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不思議な宇宙(そら)のもとで  作者: まほ。かんた。
不思議な海のテツロウ
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第二章 不思議な海のテツロウ⑤

第二章 第五話です。

今回は、夜のログハウス。

巨大な彼女たちと過ごす、静かなひとときへ。


【登場人物】

青星テツロウ/エミ/リオ/ミニ/赤井エアリ

 テツロウは、沈みゆく夕日を見つめていた。


 水平線の向こうへと消えていく光。


 その残光が、

 巨大な妹たちと、エアリの身体をやわらかく染めている。


 まるで――


 この世界そのものが、ゆっくりと色を変えていくようだった。


 「さあ、ログハウスへ戻りましょう」


 エアリの声が、静かに響く。


 「ふふ、夜はこれからです」


 エミがやわらかく微笑む。


 「夜も、楽しみにしてくださいね」


 その言葉に――


 テツロウは、わずかに違和感を覚えた。


 (……夜も?)


 なぜか。


 その一言が、少しだけ引っかかった。


 だが――


 その感覚は、すぐに波音に溶けていった。


 夜が、ゆっくりと降り始めていた。


 海の青は、少しずつ深くなり、


 空には、淡い星がひとつ、またひとつと灯り始める。


 「さあ、帰りましょう」


 エアリが先頭に立ち、静かに歩き出す。


 その後ろを――


 エミが、テツロウのいる特別個室を


 やさしく胸元へ抱えながら続く。


 「揺れないようにしますね」


 その言葉どおり、


 移動はとても穏やかだった。


 昼間とは違う。


 波も、風も、すべてが静かになっている。


 (……さっきまでと、別の海みたいだな……)


 テツロウは、窓の外を見つめる。


 夜へと変わりゆく景色。


 その中を、ゆっくりと進んでいく。


 後方では――


 リオが、浮き輪型のベッドを引いていた。


 その上には、


 浮き輪に身を預けたままのミニ。


 すっかり眠っているようだった。


 規則正しい寝息。


 力の抜けた表情。


 巨大な身体が、


 静かに波に揺られている。


 (……あんなに騒いでたのに……)


 テツロウは、思わず小さく笑う。


 どこか、安心したような気持ちが広がる。


 リオが、穏やかに言った。


 「今日は、はしゃぎすぎたみたいね」


 その声は、どこか優しく、


 少しだけ愛おしむようでもあった。


 エミも、ちらりと後ろを見て微笑む。


 「ミニちゃん、ぐっすりですね」


 エアリは、前方を見たまま言う。


 「問題ありません。このままの速度で戻れば、


  すぐに到着します」


 淡々とした口調。


 だがその声は、どこか静かな夜に溶け込んでいた。


 やがて――


 遠くに、ログハウスの灯りが見えてくる。


 小さく。


 あたたかく。


 夜の中に浮かぶ、ひとつの帰る場所。


 テツロウは、その光を見つめながら――


 静かに、息をついた。


 やがて、


 ログハウスの扉が開かれる。


 あたたかな灯りが、外へと漏れ出した。


 中へと運び込まれたテツロウは、


 個室の中からその光景を見上げる。


 昼とは違う、


 やわらかく、落ち着いた空気。


 「先にシャワー、浴びてきますね」


 エミがそう言い、


 他の三人もそれぞれ頷いた。


 テツロウも個室へ戻り、


 簡単にシャワーを済ませる。


 短い時間だったが、


 潮の香りと一日の疲れが、


 ゆっくりと流れていくようだった。


 ――そして。


 再び顔を上げたとき。


 そこには――


 パジャマ姿の彼女たちがいた。

挿絵(By みてみん)


