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楊家将 〜血と涙の最強一族〜  作者: 光闇居士


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第六回:潘仁美、詔を奉じて宣召し 呼延賛、単騎もて救駕す

挿絵(By みてみん)

「御前教場における呼延賛と許懐恩の一騎打ち」


墨は踊る、砂塵の如く。 余白は黙る、死の如く。

見誤るな、その手に握られし黄金の輝きを。 それは獣を打つ革のしなりではない。 人の骨を砕き、鉄の兜をひしぐ、 冷徹なる「鉄の塊」だ。

「鞭」という名の響きに騙されるな。 あれは皇帝より賜りし、権威という名の鈍器。 舞うが如き筆致の中で、 ただ一点、逃れられぬ「重力」がそこにある。

偽りの敗走から、ひるがえる刹那。 水墨の静寂しじまを、 頭蓋の砕ける音だけが引き裂いた。


【しおの】

 その夜、張廷臣ちょうていしんは屋敷に戻るや否や筆を執り、夜を徹して上奏文を認めさせた。彼はそれを従者に託し、朝廷の門が開くと同時に太宗たいそう皇帝のもとへ届けさせたのである。その奏上には、こう記されていた。

「臣、張廷臣、恐れながら奏上いたします。先日、太行山の呼延賛こえんさんが詔を受け、勇んで参内いたしました。しかるに彼が山へ帰ってしまったのは、ひとえに潘仁美はんじんびが奸計を巡らせ、彼を罪に陥れんとしたからに他なりません。

 今、陛下は即位されて間もなく、辺境の防備こそが急務であります。呼延賛のごとき稀代の英雄が、才を発揮する前に臣下の陰謀によって退けられることは、賢者を尊び能ある者を用いようとされる陛下の御心に背くものでしょう。

 伏して願わくは、潘仁美の行状を厳しくただした上で、再度詔を下して呼延賛を呼び戻し、彼に国への忠誠を尽くさせる機会をお与えください。さすれば辺境の静謐は速やかに成り、国家万民の幸いとなるでありましょう。」

 太宗はこの文を読むなり、卓を叩いて激怒した。

「おのれ潘仁美め! 余の預かり知らぬところで忠臣を害し、勝手に追放するとは何事か」

 帝は直ちに右枢密使・楊光美ようこうびを呼び出し、事の真相究明を命じた。命を受けた光美は、潘仁美を自邸に招いて諭すように言った。

「主上は公に対して甚くお怒りです。呼延賛を追放した一件を問いただそうとしておられますが、何か申し開きはございますか?」

 これを聞いた仁美は顔色を変えた。

「あれは確かに私がしたこと……。しかし枢密使殿、どうか貴殿のお力添えでこの窮地を救ってはくださらぬか。ご恩は決して忘れません」

 光美は静かに答える。

「主上の命を私情で曲げることはできません。しかし、公と共に参内して事情を説明すれば、私にも救う手立てがありましょう」

 仁美は安堵し、深く感謝して光美に従い参内した。二人が御前にひれ伏すと、帝は厳しく問うた。

「楊光美よ、潘仁美の件はどうであった? 真実を申してみよ」

 光美は恭しく奏上した。

「臣が調査いたしましたところ、呼延賛が山へ帰った理由は、必ずしも潘仁美の仕業とは言えぬようでございます。今、仁美は深く反省し、臣と共に参内して真実を申し上げたいと申しております。どうか陛下、寛大なご裁可をお願い申し上げます」

 太宗は視線を仁美に移し、厳然と言い放った。

「呼延賛は先帝が心にかけられた武人である。だからこそ余は彼を召し出したのだ。それを何ゆえ、其の方は追放したのか?」

 仁美は平伏したまま、必死に弁明した。

「臣が見ましたところ、呼延賛は参内した後も常に不満を抱き、故郷へ帰りたがっておりました。臣が追い払ったのではございません。

 願わくは、再び私が詔を奉じて山へ入り、呼延賛を連れ戻した上で、臣と直接対決させて真偽を明らかにさせていただきとうございます。もし彼の申し分が正しければ、その時は釜茹での刑であろうと、万死を受け入れる覚悟でございます」

