序章①
早朝5時。
――――ドゴォォーン!!
隕石が降ってきた。
俺の家に、ピンポイントで。
家は衝突の衝撃で消滅。
上に居た俺、下で寝ていた妹達は勿論即死。
両親は出張中で無事だったらしいが…
最期に覚えているのは、強烈な衝撃波…家が焼ける匂い…誰かの悲鳴。
あいつらは、どこに行ったんだろうか…?
俺はもう死んでしまった。
追っていた漫画の続きも、アニメも観れないし、両親に恩返しすら出来ない。
『お兄ちゃん、いっぱい食べてね♡』
環の手料理も食べられない…
『あ、兄貴…ありがとね』
澄香がデレた時の可愛い仕草も見れない…
『兄ちゃん、るなも入れてー』
留奈はたまに俺の布団に入ってきてたっけ…
そんな可愛い妹達の笑顔すら、見れなくなったんだ。
さっきまで、同じ屋根の下で息をしていたはずなのに…
たかが隕石一つで…俺達の将来は終わってしまった。
このまま意識も無くなるかと思った矢先、突然俺に向かって声が掛かった…ような気がする。
「…ぉーい、おーい!いつまで寝とるんじゃこのボケ!!」
俺の頭に痛烈な痛みが走った。
「いってえぇ!!」
飛び起きると、目の前に広がったのは真っ白な世界。
…と、仙人みたいに髭が長いヒョロガリのジジイ。
(こいつが俺を殴ったやつか…!?)
殴られた痛みと怒りで体を震わせていると、ジジイが哀れみの目を向けながらポツリと言葉を漏らす。
「いやぁ…申し訳ない事をしたのぉ」
「ん?」
「実は…あの隕石はお主の家に降るはずのない隕石じゃったんじゃ」
「え?」
「チキュウを守るため、とあるクニに落とす手筈だったのじゃが…完全に座標が間違っていてな…」
突然の告白。
何一つ理解出来ない俺に向かって、ジジイは突然渾身の土下座を放った。
「ちょっ!それはどういうつもり…」
「すまぁん!アレは完全にワシらのミスなんじゃ!どうにか命だけはぁぁ!!」
「いやもう俺死んでるし!!」
その言葉を聞いた瞬間、ハッと表情変えたジジイ。
物凄い笑顔で、物凄い速さで俺に近付いてきた。
ニヤニヤと顔を緩ませながらこう言う。
「そーじゃ!お主はもう魂だけの―――あーっ!でもお主をなかったことにしたら信仰が――」
俺の顔の横でコロコロと表情を変えながら、ジジイは独り言を呟いている。
突然、隣で閃きの声が上がった。
「閃いたわい!お詫びと言っては何じゃが、このチカラをお主に譲渡しようではないか!」
「………何だって?」
「このままでは、お主が消えて、ワシの面目丸潰れ」
「こー見えてもな、ワシ全知全能、最強の神様なんじゃよ!」
「このチカラを渡せば、お主は物体としてここに残ることが出来るって訳じゃ」
自信満々の顔でそう呟いたあと、ジジイは満面の笑顔を俺に向ける。
余りにも突拍子すぎるその提案。
俺はその事実を飲み込めなかった。
最強とか、神様とか…
呆然とした顔でジジイを見つめていたが、その様子に気付くと急に真剣な眼差しで告げる。
「…それに、このチカラを使えばあの亡くなったご姉妹を生き返らせることも可能なんじゃよ」
「――!?」
「そんな奇跡みてぇな事なんて出来る訳…」
その言葉を聞いた瞬間、自然と拳に力が入る。
そうだ、俺達は死んだ。
あの隕石で。
最期の余韻に浸る間もなく。
このクソジジイの手違いとやらの所為で。
「ああ、どんな事だって叶えられる」
あいつらに、あの可愛い可愛い妹達にまた会う事が出来るのか…?
拳をより強く握り締め、俺は決意に満ちた顔でジジイを見る。
「じゃあそのチカラ、俺にくれ!今すぐ!!」
「あー但しな、条件があるんじゃ」
勢い良く発言した俺の言葉を遮るように、ジジイが一言
呟いた。バツが悪そうに頬を掻きながら。
「お主はこの空間、世界の境界からは出られなくなるんじゃよ」
「…世界の、境界?」
「ここはの、神様だけしか居れない世界」
「そしてワシは全知全能の神。どこの世界にだって降り立ってしまえばそれだけで、因果律が狂ってしまう」
「因果律…?なに、言ってるんだよ…良くわかんねぇよ…」
「お主の体は永遠にここに居る事って訳じゃ。でも世界に干渉することだけはできるからの!安心せい!」
難しくて俺には理解ができなかった。
だが、もう迷っている時間はないのかもしれない。
あいつらも、このままだと俺みたいに魂だけの存在になって、どこかに消えてしまうのか…?
