第43話 天守閣にて
田峯壮馬:女神から「命の実」を託された、スキル?「城郭知識」「攻城知識」
アグレアス(消失):地2水2火2風2、スキル「知識(命の実とリンク)」、得物は鞭(鞭技)、奥義「彼岸の舞」
マルファス:地5水0火0風0、スキル「土木工事」「土人形創造IV」「遠隔活動」、得物はモーニングスター
ビフロン:地1水2火1風2、スキル「陽光召喚」「宝石加工」「死霊傀儡」「栽培」、得物はサック
ロレイ:地0水1火0風1、スキル「遠隔活動」「狩猟」「偵察」、得物は弓(弓技)
ピュセル:地0水5火1風0、スキル「水流操作」、得物は刀(刀技)
ハルパス:地3水0火0風3、スキル「経理」「兵站」「建築」、得物はハンドアックス
フルフル:地0水0火0風5、スキル「栽培」「精霊召喚」、得物は杖
ザガム:地0水4火4風0、スキル「酒造」「金属加工」、得物は長柄の鎚(鎚技)
ウサグー:地2水2火2風2、スキル「治癒」、得物は鞭(鞭技)
梟のソラス:地4水4火4風4、スキル「予知」「軍師」「大魔導」、得物はタクト
本丸の天守閣の隣に温泉がある関係で、天守閣は平時は湯屋のようになっている。天守閣は三階建て。一階は脱衣所、二階が大広間、三階は戦闘時に指令室になるのだが、普段は倉庫のようになっている。
ウサグーが少し落ち着いたのを見て、着替えをして二階に向かった。ゴロリと横になり、足を組み、座布団を枕に天井を仰ぎ見る。
無数に生えた苔が鈍く光る外に比べ、窓を開けていても建物の中は真っ暗。
ぼんやりとこれまでの楽しかった日々が思い起こされる。
またじわりと涙が湧き出ててしまう。いったいこの涙はどこからこんなに湧き出てくるのだろう。
すると、トントンと階段を上がってくる音が聞こえて来た。誰かなどは考える必要も無い。ウサグー以外に無いだろう。
「……あの、壮馬様。いらっしゃいますか?」
首を持ち上げてシルエットを確認する。どうやら浴衣姿らしい。
「梅酒と温泉水をお持ちいたしました。少し飲まれませんか?」
上半身を起こし、腰かけた俺を見て、ウサグーがひたひたと足音をさせて近づいて来る。
暗闇に目が慣れてきたせいで、開けられた窓から入る光る苔の薄明かりでも、ウサグーの表情ははっきりとわかった。なんとも寂しそうな微笑みでこちらを見ている。
少し大きめの湯飲みに、梅酒を注ぎ、そこに温泉水を注ぎ込む。それを二杯分。片方をこちらに差し出してきた。
乾杯はしない。二人無言で口を付ける。
「壮馬様は、姉さんのどんなところに魅かれたんですの?」
二人で横並びに座り、開かれた窓を見ている。きっとウサグーも、その先にアグレアスの笑顔を思い出しているのだろう。
「こんな城を造りたいって言ったらね、素敵だって言ってくれたんだ。いつか一緒に楼閣から見下ろしてみたいって。城の話をして賛同された事なんて、それまで一回も無かったからさ。いつも、気持ち悪いって顔されるだけだったから」
梅酒と座布団を持って窓枠に行き、外の景色を見下ろした。ウサグーも梅酒と座布団を持って俺の隣に立ち、同じように外の景色を見下ろす。
先ほどまで二人で入っていた温泉から、チョロチョロという湯の流れる音が聞こえてくる。
「ここまで、姉さんと色々な事があったんですのね」
ウサグーの顔をちらりと見て、座布団を敷いて腰を落とした。ウサグーも同様に隣に座る。
「今でもまだ、ウサグーはアグレアスが酷い事をしたって思ってるの?」
ウサグーが頭を少し下げた事で、耳にかかっていた長い髪がさらさらと流れて横顔を隠してしまった。
「集落が襲われたあの日から、わたくしたちは放浪の民となって安住の地を探したのです。ですが数年でその人数は半数以下になってしまいました」
ボソボソという感じの小声でウサグーは話し始めた。
人数が減っていった原因の多くは病気。とにかくまともな調理ができず、まともな食材も無く、襲ってくる魔物や動物を狩って、それを焼いて腹を満たすしかなかった。
怪我は魔法である程度治せるが、病気はそういうわけにいかない。まだ幼かったウサグーも何度も病気で死線を彷徨ったのだそうだ。
「じゃあ、生き残った集落の人たちがウサグーを育ててくれたんだね」
何気ない相槌のつもりだった。だが、ウサグーにとってその言葉はつらい思い出への入口であったらしい。梅酒をくいっと喉に流し込んだ。
「襲撃で幼い娘を失った母親が、わたくしを娘代わりに扱ってくれたのです。ですけれど、集落の方たちは、わたくしが裏切者の妹だと信じて疑ってませんから、わたくしの分の食事が無くて。それで、いつもその方が、お腹が空いてるでしょと言っては自分の食事をわたくしに……」
最終的にその女性は衰弱して病没してしまったらしい。
その後、その女性と仲の良かった女性が集落から離脱。その際、ウサグーもその人に付いて行き、辺境の森で細々と暮らしていたのだそうだ。
「壮馬様は、客観的に話を聞いて、姉さんが集落を売ったという件はどう思われますか?」
ウサグーがじっとこちらを見つめている。それを話すには、俺も少し酒の力が必要だった。梅酒をくいっと飲んで、酒気を吐き出す。
「その頃、アグレアスも生活能力が無い幼子だったそうだよ。そんな彼女にそんな事が果たしてできるのかな? もしやったとしたら君たちの母親という事になるのだろうけど、君たちを見て母親がそんな人だとは思えない」
実際に見たわけでは無いから本当の事はわからない。あくまで二人の話を聞いた限り。
だが、ウサグーも薄々そんな気がしていたのだろう。「ですよね」と呟いた。聞き取れるかどうか、ギリギリの小声で。
「本当は仲直りしなきゃって思っていたのです。ピュセルにも何度も言われて。でも、他の方から言われると、わたくしも意固地になってしまって……」
湯飲みを両手で持って、言葉を梅酒と共に飲み込むウサグー。
「君が来た日ね、アグレアスが言ってたんだよ。わたくしと異なり、少し威圧的で生意気なところがある娘だって。その時思ったんだよね。『私と同じで』の間違いじゃないかって。口に出すと拗ねるから黙ってたけど」
クスっと小さく笑い声をあげるウサグー。その声に俺も鼻を鳴らす。
「二人が別れたのって幼い頃だよね。アグレアスはその頃の君をそんな風に思っていて、そのまま何十年も大切に、そのまま抱き続けていたんだよ。それって、いかに君の事を大切に思ってたかって事なんじゃないかな。そんな彼女が、君を見殺しにしたりするのかな?」
すんすんとウサグーが鼻をすする。暗くてよくわからないが、おそらく必死に涙を堪えているのだろう。
「姉さん……」
そんなウサグーの頭をそっと撫でる。
突然、ウサグーが俺の背に手を回し、ぎゅっと身を寄せた。
切ない表情のウサグーが上目遣いでこちらをじっと見ている。徐々に徐々にその顔が近づいて来る。
ほんのりと梅酒の香りが鼻腔をくすぐる。
軟らかい唇の感触。強く感じる梅酒の香り。
背に回した手をウサグーの頭に移動させ、ゆっくりとウサグーを寝かせた。
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