 その言葉に、太宗はしばし沈黙した。そこへ八王はちおうが進み出て口を添えた。

「陛下は将を慈しまれる名君であらせられます。仁美に罪ありとはいえ、彼の願いを聞き入れ、自らの過ちを正させるべく再び呼延賛を迎えに行かせるのがよろしいかと存じます。もし呼延賛がこれに応じて参内すれば、二人の罪を共に免じることもできましょう」

 もっともな理屈である。太宗は頷き、仁美に詔書を授けて呼延賛を連れ戻す任を与えた。

 仁美はすぐさま都を発ち、太行山へと馬を飛ばした。山砦さんさいへ使いが送られると、知らせを聞いた呼延賛は烈火のごとく怒った。

「あの悪党め、俺を毒殺しようとした恨み、忘れはせぬ! 向こうからのこのことやって来るとは飛んで火に入る夏の虫。ここで斬り捨てて復讐してやる!」

 いきり立つ彼を、副将の李建忠りけんちゅうが諫めた。

「待たれよ。我々は朝廷で功を立て、名を残す志を持っているはず。一時の小さな恨みで大義を忘れてはなりませぬ。ここは聖旨に従い、逃亡の罪を免じてもらうことこそが得策です」

 建忠の理路整然とした説得に、賛もようやく剣を収めた。二人は砦を出て、勅使として来た潘仁美を出迎えた。

 仁美は天幕に入ると、恭しく詔を読み上げた。

『朕は建国以来、まず卿を召して重用せんと考えた。しかるに入朝して月も経たぬうちに、卿は独断で任を離れ帰郷してしまった。これはいかなることか。

 卿には文武の才がある。今こそ忠義を尽くし策を献じるべき時に、その才を野に埋もれさせてはならぬ。よって再び使者を遣わす。直ちに参内し、此の間の罪を償い、余の期待に応えよ』

 建忠は詔を受け取ると、仁美を宴席へと招き、礼を尽くした。

「枢密使殿には遠路はるばるご足労をおかけいたしました。出迎えも行き届かず、申し訳ございません」

 仁美は呼延賛の顔色を窺いながら、いささか決まり悪そうに答えた。

「以前は将軍に対して非礼を働き、深く後悔しております。今また聖旨が下りました。どうか速やかに都へ上り、主上の厚き信頼にお応えください」

 建忠は大いに喜び、盛大な宴で使者をもてなし、その夜は砦に宿を提供した。

 翌日、仁美は山を下りるよう促した。呼延賛はなおも建忠に相談を持ちかけたが、建忠は諭した。

「仁美は憎き相手とはいえ、朝廷の大臣であり、今回は聖旨を帯びた使いです。彼に従って都へ戻り、わだかまりを解くのが賢明な道です」

 ついに心を決めた呼延賛は身支度を整え、妻の馬氏ばしと共に仁美に従って山を下りた。建忠と耿忠こうちゅうの軍勢に見送られ、彼らは都への道を急いだのである。

 都に到着した呼延賛は、直ちに太宗に拝謁し、先の逃亡の罪を深く謝した。

 太宗は頷いて言った。

「卿にはまだ目に見える功績がない。よってしばらく皇城に留め置き、河東征伐の時機を待って重用することとする」

 賛は恩を謝して退出した。

 その後、太宗は八王を召して相談を持ちかけた。

「余は、賛を新たに召し抱えたものの、未だその武芸を直に見ておらぬ。一つ、彼の実力を試してみたいのだが、何か良い趣向はあるか?」

 八王は即座に提案した。

「それなら容易いことです。かつての『御果園ぎょかえん』の故事にならい、芝居仕立ての手合わせをさせるのがよろしいでしょう。臣が太宗皇帝(唐の李世民=小秦王)を演じ、呼延賛には主君を救う忠臣・尉遅敬徳うっちけいとくを演じさせます。そして、敵将である単雄信たんゆうしんの役を、陛下が全軍の中からお選びになればよいのです」

