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神様になったので妹たちを勇者にして世界最強にします  作者: ほっぺ


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邂逅②




悍ましい空気が、肌に纏わりつく。

喉が焼けるように熱くなった。

声が、出ない。


本能が、冷や汗を吹き出させる。



「そんな顔されちゃうと、傷付くじゃないか」



男の所作一つ一つにビクリと体が震える。

そんな時、森の天気が変わって来た。



漆黒の暗雲が、森中を包み込み始める。



「急に天気が…!」


「これもあの人の仕業、なの?」


「…嫌な予感」



留奈の言葉に各々が武器を持ち、戦闘に備える。

その様子を見た男は嬉しそうに声を弾ませた。



(何だ?この感覚…前にも感じたような…)



「やっと戦う気になってくれだんだねぇ」

「僕も嬉しいよ……」



「ようやく本気を出せるんだからサァ!」



豪雷が、辺り一帯に何本も落ちた。

その光の影から、見知った顔が現れる。



(やっぱりこの声…あいつだ!)




「あ、貴方は!」


「…フーちゃんの、敵!」



「え、どう言う事?さっき街に居たじゃない」



環と留奈が敵意を剥き出しにする。

今の状況を澄香は不思議そうに首を傾げた。


俺を買い取ろうとしたあいつ。

最初から分かっててやってたのか。




「遊んで、あげるよ」



口元を歪ませ、俺達を見下す男。

冷酷な視線が足を竦ませ、状況がどんどんと悪くなる。

重苦しい雰囲気を吹き飛ばすように澄香が叫んだ。



「一体何なのよ!遊んであげるとか…簡単に言わないでっ!」


「あたし達は玩具じゃないんだからっ!」



だが、その勢いは澄香の眼前に落とされた雷によってかき消されてしまう。

焼け焦げた地面から煙が立ち上る。



「ひっ…!?」



「今のはワザと。次は、外さないよ?」



「あんた…誰なの?」




面倒くさそうにため息を吐く。

ゆっくりとフードを脱いでいく男。


その奥から、見知った銀色の耳と髪が伸びた。



「こんにちは、お嬢さんたち♪」


「…僕は魔王軍の1人、メルクス」


「オルドの街で道具屋をやってる商人さ」



満面の笑顔で言い放つメルクス。

はにかんだ顔からは八重歯が光る。

声色は優しいが、後ろから溢れ出るオーラは殺気で満ち溢れていた。



「…あの子に、何かしたのもあなただよね?」



初めて留奈が怒気を込めて問う。

口角を上げ、メルクスは目を細めて小さく頷いた。

そのまま、呆れたように吐き捨てる。



「…ククッ、そうだねぇ。あの程度の奴じゃ実験にもならなかったよ」



「……っ」



唇を噛む。

怒りで震える手。

それでも、声を絞り出す。



「……戦いたくないって、言ってたのに!」



「そんな事は知らないよ。僕は実験してるだけさ」

「壊れたら次のを探す、それだけ」



「…ばかぁーっ!」



留奈は不本意に消えていったモンスターを想い、メルクスの言葉に激昂する。

呼応するように、留奈の体は黄緑色の火花を散らす。

落ち着いている呼吸。

しかし、瞳は戦う意志を宿していた。


留奈の絶叫の後には巨大な魔法陣。



「許さないっ!」


魔法陣から現れたのは、ピンク色のクマだった。

…前よりも遥かに大きく成長している。



「クマーッ!!」


力強い声で鳴いたクマ。

その直後、地面が凹み疾風が吹き荒れた。


メルクスに向かって全力の一撃を放つ。



爆音と共に木々は揺れ、大地が震えた。

ゆらりと砂埃から浮き上がった影は…メルクスだった。



「おー怖い怖い」

「いきなり殺しにくるなんて、酷いじゃないか」



態とらしく言いながら、クマのパンチを片手で受け止め

ている。

確かに当たったのに。

何も無かったような涼しい顔。

段々と、クマの顔が苦痛に歪んでいく。



「ク、クマッ!」


「…逃げてぇ!」



留奈の必死の叫びに、小さく頷いたクマ。

次の瞬間、自分の腕を犠牲にしてメルクスから距離を取る。

体から血が滴りながらも、留奈の元へ慌てて駆け寄ろうとするが…



音が、消えた。



レーザーのような鋭い光線が、瞬間的に森を貫通する。 


目の前には、体に穴を開けたクマ。

遅れて膝を落とす留奈。





「…クマ、ちゃん…」



喋る留奈の口から音を立てて漏れ出す血液。



その先には、歪んだ笑顔を見せるメルクス。

腹を抱えながら倒れ行く2人を指差した。




「そんな攻撃、僕には当たらないよぉ」

