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第4話 ぶきよう

「冒険者フウ」のゲームを、ものすごい勢いで確認する。画面を見る目が、ギョロギョロと左右に動いている俺を不気味そうに見る佐藤さんの視線をチクチクと感じる。

 けれど、今はそんなことどうだっていい。

 俺は必死になってフウを探す。


「いた・・・」


 思わず声が出てしまったほど、フウの姿を見つけた時は安堵した。


 フウは、小屋の中のテーブルに座っていた。

 テーブルの上にはカレー。


 もしかして俺がいなくなって、食べる気になったのかな・・。

 ・・・1人で食べてて寂しくないのかな・・。

 胸がチクリと痛む。


「・・大丈夫?」


 急に手を止め、パソコンの画面を凝視して固まる俺の顔を心配そうに覗き込む佐藤さん。


「あっ・・はい、すみません・・」


 ぼうっとした顔で佐藤さんの方を見ると、肩越しに写真立てがデスク上に置いてあるのが見えた。写真にうつっているのは、子ども2人だ。


「それ・・その写真、お子さんですか?おいくつなんですか?」


 今まで他人の子どもについて興味をもってこなかった俺は、いつもならスルーするが、フウのこともあって妙に知りたくなった。


「あっ、これ?うちの子ども達。まだ2人とも小学生なの」


 写真立てを持つと、にっこり微笑み俺に見せてくれた。

 そこには、女の子が2人写っている。


 ・・ん?この服・・?


「お子さんが着ている青い半袖ブレザーって、珍しいですよね、なかなかないっていうか・・その、フウも同じ服着てたのでちょっと驚いて」


 佐藤さんは俺の言葉に一瞬フリーズするも、すぐにお腹を片手で抑え笑いだした。


「あははは、ごめんごめん。もー、ちょっと他の人に興味無さすぎでしょ。せめて、同じチームのメンバーがやってる仕事くらいは把握しててよ。冒険者フウの衣装デザインとか、小物系は私が担当してるのよ、なかなかいい制服思い浮かばなくて、それでうちの子どものを参考にしたの」


 そうだったのか・・


「小物担当ってことは、バーモンドのカレーも用意したの佐藤さんですか?」


「そうそう!・・・って、そんな細かいところまで見てくれたの?私の担当箇所は知らないのに、そういう所はよく確認してるのね」


 不思議そうに俺の顔を見つめる佐藤さん。

 異性とこんなに近い距離で、しかもこんなにたくさん話したのは久しぶり過ぎて、今頃になって照れてくる。


 何か他に話題・・・

 俺は、必死に頭の中を巡らせる。


 あっ、そうだ・・!


「佐藤さんのお子さんて、小学生って言ってましたよね?具体的には何歳なんですか?」


 目を大きく開け口は笑って、前のめりに聞いてきた俺の様子に、急に嫌そうな顔をし、またもやのけ反って距離をとる佐藤さん。


 そりゃそうか、女の子の年齢聞くアラフォーのおじさんなんて、気味悪いよな。


「いや、変な意味はなくて、えっと・・俺の・・甥っ子!に、7歳の男の子がいるんですけど。その子が服のボタンを1人で留められなかったり、あとはスプーンを逆手持ちでご飯食べたりで、なんかちょっと気になってて・・佐藤さんちのお子さんはどうなのかな?って、気になっただけです!」


 変態と思われないよう、子どものことを聞きたかったんです、と必死に弁明する俺。

 さすがに、フウのことで・・とは言えず、甥っ子ってことにしてしまったが。


「あぁ・・そういうことね・・そっか・・」


 甥っ子のことで安心したのか、佐藤さんは少し警戒を解いたようで、椅子に座り直しちょっと考え込む。


「んー・・甥っ子くん、7歳なんだよね?もし、ボタンやスプーンのことが事実なんだとしたら、ちょっと年齢の割に幼いかも・・。うちの子達は、ボタンはもう3歳ころから出来てたし、スプーンも4歳には逆手持ち卒業してたかなぁ」


 えっ、3歳!?4歳!?

 フウは7歳だぞ・・まだできないって、いくらなんでも遅すぎやしないか??


 動揺して言葉を返せない俺に、佐藤さんは顔の前で手を振りながら慌てて付け加える。


「あ、でも、子どもの成長には個人差あるから。その甥っ子くんも苦手なだけで、だんだんできてくるかもしれないし・・」


 うつむく俺に、表情を曇らせ心配する佐藤さん。


「気になるようだったら、その甥っ子くんのご両親にそれとなく伝えてみるとか・・まぁでも親じゃないと、なかなかそういうの気付いてても言えないよね・・」


 一緒になって悩んでくれている佐藤さんのその姿に、いい人なんだな、と初めてその人柄を知った。


「とりあえず、また甥っ子に会えたら、なんとかしてみます。ありがとうございます」


 うすら笑いを浮かべ、ぺこっと佐藤さんにお辞儀してパソコンに向かう。


 画面を見ると、フウはもうテーブルにおらず姿がなかった。


 また会えたらって・・、

 次にフウに会えるのはいつなんだ?

 いや、そもそもまた会えるのか・・?


