友達①
カンゼルの森
城下町周辺にある森へと足を伸ばす3人。
最初に行った場所とは明らかに様子が違う。
草木の成熟さ。常に感じる魔物の気配。
「はぁっ、暑すぎ。良くこんな所に家を建てようと思ったわね…」
「そうねぇ、湿度で鎧が蒸れちゃうわぁ」
「…お水…足り、ない…」
ふらついて倒れそうな留奈を見た環は、慌てて留奈を背に乗せた。
背負わされている状態で留奈に水を飲ませる澄香。
「全く…相変わらず暑い所苦手よね」
「…ごめんなさい」
「あっ、謝る事じゃないわよ!留奈が倒れたらあたし達困るんだからっ!」
暑さに耐えながら暫く道を歩くと、不意に道が大きく開けて家のような物が見えた。
森の奥に、小さなログハウスがぽつんと建っていた。
その先の畑で、土を耕している女性が1人。
3人は話を聞きに足早に畑へと向かった。
「あの、すみません…」
「あらっ!?何でしょう?」
畑に居たのは綺麗な銀髪のダークエルフだった。
汗と土にまみれながら仕事をしていたが、声を掛けられると手が止まる。
驚きで目を丸くして問いを返す。
「うさぎに困っていると言う依頼を出したのは貴女、ですか?」
「…ああ!はい!そうなんですよー!」
「最近鬼うさぎが畑を荒らし始めて…今までこんな事無かったんですけどねぇ」
額から流れる雫をタオルで拭き取ると、困った様子で眉尻を下げて話を続ける女性。
ふと、広大な畑のある部分を指差した。
「あれ、見えます?うさぎ達の所為で、畑が穴だらけなんです!」
「わっ、確かに…ボコボコしてるわね」
「…もふもふ」
荒らされた畑を見ていた3人の空気が、留奈の一言で明るくなった。
目の前にはツノが生えた、うさぎ。
(もしかして…俺のコマンドで新しく産まれたモンスターなのか?)
神のチカラの使い方が良く分からないまま、コマンドを入れたあの日。
新しい生き物すら生み出せるのだったとしたら…?
自分がしてしまった行動に一気に背筋が凍った。
もしこれが俺の所為なら、こいつらを傷付けているのは…俺だ。
「私はこの種族ですから…来て頂いても帰ってしまう冒険者さんも多くて」
「貴女の種族は街にすら出られないって事?」
「ええ、そうです。エルフからも、人からも迫害される…」
「そんな酷い事って…!」
沸々と湧き上がる怒りに肩を震わせて言葉を漏らす澄香。
そんな姿を見た女性は、嬉しそうに優しく微笑みを向ける。
「皆さんみたいな方が来てくれて良かった…」
「依頼、受けて頂けますか?勿論お礼はさせて頂きます!」
「はい!私達が責任を持って解決致しますわ!」
「そーよっ!こっちには最強の武器があるんだからっ!」
やる気溢れるポーズで言い放つ環と澄香。
その視線の先には留奈が居た。
腰に手を充て自信に満ちた表情で留奈が続く。
「ふんす、このわたしに任せなさい」
「有難うございます!…私はどうすれば?」
「危険があったら大変ですわ。家の中で待機していて下さい」
「わ、分かりました。どうか、お願いします…!」
深々とお辞儀をしながら女性は家へと戻っていく。
時折、心配そうに何度も振り返ってはこちらの様子を見ていた。
「あんなに優しい人でも、種族が違うだけで扱いが変わるのね…」
「この世界は私達が思ってる以上に、格差があるのかもしれないわ」
頬を膨らませ不満そうな口ぶりの澄香。
環は1つため息を吐き、同調するように深く頷いて見せる。
「…話してきて、良い?」
我慢出来なくなった留奈がうずうずしながら2人に問い掛ける。
「良いけど、あたし達も近くに居るからね?」
「ええ、前みたいな事があったら大変だもの」
「…ん、分かった。じゃあ、着いてきて」
軽い足取りな留奈を先頭に、穴で溢れ返る畑へと向かう。
土が削れ、蠢く音が何重にも聞こえてくる。
