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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

結局のところ、私たちは不幸を求めているのかも知れない

作者: コトカキ
掲載日:2026/01/05

頭真っピンクの女の子たちが夏の海でいちゃいちゃするお話




 知らない方が幸せだった。

 こんなものなんて。



 心臓が跳ね回る。数刻前から、その鼓動が耳の奥で鳴り響いている。



 こんなにも、苦しいものか。



 心臓がひっきりなしに背骨と胸骨を叩く。肺が脳ミソ(司令塔)の命令に逆らい、大きく膨らむのを拒む。息が浅くなる。


 かといって、その司令塔(脳ミソ)だってまともに働いてない。

 この暑さにやられたか、言葉一つ口にすることだって出来やしない。

 完全にダメになっている。



 それもコレも、全部夏のせいだ。



 夏。

 恋の季節。

 そんなことを言い出した輩は何処のどいつだ。引っ叩いてやりたい。 


 暑さに身体が反応してるだけの生理現象を恋だと思い込んでいるだけ。 



 きっとそうだ。



 まァまァ。こんな暑さでマトモな判断なんて出来やしないさ。と、心の中で誰かが言う。

  

 うるさい。こっちだっておんなじだ。

 この暑さの中、身体がマトモに動いてくれたなら、どれだけ良かったか。 


 こんなに心が乱れることもきっと無かっただろうに。 

 


 さっきから動悸が止まらない。

 水は飲んだし、今は木陰に座って居る。


 だってのに、身体は熱暴走を起こしたまんま。



 一体全体どうしたっていうんだ。

 


 それに先程から、少し甘い香りが鼻をくすぐり続けている。



 頭がクラクラする。



 その匂いのせいで、身体の熱暴走がさらに加速していく。


 いっそ思いきり吸い込んでしまおうか、とも思った。


 が、肺がそれを拒む。

 膨らみきっちゃいないってのに、もう無理限界と叫ぶ。

 深呼吸一つ、できやしない。



 このポンコツめ。

 




====================

 




 目が焼けるくらいに眩しい真っ白な砂浜。そして奥には、吸い込まれそうなくらい真っ青な大海原が広がる。


 海岸沿いの深緑の林。その木陰のベンチ。


 眼前を、きゃっきゃっと言いながら家族連れが通っていく。



「……楽しそう。」



 隣に座る彼女がぽつりと呟く。

 


「流石に、もうちょい休んだら?」



 つい先程ぶっ倒れたばかりなのだから。


 木陰から出るにはまだまだ早い。

 また直ぐ倒れて木陰にトンボ返り、なんてあまりにも滑稽だ。



「ん。そうする。」

 


 彼女が横で、もぞもぞと据わりを直す。彼女が動くたび、甘い匂いが強く香ってくる。


 ……あまり動かないでほしい。



「ね、」



 と彼女。



「夏は、好き?」



 唐突に。



「……」



 ……正直、あまり好きではない。

 暑いし、汗をかくし、お日様が眩しすぎるし。



「そこそこかな。」


「そう、」



 声のトーンが少し下がった気がする。



「私は、夏、好き。」


  

 うーん。間違えた。


 嘘でも良いから好きと答えれば良かった。



「それは、なんで?」



 苦し紛れのしょうもない質問。



「なんでか?んー。」



 少し驚いた様な声。



「なんとなく、かなぁ。」


「何となく、」


「うん。なんか、好き。」


「なるほど?」


「他に好きな季節とか、ある?」


「他に?」



 ……うーん。

 好きな季節、ねぇ

 あったほうが良いのかな。



「特に無い、かなぁ。」


「無い?ホント?」



 くすりと彼女が笑う。



「じゃあ、夏を好きになって欲しい、かな。」


 「……」



 それってどーゆー



「よし。そろそろいいんじゃあとととっとと」



 急に彼女が立ち上がった。と思った途端にバランスを崩して倒れそうになる。



「お、わ。っとぉ」



 慌てて、腕を持って支える。



「おわわ。危ない危ない。」


「マジで危ないよ?もうちょい休んだら?」


「んん。へーきへーき。」



 よたよたとこちらの腕を支えに、何とか立ち上がる。


 ……腕、凄く、柔らかい。


 少しざらついているが、白くて綺麗。



「いろいろ、ありがとね。」

 


 にへら、と笑う彼女。


 ……



「ゆぁーうぇるかむ。」


「なんで英語?」



 くすくす。


 目を、合わせられない。


 匂いと手のひらの感触で頭がどうにかなりそう。



「んー。もう放してくれて大丈夫だよ?」



 おっと。


 彼女の腕を掴みっぱなしにしていた手をパッと放す。



「あー、その。」


「ん?」


「なんか、ごめん。」


「いやぁ、全然。優しいタッチで、悪い気はしなかった、よ?」



 にへら。

 

