友達②
強烈な断末魔が森中に響き渡る。
再び戦いが始まった。
3人の周りには大量の鬼うさぎ。
対面には邪気に塗れた黒いうさぎ達。
お互いの力を測るように、静寂が続く。
カサッ、と葉が擦れる音がした瞬間、黒うさぎは一斉に飛び掛かってきた。
「お姉ちゃん、来るわよっ!」
「ええ!小さな命も、守ってみせるわ!」
黒うさぎが地面を踏み抜き、空高く舞い上がる。
直後、強靭な脚が地面を叩き付けた。
鼓膜に響く爆音。
地面が揺れる程の激しい衝撃波。
「ぐっ…!」
砂埃が舞う中、シールドが展開される。
数匹の攻撃を抑える事に成功した環。
それでも、全てを守る事は不可能だった。
「…うさちゃん!」
呆気なく踏み躙られ、絶命していくうさぎ達。
弾ける音と共に、粉のような光が空へと昇っていく。
「っ!何なのよ、あんた達っ!」
俺は澄香の頭へと急いで飛び乗ると、黒うさぎへと羽を向ける。
「分かってる…粉々に吹き飛ばしてやるわ!」
矛先を向けた杖から、稲光が集まり出した。
その中に、もう一つの波動を感じる。
青白く体を煌めかせながら、稲光は強さを増していく。
澄香に呼応するように、辺りに疾風が巻き起こり始めた。
(風の魔力、なのか?)
澄香の体が小石や葉で傷付いていく。
抑えられない魔力と相対するように、風力は強まっていった。
「消えなさいっ!」
頬から血を流しても、握る両手の力は緩まない。
澄香は雷が混ざった嵐を、黒うさぎ目掛けて解き放つ。
全てを巻き込みながら、あっと言う間に嵐は過ぎ去って行った。
「はぁ、はぁ…やった、の?」
ぽたっ、と汗が地面へと染み込んだ。
膝に手をつき、震える足で辺りを確認する澄香。
「澄香ちゃんっ!後ろっ!」
残党の黒うさぎが、澄香の背中目掛けて飛び蹴りを放とうとしていた。
環の掛け声で咄嗟に後ろを振り向いたが、脚はもう眼前まで来ている。
(やばい。俺が出なきゃ、澄香は死ぬ…!)
俺は澄香を突き飛ばすと同時に、青く輝く体が渾身の一撃を貰った。
時間がゆっくりと流れる。
攻撃を食らう音。骨が折れる感覚。
吹き飛ばされる衝撃。
視界がチカチカと点滅を繰り返す。
「フー!!」
声が…遠い。
目に見えない速さで何度も転がり、やがて畑の隅へと落ち着いた。
息が、出来ない。
これが守るって事なのかよ…。
(俺はちゃんと、守れたか…?)
遠のく意識の中、泣いた顔の澄香が目に映った。
――――ハッ!
全身が汗まみれの状態で、大きく息を吐いてから目を覚ました。
「おー!遂にやりおったのぉ」
「ここ、は?」
「世界の狭間じゃよ。お主と半身の意識は途切れてしもうた」
俺は汗を拭いながら慌ててモニター画面を出した。
目の前には無惨な姿で転がる俺。
その光景を目にして固まる3人の姿。
環のシールドがショックで弾ける。
留奈の召喚する手が止まった。
「くそっ!もう一回!」
『エラー 暫く時間を置いてから入力して下さい』
「何でだよっ、早く戻らねぇとあいつらが…」
頭を掻き毟りながら、何度も同じコマンドを入力する。
モニターには同じ文字だけが映り続けた。
ゼウスが哀しそうに見つめ、俺の手に触れた。
「もう、分かるじゃろ?」
「………」
言い返したかった。
でも、ここで俺が不用意に顕現すれば、他の神が動き出すかもしれない。
動かなくなったフーを見つめ、俺は血が出るほど唇を噛み締めた。
「ここからは、あいつらの戦いなんだな」
モニターを複数起動させて、戦闘を見守る。
―――現実
「あ、あたしなんかを庇って…」
視認すら出来なくなったフーに、澄香が涙を堪えながら呟く。
その足はもう、竦んだまま立てなくなっていた。
「すみ姉、早くフーちゃんの所に!」
「この子達は私達が抑えるから…っ」
留奈は懸命に鬼うさぎを召喚し続けた。
顔が上気し、意識が薄れそうになる。
それでも諦めずに、黒うさぎに攻撃仕掛けていく。
傷付けては消え、を繰り返している唯の消耗戦。
環も盾で衝撃波を放ち、距離を取るも決定的なダメージは与えられていない。
「くっ、う…!」
金色のシールドに再び大きなヒビが入る。
膝をつきそうになるが、歯を食い縛り意地で攻撃を止まる環。
「行かなくちゃ、あたしが…!」
震える体で立ち上がる。
自身を奮い立たせるように言い放つと、澄香は勢い良くフーに向かって走り出した。
そんな時止めを刺そうと澄香への刺客がまた1匹。
(もう誰も…失うわけにはいかないっ!)