 ◇◆◇◆


 気もそぞろな俺は仕事に集中できず、定時になったら速攻帰った。

 いつも残業を当たり前のようにしていた俺が、急に早く帰るもんだから、同僚も佐藤さんも一同に皆驚いていた。


 彼女でもできたんか?、なんてニヤニヤして話しかけてきた人もいたけど、笑ってなんとか誤魔化した。

 俺は、今はもうフウのことで頭がいっぱいだった。


 早足で家に着くとすぐに鍵を開け、狭い玄関に無造作に転がった長靴を見下ろす。


 前はこれを触ったときに転移したもんな・・恐る恐る手を伸ばし、長靴に触れ目をつぶる。

 も、何も起こらず、玄関で屈んだ俺がいただけだった。


 無理か・・ため息をついて部屋にあがる。

 定時で上がってきたから、外はまだ明るい。

 かばんを置くと、そのままの姿で畳の上に寝転がり窓から空を見る。


 あ、俺、フウには帰ってきてすぐに着替えるよう言ったっけ・・

 フウに言っておきながら、アラフォーの俺もできてないじゃん。


 苦笑いすると、よっこらせ、と起き上がり、ゆっくりと着替え始める。


 今日の夕飯どうするかな、と考える。

 いつもなら帰り道で弁当を買ってきているが、今日はそれよりも早く家に帰って、転移できるか試したい気持ちが強くて、弁当屋に寄らなかった。


 今から買いに出るのも面倒くさいなー・・・

 冷蔵庫の前に行き、しゃがんで扉を開けて中を見る。


 中身はすっからかんだ。

 フウの冷蔵庫の中ですら、最低限の食材入ってたのに、俺はゲーム以下だ〜なんて思いながら、中に入ってる酎ハイを取る。


 えっ!?なんで!?


 その時は、突然きた。

 酎ハイに、体が吸いねじ込まれるようなギュウーッとした気持ち悪い感覚。

 目の前の景色が歪み意識が飛ぶ。



 ◇◇◇◇


「おじさん、ねぇ、おじさん起きて」


 ユラユラと体がゆすられて、目が覚める。

 なんだか、いい香りもする。


 目の前には、不安そうなフウの顔が俺を見下ろしていた。


 俺は、またフウの所に来れたのか・・。

 フウの頭に手を伸ばすと、クシャクシャと髪の毛ごと頭を勢よくさする。


「なんだよー」


 迷惑そうな、くすぐったそうな顔をするフウに、俺は気持ちがほぐれる。

 ゆっくりと起き上がると、そこは小屋の前の草花の中だった。


「なぁフウ、おじさん、また突然ここに来た?」


 突然の転移に、頭が重くズーンとしながらもフウに尋ねる。


「うん。オレがここにいたら、急におじさんが現れた。ドサッて」


 俺の現れ方は、某ジブリのラピュタみたいに空から降ってくるとかじゃなくて、急に物体がそこに現れる感じらしい。


 ゲームの中の時間は今何時なのか、外はまだ明るく天気もいい。

 今日は学校は休みなのか、気になって聞いてみる。


「休みじゃないよ。ある。でも行かなかった」


 ズル休みか。まぁ色々あるよな、たまにはそうしたいときもあるよな、と、俺は何も言わなかった。


「なんで休んだかっていうとね」


 すると、フウは膝を立てて座り、膝に半分顔を埋めて話し出す。


 何も聞かないと、返って話したくなるやつか?


「学校で友達から言われたんだ。フウはまだ赤ちゃんみたいだって。パパもママもいないから、いろいろ教えてもらえてなくて、かわいそうって」


 グスグスと鼻水をすするフウ。


「そっか・・そんなこと言われたのか、つらかったな」


 フウの頭を優しくポンポンとする。

 あぁ、俺は前回この世界に来たときに、フウに家族を作ってやろうって、真っ先に思ったじゃないか・・。


 なのに、冒険者フウのゲームを作ることじゃなくて、フウに会いに来ることばっかり考えて。

 フウに寂しい思いさせてるのは、ゲーム担当者の俺じゃないか・・。


 自分のダメさ加減に落胆して、俺まで落ち込む。


「前まで、友だちにそんなこと言われたことなかったのに。友だちが急に変わっちゃったの」


 友だちが変わった・・?

 そういえば、佐藤さんがバグの関係で、フウの学校での友達とのやり取りが、上手くいってないって言ってたっけ。


 じゃあ、これは全てバグのせい・・!?

 フウが悲しい気持ちになってるのも、結局は開発者である、俺達のせいじゃないか。


 定時で帰ることなんてしないで、いつも通り残業してバグ修正しときゃよかった。

 アホか俺は。


「おじさん、オレね、悲しくなって、さっきまでここで泣いてたんだ」


 草花が、風でそよそよと揺れる。


「そしたらね、おじさんがまた現れたんだ!おじさん、オレが悲しいとき、いつも来てくれる!やっぱりヒーローだね!」


 ニカッと俺の方を見て笑うフウ。

 よくよく見ると、目の周りが泣いて赤くなっている。


 子どもってこんな健気なのか・・。

 ウルッときた俺は、慌ててフウから顔を逸らし目をこすると、スクッと立ち上がる。


「よーし!フウ、おじさんと赤ちゃん脱出のために、練習だー!」


「オレ赤ちゃんじゃないよ」


「あ、いや、そうなんだけど・・なんていうか比喩っていってだな・・あ、なんかごめん」

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