パーティ⑥
ゼウスが怒りで雷光を放つ度、体が激しく発光していた。
「あいつ、何者なんだ?この前の奴とは違うよな?」
「時の神、クロノス…ちぃーっとばかり仲が悪くてな」
大きなため息を吐きながら言うが、あの雰囲気は明らかにちょっとじゃねぇだろ…
もう少しだけ、聞き入ってみる。
「これからは、あいつにも俺達のチカラが狙われるんだよな?」
「うーむ、ワシをこの座から降ろしたい奴なんぞいくらでもいるの」
「まぁ、ワシのチカラはほぼ残っとらんし、狙われるのはお主と妹ちゃん達。って事じゃな」
いつものように笑いながら告げるゼウス。
いや、さらっとヤバい事言ってるぞ?
「もしかして、俺が1番まずい位置に居るってこと?」
「あやつらにも既に後継と言われておる。あの半身もいつ殺られてもおかしくない」
嫌な沈黙。
「ここで抗争が起こることはないが…現実では、どうかのう?」
「もしかして…!」
俺は不意に妹達が映っている画面を見つめた。
「あいつらも、俺のチカラを持ってるってこと、か?」
「ほっほー!蘇生に何のチカラも必要ないと思うたか?つまりはそう言うことじゃ!」
その言葉が胸を貫き、俺は力無く膝から崩れ落ちた。
(俺もあいつらも、永遠に狙われ続ける、のか?)
「じゃ、じゃあ…俺は今すぐあいつらを最強に…」
「人に干渉する事は出来ぬ、と言うたじゃろう?」
呆れた様子で俺を見ると、妖精は画面をスッと指差した。
「神が弱気でどうするんじゃい!妹ちゃんが強くなれば良いだけの話じゃろ?」
「そう、だよな」
忘れるな。
俺の願いはただ一つ。
妹達を守る事。
世界最強にする、それだけで良い。
深呼吸を繰り返し、正気を取り戻した俺は、その場に座り直し問い掛ける。
「流石にフーちゃんにコマンド使わせるってのは出来ないよな?」
「半身がチカラを使えば世界は歪む。それは出来ん」
「じゃあここに戻って来ないといけない訳か…」
その結論に、俺は無い知恵を振り絞って考えを巡らせようとした。
が、ゼウスの語気が強くなる。
「妹ちゃんが起きそうじゃ!早よ戻れ!」
画面越しの留奈が布団の中でモゾモゾと動き出した。
もしさっきの事を覚えてたらヤバいぞ。
「ありがとな、ゼウス!」
一言、礼を述べると俺は狭間から現実へと帰る。
消えゆく俺の背中を見つめながら、ゼウスはポツリと呟いた。
「この冒険、最後まで見守れると良いのじゃが…」
「…ぎゃっ」
目を覚ました瞬間、俺は急いで留奈の腕から離れ布団から出て行く。
その足で、ご飯支度をしている澄香の元へと向かった。
しかし、その光景は悲惨な物だった。
「ぎゃー!?」
シンクは洗い物で溢れ、まな板の周りは野菜の切り屑が大量に散乱している。
「なっ、何よ?って、きゃああ!焦げてるー!」
居間が黒煙に染まりかけた時、澄香が漸く気付き慌てて火から鍋を下ろす。
「やっちゃった。すっごい不味そう…」
流石の俺も言葉が出ず空気がしんどくなっていた。
「…すみ姉の作ったご飯も、美味しいよ」
「留奈!もう、動けるの?」
ゆったりとした動作で階段を降りてくる留奈。
「座ってて!今用意するからっ!」
そっとお粥と納豆、焦げた卵焼き、しょっぱそうな味噌汁を留奈の前に出す。
「…美味しくなかったら、ごめん」
澄香が耳まで赤くして背を向ける。
「ん、いただきます」
「あたしはこれ、お姉ちゃんに持って行くからっ!」
環の分も用意すると大慌てで階段を駆け上って行く。
「ぎゃー…」
俺はこっそり焦げた鍋やフライパンを洗う。
確かに、料理は環に頼りきりだったもんなぁ。
改めて、環の偉大さを知る俺達。
「………」
チラッと留奈を見てみると、冷や汗をかきながら食べ進めていた。
…そんなに、なのか!?
