始まりの街①
「うわぁー!空が綺麗ね!空気も澄んでる気がするわ!」
「うふふ…そうねぇ、何だかハイキングに来たみたい」
「……早く、お弁当、食べたい」
「ちょっと!あたし達の目標は街に行く事でしょ!道草してる場合じゃないのよ!」
「……あれ」
初めて家から出た3人は空気感も違う異世界の風景を見渡しながら、楽しそうに話をしている。
歩いて1分もしない内、留奈が俺の作った親切過ぎる看板を見つけて指を差した。
「うわっ!何あの看板!作ったヤツ趣味悪っ!」
澄香が渾身の一撃を俺にお見舞いする。
こんなのが出来るだなんて俺だって思ってねーよ…!
何だよあのキラッキラな装飾と無駄に流れる音楽は!
「あのさーゼウス、あー言うのってお前の…」
「あー!ないない!ワシお主よりセンスあるもん!あんなの作れる方が逆に才能じゃね?」
俺の作った看板を見て大笑いする妖精。
ぐっ…このクソジジイ…
オーバーキルしてんじゃねーよ…
精神的ダメージを受けている最中、フォローするかのように環が言った。
「で、でもほら!徒歩3分ですって!矢印までついてるし、これで迷う事なく…はじまり、のまち、おるど?に行けるわ!」
「……早く、行こ」
「そーね、さっさと向かいましょ!」
オルドまでの街道はモンスターが出現しないように設定したお陰で、3人はあっという間に街へと到着した。
生成こそしたものの、中は本当にちゃんとした街なんだな…。
そこに人々がちゃんと生活してるってのが良く分かる。
この平穏を守るのが、神の役割ってやつなのか?
「…たま姉!すみ姉!見て!」
興奮した様子で留奈は走り出し、とある場所へと2人を手招く。ゲーム好きの直感がここだと感じたようだ。
『冒険者登録所』
「留奈、これなんて書いてあるか読めるの?」
「…ううん、何となく、ここだと思う、だけ」
「あらぁ…困ったわね…私達、日本語しか分からないから此処が何をする所なのか分からないわ…」
そ、そうか!
この世界にはこの世界の言語があるのか…。
何故最初に気付かなかった…!
あいつら現地の人とコミュニケーション出来ねぇじゃん!
……背に腹は変えられん!
ピピッ
『勇者パーティ ディスクレシア語自動翻訳』
「お主…ギリギリ攻めるのぉ…」
「流石にこれは許してくれ…」
どうしてもどうにかしたかった。
ゼウスには冷ややかな目を向けられたが、このコマンドは大丈夫なはずだろう。
「あ、あれ…?」
「何か…読めるようになってきたよう、な…」
「…ぼうけんしゃとうろくじょ?」
「……ふふん、るな、合ってた」
「ここに行けば冒険者になれるのね!早速入ってみましょ!」
「あっ、澄香ちゃん!危ない人が居たら危険よ!待って…」
「…ごーごー」
3人とも急ぎギルドへの扉を開く。
ガチャッ…
「ようこそ、冒険者登録所へ!」
「…あぁ?何だあのガキ、あんな奴が冒険者ってか?」
「かーっ!あんなんじゃ剣すら碌に振れねぇだろ!」
「ギャハハ!それもそうだな!」
「しかも甲冑やローブも着てねぇし、ここは女子供が来る場所じゃねぇんだぞ!」
とんでもない歓迎を受けた。
俺は怒りで震え、コマンドを使ってこいつらを懲らしめてやろうと入力しようとしたが…
「ばかもーーーん!!」
ベシィッ!
