我が家①
留奈が運ばれた部屋へ駆け足で向かう2人。
ベットで寝息を立てている。
しかし、熱が上がったままで下がる気配が無い。
「ごめんね、留奈。魔法、使わせ過ぎて…」
「…末っ子に守られるなんて、ダメなお姉ちゃんね」
すぐに溶ける氷嚢を充てがいながら、悔しそうに声を震わせて呟く。
ふと、部屋に治癒士が数人入って来た。
3人を確認すると、すぐさま回復魔法が掛けられる。
柔らかい光。
「うわぁ…あったかい!留奈はこんな魔法が使えるのね…!」
「ええ…凄く、優しくて気持ち良い風に包まれてるみたいなの」
自分が施された事を思い出し、寂しげに笑いながら静かに語る環。
留奈の顔色も、数段良くなって来た。
「お疲れ様です!治療完了しました!」
作業を終えた治癒士は3人に向かって敬礼すると、足早に部屋から出て行く。
重苦しい空気が流れる。
「ねぇ、お姉ちゃん。あたし達、勝てたんだよね?」
「全ての人を守れはしなかったけれど、それ以上の被害は防げたと思う、わ」
「…でも、あの杖ついた男っ!絶対にまた仕掛けてくるわよ!?」
「ええ…どんな人が来たって、戦える準備はしておかないといけないわね」
黙って2人の会話を聞いていたが、クロノスの存在を思い出した瞬間、俺はフーをスリープにして世界の狭間へと向かった。
(ギルドマスターの件についても色々聞かねぇと…!)
目が覚めた。
「…おお、帰ったのか。お疲れさん!」
ゼウスは1人で違うモニターを見ていたが、俺が帰還する音に気付くと振り返り元気そうに笑顔を見せる。
「ただいま。なぁ、ゼウス聞きたい事が…」
「よい、分かっておる。クロノスと、ギルドマスターについてじゃな?」
俺が言い掛けた言葉を、険しい表情で遮るゼウス。
先に、深いため息が響き渡った。
「ギルドマスター、あやつはワシの深い信奉者。国王と共に雷神の祝福を授けてやった」
「クロノスも言ってたけど、信奉者って何なんだ?」
「ワシらの力の源じゃよ。信仰は力に直結するからのぉ」
「祝福は?」
「神の寵愛を受ける事じゃ」
「強い意志と信奉が無いと、力は発揮出来んがな」
波動が懐かしく感じたのも、雷の魔法を使っていたのもそれか!
俺は思わず大きく頷いてしまった。
「なるほどな!じゃあ、俺もあいつらに祝福を…」
ステータス画面を開こうとした瞬間、ゼウスにどつかれる。
「あの子達はそもそもが雷神の欠片なんじゃ!祝福は掛けられん!」
「た、確かに…」
「ま、それをせずとも妹ちゃんは既に神に愛されておるから安心せい!」
「それってどう言う…」
画面から目を離し顔を上げた瞬間、目の前には綺麗な女の人が立ち尽くしていた。
「うわっ!?ど、どちら様です!?」
「…名乗っても良いのですか?ゼウス様」
「うむ。今はこやつが雷神じゃからのう」
その言葉を聞くと、深々とお辞儀をした後小さく笑顔を見せる美女。
「私の名はアテナ。秩序と正義を司る神。長女様の魂に導かれここへ参りました」
「環に…?」
「はい。守ると言う信念を貫き通す強い意志に惹かれて」
「それに…!」
アテナは目を輝かせて、急に環の魅力を饒舌に語り出す。
嬉しそうに懇々と喋り続ける。
そんなアテナを横目に、ゼウスへと耳打ちをする。
「…つまり、これが神に愛されるってコトか?」
「そう言うことじゃなぁ」
「環はもう祝福を受けている、のか?」
「いんや、アテナがあの世界に顕現しないと祝福は授けられないのう」
その言葉に疑問が過ぎる。
「お前はどうやって祝福を?顕現したら因果律がって…」
「ワシはの、夢の中で授ける形が一般的じゃな!」
そんな手もあるのか。
納得しながら会話を聞いていたが、ひとしきり語ったアテナが俺に近寄って来た。
「私めの祝福を、長女様に授けても宜しいですか!?」
「…受け入れるかはあいつ次第だと思うぞ?」
「必ずや、良きものをお見せ致します…」
膝をつき会釈をすると、黄金の風が一吹きしアテナは姿を消した。
クロノスみたいな神ばかりじゃないんだな。
「で?クロノスとはどう言う関係なんだよ」
口に出したくもない名前を吐くと、睨むように目線を送った。
「昔、ワシに大目玉を食らってな。それから隙あらばチカラを奪いに来よる」
