始まりの街②
――――冒険者登録所、最奥。
妹達は自分達がこれからどんな職業になるのか、その話に花を咲かせていた。
「ねぇ、ねぇ!あたし、どんな職業になるかなっ?」
「どーせなら最強の職業が良いわね!…まぁ、無理でしょうけど」
「うふふ…澄香ちゃんならどんな職業にだってなれると思うわぁ♪」
「私は…そうねぇ、2人を守れるなら、それで良いわ」
「ん…わたしも、たま姉とすみ姉を助けられるなら、良い」
そんな3人の会話を、先導しながらもニコニコと笑顔で聞いている受付嬢。
そして、重厚な扉が受付嬢によって開かれる。
「こちらが、職業診断部屋になりますっ!」
狭い部屋だが天井は高く、部屋の真ん中に巨大な水晶だけがポツンと置かれていた。
「何か、デカい玉があるわね…」
荘厳な雰囲気の水晶を見て、不思議そうに澄香が呟いた。
「はい!こちらが天地の目です!」
「この水晶に手を翳して頂くと、皆さんの魔力が自動的に吸収され、様々な色に輝き、オーラを放つんですよ!」
「その様子を見て、私達鑑定士が皆さんの職業を判断すると言うシステムになっておりますっ!」
説明を終えると、受付嬢は3人に視線を移す。
「それでは、どなたから診断されますか?」
一瞬の間。
「じゃあ、私から…お願いしようかしら?」
控えめな挙手、環だ。
俺は環が手を翳すのを画面越しに見つめる。
初めての出来事に見惚れていると、俺の隣にいた妖精が声を上げる。
「ほれ、始まるぞい!」
環はそっと、手を翳す。
高鳴る鼓動を感じながら、水晶へと魔力を送ると…
その瞬間、金色に爆ぜた光は部屋を白く染め上げ、影すら消えるほどの輝きを放った。
水晶がガタガタと打ち震える。
「わっ!お姉ちゃん…強そう!」
「…綺麗で、眩しい」
部屋が熱を帯びるその光景を、ジッと見つめる受付嬢。
「…これは、聖騎士適性です!守りに特化した職業ですよっ!」
「ふう…良かったわぁ、2人を守れる職業で…」
安心した様に呟く環。
診断が下された―――!
俺も思わず声が弾んでしまう。
「すげぇ!本当にファンタジーの世界じゃねぇか!」
「ほほう、姉ちゃん中々やるのお…いや、待て」
ゼウスも関心していたが、突然水晶に異変が起こる。
水晶から湧き出るのは黄金の柱。
天を突き抜けるように存在感を放っていたが、それに気付いたのは誰も居なかった。
環の職業を知ってはしゃいでいる3人、水晶に背を向けて記録を取っている受付嬢。
「お主の妹ちゃん、愛されとるのぉ…」
「え?何に?」
「…ガハハ!ほれ、次の番じゃ!」
この柱に気付いたのは、俺達以外にも居たのだと後で知る事になる…。
魔力は、静かに水晶へ吸収されていく。
記録を取り終えた受付嬢が、興奮気味で話し掛ける。
「さあ、次はどなたがされますか!」
「はいはーいっ!次はあたしの番っ!」
勢い良く手を挙げたのは澄香。姉の診断を受け、楽しそうに声を弾ませて言い放つ。
「それでは、手を翳して下さい!」
受付嬢に促されるまま、澄香も水晶の前に立ち手を翳す。
早る鼓動が、澄香の手を震わせる。
小さく息を呑むと、澄香は目を瞑り水晶へ魔力を送り込んだ。
――澄香から溢れたモノは独特だった。
七色の小さな粒が、次々と水晶から出て来たのだ。
今にも消えそうな小さな、灯火。
「何だこれ?虹色?おい、ゼウス…これって――」
「しっ!静かにせえ!」
「…そんなに珍しいのか?」
俺の問い掛けも無視し、澄香の画面をマジマジと食い入るように見つめるゼウス。
ふと俺に視線を戻すと、満面の笑顔を俺に向けた。
「いやー!激レアなモン見せてもらったわい!あの妹ちゃん、化けるかもしれんのう!」
「え?俺にも分かるように説明――」
「まーまー!それはあの嬢ちゃんが言うてくれるから安心せえ!」
大笑いしながらゼウスは画面を指差すと、目をまん丸にさせ口を開けっ放しにしている受付嬢が映った。
1つ1つが虚空を漂う。
まるで喧嘩をするように、素早く。
やがて全てが纏まると透明に色を変え、1度だけ強く脈打ち、静かに水晶へと戻っていく。
何も分からずただひたすらに魔力を送り続ける澄香。
「あ、あの…お姉さん?あたしの職業…」
不安そうに目を開け、受付嬢に目線を送る。
初めての光景に魂を抜かれたような顔をしていたが、はっと目を覚ますと慌てて説明を始めた。
「あ、その…えっと、ですね!文献にしか載ってなくて、私も初めて見たのですが…」
古めかしい本のページを急いで捲る。
「あなたは全属性適性の魔法使いです!」
「ええっ!?」
聞き慣れない言葉に驚きを隠し切れない澄香。
…全属性適性?