「お姉ちゃん…起きてる?」
環の部屋に入ってきた澄香。
「ふふっ…起きてるわよぉ」
力無い返事が返ってきた。
「ご飯、作ったんだけど食べられる?」
「澄香ちゃん、が?」
何かに気付いた環は思わず問い掛けてしまった。
「だって、今動けるのはあたしだけだから…」
「下手かもだけど、皆のために作ったからっ!」
恥ずかしそうに言い放つと、ベッドの近くのテーブルに音を立てて料理を置いた。
「ほ、ほら!傷が開いたら大変だから、あたしが食べさせてあげるっ!」
「大丈夫!自分で食べれるわ!」
「…でも、今は食欲が無いから後で頂くわね?」
「ありがとう、澄香ちゃん」
慌てて遠慮する環。
作ってくれた事に感謝すると、嬉しそうな笑顔を見せる。
「分かった。…傷の痛みはどう?」
「そうね、大分良くなってきたわぁ」
「だからって、動かないでよっ?」
「ふふっ、澄香ちゃんに怒られる事はしません♡」
そんな会話を洗い物を済ませた俺は隠れて聞いていた。
このままだと、環の傷が治るまで家から出られねぇ。
どうにか出来ないのか?
睨みつけるように環を見ていた俺だが、不意に留奈の頭の上に乗せられる。
「…たま姉、大丈夫?」
「留奈ちゃんも…!ええ、少し良くなってきたわ」
留奈は無言で環の前へと向かう。
そのまま優しく手を握り締めた。
「いたいの、とんでけ」
その言葉を呟いた瞬間、部屋は黄緑色の光に浸食される。
一瞬の瞬き。
すぐに光は消え、留奈は肩で息をしながら座り込む。
「…わたしの力じゃ、ここまで」
「えっ!傷が…治ってる!でも、傷痕が…!」
癒しの光に驚く澄香だが、痛々しい傷痕だけ残ってしまった。
留奈も、俺が頭に居ると魔法が強くなるのかもしれない?
疑問が浮かぶが、傷が癒えた環を見て俺は一安心した。
「ふふっ、傷跡なんてへっちゃらよぉ?寧ろ、勲章じゃない」
自分の体を摩りながら、嬉しそうに呟く環。
妹を守れた。
それだけで良かった。
「…もう、動ける?」
心配そうに聞く留奈。
そんな心配を吹き飛ばすように環は起き上がる。
「ほらぁっ!元気いっぱい…いたた…」
「ちょっとお姉ちゃんっ、無理しないでよっ!」
「急に動いたら、体がびっくりしちゃったみたい」
「澄香ちゃんのご飯食べれば復活よぉ♪」
仕草を見せる環に、俺達は胸を撫で下ろす。
(狭間に戻ったらチートの事も考えねぇと。最優先は、環だな)
決意の拳を小さく握りしめる。
「じゃあ、ご飯食べたら下に降りてきて。これからの事を考えましょっ!」
「…ん、分かった」
「分かったわ。少ーし、待っててね?」
念を押すように言い放つ環の部屋から出ると、俺と澄香は居間のテーブルへ腰掛ける。
「お姉ちゃんが元気になってくれたのは良いんだけど」
「このままじゃ、また…あんな姿にさせちゃう」
「お金…そうよ!お金!」
眉間に皺を寄せ、重い口調で独り言を呟いていた澄香。
だが、昨日の報酬を貰ってない事に気付くと物凄い勢いで立ち上がる。
「ぎゃっ?」
俺は衝撃でテーブルから落ちそうになった。
「巨大なモンスターが出るなんて聞いてなかったし、ギルドに話を聞きに行きましょ!」
「用意して、2人にも話してくるわっ」
言い切る前に足音を立てて支度をしに行く澄香。
もう少ししたら、2人も降りてくるだろう。
ギルドへと向かえば、あのモンスターの事も分かるかもしれない。
もしそれがクロノスの差し金だとしたら…?
それでも俺は受けて立つ。
もう、負ける事は許されない。
その時、俺は思い出した。
クロノスが去って行った時の赤黒い風…。
あのモンスターが出していた靄と同じだと言う事を。