「邪魔、すんなぁーっ!」
その言葉と同じく巨大な火球を作り上げると、向かってきた敵に素早く撃ち込む。
次の瞬間、黒うさぎの体に穴が空いた。
貫いた火球と共に、黒い靄が風に流れていく。
「フー!大丈夫!?」
辿り着いた先に居たのは、息をしていない半身。
羽も折れ、息もしていない。
血だらけで惨い姿。
そんなフーを優しく抱きしめる澄香。
頬に雫が伝う。
「あたしが、弱いから…?」
「何で皆、あたしなんかを庇うのよっ!」
大粒の涙がフーの体に降り注ぐ。
「澄香ちゃんっ!そっちに何匹か行ったわ!」
環の掛け声で、我に帰る澄香。
しかし、追っ手はもうそこまで来ていた。
物凄い速さで、襲い掛かる。
その時だった。
「…グギャッ!」
小さな悲鳴と共に、黒うさぎの動きが突然鈍くなった。
他の生き残りも同じように動かなくなっていく。
「やっと、効いた」
今にも倒れそうに木に寄り掛かる留奈が一言発した。
「…うさちゃんはね、痺れる粉を撒いてくれたんだよ」
片手で数えられるほど少なくなったうさぎ達は自慢気に留奈の周りを飛び跳ねる。
その様子に微笑みながら、留奈は座り込んでしまった。
「…後は、任せた」
「ええ!お姉ちゃんに任せなさいっ」
環は大きく首を縦に振ると、麻痺している黒うさぎに向かって思い切り盾を振り翳す。
ミシミシと骨が軋む音も気にせず、怒号の様な轟音が地面へと鳴り響いた。
「あたしだって!」
フーを抱き締めながら、次々に火球を放ち敵を撃ち抜いていく澄香。
額から汗が大量に吹き出し、杖を持つ手も力が無くなっていく。
「…残りは1匹。やっつけちゃって」
怒りの眼差しで鬼うさぎ達が黒うさぎへと突進していく。
必死に抵抗され、また1匹と数を減らしながらも鬼うさぎは遂に最後の敵を倒し切る。
嬉しそうに飛んでみせた鬼うさぎが直後、淡い光となって消えていく。
留奈は横に倒れたまま動かない。
「留奈ちゃん!また意識が…」
心配そうに駆け寄る環。
抱き抱えると、依頼主の家へと向かう。
「ちょっとベッドを借りてくるわね!」
「分かったわ、後は任せて!」
大急ぎで走り去っていく環を見つめながら、澄香は大の字で寝転がる。
意識が朦朧となるが、ふと目の前に広がる星の海に大きなため息を吐いた。
「ねえ、起きてよ…?」
「見てるんでしょ…?バカ兄貴…」
微動だにしないフーに向けて語った言葉。
それは、誰にも聞こえなかった。
澄香は寝転がったまま、意識を落としていく。
その後ろで、漆黒の風が一つ吹いた…。