 ……。


 そんな言い方をされると、余計に目を合わせづらくなるから止めて欲しい。


 心臓よ。叫ぶな。煩い。



「あー。じゃ、どうする?皆のとこ戻る?」


「んー?どうしようね?」



 ちら、と彼女が海の方を見る。



「海、入ってみない?」



 あざとく、首を傾げて言ってきた。 


 ……。


 その手には乗らない。

 

 心臓。また叫ぶな。煩い。


 

「水着着てないけど。」



 こちらは黒のTシャツにデニムジャケット、ジーパン。

 彼女は白いワンピース一枚。

 どっちもサンダル。


 海に入りに来た訳じゃ、ない。



「良いじゃん。せっかくだし、膝捲ってさ。浅いとこまで。」


「いやーぁ、早く戻ったほうが良いんじゃないかなぁ……。

 BBQ場直ぐそこだし、海まで行ってたらBBQ終わっちゃうかもだし。」


「えー?」



 今日、この臨海公園に来ているのは、直ぐそこにあるBBQ場のため。

 海に入る事が目的ではない。


 ないったら、ない。



「ふーん。」



 じっと見つめてくる。



「さては、海、苦手でしょ。きみ。」


「……」



 ……。



 ……。



 ……。



「ふ、わかりやすいね。」



 ぐい、と彼女がこちらの手を引く。



「あ、ちょっ」



 意外と力が強い。というか、こちらの力が弱い。



「ちょ、流石に」



 BBQ場は海と逆の方向で、海までは結構距離もある。



「だいじょぶだいじょぶ。ちょっと足つけるだけだから。すぐ戻れる戻れる。」


「ホントかなぁ……。」


 

 手を引かれるままに、駆けてゆく。


 ……手、柔らかい。

 息を吸うたび、甘い匂いがする。


 再び、鼓動が速くなっていく。



たっ


たっ


たっ



 砂浜に出る。


 足元が、硬い土からさわりとした柔らかい砂へと変化。

 ざふりざふりと砂に足を取られつつ、一直線にだだっ広い濃紺の方へ。



「はぁ、はぁ、キツイ。」


「あはは!もうすぐもうすぐ。」



 ホントにさっき熱中症っぽい感じでぶっ倒れた人間か?コレが。


 なんでこっちより元気なんだよ。



「はぁ、はぁ、はぁ。」

 


 ざざんと波が押し寄せる間際、足元が湿って硬くなる。


 彼女がだんだんと駆ける速さを緩めていき、とすとすと止まる。


 手の感触が緩む。



「ふぅ。」



 ざぱり、と、足首に波。



「海、着いたね。」


「はぁ、はぁ、ついた。ね、」



 そう喘ぎながらパッと手を放し、ジーパンの膝を捲くる。


 キツイ。

 


「ふふ。体力ないねー?」



 いや、逆。おかしいだろ。


 さっき倒れてたのに、なんでそんな元気なんだ。



「さっき、倒れてたのに、なんで、」



 そんなに元気なの。



「んー?なんで、かな?」


 

 再び首を傾げてみせる。


 ……。



「私ね。海、好きなんだ。」



 再び唐突に。



「まさに夏、って感じで。すっきりする。」



 ……そうかい。



「海はあんま好きじゃない。」


「なんで?」


「だって、濡れるし、髪もパキパキになるし、」



 なんか、怖いし。



「んー?ホントに?それだけ?」



 くすくす。



「……」


「まぁ、いいや。もうちょい、こっち行こ。」



 再び手を引かれる。

 

 ざぶざぶと波をかき分け、さらに海の中へ。



「いや、これ以上は、」



 スボンが濡れる。



「いいのいいの。諦めて。」



 そう言いながらこちらの手を引く。

 

 どんどん水がせり上がってくる。足元が深くなる。



「服濡れるって、これ。」


「いいのいいの。」


 

 もうすでに、腰のあたりまでびしょびしょだ。



「こんなもんかな。」



 と、そのくらいで止まった。


 波がざぱりと押し寄せるたび、Tシャツとジャケットが濡れていく。


 彼女のワンピースもびしゃびしゃで、身体に張り付いている。

 

 ……目に毒だ。


 ふぃと視線をそらす。



「分かりやすいね。」


「、何が。」


「んー?自覚ないんだ?」

 


 うるさい。

 こっちは悪くない。

 アンタが悪い。



「はー。すっきりするね。」



 ちゃぷちゃぷと手で海水を弄くっている。



「……しない。」



 Tシャツが身体に張り付く感覚は、好きじゃな



「えい。」



ばちゃん。


 

