闘技大会①
3人に近付くと、ギルドマスターは辺りを見渡して大声で叫んだ。
「このパーティも立派な参加者だ!文句があるなら実力で叩きのめせ!」
方々から威勢の良い発言が飛び交う。
「…面白ぇ、やってやろうじゃねぇか」
「ボコボコにしてやる!」
その言葉を背で受ける3人の体は小さく震えていた。
それでも目の前にいる人物へと視線を送り、問い掛ける。
「もう大会は始まってるの?」
「いや、今はまだ準備中さ。でももうすぐで始まると思うよ」
「手続きは…要りますか?」
「…君達のギルドカードを見せて貰えればそれで良い」
ギルドマスターはカウンターへと戻り、トンと指で机を叩く。
促されるまま、持っている自分のカードをそれぞれ差し出した。
「おお…本当にDランクなんだね!」
「なっ、馬鹿にしてんの!?アンタ!」
「澄香ちゃん!落ち着いて…」
「森の主を退かせたパーティがこのランクに居るなんて…信じられないよ!」
カードを見つめながら満足そうに笑顔を見せる。
だが、その言葉でギルド内が急にざわつき始めた。
「その話…本当なのか?」
「事実だとしたら、手強い相手になりそうだね」
さっきとは違う意味での注目を受ける3人。
煩くなった室内を、困惑した様子で見渡していた。
環を瀕死にまで追いやった森の主。
あの魔石で強化されていたに違いない。
神の、残滓…。
その時、ギルドに従者がやって来てマスターへと言付ける。言い終えると、足早に出ていってしまった。
「そろそろ、開会式の時間だ。君達も広場へ向かうと良い」
「…ん、分かった」
背中を追いかけるように、駆け足で大広場へと向かっていく。
大きな噴水が目印のようだ。
3人が広場に着くと、大きな会場が用意されている。
沢山の人集りが出来ていて、ボルテージは既に最高潮だった。
大歓声の中、会場に上がったのは国王だった。
「あれが、国王?」
「この国で1番偉い人なのねぇ。威厳があるわぁ」
「…城の王様。カッコいい」
観衆の声に耳を傾けながら、何度も手を振り返す。
その後ろには、ギルドマスター。
不意に視線がぶつかる。
口角を上げて微笑む姿。
俺の体がまた淡く光った。
国王が会場の真ん中に立つと、辺りが忽然と静かになる。
次の言葉を待つように。
「皆の者!ようこそ集まってくれた!」
「今、魔王の勢いが急成長してきておる!ここが堕とされる日もそう遠くない…」
魔王、と言う言葉にどよめく人々と共に、演説は段々と言葉尻が弱くなっていく。
小さな剣士は俯くと、鞘に納めた剣を強く握り締める。
ぼんやりとした説明しか思い出せない。
まだそんなに勢力は強くないと言っていたはずなんだが…。
国王は雄弁と話し続ける。
「そこでだ!儂はギルドマスターに伝令し、優秀な冒険者を王都へと集めて貰った!」
「魔王へ対抗する手段として、未来ある者に研鑽を詰んで貰うのが今回の目的である!」
希望が見えたその発言に、安心したように笑顔をみせる観衆。
「技術を盗み、構成を学び、見事大会を勝ち上がったパーティには褒美を与える!」
「以上!今から闘技大会を開催する!」
高らかと宣言した瞬間
衝撃波のような大きな歓声が周囲から弾けた。
大地が鳴り、木々が揺れるほどの喝采。
そのまま国王は玉座へと戻り、代わりにギルドマスターが進行を始めた。
「では、少しだけ説明をさせて頂こう」
「今回の大会はトーナメント。パーティ全員を気絶させた方が勝ち…以上だ!」
異様な盛り上がりをみせる会場。
小さい体を使って、トーナメント表を見に行く。
あいつらの名前は、っと。
…いきなり俺達からじゃねぇか!
