我が家③
馬車から目線を外すと、再び席に腰掛けて3人を見つめる国王。
「あの宿は、好きなように使ってくれたまえ!」
「我々はいつでも、勇者殿を歓迎するぞ!」
声を弾ませて言葉を紡ぐ。
そんな国王を見て、嬉しそうな笑顔を見せた3人。
「有難うございます♪」
「あのギルドマスターにも礼は言っておいてよねっ!世話にはなった訳だし…」
「…すみ姉、ツンデレ出てるよ」
「うっ、うるさいわよっ!もうっ!」
俺が窓の外を覗いていると、復興作業の指示を的確に出して荷物運んでいるマスターが見えた。
澄香もあの様子を見たんだろうな…。
その時、国王と目線がぶつかった。
「なるほど…」
誰にも聞こえないように呟いた後、俺に向かって小さく会釈をした。
ゼウスに対して、行ったのだろう。
呼応するように体が淡く光った。
「では、これを受け取ってくれたまえ」
国王は環に宿の鍵をそっと握り締めさせる。
噛み締めるように、きゅっと強く握り返す環。
「大切に使わせて頂きます…」
膝を折り、深々とお辞儀をする。
そんな環を見た2人も慌てて同じ動作をした。
「勇者殿!頭を上げて下され!」
「わしの願いはただ一つ。逞しくなって帰ってくるのを楽しみにしておるぞ」
国王は3人を優しく抱きしめる。
その時、全員の体から眩い光が放たれた。
「きゃっ…」
「何なのこれ!」
「………」
「おやおや…」
光は直ぐに消え失せたが、一つの確信を得た国王が皆の頭を撫でていく。
「誰1人、欠ける事なきようお祈りしておりますぞ」
そう告げると、静かに席を立ち扉へと向かっていく。
「老人のつまらん説法は以上!」
「馬車へ戻って、宿を見て行って下され!」
国王自ら扉を開けると、退席を促す。
3人はもう一度礼を言うと、足早に馬車へと向かっていく。
後ろ姿を見続けながら、ポツリと独り言を呟いた。
「あの子達は、ゼウス様の宝なんじゃな…」
馬車へと乗り込み、馬は風を切りながら宿へと足を進めていく。
「ほら、着いたわよ?とっても立派なお宿じゃないのぉ」
「よく見たら凄いわね…装飾」
改めて見ると普通の宿にしては大きく、装飾も豪華だった。
貴族用に作られたのか、至る所が広い。
もう一度宿へと入っていく3人。
(…よし、このタイミングならあっちに行けるぞ!)
俺はフーをスリープにし、世界の狭間へと戻る事にした。
留奈の言葉を実行しに。
「おー!帰って来たのか!」
「やりたい事があってな。そっちの方は大丈夫か?」
「そうじゃの、監視してる範囲では大丈夫そうじゃ!」
どうやら、この前のコマンドはそれなりに上手く作用されているようだ。
じゃあ、次は俺の番だな。
俺は地べたに座り込み、コマンドの入力画面を出した。
興味深そうな顔をして妖精がやって来る。
「今日は何するつもりじゃ?」
「いやー王様から家を貰っちまってな」
「折角だし、此処を拠点にしようと思って!」
「ふむ…?どう言うこっちゃ?」
首を傾げ不思議そうにしているゼウスを横目に、俺は1つのコマンドを作る。
『ワープ 宿屋』
「あいつらが一度でも寝た宿に、これからはいつでも飛べるようにする!」
「ほほー…って、これ便利過ぎんか?」
一度は驚いたものの、その機能に訝し気な顔をするゼウス。
「この世界は広いだろ?長旅になる事も多そうだしな」
「ふむ。船でないと行けない村もあるからのぉ」
「これは宿屋に飛べるだけだし、そっからはあいつら次第な訳だ」
「戦うも、準備をするのもな。それに…」
ふと、自分の家を思い出す。
もう戻れない、安息の地。
でもあいつらは、まだ帰る事ができるんだ。
それなら、安らげる場所に行けるようにしてやらねえと…!