 やわらかな布に包まれた身体。


 昼間とは違う、落ち着いた雰囲気。


 灯りに照らされて、


 その輪郭がやさしく浮かび上がる。


 テツロウは、思わず言葉を失った。


 「……雰囲気、変わるな……」


 小さく呟く。


 そのとき。


 リオが、片手にグラスを持って現れた。


 中には、泡立つビール。


 エミは、焼き鳥の盛られた皿を


 やさしくテーブルへと運んでくる。


 香ばしい匂いが、


 ゆっくりと室内に広がっていった。


 「少しだけ、どうかしら」


 リオが穏やかに微笑む。


 「軽く、いただきましょう」


 テツロウも頷き、


 用意されたグラスを手に取った。


 リオは、ゆっくりとジョッキを傾ける。


 巨大なグラスから、


 細く、慎重に注がれるビール。


 黄金色の液体が、


 テツロウの小さなジョッキへと静かに満ちていく。


 その動きは、驚くほど丁寧だった。


 「……すごいな」


 思わず、テツロウが呟く。


 「このくらいは、簡単よ」


 リオは、やわらかく微笑んだ。


 泡が、ふわりと立ち上る。


 エアリも、同じようにグラスを持ち上げる。


 「それでは――」


 リオが、ゆっくりとジョッキを近づける。


 テツロウの小さなジョッキと、


 リオとエアリの巨大なジョッキが、


 軽く、触れ合った。


 コツン――


 小さな音が、静かな室内に響く。


 「乾杯」


 その言葉が、


 やわらかく重なった。


 テツロウは、


 ほんの少しだけ笑いながら、


 グラスを口に運んだ。


 そのとき――


 ミニが、ぴくりと反応する。


 「ねえねえ、それなにー?」


 興味津々といった様子で、


 ぐっと顔を近づけてくる。


 「ビールよ」


 リオが答えると、


 ミニの目がぱっと輝いた。


 「えー!ミニも飲みたいー!」


 身を乗り出すミニ。


 だが――


 「ミニちゃん、それはまだダメですよ」


 エアリが、やさしく言った。


 「えー……なんでー?」


 少しだけ頬を膨らませるミニ。


 そのまま、ちらりとテツロウの方を見ると――


 にやりと、悪戯っぽく笑った。


 「ミニ、お兄ちゃんより大人だよ?」


 「……は?」


 「だって――」


 ミニはぐっと身を乗り出し、


 自分の身体を見せつけるように姿勢を変える。


 「お兄ちゃんより、ずっと大きいもん!」


 視界いっぱいに広がる、巨大な存在感。


 テツロウは思わず息をのむ。


 「いや、それは関係ないだろ……!」


 思わずツッコミを入れる。


 リオがくすっと笑う。


 「大きさと大人は、別よ」


 エミもやさしく微笑む。


 「ミニちゃんは、まだ子どもです」


 「えー……」


 ミニは不満そうにしながらも、


 どこか楽しそうに笑っていた。


 エアリはグラスを軽く傾けながら、


 静かに言う。


 「……飲みすぎなければ、大丈夫ですよ」


 その声は、


 ほんの少しだけ柔らかくなっていた。


 テツロウは、

 グラスを口に運びながら――


 「……いいな、こういうの」


 思わず、そう呟いた。


 エアリが、静かにグラスを傾ける。


 「明日は、海底洞窟の調査を行います」


 「スターライトの反応は、その奥にあります」


 テツロウは、少しだけ顔を上げた。


 「洞窟……か」


 エアリは、わずかに頷く。


 「詳しいことは、明日説明しますね」


 リオが、やさしく続ける。


 「大丈夫よ。ちゃんと守るから」


 エミが嬉しそうに微笑む。


 「ふふ、ゆっくりしてくださいね、兄さん」


 外では、波の音。


 中には、やわらかな灯りと、


 穏やかな時間。


 夜は、まだ始まったばかりだった――


 やがて――


 リオが、そっとグラスを置いた。


 「そろそろ、片付けましょうか」


 エアリも小さく頷く。


 「はい、寝る準備を始めますね」


 テーブルの上に並んでいたグラスや皿が、


 ゆっくりと片付けられていく。


 折り畳み式の大きなテーブルが、


 軽く持ち上げられ――


 ぱたん、と静かに畳まれた。


 その動きひとつひとつが、


 テツロウから見れば、


 まるで巨大な構造物が動いているように見える。


 (……やっぱり、スケールおかしいよな……)


 小さく息をつく。


 次の瞬間――


 エミが、奥から大きな布を抱えて戻ってきた。


 それは、布団だった。


 だが――


 あまりにも大きい。


 広げる前の状態でも、


 テツロウの視界を埋め尽くすほどの質量がある。


 「ここに敷きますね」


 エミがやさしく言う。


 その隣で、リオも布団の端を持つ。


 「せーの」


 ふわり、と。


 巨大な布団が持ち上がる。


 ゆっくりと空中に広がり、


 その影が、テツロウのいる場所へと落ちてくる。


 視界が、一瞬やわらかな影に包まれた。


 テツロウは、思わず見上げた。


 視界いっぱいに広がる、


 巨大な彼女たちの姿。


 パジャマの隙間から、


 やわらかな肌がわずかに覗く。


 ふとした動きのたびに、


 布の奥に隠れていた輪郭が、


 一瞬だけ、光に浮かび上がる。


 (……やばいな……)


 思わず、目を逸らそうとする。


 だが――


 逸らしきれない。


 とくに、リオ。


 長身のその体が、


 下から見上げる視界いっぱいに広がっている。

挿絵(By みてみん)


 ゆったりとしたパジャマ越しにも分かる、


 しなやかで豊かな輪郭。


 その動きひとつひとつに、


 自然と視線を引き寄せられてしまう。


 (……落ち着け……)


 心の中でそう言い聞かせる。


 そのとき。


 リオが、ふと視線を落とした。


 テツロウと目が合う。


 やわらかく、微笑む。


 そして――


 ほんの少しだけ身を寄せて、


 静かに囁いた。


 「私も、お兄様だったら……いいのですよ」


 その声は、


 驚くほど近くで響いた。


 「……っ!?」


 テツロウは思わず息をのむ。


 何も言えずに、


 ただ視線を彷徨わせる。


 リオは、くすりと小さく笑い、


 そのまま何事もなかったかのように


 布団の端を整えた。


 「はい、これで大丈夫ですね」


 エアリの声が、少し離れた位置から響く。


 現実に引き戻される。


 ミニはすでに布団の上で転がっていた。


 「ふわふわー!」


 その無邪気な声に、


 場の空気が一気にやわらぐ。


 テツロウは、


 小さく息を吐いた。


 巨大な布団。


 巨大な彼女たち。


 その中に、


 自分がいる。


 (……ほんと、落ち着かないな……)