「チカラの使い方を間違えた、馬鹿な男じゃ…」
眉尻を下げて呆れたように言葉を紡ぐ。
「あんな奴でも信奉者は居るもんなんだな…」
襲って来た男を思い出し、あの悲惨な光景も目に浮かんだ。
守り切れなかった怒りが、拳を強く握り締めさせる。
「どの神でも信仰はされるものじゃ。それが本人にとって救いになるのじゃからのぉ」
「じゃあ、城下町に居た人達はお前を信仰していた人が多かったのか?」
「そうじゃな…ただ、今回の件で妹ちゃんが奮闘してくれたからの!」
一瞬、顔を俯かせ悲しげに呟くゼウス。
だが、すぐに顔を上げて満足気な笑みになった。
「クロノスの魔物を倒したんじゃ!勇者候補の仲間入りっちゅー事じゃな!」
「優勝、だとしてもこの状況じゃ喜べねぇよな」
「…被害が出てしもうたのは仕方ない。お主は半身で向こうにおったからの」
感慨深い二言に胸が熱くなっていたが、不意なゼウスの発言に思わず目を見張る。
「え?」
「こっちに居れば、何かしらを使って市民も守れたのじゃが…」
「も、もしかして魔王の勢力が拡大してるのって」
「…今のワシはモニターで世界を見る事しか出来んのじゃ」
俺は慌てて地図を開き、魔王城から近い村の座標を押してみた。
そこにあったのは村だった何かだった。
家一つ残らず、焼け野原になっている。
小さな靴が片方だけ焼け焦げて落ちていた。
そこに、日常があったと分かる。
今はただ絶望だけが残った、何もない空間。
俺は震える手で、希望を探す。
色々な座標を手当たり次第押してみる。
魔王の兵隊だ!
「こいつらを倒せば…」
ピピッ
『神の裁き』
雷雲が唸る。
直後、兵隊の真上に巨大な光の柱が立った。
雷が落ちた場所は、塵一つ残っていない。
それと同時に、俺の視界が激しく揺らぐ。
淡く煌めく自分の体。
ゼウスが一言呟いた。
「…このチカラは信仰を使う」
「でもこれが、平和を維持する事なんだな」
コマンドを入力し終えた後、改めて自分の責任を感じた。
妹達以外にも、助けるべき人は居るのだと。
「ああ、それでも…守れないものは沢山あるんじゃ」
画面を見据えながら、後悔したように言葉を発する。
どれくらいの時を、この世界で過ごしたのだろうか。
俺はゼウスを見て目頭が熱くなるのを感じた。
「もうこれ以上、魔王の侵攻はさせねぇ!」
俺は一つ、コマンドを作ろうとした。
『悪意』
この気持ちを持った奴はこの世界の村や街に侵入出来なくなる。
(境界線が曖昧なコマンドは作るべきじゃ…)
(…でも俺は1人でも、誰かを救わなくちゃいけないんだ)
「悪意は主観じゃぞ?歪めば、守る者も弾く」
重く響くゼウスの言葉。
「………」
人同士の争いも、神が干渉出来るものではないと分かっている。
「それでも、抵抗できない人を見殺しにするなんて俺には出来ない」
真っ直ぐにゼウスを見つめ、説き伏せるように言い放った。
沈黙の後、コマンドの音だけが響く。
「…どうだ?これでお前も少しは安心して眠れるだろ?」
「何言っとるんじゃ!ワシはいつでも爆睡しとるわい!」
揶揄うように笑いながら言い放つ。
クマが出来た顔で反論するゼウス。
俺達の命と引き換えに、何一つ守る事すら出来なくなってしまった。
貰ったチカラ、俺なりに使いこなさないと。
「じゃあ、俺はあっちに戻るから。じゃーな!」
「おう。早く戻って来るんじゃぞー!」
現実へ戻る最中、ふと思った。
(俺はこのチカラをどこまで綺麗に使えるのだろう…?)
再び目が覚める。さっきの場所だ。
「…フーちゃんも、おはよ」
目覚めた留奈が、眠そうに挨拶をしてきた。
元気そうな様子を見て思わず頭を撫でてしまう。
「あらあら、フーちゃんは優しいのねぇ♪」
「ふんっ!本当、留奈に甘いわよねっ」
頬に手を当てて微笑ましそうに見ている環。
当てつけのように吐き散らす澄香。
「…2人は、大丈夫なの?」
横になったまま、心配そうに問い掛ける留奈。
「これくらい全然大丈夫よっ!」
「うふふっ、そうね。私も元気よぉ」
朗らかな雰囲気が部屋に流れる。
その時突然、部屋にノックが響いた。
「入っても良いかな?」
聞き慣れた声。
その声を聞いた瞬間、留奈の指先がきゅっと布団を掴んだ。