つまり、どんな属性でも使えるってこと!?
チートじゃねぇか!最強すぎるだろ!
え、俺要らなくね?
俺も不安そうにゼウスを見つめた。
「いやいや、ワシのチカラは別格はじゃからの!お主にはしっかり出番があるぞい!」
「そりゃどーも…」
ため息混じりに呟きながら、画面に視線を戻した。
残るは…
「最後は、小さなお嬢さんですね!こちらにどうぞ!」
「…ん、始める、よ」
受付嬢に案内され、気怠げに、マイペースな足取りで水晶の前に立つ留奈。
表情1つ変えずに、静かに手を翳す。
あれ?水晶が、揺れてない…?
水晶は激しく光る事は無く、代わりに中心に大きな黄緑色の魔力が渦巻いた。
「…おお!これは珍しい魔力の渦!」
「お嬢さんは、治癒士と召喚士…2つの適性があります!」
「…おおー」
ほんのりと嬉しそうに拍手をして反応する留奈。
まさかのハイブリッド…!
動物好きがここで生きてくるのか…!
―――こうして3人の職業診断は無事に終わりを迎えた。
はずだった。
「お、おい!ゼウス!あれ見ろ!」
「――ん?」
3人が部屋を出て行った後、部屋から異音がする。
静かな異変と共に、水晶はヒビが入った。
―――ミシッ、バキッ!!
段々と広がっていくヒビを見て、俺は焦りが止まらなかった。
やばいやばい!こんな高い物壊しちまったら…
俺の不安は現実になってしまった。
水晶は粉々に砕け散ったのだ。
「…な、なんでこんな事になるんだぁ!?」
無惨な姿になった天地の目
「無理もない!3人の魔力に耐えられる水晶なんぞ、早々ないからのぉ…」
「…特に末の妹ちゃん。あの子にはとんでもない素質がありそうじゃ…」
「え…?」
ニヤリと口角を上げ、怪しげに笑うゼウス。
俺はその姿に、ほんの少し恐怖を覚える。
…割れた水晶の欠片が示した最後の色は、青白い光だった。
部屋から出てきた3人。
「やったわ!最強の魔法使い澄香様誕生よっ!」
「これでコケにしてきたあいつらをコテンパンにしてやれるわ…!」
「あらあら、澄香ちゃん気合い入ってるわねぇ…」
困ったように眉を下げて笑いながら、恨みの炎が燃える澄香を見つめる環。
「…たま姉も、格好良いよ」
「うふふ…ありがとう、留奈ちゃん♡」
「…わたしは、パァッて、しなかった。ぽわーってして、終わり…」
むすっと頬を膨らませてそう呟く留奈。
無言で留奈の頭を撫でる環。
「そんな事ないわよ?私、感じたの」
「あの光には、留奈ちゃんの優しさがいーっぱい詰まってるって」
「…たま姉、ありがと」
その言葉を聞いて、嬉しそうにはにかむ。
環はそのまま、愛おしそうに留奈を抱き締めた。
抱き締め過ぎた。
「ちょっ、ちょっと!お姉ちゃん!留奈が気絶しちゃう!」
「あっ!ごめんね、留奈ちゃん!つい…」
「……きゅう」
完全に伸びてしまった留奈を申し訳無さそうに背負うと、2人は冒険者登録所へと戻っていく。
その後、爆散した水晶を見て、受付嬢が白目を剥いたのは誰も知る由も無かった…。