 これには太宗も乗り気になり、早速群臣に単雄信役を募った。すると、性懲りもなく潘仁美が進み出て言った。

「臣の婿である楊延漢ようえんかんは弓馬に優れており、この大役に適任かと存じます」

 帝はこれを許したが、命を受けた延漢は苦悩した。

『これはきっと、岳父殿が私を使って呼延賛を亡き者にしようとしているのだ。しかし、以前私が賛に捕らえられた時、彼は私を殺さず、あまつさえ黄金を贈って解放してくれた。その恩人が、今は演習の相手とはいえ殺し合う役回り。もし彼を救わねば、私は人の道を外れた義理知らずになってしまう』

 思い余った延漢は、密かに八王の屋敷を訪ねて心情を吐露した。八王は驚いて言った。

「お前が申さなければ、危うく演習が血の雨になるところであった。安心せよ、私に策がある」

 八王は直ちに参内し、太宗に奏上した。

「陛下、単雄信役に楊延漢が選ばれましたが、彼は以前から賛とは因縁がございます。万一のことがあれば朝廷の体面に関わりましょう。偏将へんしょうの中から別の者を選び、多少の怪我があろうとも後に禍根が残らぬようにすべきです」

 帝も納得し、再び適任者を問うと、高懐徳こうかいとくが教練使の許懐恩きょかいおんを推薦した。帝はこれを裁可し、翌日の教場待機を命じた。

 翌日、教場には五色の旗が翻り、甲冑に身を固めた兵士たちが整列した。

 やがて太宗の車駕が到着すると、号砲が轟き、音楽が天に響く中、八王、呼延賛、許懐恩の三人が進み出た。

 太宗は彼らに言った。

「今日は余興とはいえ、軍の前で武を示すのだ。おのおの全力を尽くせ。ただし、無益な殺生は慎むように」

 三人は拝礼し、太宗からそれぞれ武器を賜った。八王には飾りの弓矢、許懐恩にはまゆみの槍、そして呼延賛には黄金のむちである。

 馬上の人となった八王が、鞭を振るい駆け出した。すぐさま許懐恩が槍を構え、「小秦王、逃がさぬぞ!」と叫びながら追いすがる。

 八王は巧みに馬を操り、矢をつがえて懐恩を狙ったが、懐恩は身をかわしてさらに迫る。教場の兵士たちが固唾を飲んで見守る中、疾風のごとく現れたのが呼延賛であった。

「待て! 賊将め、我が主君に指一本触れさせるものか! 呼延賛が推参!」

 雷のような叫び声と共に割って入った賛に対し、許懐恩もまた、「新参者に何ができる」と功名心に駆られ、矛先を賛に向けた。

 二人は激しく交戦した。馬のいななきと武器の交差する音が響き渡り、二十合あまり打ち合ったが勝負がつかない。賛は心の中で計略を巡らせた。

『この辺境の地で捕らえても面白くない。陛下の御前までおびき寄せ、そこ鮮やかに仕留めて武勇を見せつけてくれよう』

 彼はわざと手綱を引き、負けたふりをして教場を逃げ回った。

「逃げるか、卑怯者!」

 懐恩は血相を変えて追撃する。そして、まさに見物していた太宗の目の前を通り過ぎようとしたその瞬間――賛は鋭く身を翻した。

 風を切り、うなりを上げて振り下ろされた黄金の鞭が、懐恩を強打した。

 あっと言う間に懐恩は馬から転げ落ち、地面に叩きつけられた。それを見た潘仁美ら一派は顔面蒼白となったが、八王は馬首を返して高らかに笑い、太宗に言った。

「見事な腕前です。これぞ一騎当千」

 太宗も大いに喜び、「先帝の慧眼に狂いはなかった。賛こそ真の将軍である」と称賛し、褒美として黄金と名馬を与え、天国寺に住まいを用意させた。

 こうして名を上げた呼延賛であったが、運命の魔は意外な場所に潜んでいた。

 太平興国元年二月一日、太宗は朝議を終えると、太廟たいびょうへの参拝に出向くこととなった。

 慣例として、皇帝が行幸する際、臣下たちは「起居碑ききょひ」と呼ばれる目印を立て、通り道から下がって平伏しなければならない。これを怠れば、御列を妨害した罪となる。

 ある者が呼延賛にそのことを告げたが、賛は山育ちの武骨者ゆえ、宮中の細かいしきたりが呑み込めなかった。「ただ出迎えればよかろう」と、公服を着て無邪気にも道端に立っていたのである。

