第10話 多聞櫓
田峯壮馬:城見学に夢中になり転落死。女神から「命の実」を託され、山の中に城を築城
アグレアス:地2水2火2風2、スキル「知識(命の実とリンク)」、得物は鞭(鞭技)
マルファス:地5水0火0風0、スキル「土木工事」「土人形創造」、得物はモーニングスター
スライムのビフロン:地1水2火1風2、スキル「陽光召喚」、得物はサック
土壁むき出しの部屋に戻ると、ベッドの配置が変わっている事に気が付いた。
これまでは入口から入って、右手奥に一つ、そこから机と椅子があり、その手前の壁に横並びに二つという感じであった。
それが部屋の奥に三つと言う感じに変わっている。ただし、三つの間に土の壁が衝立のように設置されている。
恐らくはこれ、最初は片方にしか衝立が無かったであろう。
だがアグレアスは少し考え、自分が衝立の向こうに追いやられてしまうと、その向こうで俺とマルファスが良い雰囲気になると困ると考え、両隣に衝立を立てたのだと推測される。
素焼きのカップを三つ用意し、同じく素焼きの急須から何やら黒い液体を注ぎ込むアグレアス。
カップからは白き湯気がゆらゆら立っており、中身の液体が高温だという事が察せられる。
「壮馬様、マルファス、ビフロン、飲み物を用意いたしましたから飲みませんか?」
席につき、アグレアスに言われるままにカップの中の液体をすする。
この色、この苦味、そしてコク、さらに香り。まごう事無きコーヒーである。
「おお、美味しい! どうしたのこれ」
美味しいと褒められ、アグレアスは少し頬を桜色に染めて喜ぶ。
「そちらの二人と異なり、わたくしはどの属性の魔法も扱えますからね。水魔法で急須を水で満たして、急須そのものを火炎魔法で温めるという事ができるんですの」
若干早口で自慢するアグレアスから、マルファスとスライムのビフロンの二人が顔を背け、気に入らないという顔をする。
かなり自然に無能扱いされたのだ、その表情もわからないでもない。
というか、俺が聞きたかったのはどうやってコーヒーを淹れたのかではなく、このコーヒーはどうしたのかという部分なのだが。
ちなみにアグレアス曰く、タンポポの根を乾かして炒ったものですわだそうだ。
……お婆ちゃんの知恵袋かよ。
「ねえ、壮馬様、このダンジョンですけど、これからどうやって広げていきたいという構想のようなものってございますの?」
タンポポコーヒーをすすりながら、アグレアスはたずねた。
それについては、実はもうかなりまで決まっている。
それまでは漠然としていたのだが、ビフロンが来て、光魔法で洞窟全体に明かりを届けられると知ってから、これしかないという完成形を思い描いている。
俺の目標は『最強の城を作る』事にある。その答えは用意した。あとはそれに向けてどんどん近づけていくだけ。
「もしよろしければ、その一端だけでもお教えいただけませんか? そうしていただいた方が、わたしくたちもこれから色々とイメージが共有できて壮馬様のお役にたてるのじゃないかと思うのです」
アグレアスの言う事は何となく理解できる。
この世界に来る前、俺は会社勤めをしており、そこで上司や社長がよく経営指針やら運営方針なるものを公表していた。つまりは集団を率いる者にとって、少し先の未来を見せる事は非常に重要という事なのだろう。
「ここは山の中だよね。という事は敷地は限られ上方向にも限界があるという事だと思うんだ。じゃあどうするか。偉大な先人は同じような状況を前に一つの答えを出しているんだ」
三人がその解答に注目する。
三人の顔を一人一人見回してから、にっと口角を上げる。
「それはね、渦巻きなんだ。細長い備えを階段状に円を描くように配置していくんだ。そうすると中心に向かって徐々に備えの位置が高くなっていく。最終的に真ん中の一番高いところが本丸となるんだよ」
そうする事で、大手門から入ってすぐに天守閣が見えたとしても、そこからいくつもいくつも備えを突破していかないと辿り着けないという堅固な城ができあがる。
その説明でマルファスは何となく理解してくれたらしい。
