初めて③
「ぎゃー!ぎゃー!」
俺はオルドの路地裏まで飛び回り、2人をとあるばあさんの元へと連れて行った。
「はぁっ、はぁ…ここは、何処かしら?」
「…フーちゃん、どこ…?」
心配そうに辺りを見渡す留奈。俺は近くの木に留まり、上から2人の様子を見守る事にした。
「おお、そこの旅人の方…!」
家の前でキョロキョロと周りを見ていたばあさんが2人に気付くと、助けを求めるように駆け寄ってきた。
「ウチのマーベちゃんを見掛けなかったかい!?」
「マーベ、ちゃん…ですか?」
「ええ、ウチで可愛がっているネコちゃんなのだけどね…数日前に窓から逃げ出してしまって…」
「…それは、心配ですわね…」
「そうさね、毎日辺りは探してるんだけどねぇ…音沙汰も目撃情報もなくて…もう気が気じゃなくて…ううっ」
気丈に振る舞い2人に状況を説明していたばあさんだったが、最後は堪え切れず涙を流してしまった。
そっと留奈は近づき、優しく両手を握りしめる。
「…おばあちゃん、泣かないで、ネコちゃん、絶対見つけるから」
「…ううっ、本当かい?」
「…ふふん、大丈夫。安心して、任せなさい」
留奈は自信満々に口角を上げて言い放つ。
ばあさんもホッとした様子で笑顔になり、今度は逆に留奈の手を握り締める。
「ウチのマーベちゃんを、お願いね」
「…ん、じゃ、行ってくる」
「あっ!留奈ちゃん!?」
足早に留奈は人気のない路地裏をぐんぐん突き進む。
まるで何かを知っているように。
状況が飲み込めていない環は留奈について行くので精一杯のようだ。
「留奈ちゃん…本当に大丈夫なの?お姉ちゃん、探し物は得意じゃないわぁ…」
「……聞こえるの」
「えっ?」
「…みんなの、声」
その瞬間、周りの木々が大きく揺らぎザワついた空気に変わる。
留奈の体が黄緑のオーラを纏い柔らかく光輝いた。
そして…
「チュー!」
「ピー!ピッ!」
「キャン!キャン!」
留奈の光に呼応するように次々と動物達が集まり、周りには色々な鳴き声が鳴り響く。
遠目で見ていてもわかる優しい輝きを凝視しながら俺は考え込んでいた。
留奈にはまだ、潜在能力を付与してないぞ…?
「…みんな、ありがと。るなのお願い、聞いて欲しい」
俺も環も何が起こってるか分からずただ留奈を見ている事しか出来なかった。
だが、留奈は周りの動物に対し笑顔で話をしている。
「…何が、起こってるの?留奈ちゃん…動物さんとお話してるみたいだけれど…」
バッ、と顔を上げ立ち上がると、留奈は環に向かって駆け寄って行った。
「大丈夫!?怪我とかしてない!?」
「…大丈夫。みんな、ネコちゃん、探してくれるって」
「お話、していたの?」
「…ん、わたし達だけじゃ、探しきれないから、お願いしてた」
「すっ、すごいわ!何て素敵な力なのかしらぁ♡」
妹の力の片鱗を見た環は興奮のあまりいつものように留奈を力いっぱい抱きしめた。
環…留奈がまた気絶しちまうぞー!
「……たま、姉…ぎぶ」
間一髪の所で留奈は環の肩をペシペシと力無く叩く。
「……はっ!ご、ごめんね!いつもの癖で…」
留奈に叩かれ理性が戻った環は、留奈を自分から引き離すと申し訳無さそうに眉を下げて謝っていた。
ふと、留奈の体が何かに反応を示した。
「…!…ネコちゃん、見つかった、かも」
小さなネズミのようなモンスターが素早く留奈の元にやってくると足元でくるくると周り始めた。
「…ついて来て、って言ってる」
「ええ!早く行きましょう!」
ネズミを追い掛けて走り出す2人。
街路樹の奥、人通りも無い場所に痩せ細った小さな黒猫が息を荒げ丸くなって蹲っていた。
「……ネコちゃん!」
「本当に…居た…」
心配そうに猫の元に駆け寄る留奈を横目に、信じられないと言った表情を浮かべる環。
はっと現実に戻されると環もまた慌てて黒猫の元へと走って行く。
「可哀想に…随分と弱っているわね…もう何日も食べていないのかしら…」
しゃがみ込み優しく猫の頭を撫でながら、環は哀しそうにポツリと呟く。
「あっ!おにぎり!食べてくれるかしら!」
「はい、あーん♡」
プイッ
「…っ!あらあら、やっぱり私達のご飯ってわかってるみたいねぇ」
猫に拒否され地味にショックを受ける環。
段々と、猫の呼吸が小さくなってきた。
このままでは間に合わない。
少しずつ、生命の灯火が消えそうになるのを留奈は感じていた…。
「留奈ちゃん…!」
「…きっと、大丈夫」
優しく、穏やかにそう言葉にした留奈は、弱々しく鳴く黒猫を抱き抱えると顔を埋めポツリと一言呟いた。
「…いたいの、とんでけ」
――パァッ
その言葉で、黒猫の体は一瞬、黄緑の光を強く煌めかせた。
優しい光が黒猫を包み込み傷を癒やし、次に暖かい光が生命力を高まらせる。
生気がなく衰弱していた黒猫は見る見る元気を取り戻し、留奈の顔をペロペロとお礼のように舐めている。
「…ええっ!?」
「…元気になったよ、って言ってる。早く、帰してあげないと、ね」
「えっ、ええー!?」
死にかけだった猫が…ピンピンしてるだと…!