 そこへ鳳凰の輿こしが進み来た。御前に侍っていた潘仁美は、道の真ん中に突っ立っている人影を見るなり怒鳴った。

「御幸の列を妨げる無礼者は誰だ!」

 兵士が答える。「新参の呼延賛将軍であります」

 仁美は鬼の首を取ったように叫んだ。

「百官はみな作法を守っておるのに、奴一人が朝廷を軽んじておる! 即刻捕らえ、刑場へ引き立てよ!」

 親衛隊の騎尉は命令に従い、弁明も聞かずに賛を縛り上げて連行した。その剣幕に、周囲の百官も凍り付き、誰も助け舟を出せない。

 一方、太宗の参拝が終わるのを待って帰路につこうとしていた八王は、刑場のあたりが騒がしいのに気づいた。

「吉日に処刑とは穏やかではないな。誰を斬るのだ?」

 尋ねられた兵士が答える。「今朝ほど、呼延賛将軍が御幸の妨げをしたとかで、処刑されるところです」

 八王は仰天した。

「なんと、危うく国の柱石を失うところではないか!」

 彼はすぐさま刑場へ駆け込み、強引に縄を解かせると、賛を自らの屋敷へ連れ帰った。

「何故あのような真似をした?」と問えば、賛は涙ながらに答えた。

「山から出たばかりの身、作法を知らなかったのです。もし殿下のお救いがなければ、今頃首と胴が離れておりました」

 八王は憤りを隠せなかった。

『作法一つ知らなかっただけで死罪だと? これは間違いなく、あの奸臣がまたしても罠にかけたのだ』

 八王は賛を屋敷にかくまうと、直ちに宮中へ引き返し、太宗に拝謁して事の次第を訴えた。

 太宗は驚いて言った。

「余は何も聞いておらぬ。そのようなことで処刑してはならん、すぐに赦免せよ」

「陛下は宮中の奥深くいらっしゃるゆえ、奸臣が事実を曲げればお耳に届きませぬ。どうか特別な詔を下し、彼を安心させてやってください」

 帝はその言を受け入れ、即座に免罪の聖旨を記すと、八王に託して呼延賛の命を保障したのである。

「田舎の豪傑、都会のルール(社内政治)に翻弄される」

内部告発と出戻り交渉: 悪徳重役・潘仁美はんじんびのパワハラで田舎(太行山)へ帰ってしまった豪傑・呼延賛こえんさん。心ある同僚の告発により、社長(太宗)が激怒。潘仁美は保身のため、自ら呼延賛を連れ戻しに行く羽目になる。

大人の対応: 呼延賛は「殺してやる!」とキレるが、上司(李建忠)に「私怨より出世(=国益)」と諭され、グッと堪えて都へ戻る。

公開実技試験: 社長(太宗)の前で武芸披露。潘仁美は身内を使って呼延賛を潰そうとするが、社内の良心・八王はちおうが機転を利かせ、別の相手とのガチンコ勝負に。呼延賛は「負けたふりからの反撃」という高等戦術で勝利。

ビジネスマナー違反で死にかける: 採用決定後、社長の移動時における「マナー(儀礼)」を知らず、うっかり通行妨害。ここぞとばかりに潘仁美が「ルール違反で即刻クビ(処刑)!」とするが、またも八王が「新人に社則を押し付けるな」と助け船を出し、事なきを得る。

