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第2話 エルフのアグレアス

 こんなところの一軒家にいったいどんな人が住んでいるのだろうか。こんな森のど真ん中、そんなところに建っている、限りなく直方体の家。……家というか小屋。まるで某レゴゲームをプレーした時の最初の拠点みたいな雰囲気がある。

 ……まさか山姥やまんばとか?


 でも今は何もわからないのだから、とにかく何か情報を得ない事には何も始まらない。相手がどんな人かはわからないが、とりあえず訪ねるだけ訪ねてみよう。そう考え玄関の前まで来た。


「あの、すみません! どなたかいらっしゃいますか?」


 反応が無い。誰もいないのだろうか?

 どこかに行っていて留守とか?

 例え留守だとしても、ここは誰か戻って来るまで待つしかないだろう。


 玄関の扉に背を向け空を仰ぎ見る。先ほどまでは木々に隠れていてよくわからなかったが、かなり雲が多い。いや、多くなってきたのかもしれない。しかも暗灰色をしている。このままだと雨が降って来てしまうかもしれない。何とか雨露のしのげる場所を探らなければ。そんな事を考えていた。


 コンッ


 後背から何やら木の棒が地面に落ちたような音がした。振り返ると扉が少しだけ引かれて隙間ができている。そこから、誰かがこちらを除いているのが見える。


「あの、すみません。どうやら道に迷ってしまったようでして。この辺りの事を少し教えてはいただけませんでしょうか?」


 家の中の人はどうやら俺では無くどこか別のところを見ているらしい。どうにも視線が合わない。その人物の視線は腰のあたりを見ている。もしかして、この玉を見てるのだろうか?


 玉を胸の高さまで持ち上げると、家の中の人の視線も上がる。

 すると突然、玉から細い糸のような黒い光が扉の隙間に向かって伸びていった。


「あああ……う……あ……あん……」


 何とも艶めかしい声を発して扉の先で人が悶え始めた。いったい何が起こっているのだろう?

 黒い光が途絶えたと思ったら、扉の向こうでどさっという音が聞こえてきた。


「ちょっ! 大丈夫ですか?」


 慌てて駆け寄って扉を開けると、そこには長い髪をした美しい女性が倒れていたのだった。玉を玄関に置き、女性を抱き上げる。


 か、軽い!

 しかも細い。どんだけ痩せてるんだこの人。


 室内をきょろきょろと見渡し、布が敷かれた台を見つけ、とりあえずそこに女性を寝かせる。黒い玉を拾い、椅子に腰かけて女性の目が覚めるまで静かに待つ事にした。


 よく見ればこの女性の髪は勿忘草わすれなぐさのような綺麗な水色をしている。耳が笹の葉のように細く長い。睫毛が長く、顔も非常に整っていてかなりの美形。

 もしかして、この女性はゲームなんかで出るエルフというやつではないのだろうか?

 だとしたら、もしかしてここは異世界?


 よく漫画やアニメなんかで異世界がどうのって出てくるけど、一人異世界に放り出されるってこんなに心細い事なんだな。


 椅子から立ち上がり窓から外を見る。本当に某レゴゲームみたい。土壁に穴を開け窓枠とし、そこに木の棒が縦に何本か刺さっただけの簡易な窓。そこから見える空は先ほどよりも雲が増え、今にも雨が降り出しそうになっている。


「あ、あの……」


 背後から美しい小さめの管楽器のような声が聞こえてくる。振り返ると、女性は目を覚ましていてこちらをじっと見ていた。


「あ、すみません、勝手に上がり込んでしまって。あなたが急に倒れてしまったようでしたので、介抱しないと思いまして」


 なるべく不審人物に思われないように、細心の注意を払って説明をした。

 すると、ぼおっとこちらを見ながら、女性は二回だけ首を横に振る。


「いえ、ありがとうございました。お名前は何とおっしゃるのですか?」


 何だろう、この表情は。今まで一度もこんな艶やかな視線を人から向けられた事が無い。少し潤んでいるタンポポのような黄色い瞳。その瞳を半分閉じて、こちらをぼうっと見つめている。その灰桜色の唇は端が少し上がって微笑んでいるように見える。


 田峯だみね壮馬そうまと名乗ると、女性は俺を『壮馬様』と呼んだ。


「わたくしはアグレアスと申します。大昔、住むところを追われ、ここに逃げ込み、一人でずっと生活をしていました」


 そこからアグレアスは、少しづつ昔の事を語ってくれた。

 エルフというのは非常に長命な種族であるらしく、こんなどう見ても二十代前半か中盤くらいにしか見えない容姿でも、実際にはすでに五十年以上生きているらしい。

 幼い頃、彼女は遥か遠くの山で仲間たちと一緒に住んでいた。ところが宅地開発だと言って人間たちがやってきて、仲間たちは皆殺しにされてしまった。母と二人だけ生き残ったアグレアスは、こっそりと森を抜け出しこの森にやってきた。残念ながら母はここに来てすぐに亡くなってしまったらしい。


「壮馬様は、どうしてこちらに来られたのですか?」


 そうたずねられたのだが、悲しいかな気が付いたら近くの木の下で寝てたとしか言いようが無い。


”自分の城を思いのままに建ててみたいと望みますか?”


 思い出した。そうだ、俺はここに城を建てに来たのだ!

 俺の城を。


「まあ、城を。そうですか、お城を。城……ですか……」


 アグレスの表情がはっきりとわかるほどに曇った。何があるというのだろう?

 この山は誰かの所有物だから無理だとか?

 それとも山賊が根城にしていて襲われるとか?


「壮馬様のお持ちになられているその玉は、わたくしのような者を呼び寄せる玉なのですけれど、恐らくその中にお城を作るような仲間はいないと思います」


 先ほどその玉から何か情報のようなものが頭に流れてきた。その中に仲間にできそうなリストというものもあった。そのリストの中の面々を見るに、せいぜい、このような掘っ立て小屋が造れる程度。少なくともお城などという建築物を造る知識のある者はいないと思う。そう申し訳なさそうにアグレアスは言ったのだった。


「おかしいなあ。確かに自分の城を作りたくは無いかと聞かれたんだけどなあ」


 誰にと言われててもいまいち覚えていないが、確かにそう言われたのだ。もしそれが難しいのなら、いったいあの言葉の意味は何なのだろう?


「お城は難しいですけれど、ダンジョンでしたら作れそうな者が何人かいますよ。もしかしてお城じゃなく、ダンジョンを作ってみてはという事だったのではないでしょうか?」

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