「君達は、器としてまだまだすぎるねぇ」




「留奈っ!やだ…しっかりしてよぉっ!」


「澄香ちゃん!前に出ちゃダメっ!」



穴が空いた場所から、大量の血が溢れる。

喘鳴が響き、顔色が悪くなっていく。

クマは必死で留奈に覆い被さり、守ろうとしている。

だが、留奈の意識が途切れ無言で消えてしまった。



動揺した澄香は、よろけた足で留奈に近付こうとする。

咄嗟に声を掛け止めようとした環だが、メルクスが次の攻撃に入っているのを確認した。




「もう、誰も失いたくないのよっ!」



「いたっ!お姉ちゃん!?」



澄香の手を掴むと、強引に地面へ座らせ、盾を構える。

目を見開き泣き叫んだ環。

直後、黄金のシールドを展開させた。

意志の力で厚くなったシールドは煌々と輝いている。




「優しい盾だねぇ…壊したくなっちゃうよ」




ポツリと一言呟いた瞬間、時が止まった。

雷雲が、環の頭上に光の柱を落とした。


目が眩む。

前が、見えない。



(どうして…失う事ばかりなの?)


消えゆく意識の中、奥底から湧き出る本音。

光が消えると同時に、亀裂が走る音。


耐えた筈のシールドは一撃で消え去った。

音もなく、砕ける。

まるで最初から無かったかのように。

雷撃を浴びた環は、その場に膝から崩れ落ちた。



「ねぇ!待ってよ!また、またあたし1人にさせるの…?」



火傷が酷い。

髪も焼け、爛れた体。

揺すっても返事は返ってこない。

それでも、澄香は大声で叫び続けた。




「もう嫌だよ…!…勇者になんか、ならなきゃ良かった!」

「こんな世界、守る価値なんて…」




「じゃあ、君も死ねば良いじゃない?」




メルクスは、いつの間にか目の前まで歩みを進めていた。

隣に居た環を足蹴りにし、横に転がす。

澄香は圧に敵わず、腰を抜かしてしまう。




「あ、あたしが死んだら…誰が皆を助けるのよ」



「助けは来ないよ。こんな森の奥地だからねぇ」

「それに、僕にすら歯が立たない勇者なんてゴミも同然さ」




淡々と語り続けるメルクスに、寒気を覚える。

しかし、会話をする中で冷静になった澄香。

静かに、杖を力強く握り締めた。



「…それでもあたしが、やらなくちゃ…」


「全力、ぶつけてやる…っ!」



澄香は俺に目線を送る。

意を決した俺は、澄香の頭に必死にしがみついた。



「おや、雷神様までご出勤かい?」

「君の全力…僕に通じるかなぁ」



「…通さないと、誰も助けられないわ」



澄香は集中しようと一息吐いた。

空気が変わり、魔力の波動が澄香へと集まっていく。

雷の波動が、強く脈を打った。



溜めている暇などない。



相手は一瞬で最大の火力を出せる。




「食らえぇえー!!」



魔力の抑制を敢えてせず、爆発的な魔力で青白い稲妻を解き放つ澄香。

音速の雷がメルクスに向かって唸りを上げる。

手は血塗れになり、髪が焼けるほどの衝撃。




「…つまんないなぁ」



ため息混じりの台詞と共に、黒い雷が澄香の魔法を覆い尽くす。

一瞬で飲まれた光。

目の前には雷の濁流。



食らえば、死ぬ。




(動け!動け!何してんだよ俺!)



もう、こうするしかなかった。

澄香を庇おうとした時、不意に強く抱き締められる。

諦めのような、震える手で。




俺は澄香を包み込むように、信仰の力を使った。



一瞬、黒い雷が歪む。


ほんの僅かに、軌道が逸れた。



しかし、圧倒的な力は俺達を簡単に吹き飛ばす。

環のように2人とも体が焼け焦げ、木々に叩きつけられてしまう。

衝撃で息が出来ない。骨が折れる激痛。

視界が霞んで良く見えない…。



澄香は…?



視線を遣ると、かろうじて意識を持っている様子だった。

その場から動けず、苦しそうな声を上げている。

それでもまだ、杖だけは離さない。



「…ぐぅっ!」



メルクスは澄香の杖を足でへし折った。

呆れた顔で、蔑んだ瞳で言い放つ。



「こんなに弱いんじゃ、勇者失格だねぇ?」

「…でも、まぁ。ちょっとだけ面白いモノは見れたから許すよ」



チラリと俺に目線向けて、厭らしい笑顔になる。

一息吐いたメルクスは、再びフードを被ると3人に背を向けて歩き出した。



「次はもっと強くなっててよね?」

「生きてれば、だけど…」



背を向けたまま吐き捨てると、漆黒の風が吹く。

その場所に、メルクスはもう居なかった。



誰も、動けない。


焼け焦げた森に、

声だけが、消えていく。


絶望だけを残して。







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