第17話 ハーピーのピュセル
田峯壮馬:女神から「命の実」を託された、スキル?「城郭知識」「攻城知識」
アグレアス:地2水2火2風2、スキル「知識(命の実とリンク)」、得物は鞭(鞭技)
マルファス:地5水0火0風0、スキル「土木工事」「土人形創造II」「遠隔活動」、得物はモーニングスター
ビフロン:地1水2火1風2、スキル「陽光召喚」「宝石加工」「死霊傀儡」、得物はサック
インプのロレイ:地0水1火0風1、スキル「遠隔活動」「狩猟」、得物は弓(弓技)
「矢が届かないと見せて相手を油断させて一矢を持って狙撃するというのは、毛利元就という武将が有田合戦で使ったとされる戦術なんだよ。ロレイは弓使いだから覚えておくと良いかもしれないね」
そう言って微笑むと、インプのロレイは少しだけ恥ずかしがって、唇を軽く噛んで俺から目を反らした。
背中で組んだ指をもじもじさせており、何とも愛らしい。
◇◇◇
ここまで魔術師風の女性、重装兵と立て続けに襲撃者を討ち取った事で、ロレイのレベルは早くも三に上がったらしい。それによって、ロレイは『偵察』というスキルを覚えたのだそうだ。
偵察スキルは、いわば広域スキャンのようなスキルらしく、目に見えなくともどこにどの程度の敵がいるかが把握できるスキルらしい。このスキルがあれば、今回のようにうっかり軍隊に矢を撃ちこむというような事はなくなるのだろう。
試しに撤退した軍の様子を見に行ってもらったところ、どうやら一時退却したようで、今は姿が見えないらしい。
ロレイは毎日嬉しそうに狩りに出かける。
獲物を仕留めて持って来ると俺が喜ぶと思っているようで、帰って来ると今日はこれが獲れましたと報告してくる。かなり腕が良く、毎回何かしらの獲物を獲って来るので、食卓には毎回肉が上る事になった。
所々に罠も仕掛けているらしく、罠にかかった獲物はそのまま生かして持ってくる。
畑の先にマルファスに新たな曲輪『二の丸』を作ってもらって、飛ばない獲物はそこに放すようにしている。さらに簡単な家禽小屋も作ってもらって、飛ぶ獲物はそちらに放している。ただ、ロレイはぽいぽい放り込んで行くので、二の丸はさながら動物園のようになってしまっている。
「ねえ、壮馬様。そろそろ洞窟を拡張なされたらいかがかしら? 今のマルファスなら、以前壮馬様がお描きになられたお城の区画作りくらいならできると思うのです」
アグレアスの進言はよくわかる。実はマルファスにも以前似たような事を言われた事がある。
マルファスは現在レベル十。本丸までこの山の中をくりぬいてしまいたいとい申し出てきているのだ。
ただ、その時にも俺は時期尚早だと待ったをかけた。
「実はね。本丸まで区画を作ったとしても水が得られないんだよ。それだと居住スペースを作っても、そこでは生活できないんだよね。とりあえず掘るだけ掘れば良いというのもわかるんだけどね」
できる事なら一人に一つの部屋を持たせてあげたい。
先日のビフロンのビフロン事件のような事もあるので、できれば早めに居住スペースを広げなければという気持ちもある。
ただ一方で、今のようなトイレも睡眠も同じ櫓という合宿生活も楽しくはある。
「わたしくは、掘らせるだけは掘らせてみたらと思いますよ。活用するしないは別にして。その方がマルファスもレベルが上がってソロちゃんの更なる強化ができると思うのです」
確かにアグレアスの言う通りかもしれない。ではマルファスにお願いしよう。
たんぽぽコーヒーを飲み干し、外でソロちゃんのメンテナンスをしているマルファスを呼びに行こうと櫓を出ると、ちょうどそこにロレイが帰って来た。
「あ、壮馬様。ただいま帰りました。見てください、鳩……」
ロレイの左手を見ると、そこには白い羽の超巨大な鳩がぐったりして足を綱で縛られていた。
……え?
