表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/30

11.光は希望か絶望か。

「──コードCは、神宮司が、陰陽寮を隠れ蓑にして秘密裏に進めていた、計画と実験の総称」

 ワントーン低く、そして固い声で、祐は言葉を繋いでいく。

「詳細は極秘扱いになってたから、私も詳しくは分からない。だけど、人体実験だった事は確実。刻印は、正確に言うと〝刻印〟と計画者側が呼んでいた〝もの〟を身体に直接刻まれた、被験者の事になるの。……神宮司側から見れば、取り戻すか、それが出来ないのなら、一刻も早く始末したい存在でしょうね」

「…………」

 歯を食いしばる。握り締めた拳に力を入れて、入れて、更に入れて……爪を肉に食い込ませても、まだ足りないぐらいに握り締める。

 全身の血が凍結したような、それとも沸騰しているような、言い知れない不快感。

 目の前がちかちかする。赤い光がちらついている。それはきっと、怒りなんて言葉を越えた、どす黒い憎悪にまみれた醜い代物だ。

「でもね。今回なつくん達を襲ったのは、多分、神宮司じゃないと思う」

 冷静に話を続けてくれる祐に、なつめは言葉で返事が出来ず、辛うじて出来たことが、首をかすかに縦に動かすだけ。

「……そして、最初の話。例の二人組に話を戻すよ。その二人は……──」

 ここで、祐は言葉にするのを僅かに躊躇った。きっと、これまで以上にろくでもない正体なのだろうとそれだけで知った。

「……その、二人は。行政機関の暗部や恥部の始末を担当する、陰陽寮の特殊部隊の所属者。私達の間じゃ、【死神】って呼ばれてる」

「しに、がみ」

「うん。勿論、【死神】って呼ばれてる理由もあるわ。……その、【死神】に回される仕事ってね。行政という国を動かす機関にいながらも、八百万の神への敬意を忘れて、人間の領分を越えた連中の始末が中心みたい。だから、神罰の具現として、死を司る神が処断したんだって、特殊部隊側が大義名分として掲げた。呼び名の由来は、そこから」

 そうやって、言われた事を……信じられない、ではなく。

 唯々、信じたくなかった。

 だって、その言葉を鵜呑みにしてしまうなら、実佳の存在が、人としての領分を越えているという事になる。

 いつも傍にいて、一緒に育って、生きて来たあの小さな少女が、人以外の〝何か〟であるのだと言っている事にもなる。

 そんなもの。そんなもの、認めたくない。認められるものか。そんな事は出来ない、出来るはずがない。

 ──祐は、なつめの心境を既に理解していただろう。だからこそ、あえてなつめを気遣うような言葉で場を濁したりせず、淡々と言葉を続けた。

「特殊部隊隊員は、全員例外なく、片目の色が本来なら有り得ない色に変色してるって、聞いたことがある。金の目との男の人と、赤の目の女の子。女の子の方は、見た目だけなら随分幼かったんじゃないかな。もしそうなら、確定だよ。【死神】の一人だと言われてる二人組の特徴と完全に一致してる。その二人が、実佳を狙ったのなら……」

「──っ」

 ──絶句する。それ以外に、何が出来たという。

 眼前が、世界が、ついにくらりと揺れて、歪んで、崩れたような気がした。

 祐は、最後まで台詞を言い終えなかった。いや、もしも全て言葉として形にされていたなら、無理矢理にでも遮っていたと思う。姉は、そんなこっちに気付いて、あえて言葉を途中で切った。

 つまり……つまり、だ。

 行政機関である陰陽寮の裏で、神宮司という家一つが独断で進めていた、得体の知れない人体実験を用いた計画の被験者であり犠牲者。それが、実佳で。

 その計画とやらは、人の領分を越えたもの……下手をすれば、神への冒涜になりかねない代物で。

 どういうきっかけか、その計画に気付いた伯母、飛鳥が、神宮司家の手元から実佳をさらい、我が家に連れてきた。

 しかし一方で、そんな実佳を、存在が許されぬ国の暗部として、始末しなければならないものと誰かが断じ、命じたのだろう。あの男と少女の二人に。

 〝だから〟実佳は命を狙われた。そういう事、なのか。

 それを、素直に、愚直に、受け止めろ、と?