『かたつむりのような』とマルファスの方から言ってきたから恐らくは大丈夫であろう。
「あのぉ、壮馬様ぁ。そのぉ、備えっていうのはぁ、防御拠点なんですよね? 畑や牧場はぁ、どこに作るんですかぁ?」
ビフロンが話している間、アグレアスは眉間と顎に皺を寄せて沸き上がる苛々を抑え、マルファスは膝をガタガタと震わせている。
気持ちはよくわかる。この喋り、俺も何回聞いても慣れない。
「備えと備えの間に通路を作って、その通路から一段下がった場所を整地して畑や牧場にすれば良い。天守閣は上方向だってわかってるだろうから、そこをあえて下に向かって進む奴はあまりいないだろうからね」
それ以外にも櫓の隣に小さな畑を作ったり、多聞櫓の屋根の上を畑をしても良い。
本来屋根は瓦葺なのだが、ここは洞窟内、雨が降るわけではないのだからそこを畑にするというのは一つの手だろう。
そこまで説明したところで、急に三人が首を傾げた。
何かわからないところがあっただろうかとたずねると、アグレアスが三人を代表して質問した。
「途中までは理解できたのですけれど、最後に出てきた『タモンヤグラ?』というものがちょっと……」
マルファスもわからなかったところはそこらしく、首をこくこくと縦に振っている。
「今、土塁を盛ってるところがあるだろ。最終的にはあそこにびっしりと塀を立てて、堀から中に入って来れないようにするんだけど、その塀の代わりに長屋のような櫓を建てるんだ。それを『多聞櫓』っていうんだよ」
奈良県北部に眉間寺山という山があり、そこに『戦国のボンバーマン』松永久秀が城を建てた。城には四天王の一柱『多聞天』を祀っており、城名は多聞山城と呼ばれた。その城で採用されていたのが、土塀そのものを櫓としてしまう構造だった。
それが後に各地に広がって行き、その櫓を『多聞櫓』と呼ぶようになった。
ちょっと説明が難しかったかなと思っていると、アグレアスが手を挙げた。
「あの、それでしたら、ゆくゆくは何ておっしゃらず、今からでもマルファスに作らせたら良いではありませんか。そうすれば、個々人の部屋が作れたりいたしますわよね。壮馬様もゆっくりとお休みになれると思いますよ」
頬を持ち上げ、目を細めて、嬉しそうな顔でマルファスは自分を指差している。
じゃあ、お願いできるかとたずねると、返事もそこそこにマルファスは部屋を飛び出して行った。
次の襲撃はいつなんだろう、次はどんな人に来てもらったら良いのだろうとアグレアスと話しながらマルファスの戻るのを待った。
タンポポコーヒーを飲み終える程度の本当に短い時間。
マルファスは戻って来て背中から抱きついてきた。
「壮馬様! 結構良い感じのものができたんですよ! ねえねえ! 見に来てくださいよ!」
少し土埃の匂いをさせるマルファスは、その薄い胸を俺の背中に押し付けている。
腕を俺の前で交差させ、耳元で早く早くと囁く。
横目でちらりと見えたアグレアスは、目を見開き口もぽかんと開けてマルファスを凝視していた。
このままだと色々と大ごとになりそうと感じ、アグレアスに見に行ってみようと声をかける。
必至に笑顔を作り、「ええ」と答えたアグレアスだったが、はっきりそれとわかるほどの作り笑顔であった。その視線はどう見ても背後のマルファスに注がれている。
マルファスに腕を抱きかかえられて部屋を出ると、大手門の横に盛られていた土塀の代わりに驚くほど立派な多聞櫓が出来上がっていた。
入口は中央に一か所。
本来は屋根が瓦葺になるはずだが、いわゆる豆腐ハウス調という、ただの四角い箱になっているのは御愛嬌というものだろう。
ちゃんと窓が開いている。建物の上に上れるように階段も設置されている。
今の小屋と異なり、壁が白い。近寄って見てみると壁土には漆喰が施されている。
瓦葺以外はほぼ理想的なそれだった。
「どうですか、壮馬様! 壮馬様のお考えはこれで合ってますか? 気に入らないところがあったらいつでもいってくださいね! あたし、どんな風にでも直しちゃいますから!」
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