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第1話 作り手と冒険者と

 毎日、毎日、同じルーティーン。

 朝起きて仕事に行って、誰もいない部屋に帰ってきて、そして寝る。

 朝も昼も夜も、基本は1人でご飯だ。

 昼は時々職場の仲間と行くが、なんか気を遣うし時間も限られてるし、ゆっくりできなくてあんまり好きじゃない。


 30代後半にもなってまだ独り身の俺は、彼女もいないし、もちろん結婚経験もない。今まで何人か彼女もいたし、一度は結婚の直前までいったお付き合いもあったが、色々とあり上手くいかなくなって、結局別れてしまった。

 周りの同期は結婚して子供もいて、幸せそうで羨ましい。


 仕事は、子どもの頃から好きだったゲームに携わりたいとゲームをつくる会社にしたが、毎日パソコンと睨めっこで納期に毎回悩まされ、ゲームの楽しさなんて仕事では感じられない。


 今は主人公の少年の家をつくっている。

 緑の草っ原に花に。丘の上に立つ小屋。

 なんだか、ありきたりな雰囲気でつまらない。

 やけくそで、小屋の前に冒険者フウと書いた表札を立ててみる。

 なんだこれ、と苦笑して今日はもう無理だなと、自分に諦める。


 今日も夜遅くまで残業して、やっと賃貸のアパートに帰ってきた。今日は金曜日。明日からの週末はゆっくり寝て過ごそう。

 そう思って部屋の電気をつけ、買ってきた弁当を食べようと、茶色い小さなちゃぶ台を前に座る。

 すると、久しぶりに俺のスマホにメッセージチャットのLIMEがきた。

 学生の頃からの友人から、釣りのお誘いだ。


 明日行かないか?

 って・・、急すぎだろ!!


 と、思いつつも、釣り用の長靴はまだあったかな?と玄関へ行く。

 小さな靴箱を開けると、その中にはぎゅうぎゅうに詰められた俺の靴で溢れていて、何がどこにあるのか分からない。


 長靴どこだったかな、と靴箱の中の狭い棚を覗き手を入れると靴がドサドサと落ちてきた。


 いてっ。

 頭の上に落ちてきた俺の靴たち。思わず頭を抑える。


 コンッ。

 玄関のコンクリート部分に最後に落ちてきたのは、探していた釣り用の長靴だった。

 茶色いボロボロの長靴。

 若い頃は釣りが好きでよく履いて行っていたから・・いや、正直なところ、手入れをしていなかったから状態は良くない・・いや、そんな丁寧なもんじゃない。汚い。


 自分で言うのもなんだが、触るのもはばかられる程の汚さだったが、仕方ないこれしかないんだから履けるかどうか試してみないと。


 ・・よし!

 と決意して、茶色いボロボロの長靴に手を伸ばす。


 そのボロボロの部分に少し触れたかどうかのその瞬間、長靴に体が吸いねじ込まれるようなギュウーッとした気持ち悪い感覚になり、目の前の景色が歪み意識が飛ぶ。



 ◇◇◇


 頭にコーーン!!と何かが当たった。


 なんだ?と、ぼんやり目を開ける。

 木の四角い横長のテーブルにのせた、自分の腕が見える。どうやら、俺は椅子に座っているようだ。


 ・・椅子??


 ゴンッッ!!


「おっさん誰なんだよ!どこから来たんだよ!!」


 頭へのすごい衝撃と誰かの声に驚いて、思わず目を見開く。


 ゴロゴロゴロ・・

 俺の目の前のテーブルの上を、緑色のビンが転がっていく・・。

 頭を押さえると、たんこぶができていた。


 そして声のした方を見ると、まだ小学生低学年くらいだろうか、少年が壁に背中をへばり付け、怯えた顔でこちらを見ていた。


「君は・・?どうやって入ってきたんだい・・?」


 投げつけられたであろうビンの衝撃だろうか、まだ頭がぼうっとしている。


「なに言ってるんだよ、おっさん!!あんたこそ、急に現れやがって・・なんなんだよ!ここはオレの家だ!」


 少年は目を見開き大きな口を開け、叫びたくる。


 ぼうっとしたまま、周囲を見渡すと壁もテーブルも椅子も全てが明るい木目調の木でできた、小さな家だった。そして、小さな窓からは日の光が差し込み、部屋の中を明るく照らしている。

 徐々に事態の重大さに気づき、慌てて椅子から立ち上がり少年と更に距離をあける。


「ご、ごめん!!ここは君のお家なんだね、なんでか、俺お邪魔していたみたいで・・え、て、なんで俺はここにいるんだ???」


 ズキズキ痛む頭のたんこぶの辺りをさすりながら、こうなった前を思い出す。確か・・友人から連絡がきて釣り用の長靴を探して・・それでそれに触ったら・・。


「なんでもいい、早く出ていってくれよ!!」


 少年が、壁から一歩も動かず叫ぶ。

 よく見ると、少し震えている。


「そうだね。ごめん、怖がらせてしまって・・。何もしないから安心して。今帰るから・・悪かったね」


 そう言って椅子から立ち上がり去ろうとする・・も、外へ出るドアがどこにあるか分からず、キョロキョロする。


「そこだよ」


 少年はぶっきらぼうに言うと、真っ直ぐ腕をあげドアの位置を教えてくれた。


「あぁ・・そこか、すまなかったね」


 ドアまで歩いていきドアノブに手をかけ、少年の方を振り返る。

 少年はこちらを睨んだまま、微動だにせずいる。


「それじゃ・・」


 なんと言っていいのか、よくこの状況も分からない中で滑稽な挨拶をし、ドアを開き外に数歩出る。

 そこは、一面綺麗で元気そうな緑の草っ原と綺麗な花々だった。そして青い空に白い雲。そして時折吹く優しい風に揺れる緑の草っ原。


 あれ・・これ俺のゲームじゃね?


 そう思った俺は、おそるおそる小屋を振り返る。小屋の前には木でできた小さい表札があったが、半分で割れている。「冒険者」までは読めるが、その先がない。でも俺の勘が正しければおそらく・・


 閉まろうとしている小屋のドアを足で止め、中を覗き少年を見て声を上げる。


「君・・フウくんだろ?!」


 少年は帰ったと思った男がまた来たことに驚いて、飛び上がり目を丸くする。


「な、なんだよ急に・・!そうだけど、なんでオレの名前知ってんの?」


 少年はまた壁に背中をくつけると、怪しいものを見る目つきになる。


 やっぱりそうだ・・!ここは、俺のつくったゲームの中だ・・。


 どうやら、俺は自分の作りかけのゲームの中に転移したらしい。

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