震える手を、ゼウスに思い切り叩かれた。
「…はぁ?誰が馬鹿なんだよ、どう見ても馬鹿なのはあいつらだろうが!!」
「あいつらは…死ぬ思いをして、生きる力を得るために此処に来たって言うんだぞ!?」
「見た目や性別だけで門前払いとかありかよ…っ!」
「それなら懲らしめて黙らせるのが一番手っ取り早いじゃねぇか!」
憤り、悔しい思いを八つ当たりのようにゼウスへ吐き捨てる。
だが、どうしても許せなかった。
妹達の決断を踏み躙られたようで。
「お主が妹ちゃんを大事にしとるのはよーく分かる」
「…じゃがな、お主のそのチカラは神のチカラ」
「我らは人々を愛しておるんじゃ、どんな奴だろうとな…」
「……っ!?」
「神のチカラはこの世界の人々には使えん。攻撃も、洗脳も、何もかもな」
「この世界の平和を維持する…それがワシら神の存在理由なんじゃよ」
そうだ、俺は神になったんだ。なってしまったんだ。
妹達だけじゃない、この世界そのものの神に。
そう思った瞬間、怒りが一気に吹っ飛んでいった。
「…ははっ、確かにそうかぁ」
「俺、今神様なんだもんなぁ」
「神様が人間懲らしめてたら、そりゃ信仰もされなくなっちまうよなぁ…」
「そう、信仰されなければワシはおらん」
「そのチカラも無用の賜物になるって訳じゃ、分かるじゃろ?」
宥めるような、申し訳ないような、そんな表情でゼウスは俺の手に触れ可愛らしい笑顔でこう言った。
「お主は全知全能最強神様なんじゃからの!早く勇者に魔王討伐に行かせんかい!」
わかっているさ。今、気も引き締まった。
妹達だけを見過ぎてはいけないと。
…背後の闇が、わずかに揺らいだ。
「……それでいい」
「……っ!?」
俺の後ろに、いつの間にか知らない男が立っていた。
黒衣。
感情のない瞳。
底の見えない静かで鬱屈とした気配。
「力で黙らせるのは容易い」
「だが、それでは人は育たぬ」
「……誰だよ、あんた」
「人の終わりを見届ける神…とでも言っておく」
ゼウスが小さく鼻を鳴らす。
「出おったか、相変わらず陰気なやつじゃのぉ」
「ふん、こんな小僧にチカラを渡した奴など今や恐るに足らず」
「…ワシが全てのチカラを渡したとでも思うのか?小童が」
俺の動揺を他所に、2人は明らかに空気感が違うヒリついた雰囲気の中会話をしている。
そして男は俺に目を向け…
「感情で世界を歪めるな、雷神の後継」
その不気味な視線が俺を射抜く。
「お前はまだ、神ではない」
その時、俺の画面に映された妹達を見つめた男は誰にも聞こえないくらいの小さな声でポツリと呟いた。
「あの3人……試す価値はある」
男は一瞬でその場から消え去っていった。
初めて見た、俺以外の神。
へいへい、今分からされましたよ。あれくらいの威厳がないと神にはなれないって事が。
…でもまずは先にあいつらがどうなったか確かめねぇと!
慌てて画面に目を向ける。
「……失礼。こちらで冒険者登録が出来ると聞いてやって来たのですが…」
先陣を切ったのは環だった。
満面の笑顔で受付嬢にそう尋ねるが、そのオーラは明らかに冷ややかであり、怒りを露わにした目先はゴロツキを刺すように見つめていた。
「えっ!?は、はい!確かにこちらで承っております!」
受付嬢は周りの雰囲気に怖気付きながらも、3人に向かって説明をしていく。
「えっと、冒険者登録にはお一人様銀貨5枚が必要になりますね!」
「…え?銀貨?」
「……お金払わないとなれないって事?」
「………わたしたち、無一文」
その一言で3人は凍りついた。
俺も知らなかった。お金が必要なことを。
…どーすんだ!?
こうなったらもう宝箱を突然湧かせて一気に金持ちにさせるか…!?
いやいや、これは流石にゼウスからアウト食らうやつだろ!?
「金がねえならさっさと家に帰りな!」
「そうだそうだー!」
ゴロツキ達に揶揄われ、3人の顔がどんと暗くなった。
俺が狭間で1人大パニックを起こしていると、ふと受付嬢の声が聞こえた。
「あ、あのっ!職業診断でしたら無料で出来ますのでっ!」
「お、お三方に合う職業がきっと見つかりますよ!」
「「「職業診断?」」」
自分達が無一文な事に盛大にショックを受け項垂れていた3人だったが、その言葉を聞くと途端に目に輝きが戻った。
「はいっ!奥の方にある水晶に手を翳して頂くと、皆さんの魔力に合わせて水晶が光るんです!」
「それを元に、最適な職業に振り分け、依頼を受けて頂いておりますっ!」
「冒険者登録されていない方は、その、草むしりとかそんなクエストしか依頼が無いのですが…あはは…」
どんどんと言葉尻が小さくなっていく受付嬢を横目に、妹達は期待に胸を膨らませていた。
「…つまりそれであたし達に合う職業が分かるって事ね!あたし達をコケにしたヤツを見返してやる大チャンスよっ!」
「とりあえず、職業だけでも分かるならそれに越したことはないわぁ♡」
「……ふんす、楽しみ」
各々が自分の職業に夢を見ながら、3人は奥の部屋へと案内されて行くのであった…。