 は。



 首筋を冷たい海水が伝り、背中と首元にTシャツが張り付く感覚。



 ……



 ……



 ()()()()。コイツ。



「あはは!びちゃびちゃだね。」



 なに笑てん。



「……」


「お?怒った?怒った?」



 けけけと笑いながら、ばちゃばちゃと追加で海水をかけてくる。

 Tシャツとジャケットが、どんどん水を吸って重くなる。



 ……。



 ……こうなりゃ、やけだ。



「ふん。」



 と彼女の肩を掴み、そのまま前に押し倒す。



ざぶん。



 全身が冷たい水の感覚に包まれる。



ぼこぼこぼこ。

ぼこぼこぼこ。



 彼女と目が合う。


 ……綺麗な瞳。


 驚きと、ワクワクが混ざったような表情(かお)をしている。

 


ざぱり。



「ぷはぁっ。」


「……」



 結局、全身ずぶ濡れ。

 頭が重い。


 彼女の癖っ毛が水を吸って垂れ下がり、顔が隠れている。


 白のワンピースは肩まで完全に濡れ、より扇情的に身体に張り付


 ……。


 ……。



「……」



 何、考えてるんだ。良くない。



 ……だってのに、


 その薄い純白から、目が離せない。



「ふ。」



 ……。



「ふふ。」



 ……。

 


「あははは!面白い!ね!」



 けらけらと、彼女が笑う。


 ふぃ。



「んー?見てて良いよ?」


「いや、さっきの仕返しだから。そういうんじゃ、ないから。」



 目が合わせられない。というか、彼女を見れない。


 水面に映る白色と会話している。



「ふふ。じゃ。」



 ざぶり。と彼女がこちらへ近づく。



「こっちも、しかえし。」



 ぐい、と顔を掴まれ、無理やり前を向かされる。


 間近に彼女の顔。


 垂れた髪の隙間から、真っ黒な瞳がこちらを覗き込んでいる。



 綺麗、だ。



 とん、と彼女がこちらに体重を預けてくる。


 支えきれない。



ざぱん。



 再び冷たさが全身を包む。 


 ゆれてぼやける水面の向こうに、お日様。 


 ……


 何見てんだよ。


 

ざぱり。



「ぷふぁ。」


「『ぷふぁ』だって、かわい。」



 ……うるさい。



「すっきり、した?」


「……」


「したっぽい、ね。」



 にへら。



 ……。



 ……やっぱり、


 知らない方が良かった。


 こんなものなんて。



「あーーーーーーもう!!」


「うわぁ。びっくりした。」


「なんで、こうなる、かなぁ。」



 少し足を投げ出し、顔半分まで水に浸かる。



「ふふ、顔真っ赤。」


「うるさい。」 


「うん。調子、戻ってきたね。さっきから、元気なかったから。」



 ……そう見えてたか。


 こっちは気持ちを抑えるのに必死なだけだったんだけどな。



「まぁ、スッキリ?した、かも。」


「なら良かった。」



 そう言って笑う。



「皆のとこ、戻ろっか。」



 彼女が砂浜の方へ歩き始める。



「え、」


「ん?」


「コレで、戻るの?」


「私は、全然。」


 

 気にしない?

 こっちが、気にする。



「もうちょい服乾かしてから、行こ。」


「え?……あー、誘われちゃった?私。今。」


「違う。そうじゃない。」


「じゃあ、何、さ。」


 

 振り向いて、首を傾げる。



 ……



「……もういいよ。そういうことで。」



 ふふ。と彼女が笑う。くるり。



「じゃ、砂浜で時間、潰そっか。」


「結局こうなるんじゃん。」



 はぁ。



「えー?間に合うよ、だいじょぶだいじょぶ。」


「どうだか。」



 ざぶり、ざぶりと波をかき分け進む。


 彼女の白い後ろ姿が、水面に反射している。


 ……なんで、よりにもよって白なんだ。

 下着が透けるじゃないか。



「ちょっと、」


「ん?」


「コレ、羽織って。濡れてるけど。」



 ジャケットを手渡す。



「んー?いいよいいよ。だいじょぶ。」


「ダメ。羽織って。」


 

 そっちが良くてもこっちが良くない。



「んー。そう?」



 そう言って彼女がジャケットを受け取る。


 ふぅ。コレで、大丈夫。



「ありがと、ね。」


 

 パサリとジャケットを軽く羽織り、にへら。と笑う。


 

「……ゆぁーうぇるかむ。」


「また、英語。照れてる?」




 いやいや、まさか。

 


ざぱざぱ。



 二人揃って砂浜へ上がっていく。



「ね。」


「ん?」


「楽しかった、ね。」 



 にへら。



 ……



「ん。」


「夏、好きになった?」


「どうだろ。」


「ふふ。手強い、ね。」

  


 彼女の白いワンピースが、きらきらと眩しく揺れる。

 


 ……私が夏を好きになるかは分からない。

  


 けど、


 再度全身が冷たい水に包まれた時。


 あの時、あの唇の温かさは


 きっと忘れられないんだろう。


 夏の記憶(キズ)として、一生心に残るんだろう。



 ……。



 やっぱり、知らない方が幸せだった。

 (こんなもの)なんて。




かわいいね

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