それ、鳩か?
鳩にしては大きすぎないか?
それに女性っぽい顔が付いてる気がするんだけど?
いや、それハーピーだよね?
「これ、丸焼きに……」
にこにこと笑いながら家禽小屋に行こうとするロレイを全力で引き留めた。
「ちょっと待て、ロレイ! 何となくだけど、それは食べたらいけない気がするから、ちょっと待っててくれ」
大慌てで命の実を取りに櫓に向かった。
この感じ、今までの感じだと、この巨大な鳩というかハーピーは仲間になる気がする。
慌てて櫓に入って来た俺にアグレアスが驚き、何の騒ぎかとたずねた。
説明も面倒なので命の実を手に、アグレアスの手を引いてハーピーの下へと向かう。
案の定、命の実から黒い細い霧がハーピーに向かって伸びて行く。
「……グワァグワァ……あっあっ……」
黒い霧がぷつりと途切れると、一旦目を覚ましたハーピーが再度気絶した。さらに黒い霧がハーピーの体を薄く覆い吸い込まれていく。
足を綱で縛られ、逆さづりの状態でハーピーは両の羽をだらりと広げた。
「ロレイ、このハーピーはどうしたんだ? 罠にかかってたの? それとも矢で仕留めたの?」
ハーピーをロレイから受取り、足の綱をほどきながらそう尋ねた。
「……川辺に倒れていたのです」
という事は、これまでの感じだと次の襲撃者が近くに来ているのだろう。
恐らくはロレイの偵察範囲外からこちらに向かっている。
「この者はピュセルという者ですわ。可哀そうにこんなにうなされて。いったい何があったのでしょう」
ロレイのベッドに横になったピュセルの頭をアグレアスが優しく撫でる。
「壮馬様!」
最初に反応したのはロレイであった。偵察スキルに何やら反応があったらしい。
次いでアグレアスが窓の外に視線を移した。
さらに遅れてマルファスが敵襲を伝えに来て、最後にビフロンが到着した。
「先ほどのハーピーの羽根がこの洞窟の前に落ちていました」
「ここは以前探索に向かわせた者が消息を途絶えさせた辺りです」
洞窟から十人ほどの兵を従えて、少し固太りの人物が洞窟に入って来た。
年齢は中年といった感じだろうか。背に大きな荷物を背負っている。特徴的な焦げ茶のカールしたもみあげが非常に目立つ。そして、手にした槍は以前ここに来た草色の鎧の衛兵と同一の形状をしている。
一見すると冒険者のように見えるのだが、従えているのは草色の鎧を身にまとった衛兵たち。
二人の衛兵から報告を受け、冒険者風のおじさんが険しい顔で洞窟内を見渡している。
「なにゆえこの洞窟はかように明るいのだ? 何やら悪しき予感がするな。罠があるかもしれん。注意深く進め」
そんな声が櫓まで聞こえてきた。
マルファスはすでにソロちゃんを起動して、モーニングスターを構え、ビフロンは先日の兵を骸骨兵として召喚している。
ロレイは櫓の屋根に上り弓矢を構えている。
アグレアスはソロちゃんの隣で鞭を揺らしている。
最初に動いたのは骸骨兵。
前回同様に細い出口を塞ぐように盾と剣を構えている。
「ほう、死霊使いがおるのか。お前たち前を開けよ」
衛兵がどいたのを見ると、おじさんは骸骨兵の前に立ちふさがった。
「槍技 聖十字!」
おじさんは少し飛び跳ね、高速で槍を十字に振った。
その風圧で前方の骸骨兵が粉微塵に吹き飛んでしまった。
そのままの勢いで突っ込んで来るかと思いきや、前方にソロちゃんを見て足を止めた。
「ゴーレムか……それもただのゴーレムでは無いな。それにあの女の鞭。これ以上は……お前たち、ここは一旦退くぞ。城に戻って対策を講じる必要がある」
おじさんが退けと命じると、衛兵たちはおじさんを守るような布陣で整然と退いて行ったのだった。
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