「帰る場所も用意しないと、安心も出来ないだろ?」
自分が放った言葉を聞くと、ゼウスは納得したように深く頷き、画面へと目を向けた。
「そうじゃな…妹ちゃんはこれから、生と死の中心地へと向かわなければならん」
「一息つける場所があれば、士気も上がるはずじゃ!」
ピピッ
『入力成功しました』
これで、あの宿と我が家は繋がったはず。
飛べる部屋は、あいつらにしか認識出来ないように光らせておくか。
「…あの王様、お前の事本当に崇めてるんだな。俺がゼウスじゃないって1発で見抜いてたよ」
不意に国王の刻印が光った時の事を思い出し、苦笑いしながら呟く。
自信に満ちた表情で、ゼウス言い放った。
「民の平和を願うあやつらの気持ちと、人間を愛するワシらの気持ちは同じ」
「強い意志に、神は強く惹かれるんじゃ」
「…それが、悪意でもか?」
俺は立ち上がりながら、クロノスの信奉者の疑問を投げ掛けた。
「ああ、憎しみや怒りに呼応する神も多く居る」
「…お主も、染まらぬように気を付けるのじゃぞ?」
無言で頷く。
「よし!じゃあ俺は戻るからな!」
「監視は任せておけい!」
意識が、現実へと戻っていくのを感じる。
「きゃーっ!見て見て!お姉ちゃん!」
澄香の甲高い声で目が覚めた。
目の前に広がっていた光景は…温泉!?
「凄いわねぇ…魔法か何かで湧いてるのかしら?」
「…効能、ばっちり」
流れ出るお湯で遊んでいた留奈の体から黄緑色のオーラが溢れ出る。
「あの感じ…全回復とか出来そうねっ!」
「ええ、傷付いても安心だわぁ」
留奈を見つめながら嬉しそうに頬を綻ばせて笑う2人。
だが、ある物がない事に気付いてしまった。
「でもこの宿…キッチン無いわよね?」
「あっ!そうだわ!ご飯の用意が…」
辺りをひとしきり見回した後の澄香の言葉に、愕然と膝から崩れ落ちてしまう環。
「私の生き甲斐が…皆の笑顔が…」
悲しそうに肩を震わせて搾り出す呟きに、澄香が慌てて駆け寄った。
「だっ、大丈夫よ!お姉ちゃん!ご飯くらい、外で食べられるじゃない!」
「…お姉ちゃんとして、皆への手料理は絶対なの」
項垂れていた顔を上げながら、助言を振り払うように言い放つ環。
「…たま姉、あれ」
そんな環を静かに見ていた留奈は、銀色に輝く扉をスッと指差す。
2人は困惑した顔で扉を見つめた。
「扉が光ってる?何これ?」
「留奈ちゃん…ここに入れって事?」
「…ん、わたしの予想が合ってれば、大丈夫」
ゲーム脳が完全に理解したようだ。
留奈の確信した様子を見て2人は、怯えながらもお互いを見て小さく頷いた。
「えーいっ!じゃあ、入るわよっ!」
澄香が先陣を切って、光の中へと飛び込んでいく。
何かに引き寄せられるような、強い感覚。
視界が大きくぐらつく。
目が眩むような輝きは、不意に消えた。
恐る恐る、目を開けた先に見えた物
「……え?」
見慣れた廊下。
階段に、居間。
「私達の、家…?」
「…帰って、来れたのね」
気が付いたら、玄関に立っていた。
澄香は大慌てて玄関の扉を開ける。
見慣れた、森の景色。
「本当だわっ!あたし達、帰って来てる!」
「…ふふん、やっぱり、合ってた」
…ちゃんと繋がったみたいだ。
「一瞬で帰って来たの!?何で!?」
訳が分からず錯乱する澄香。
その隣で留奈がドヤ顔でこう言った。
「輝く扉に入れば何処でも行ける…はずだよ」
「…セーブポイント、みたいな」
「じゃあ、もう一度あの宿屋さんにも?」
「…家に、その扉があるなら」
「じゃあ早速帰って確かめましょっ!お姉ちゃんは料理作っててよね!」
さり気なく、環にお願いをする。
心から嬉しそうに頷いた環と共に、3人は安息地へと帰って行く。
その夜、豪華な手料理がテーブルへと出された。
銀色の扉は…俺の部屋だ。
……きっと、あいつらは気付かない。




