パーティ②
「早速!依頼を受けましょっ!」
「ええ、そうねぇ…困っている人を助けなきゃ!」
「…おー」
3人は張り切って拳を振り上げるが、ふと澄香の視線に入って来たのは前に喧嘩をふっかけて来たゴロツキだった。
「……あたし、今からあいつらに文句言ってくるわ!止めないでよ!お姉ちゃん!」
「あっ!こら!澄香ちゃん!」
「…すみ姉、がんばれー」
もう魔法も使える――自信に満ちた足取りで、堂々とゴロツキへと歩みを進めていく澄香。
(俺が止めに入らねえと…!)
慌てて走り出したが――
ドンッ!
勢い良くテーブルに片足を乗せ、1人に向かって鋭い目付きで睨みを入れる。
「あたしの顔、覚えてるわよね?…今度こそ痛い目――――」
もう1人を指差した澄香の指先から、ジッと火花が散った。
「「「……すいやせんでしたぁっ!!」」」
ギルド中に響き渡る、ゴロツキ共の謝罪。
余りにも情けない声と台詞に、澄香の目は瞬きを何度も繰り返しやっと一言呟いた。
「……はぁ?」
「いやぁ、水晶が壊れた話、ギルド内でも噂になってまして…」
「ま、まさか貴方様がそのお方だとは存じなくてですねぇ」
「…今度、ギルドに顔を見せに来て頂いた時にはですね!ぜひとも!謝罪を申し入れたく…」
「へへ…」
「あんた達ねぇ…良い歳した大人がしょうもない言い訳してるんじゃないわよっ!」
呆れた様子で怯えた奴らを睨みつけると、澄香は大きな溜息を吐く。
「はぁ…こんな事されたら怒れないじゃない…」
そう言いながら片足をテーブルから下ろす。
そして、くるりと背中を向けた。
「「「姐さぁあん!!」」」
だが、その声にすぐさま振り返る。
「変な呼び方するんじゃないっ!」
「はぁ…もう良いわ、とっくに許してるもの。だからもう絡んで来ないでよね!」
キッパリと言い切ると、澄香はギルド中の視線から逃げるように駆け足で戻って来た。
出番が無かった俺は静かに泣きながら、留奈の頭へと戻る。
どうやらもう噂が流れてるようだ…。
「もー!恥ずかしかったぁ…変な目で見られちゃったかな…?」
「あらあら、澄香ちゃんとっても格好良かったわよぉ♪」
「…ん、すごいオーラ、出てた」
恥ずかしそうに顔を赤らめて澄香は2人に尋ねるが、揶揄うような返事が返ってくる。
「もうっ!これ以上何も言わないで…っ!」
「ふふふっ、さ、気を取り直して依頼を受けましょう?」
「…初めての、3人!」
そのまま、環は受付嬢へと問いかける。
「今の私達が受けられる依頼はあります?」
「はいっ!皆さんのランクでしたら……こちらになります!」
受付嬢はカウンターの下をごそごそ漁り、依頼の紙を見つけると3人に提示した。
『買い物に付き合って』『ペットを探して』
『田植えを手伝ってくれ』『メイド募集中!』
「本当に簡単な依頼しかないわね…」
「でも、困っているなら見過ごせないわ」
「…どれにする?」
冒険者ではなくとも達成出来そうな依頼ばかりに、困惑した表情を見せる3人。
「ううーん…パッとしないわね、全部…」
「…わたしは、皆と一緒なら、何でも良いよ」
「そうねぇ…あら?これなんてどうかしら?」
埋もれていた依頼を見つけた環。内容は…
『家の裏に棲みついた犬を追い払って欲しい』
「留奈ちゃんも居るし…もし、長引いているならお家の方もきっと喜んでくれる依頼だと思うわぁ」
これだ!と目を輝かせ、依頼の紙を見せつける。
「…任せて、説得、する」
「えー!あたしはもっと派手なやつが良い!モンスター倒すやつとか!」
「私達はまだそんな依頼、受けられないみたいよ?」
「けちっ!」
不服そうに澄香は言うが、環の圧が強くなった。
「…お願い?澄香ちゃん♡」
語尾は可愛らしいが、明らかに目が笑っていない…!
これ以上逆らってはいけないと悟ったのか、澄香は大きく頷いた。
「わ、分かった!分かったからっ!」
「あら、嬉しいわ♪」
「…じゃ、れっつごー」
「お気を付けて行ってらっしゃいませ!」
依頼主と向かう3人の後ろを、受付嬢は元気良く見送った。
―――レルーの森
「地図があってるなら、多分この辺りだと思うのだけれど…」
「…ここ、あたし達がスライムに襲われた森じゃない!」
「…うさちゃんも、居た」
環が地図と場所を照らし合わせるように辺りを見回している間、後ろに居た2人はそれぞれの記憶を思い出している。
目の前には小さな家。
「2人共!きっとあそこに依頼主さんが居るはずよ!行ってみましょう!」
見つけた家を指差し、張り切って先導する環。
「お姉ちゃん、今日はめちゃくちゃ元気よね…」
「…たま姉も、3人で、嬉しい」
後ろ姿を追いかけながら、澄香は留奈に小さな声で言う。
そんな様子を留奈は嬉しそうに見つめて笑った。
「ぎゃー!」
話に混ざろうと鳴いてみるが、澄香に思い切り睨まれたので大人しく留奈の腕に戻る俺。
「…お家の人が居ないか、確かめてみるわね?」
コンコン
環は木の扉を2回、ノックする。
すると
細めの男が眠たそうな顔をして、ドアを開けた。
「…家に、何か用か?」
3人をチラッと見ると、不機嫌そうに言い放つ男。
「あっ、あのですね!依頼書を見てこちらに伺ったのですが…」
「お家の裏に、ワンちゃんが棲み付いていると…」
「ギルドからか…?」
男の眉がピクリと上がった。
「そうなんだ、実は少し前から野犬が俺の庭を荒らすようになってな」
「朝起きると、いつも庭が荒らされていて困ってるんだ…」
野菜や果物が入れられている箱は壊されていて、鳥小屋はもはやただの置き物になっている。
庭の木は爪で大きく抉られ、周りには無数の足跡。
明らかに1匹じゃねえな、これ…。
「つまり、夜行性の犬ってこと?」
「そうみたいねえ…ワンちゃんって、夜に動く生き物なのかしらぁ」
「……どんな子でも、説得、する」
「留奈ちゃん…すごいわ…!」
「え?留奈が何かしてくれるの?」
2人に向かってピースサインをし、自信満々で答える留奈。
環は感嘆した様子で言葉にしていたが、何も知らない澄香は頭にハテナが出ている。
「まぁ、つまり今庭には誰も居ねえんだ。また夜に、ここに来てくれるか?」
「分かったわ!じゃあまた後で来るわね!よろしく、おじさん!」
「それでは、失礼します…」
「…またねー」
残念そうにその場から離れる俺達。
―――アォーン
その時、森の奥から雄叫びが聞こえる。
「………」
その声に気付いたのは静かに森を見つめていた留奈だけだった。




