へと歩き出していた。


 その一歩に合わせて、地形がわずかに歪む。


 風が流れ、空気が引き寄せられる。


 そして――


 線路が、曲がる。


 もともと決まっていたはずの軌道が、


 彼女の進む方向へと、なぞるように導かれていく。


 (……ついていってる……?)


 テツロウの喉が鳴る。


 線路は彼女を避けているのではない。


 彼女の進む先へと、続いている。


 まるで、最初からそうなるように


 決められていたかのように。


 そして。


 視界の先に広がる。


 湖。


 月を映す水面。


 その中央へと、巨大な背中が進んでいく。


 そしてそこに、


 すでに“待っていたかのように”立つ。

挿絵(By みてみん)


 青星リオ。


 パノラマ電車は高度を上げ、湖上の鉄橋へと入る。


 単線。


 細い。


 不安定。


 空中に浮かぶ一本の軌道。


 その線路はカーブしながら、湖の中央へ。


 そして――


 リオを取り囲む。


 (……囲ってる……)


 テツロウは理解する。


 これは橋じゃない。


 軌道だ。


 彼女を中心にした、ひとつの世界の。


 リオは、橋に沿うように歩く。


 一歩ごとに、湖が揺れ、風が流れ、橋が軋む。


 ぎし、と。


 かすかな音。


 それでも、崩れない。


 (……なんでだ……)


 答えは分かっている。


 彼女がいるからだ。


 リオは、ふと湖へと視線を落とす。


 そして。


 手を差し入れる。


 水が割れる。


 湖の一部が、持ち上がる。


 そして――


 空へと放つ。


 無数の水滴が、夜空へ広がる。


 月光を受け、それは星のように輝く。


 降り注ぐ光。


 雨のように、鉄橋へと落ちてくる。


 パノラマ電車の屋根を叩き、

 

 窓を流れ、世界を満たす。


 その中で。


 リオは、微笑んでいた。

挿絵(By みてみん)


 濡れた髪。


 光を帯びた肌。


 したたり落ちる雫。


 まるで――女神。


 「どうですか、お兄様」


 「少しだけ、景色を変えてみました」


 (……遊ばれてる……)


 だが、恐怖だけではない。


 美しい。


 そう思ってしまう。

挿絵(By みてみん)


 水面。


 そこには、もう一つの世界があった。


 月を映した湖は、揺れていない。


 静かすぎるほどに静かで、


 まるで磨き上げられた鏡のようだった。


 その中に――


 リオがいる。


 上下が反転した、もう一人のリオ。


 (……同じだ……)


 違いが、分からない。


 どちらが本物で、どちらが映像なのか。


 現実のリオが、わずかに動く。


 遅れて、水面のリオも動く。


 完全に一致している。


 (……違う……)


 テツロウは、違和感に気づく。


 同じなのに、同じではない。


 水面の中のリオは、


 空よりも広い場所に立っているように見えた。


 下にあるはずの鏡が、もう一つの空になっている。


 そこに立つ巨大な存在。


 上にも。


 下にも。


 二つのリオが、世界を挟み込む。


 (……逃げ場がない……)


 どこを見ても、リオがいる。


 橋の上にいるはずなのに、足場の感覚が揺らぐ。


 ここが上なのか、分からなくなる。


 リオは、静かに微笑む。


 その表情もまた、水面の中で完全に再現される。


 二つの微笑み。


 優しく、そして抗えない。


 「ちゃんと見えていますね」


 声が届く。


 それが、上からなのか、下からなのか、分からない。


 テツロウは、ただ立ち尽くす。


 理解が追いつかない。


 だが一つだけ、分かる。


 この世界は――


 彼女の中にある。


 リオは、ゆっくりと身をかがめる。


 視界が埋まる。


 ガラスいっぱいに、瞳。


 「そのまま進んでください」


 やさしい声。


 だが――逃げられない。


 自由ではない。


 導かれている。


 彼女に。


 そのときだった。


 リオが、ふと視線を外す。


 遠くへ。


 「――エミ、ミニ」


 静かな呼びかけ。


 だが、世界に響く。


 遠くの地平。


 二つの影が現れる。


 巨大な双子。


 こちらへ向かってくる。


 リオは微笑む。


 「もうすぐ、賑やかになりますよ」


 湖。


 鉄橋。


 列車。


 そして――三つの巨大な存在。


 世界のスケールが、さらに拡張される。


 テツロウは動けない。


 ただ、その中心にいる。


 彼女たちの世界の中で。


 パノラマ電車は進む。


 その軌道の上を。


 ――第四話 終


■後書き


第四話までお読みいただきありがとうございます。


今回は「支配」と「美しさ」をテーマに、

リオの世界そのものを描く回になりました。


水や光、スケール感など、

少しでもイメージが伝わっていれば嬉しいです。


次回はさらに賑やかな展開へと進んでいきます。


引き続きよろしくお願いします。

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