…それだけは絶対に阻止しなくてはいけない。
会えるなら、何だってしてみせる。
でも…俺はもう人間じゃなくなるのか?
死ぬ事も、生きる事も出来ない、ただの神様に?
……迷うな。
「いいぜ」
「俺、その神様ってのになる。そしてあいつらの笑顔をもう一度見るんだ!」
「……本当に、良いんじゃな?」
「妹のためなら、どんな事だってしてやるさ」
俺の決意に満ちた顔を見て、複雑そうな心境の笑みを浮かべたジジイはそっと俺の頭に手を翳す。
「では、このチカラ、お主に譲渡してしんぜよう!」
『偉大なる者に祝福を《グリュック・クシー》』
真っ白な世界に、何も見えなくなる程の眩い光が放たれる。
地面が軋む。強い波動の力。
放たれた光は虹色の軌跡を描き、丸く収縮し、ゆっくりと俺の中に入っていく。
体がとても暖かい。
今なら何でも出来る気がする。
不思議と、そう思えてくる。
「チカラの譲渡は完了したぞ」
「あ、ああ」
いつの間にか瞑っていた目を開けると、そこには金髪ツインテールの美幼女妖精が自信満々に突っ立っていた。
「…ん?誰だお前」
「ワシじゃよ!ワシ!流石に全部のチカラ渡したら存在消えちゃうから!」
「お主の大好きな鬼カワ姿で存在だけは維持してるの!」
「えっ、ええ!?」
勝手に思考が読まれていた。
俺が二次元大好きクソオタクだってこと。
美少女大好き妹大好き男だってこと。
死にたい。
いやもう死んでるんだけど。
「聞いてる?今からお主が神様な?ワシのチカラ、上手く扱うんじゃぞい!」
「あ、うん…はい…」
「あ!もういっこ言い忘れておったんじゃがー」
「ワシ、ゼウスちゃん!よろしく!」
「おう、宜しく…ゼウス―――」
「ゼウス!?あのギリシャ神話の!?」
「そ!ご姉妹さんは今からふぁんたじーの世界で生き返って貰うからのぉ!」
ちょっと待ってくれ…。
もしかしなくても俺はとんでもないやつのチカラを受け取ってしまったのか…?
あいつらがこれからは生き返る世界はファンタジー世界…?
学校も、コンビニも何もない…?
いや!それはやばいだろ!
何も知らないで飛ばされたら雑魚モンスターに即やられて人生終了だぞ!?
…よし、それならやる事はもう一つしかない。
神のチカラとやらで、妹達を勇者にしよう。
俺が世界最強に育て上げて、誰にも倒せないほどにしてやるんだ…!
それじゃあ、まず俺の初仕事をしないとな!
ピッ
俺の目の前にコマンド入力画面が出現する。
「何だ、これ?」
「それに、お主がしたい事を入れるだけじゃ!」
「したい事?そんなの決まってる」
慣れない手付きで入力していく。
『神谷 環』『神谷 澄香』『神谷 留奈』
『蘇生』
ピッ!
その時、この世界が強く脈打った。
強い魔力の波動を感じ、生命が産まれる魔力を感じる…。
生き返らせる事ができたんだ、きっと。
「……このコマンド、もう使えぬからな?」
「え?」
ゼウスは厳しい顔付きで俺に言い放つ。
「妹ちゃん達は今、魂だけの存在。じゃからこのコマンドが使えたのじゃ」
「え、じゃあ…」
『ステータス+99』
『――このコマンドは使用出来ません』
「何でも有りの能力じゃねぇのかよ…」
「神は、人間に干渉する事はできない。それだけ覚えておく事じゃな」
「…分かった」
辛辣に刺さった言葉。
俺はただ、神として生きていかなければならないらしい。
それでも、俺の願いはただ一つ。
妹達の笑顔を見る。
「よし、最後にもう一つだけ…」
『一軒家 生成』
俺は、世界の地図を出すと適当に座標を押す。
その瞬間
森の手前に俺達の住んでいた、懐かしい一軒家が聳え立った。
…地図を出していた画面に、一瞬ノイズが走る。
「ふぅ、これであいつらが休める場所も設置完了だな…」
きっと、この家の中で3人が眠っているのだろう。
……俺は、もう二度とその魂を離さない。
モニターを、家の中が見える様に変更してみる。
「お兄ちゃん…」
「……兄貴」
「…兄、ちゃん」
夢の中で俺と会っているのか?
健やかに眠る3人を見て、胸が張り裂けそうになる。
「俺が…お前らを最強勇者にしてやるからな…!」
その時、一軒家からスマホのアラームが鳴り響いた…。