 そういうのか──ッ!


「ふ……ざけるな……っ! ふざけるなよ!! あいつは何もしてないじゃねえか! 昔がどうかは知らない、でも今は、神宮司も計画も関係ないとこで、実佳は生きてる! なのに全部、外野が勝手に──!」

「なつめ」

 祐に、鋭い眼光と共に睨まれた。

「実佳達が起きる。声だけでも落としなさい」

「ぐっ……」

 ……その言葉は、全くその通りで。

 だからこそ、なつめは唇を強く噛み締め、自分の中で暴れている激情を、せめて声量に出さないようにと懸命に抑える。

「怒る気持ちも、今の言葉も、全部分かる。でも、これはあくまで私が知ってる範囲の情報なの。……色々な事に判断を下すのは、まだ早すぎるわ」

「言われなくても、そんな事分かってる……! でも、こんなの、納得しろって言われても……!」

「……なつめ。あなたがそうだと、実佳がどれだけ不安になるか。分かるでしょう」

 静かに宥めるように、ゆっくりと祐は言った。

「はじめてこの家に来てから、ずっとなつめの後ろにくっついて離れなかったのは、覚えてるよね? 今のあの子の基盤になってるのは、ずっと隣にいたなつめなのよ」

「それは……!」

「あなたの存在は、あなたが思ってる以上に、実佳にとって大きい。半端な感情に、流されないように自分自身を律しなさい。少なくとも今はその時じゃない。違う?」

「……祐姉」

「飛鳥は確実に捕まえる。怒るのも、怒鳴るのも、全部を知ったその後」

 言い切り、そして立ち上がった祐は、一歩足を踏み出すと、腕を伸ばす。雰囲気も、それまでのものと打って変わってがらりと変わった。

 自分と同じぐらいの身長をした姉に、まるで子どもがされるように髪をくしゃくしゃと撫でつけられた。

 そのおかげなのか、なつめの中にあった感情が一気に外へ押し出される。

「ほら。分かったらお返事」

「ああ、もう。分かった、分かったって……だから、こんな子ども扱いすんなよ。大学生にもなって、姉貴に頭撫でられるって」

「そんな事言われても、撫でちゃうよー? 今も昔も、なつくんは私の可愛くて大事な弟だもん。ふふ、でも。そうだねえ。子ども、と言えば子どもかもね。だってなつくんってば、小さい頃から実佳ちゃんが大好きなところ、全然変わらないんだもの」

「それって、子どもなのと関係ある?」

「可愛いくて仕方ないってこと。……本当、飛鳥から変な影響受けなくて良かったよぉ。なつくん、小さい頃から飛鳥に懐いてたから、心配してたんだ」

「……相変わらず祐姉って、飛鳥さんの事だけは目の敵にしてるよね……」

「目の敵にしてるんじゃないの。あの女がやってる事の無責任さと、それで父さん達に迷惑を被らせてる事が、今も昔も納得出来ないし、許せないだけ。本当に、半分でも父さんと同じ血なのかしら」

「……俺からすると、祐姉と飛鳥さんが似てるって思うこと、結構あるよ。特に、そういう過激なところとか」

「あら。あらあら? 私は、自分がやる事にはちゃんと責任は取るし、人様に迷惑をかけないように努力してるよ?」

 なつめの言葉を一蹴するように、祐はにっこりと笑みを深めた。

 その一方で、未だ撫でつけられている両手の下、ああ、自分はまだこの姉には到底敵わないのだと、改めて実感する事になってしまったのが、何となく、悔しかった。


 夜明けはまだ遠い。

 けれど太陽は必ず昇り、痛みを伴うほどの眩しい光が、射すのだろう。

完結まで予約投稿済みです。

もし

「先が気になる」

「面白い」

と思って下さったら、

★★★★★

とお星様のポイントを入れて下さると幸いです。

また感想・誤字脱字報告などもお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