こいつらも、群れのようだ。
「…おーい、みんなー」
留奈の一声で、一際小さなうさぎが穴から顔を出した。
存在に気付くと怯えた様子で固まっている。
そんなうさぎに留奈は静かに歩みを寄せると、2人で会話をし始めた。
「ふむふむ」
「…なるほど」
うさぎは身振り手振りで何かを必死に伝えようとしている。
2人はただ、武器を片手に握り締めて留奈の様子を窺っていた。
「…そっか。分かった」
「大丈夫。任せて」
留奈ははにかんだ笑顔で笑うと、不安そうなうさぎの頭を優しく撫で回してからゆっくりと立ち上がる。
踵を返すと、足早に2人の元へと戻って来た。
「…大変な事が起こってる」
「そうなの?」
「あの子達、森を追いやられたって」
「え、また森の主…が?」
表情を曇らせて不安そうに呟く環を見つめ、小さく首を横に振る留奈。
うさぎを横目に見据えながら、真面目なトーンで語り出す。
「…仲間が急に、様子が可笑しくなったみたい」
「仲良くしてたのに、襲われて怪我してる子も沢山居るって」
自分の発言で悲しそうな表情になり、言葉尻が下がっていく。
そのまま俯いてしまい、言葉が詰まる。
「じゃあ、この穴は追いやられた子達の巣ってことよね?」
「…うん、もう追っ手が来てるって」
「凶暴な子が来ちゃうのね…!それは大変だわ!」
環が発言したその時、茂みから大きな物音。
場の空気が一気にヒリついた瞬間、さっきよりも数倍大きなうさぎ達が猛スピードで巣穴へと突っ込んで来る。
「危ないっ!」
咄嗟に環はシールドを展開し、うさぎ達の突進を跳ね返す。
盾に強い衝撃と、振動が響いた。
腕が痺れる感覚。あと一撃で崩されると確信してしまう。
「皆、この子達…強いわよ!」
「見て分かるじゃないっ!何あの…黒いオーラは…」
澄香も杖を構えるが、凶暴化したうさぎの禍々しいオーラに手に汗が溜まる。
クロノスものとは違う、嫌な重い魔力。
段々と、うさぎが黒く染まっていく。
禍々しい魔力に、一瞬足が竦んでしまった。
怖気付いた事に気付いた黒うさぎは再び環と澄香に攻撃を仕掛ける。
目に見えない速度で黒うさぎが高く飛び上がる。
次の瞬間、環の盾に激しい衝撃が走った。
直接攻撃を受けた環。
だが、受け止めきれなかった足は小刻み震え、力の圧で土に踵が埋もれてしまう。
「しまっ…」
身動きが取れなくなった環に追い打ちをかけるようにもう1匹が一撃をお見舞いしてくるが…
遠くから雄叫びが聞こえた。
「あんたの相手はあたしよっ!」
小さい火球を鋭いスピードで放ち、環の目の前に迫った黒うさぎを吹き飛ばす澄香。
魔法のコントロールが一段と上がっている。
2人が突然の乱戦に対応しているのを見ていた留奈は、小さなうさぎにそっと近付いた。
「…きみも、頑張りたい、よね?」
留奈の問い掛けに、目を輝かせたうさぎは何度も首を縦に振って同調する。
「…じゃあ、るなと友達になって」
発言と同時に、留奈の体から黄緑色の光が溢れ周りに魔法陣が浮かび上がった。
強い輝きの中、うさぎは意を決したように留奈の腕の中に飛び込む。
うさぎは淡い光に包まれて消え去った。
その直後、留奈の胸の奥に鼓動が一つ灯る。
「…出来た。今から、あなたはわたしの友達」
胸に手を当てて安心したように呟くと、再び魔法陣が脈打った。
「……出番だよ!」
大声で叫んだその時、留奈の魔法陣から大量の鬼うさぎが飛び出して来た。
体は眩く、強いオーラを放ってまるで違う生き物のようだ。
「なっ、なに!?今度は白いうさぎ!?」
「あれは…留奈ちゃん?」
2人を守るように周りを大量のうさぎが取り囲む。
その量と波動に押された黒うさぎはその場で動かなくなった。
「…頑張ろうね」
敵を見つめながら友達を鼓舞する留奈。
うさぎ達の反撃が始まる。