この回は、単なる活劇ではなく、宋という時代の「建前の政治(儀礼)」と「本音の現場(実力)」の摩擦を鮮やかに描いています。

文官政治の弊害と「形式主義」への皮肉

宋の時代は、唐代の反省から「文治主義(武人より文官・ルールを優遇する)」が採用されました。

この回における「起居碑ききょひの立て忘れで処刑されそうになる」という事件は、当時の「形式主義プロトコルの肥大化」を象徴しています。命がけで国を守れる豪傑であっても、些細なマナーを知らなければ抹殺される。作者は、こうした官僚機構の硬直性と、それを悪用する奸臣(潘仁美)の醜さを批判的に描いています。


「八王」という安全装置バランサー

皇帝(太宗)は名君ですが、宮中の奥にいて現場が見えていません。一方で現場には、悪意ある中間管理職(潘仁美)がいます。

ここに八王はちおうという、「皇帝の権威を持ちながら、庶民や現場の心を知るトリックスター」を配置することで、物語上の正義のバランスを取っています。これは中国の大衆が政治に対し、「法(厳しいルール)」だけでなく「情(事情を汲む心)」による救済を渇望していたことの現れであり、八王は「理想的な裁定者」の具現化です。


儒教的教訓:「小義」と「大義」の天秤

呼延賛が仇敵・潘仁美を殺さずに従ったシーン。これは儒教道徳における重要な教訓です。

小義: 個人の恨みを晴らすこと。

大義: 皇帝に仕え、国家を守ること。

作者は読者に、「真の英雄は、公(国・社会)のために私(感情)を殺せる者である」と説いています。これは、血気盛んな若者への道徳教育的側面も持っていました。


なぜ「ムチ」なのか?(武器のリアリズム)

呼延賛が得意とし、皇帝から賜った「金の鞭」。これは現代人が想像する革の鞭(Whip)ではなく、「硬鞭こうべん」と呼ばれる金属製の打撃棒です。竹の節のようにデコボコしており、相手を叩き潰す武器です。

何回も言及していますが、宋の時代、騎兵や重装歩兵の鎧は高度に発達していました。刀や剣では斬れない鉄の鎧に対し、衝撃を内部に通して骨を砕く「鈍器(鞭や锏)」が実際に有効だったのです。呼延賛が剣ではなく鞭を使うのは、彼が「対・重装甲を想定した最前線の将軍」であることを暗に示しています。


「劇中劇」の面白さ(演劇文化との融合)

武芸披露の際、「皇帝役=小秦王、忠臣役=尉遅敬徳、敵役=単雄信」という配役で芝居をしながら戦うシーンがあります。

これは『楊家将』が成立した背景に、講釈師(講談)や京劇などの「演芸」が深く関わっている証拠です。作中の登場人物たちが「昔の英雄のコスプレ」をして戦うというメタ構造は、当時の民衆が歴史物語(特に唐の建国神話である『説唐演義』系統の話)に精通しており、それを引用することで「この戦いはあの伝説の再現なのだ」と熱狂させる演出効果がありました。読者(観客)へのファンサービスが非常に巧みなシーンです。


八王(趙徳芳)という最強の「聖域」

八王は実在の人物(太祖の息子)をモデルにしていますが、小説内ではほぼスーパーマンです。

マニアック視点:

彼は伝説上、太祖(初代皇帝)から「上は昏君(愚かな皇帝)を打ち、下は讒臣(悪臣)を打つ」ことができる「金の瓦(または金鞭)」を授かっているという設定が民間伝承にあります(通称:上打昏君、下打讒臣)。だからこそ、皇帝の目の前で「潘仁美は悪いやつだ」と言い切れるし、処刑寸前の罪人を勝手に連れ帰っても罪に問われません。彼は、専制君主制における「システムのバグ修正パッチ」として、物語上最強の権限を与えられたキャラクターなのです。

この「実戦最強の男(呼延賛)」が、「理不尽な官僚社会(宮廷)」に放り込まれ、「最強のバランサー(八王)」に助けられながら、世の中の渡り方を学んでいく「社会人一年生」のようなエピソードとして読むと、現代にも通じる面白さがあります。

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