留奈の力、ヤバすぎだろ…!?
(これだけ強い力…代償とか、ないよな?)
発現した力に俺は一瞬興奮するが、それ以上に留奈が心配になった。
環は自分の理解を超えた事実を目の当たりにして慌てふためいている。
いつものお姉ちゃんらしさなど忘れ、年相応のリアクションだった。
「私達の留奈ちゃんが…こんな、天才だったなんて…!」
「…たま姉、早く、おばあちゃんの所いこ?」
「え、ええ、そうね!報告しに行きましょう!」
「…??たま姉、なんか、ヘン」
「ち、違うのよ!ちょっと、ちょーっと…不思議すぎる事が起きてるだけでぇ…」
忙しく表情を変えながら留奈との会話を繋げる環。
環の後ろで立ち上がった留奈は、一瞬フラつき、足元から崩れそうになるが慌てて体勢を立て直す。
路地裏まで戻ってきた2人。
心配そうに家の前でばあさんが2人の帰りをずっと待っていた。
「…!ああ、旅のお方!マーベちゃんは…!?」
「…ここに、いるよ」
嬉しそうに抱き締めていた黒猫を見せると、ばあさんの腕の中へとそっと返す留奈。
「ああ…!本当に、マーベちゃん…もう何処にも行っちゃあだめだからね…!」
数日振りに帰ってきた愛猫を見つめ、ばあさんはその温もりを感じるように強く抱き締める。
その光景を2人は何も言わず、ただ静かに見守っていた。
「恥ずかしい所見せちゃってごめんなさいねぇ」
「いえいえ、私達もお手伝いする事が出来てとても嬉しく思っておりますわ♪」
「…そうだ!折角見つけてくれたのにお礼一つじゃバチが当たるねぇ…はい、これ」
「…銀貨、ですか?」
「ああ、元気で帰って来てくれたんだ、受け取ってくれるかい?」
「あっ、有難うございます!大切に使わせて頂きますね!」
突然の報酬。
環は目を輝かせとても嬉しそうに貰った銀貨を握り締める。
そして何度も何度もばあさんに頭を下げて感謝を表していた。
…よし!初依頼、成功だな!
「ありがとねぇ!また何かあったら頼むよー!」
「はいっ!喜んでお引き受けしますわぁ!」
「…ネコちゃん、有難うって、言ってた」
「ふふふっ…私も有難うって思うわ。留奈ちゃんに」
家に戻るのを見届けてから留奈に目線を向けると環はそう告げた。
そんな事を言われると思っていなかった留奈は固まってしまっている。
「…えっ!?」
「さっきのお願い、私は何も力になれなかったわ。全部、留奈ちゃんの力のお陰…」
「だからね、ネコちゃんを見つけてくれて有難う、留奈ちゃん♡」
少しだけ、寂しそうに笑いながら留奈を優しく抱き締める。
「…た、たま姉が居なかったら、お願い、聞けなかった」
「……だから、そんな事、言わないで…欲しい」
「あらあら、留奈ちゃんに気を遣わせちゃったわね…ごめんなさいね…」
「…いーの!…まだ他に、困ってる人、居るかもしれない」
「そうね!澄香ちゃんの杖のためにも頑張らないと!」
「一度広場へ戻りましょうか?」
やったな!初めての依頼達成!おめでとう!
…この姿じゃ伝えられねえけど。
俺はすぐに飛び立つ、次の依頼主の元へと。