近くに置かれたトーナメント表を啄むと、俺は慌てて3人の元へと戻った。
「…フーちゃん、お帰り」
我先にと留奈に紙を手渡す。
留奈がジッと真剣に見つめているのを見ると、2人が更に覗き込んできた。
「ええっ、私達…1番始めなのねぇ」
「ふんっ!順番なんか関係ないわっ!どんな相手だって全力を出すだけよ!」
「…おーっ」
留奈の号令で、力強く拳を握り締める3人。
そして、気合いに満ちた眼差しで会場へと向かっていく。
「さぁ、一回戦最初はこのパーティだ!」
チームA VS チームH
表にはチームだけしか書かれていない。
3人の名前は出さないようになっているようだ。
「…ぜぇったいに、負けないっ!」
「ええ…今度こそ、守ってみせる」
「…やるぞー」
燃え上がる澄香を先頭に、リングへと上がる3人。
相手は…
人間、の魔法使い。
あれは…さっき見た兎の生き物!あいつナイトだったのか!
最後はエルフのヒーラー
テンプレ的な構成だ。
「チームA!準備は良いか?」
「ええ!バッチリよっ!」
澄香が語気を強くして言い放つ。
「チームH!準備は?」
「受けて立つっ!」
姿に見合わない渋い声で返答する、ウサギ。
「では……試合開始っ!」
その言葉と同時に、澄香が大きく前に出た。
俺に目を向けると呼ぶ声が聞こえる。
「フー!来なさい!」
俺は転がるように澄香の頭へと座り込む。
一瞬にして、辺りの空気がヒリつきだした。
澄香の纏うオーラが透明に揺らぐ。
直後、体が青白く輝き出す。
(昨日までのあたしとは違う。もっと、意識を集中させて…!)
杖先は激しく稲光が走る。
やがて風をも巻き込む稲妻が集まり出した。
(気絶させるだけ…ピンポイントで電撃を体にぶち込むっ!)
「…雷よ、走れっ!」
ほとばしる音と共に、辺りが眩く白む。
「防ぎ切る…っ!」
咄嗟に前に出た小さなナイトが、攻撃を盾で防ごうとするが…
「さっさと、オネンネしなさいっ!」
澄香は痺れた指先で、更に出力を上げた。
視界が一瞬、揺らぐ。
これ以上の抑制が出来ない。
その後ろに居たヒーラーが回復しようとするが、武器が一瞬で炭と化す。
それを真横で見ていた魔法使いは、意を決してカウンターを狙うが…
しかし、パーティは雷光に呑まれてしまった。
観衆が固唾を呑んで見守る中、静かさは豪雷と共に消え去った。
光が散った後、目の前に現れたのは傷付いたチームH。
全員の武器が壊れ、服がボロボロに焼け焦げている。
「む、無念…」
最後まで意識を保っていたナイトがそう呟くと、そのまま床に倒れ込んでしまった。
「すごいわ…澄香ちゃん」
「…すみ姉、強くなってる」
思わず言葉を漏らす2人の前に、自信満々で立ち尽くす澄香。
魔法の反動で手が小刻みに震えている。
「当たり前でしょっ?あたしは毎日、進化してるのよっ!」
額から汗を流しながらも、誇らしい笑顔を浮かべる澄香。
稲妻を真近で見ていたギルドマスターが、心から嬉しそうに笑みを浮かべて一言呟いた。
「ああ…やはり神の力は偉大だ…!」
鳥の体が、何かに反応するように強く脈打ち光った。
波動を感じる方へと目を向けると、そこにはギルドマスター。
間違いない。
この光は絶対にゼウスに関わりがある。
稲光に見惚れていたマスターだったが、ふと我に返ると高々と手を挙げて宣告する。
「勝者!チームA!」
派手な魔法に、周りからは大歓声が上がった。
勝利の祝福を受けた3人は、恥ずかしそうにしながらも周りに手を振って応えている。
「…わたし達、何も出来なかった」
「ふふっ、澄香ちゃん大活躍しちゃったものねぇ」
不満気に頬を膨らませて呟く留奈を宥めるように頭を撫でる環。
一回戦は突破出来た。
震えが止まらない指で、澄香は杖を握りジッと見据える。
もう、魔力は残ってない。




