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22.刹那。

「なめられたものだ」

 蓮の口が開かれる。男にしては些か細い、すらりとした腕に見合わぬ大太刀を握り締めて。

「正々堂々、真正面からの一対一の勝負に持ち込んだわけか? 貴様、そこまで清廉潔白な人間だったのか」

「そんなんじゃないさ」

 再び太刀を手に取り、なつめもまた前に進み出る。

「結果的にこうなった。それだけだ。実佳を守る為なら手段は選んでないぞ、俺は」

「……よく回る口だな」

「飛鳥さんや祐姉ほどじゃないけどな」

 視線が交錯する。

 互いに、両手で柄を握り、構えている。男は古より脈々と受け継がれているのであろう風格のある構えを。対する自分は、ただ真っ直ぐに。隙だらけだろうと、その切っ先だけは揺らがせないように。

 ──幾ばくかの、静寂。

 そして、次の瞬間、二つの刀剣はぶつかった。ギイン、と金属同士がこすれ合う音が耳に届く。

 今は地に足を付けている蓮はすぐさま後退し、真下から上へと刃を振り上げる。届いていれば顎から頭まで真っ二つにしていた剣閃を、なつめは身体を回転させてすんでのところで回避した。

 腹部ががら空きになった蓮へ、真横に太刀を閃かせる。真上から蓮の大太刀の柄が降ってきて、刃の軌道を物理的に止められた。

 互いに一度距離を取り、そして一呼吸する(いとま)もなく、再び激突する。

 刃が翻る。空を切り裂く。何度となく。幾度となく。

 蓮の腕から血が流れた。なつめの額から頬へ赤い滴が流れた。それでも両者とも、動きは少しも鈍らず、激しさばかりが増していく。

 首を吹き飛ばすほどの勢いと速さを付けて喉元を狙った蓮の突きを、なつめは跳躍で回避し、大太刀の上に足を付ける。瞬間、そこを軸に更に跳び上がった。宙を舞いながら太刀を持ち替えて、上から太刀の柄を振り下ろした。

 狙いは額。脳に近いそこに強い衝撃を与えれば、脳震盪を起こして倒れるだろうと踏んだ。

 ……が、蓮の額に届くと思ったその刹那、突如現れた赤い障壁に柄での一撃を遮られる。

 遠目で、アーゲルハイネがひどく息を切らしているのを捉えた。これはきっと彼女だ。まさかまだ別の術を、しかもこんなに精密に発動させる事が出来るほどに動けるなんて。

 これは、予想していない。まずい。

「なめるなと言った、青二才──!」

 地の底を這うような声で、蓮が叫ぶ。

 一瞬であろうと宙に留められたなつめの片足を掴み、大太刀とその柄を握る片手の僅かな隙間、そこから黒の矢が放たれる。

「!!」

 その矢には見覚えがある。あれは、蓮達にはじめて襲撃された時に襲いかかってきた矢だ。大きさこそ小さいが、その代わりに数は三つ。それがなつめの足を容赦なく貫いた。

「ぐあっ……!」

 鋭い痛みと、途端に消えていく片足の感覚。ああそうだ。これを真正面から食らった隆哉は、全身の痺れを訴えていた。これではまともに立っていられない。

 そんななつめの事など分かりきっている蓮の猛撃は、当然止まらない。掴んだ足をまるで軽い人形でも扱っているかのように、そのまま大きく振り回し、全力で(くう)へ放り投げ、ビルの壁へと叩き付けた。

 なつめの身体は、背中からもろに壁に激突した。

「──!」

 息が止まる。違う、呼吸が出来ない。頭が痛みを痛みと認識していない。視界が白くちかちか点滅して、次に、赤いものに遮られた。

 身体の中で嫌な音がした。身体の強化は怠っていなかったはずなのに、それでも尚、骨が折れたのだと本能で理解した。

 重力に従ってなつめは大地へ落下する。無様な音を立てたものだと、内心で自嘲した。

「なつめ!!」

 と、遠くで名前を呼ぶ声が聞こえる。実佳だろうか。それとも隆哉? だが、応えられない。言葉や声を出すよりも前に、口の中から、何かがあふれてくる。こぼれ落ちているのは赤い液体。ああ、血を吐いているのか。他人事のように認識した。

「俺達と貴様では、踏んでいる場数が違う。抱えている責任が違う。刻み付けている信念が違う。背負っている定めが違う。ありとあらゆる、何もかも全てが違う」

 一歩、また一歩と男は距離を詰めてくる。

 まだだ、まだやられてたまるものかと、なつめは太刀の柄を探した。共に落下した太刀は、手のすぐ傍にいてくれる。それを握り締めて、大地に太刀の刃を突き立てて、立ち上がる。終わらせない。それは認められない。それを自分で自分に許すことは出来ない。

 睨み付ける。痺れた足と、頭と口から流れ出る血を拭わないまま、もう一度立ち上がって、太刀を、その刃を、突き付けようと力を込める。

 男はそれを嘲った。侮蔑した。見下した。金の瞳にそれをありありと映しながら、そして音もなく大太刀を構える。突きの構え。

「──死ね。愚か者」

 その場から男の姿が消える。少なくとも、外側からそれを見ていた者達にとってはそう映っただろう。

 なつめの瞳には、男はゆっくり、ゆっくり、こちらへ向かってくるように見えていた。あれならまだ躱すことが出来る。避けることが出来る。そう思った。だから、動け。動いてくれ。ほんの少しでいい、あの一撃を避けて、また次に繋げ。

 その思いとは裏腹に、身体は動かない。緩やかな速度でやってきた刃が──ついに、なつめの首に届いた。

完結まで予約投稿済みです。

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