 そう思いながらも――


 どこか、心地よさを感じていた。


 やがて、


 布団が整えられていく。


 テツロウの特別個室は、


 小さな台の上へと移され、


 その周囲を囲むように、


 彼女たちの布団が配置された。


 まるで――


 自分を中心に、


 大きな輪ができているようだった。


 「これで、大丈夫ですね」


 エアリが全体を見渡しながら言う。


 リオが静かに頷く。


 「ええ、いい配置だと思うわ」


 ミニはすでに布団の上に転がりながら、


 「お兄ちゃん、ここから全部見えるー?」


 と楽しそうに顔を近づけてくる。


 「見えすぎるくらいだよ……」


 テツロウは苦笑した。


 エミがやさしく微笑む。


 「兄さん、安心してくださいね」


 その声に、


 テツロウは小さく頷いた。


 やがて――


 照明が、ゆっくりと落とされていく。


 室内は、


 やわらかな灯りだけが残る、


 落ち着いた空間へと変わった。


 外からは、


 静かな波の音。


 時折、


 風が木々を揺らす気配。


 そのすべてが、


 夜の深まりを伝えていた。


 「今日は……楽しかったですね」


 エミがぽつりと呟く。


 「うん!」


 ミニがすぐに答える。


 「海、いっぱい遊んだし!」


 リオも、静かに続ける。


 「久しぶりに、ゆっくりできた気がするわ」


 エアリは少しだけ目を細めて、


 「……こういう時間も、悪くないですね」


 と、静かに言った。


 テツロウは、


 その声を聞きながら――


 天井を見上げる。


 いや、


 正確には、


 巨大な彼女たちの姿を見上げていた。


 それでも――


 不思議と、怖さはなかった。


 「……みんな、ありがとな」


 ぽつりと、呟く。


 一瞬、


 静寂が落ちる。


 そして――


 「ふふ」


 エミが、やさしく笑った。


 「どういたしまして、兄さん」


 そのまま、


 ゆっくりと時間が流れていく。


 会話は少しずつ減り、


 やがて、


 誰かの呼吸が、


 静かに重なり始めた。


 ――眠りの気配。


 テツロウも、


 ゆっくりと目を閉じようとした――


 そのとき。


 ぐらり、と。


 足元がわずかに揺れた。


 「……ん?」


 次の瞬間――


 ミニが、寝返りを打つ。


 巨大な体が動き、


 布団全体が大きく沈み込む。


 「うわっ――!?」


 テツロウのいる台が、


 わずかに傾いた。


 個室が、


 ゆっくりと滑りかける。


 「兄さん!」


 エミの声が、すぐに響いた。


 次の瞬間――


 大きな手が、


 そっと個室を支える。


 揺れが、止まる。


 「大丈夫ですか?」


 すぐそばから、


 やさしい声。


 「……ああ、助かった」


 エミは、ほっとしたように微笑む。


 そして――


 そのまま、


 個室をやさしく持ち上げた。


 「ここなら……安心ですから」


 そう言って、


 自分の胸元へと、


 そっと引き寄せる。


 やわらかな布と、


 あたたかなぬくもり。


 揺れは、完全に消えていた。


 テツロウは、


 その中で小さく息をつく。


 (……すごいな……)


 まるで、


 すべてから守られているような感覚。


 外の音も、


 遠くなっていく。


 エミは、


 そっと個室に手を添えたまま、


 静かに目を閉じた。


 「おやすみなさい、兄さん」


 その声は、


 すぐそばで、


 やわらかく響いた。


 テツロウも、


 ゆっくりと目を閉じる。


 意識が、


 静かに沈んでいく。


 波の音。


 やわらかなぬくもり。


 そして――


 安心。


 そのまま、


 夜は静かに過ぎていった。


 ――そして、朝。


 やわらかな光が、


 ゆっくりと差し込む。


 テツロウは、


 静かに目を覚ました。


 最初に感じたのは、


 あたたかさ。


 次に、


 やわらかな感触。


 ゆっくりと顔を上げる。


 そこには――


 眠ったままのエミの姿。


 自分の個室を、


 大事そうに胸元へ抱えたまま、


 穏やかな寝息を立てている。


 朝の光に照らされて、


 その表情は、


 どこまでもやさしかった。


 テツロウは、


 しばらくその光景を見つめたあと――


 小さく、息を吐いた。


 「……今日も、すごい一日になりそうだな」


 新しい一日が、


 静かに始まろうとしていた――



第二章 第六話に続く

第五話を読んでいただき、ありがとうございました。

穏やかな夜の時間から、次はいよいよ海底洞窟の探索へ入ります。

次回、第六話もよろしくお願いします。

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